レンズ越しのセイレーン【完】   作:あんだるしあ(活動終了)

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 だから本気だって言ったじゃない


Mission8 ヘベ(3)

「諦めろってお姫様。ホレ見ろ、俺のコレなんかぜーんぶ無許可撮影だぜ」

 

 盗作云々に慌てるエリーゼの頭をアルヴィンが押さえつつ、自身が製作中のアルバムをルドガーたちにも見えるように立てた。

 その見開きページに貼られた写真はすべて、リーゼ・マクシアの果物販促イベントでのものだった。

 

「あん時はこの世でこれほど余計なお世話ってねー! って思ったりしたけどよ。このイベントでアイツと腹割って話せたんだよな。今は感謝してる、ほんと」

「アルヴィン……」

 

 お客に詰め寄られててんやわんやのユルゲンスと、上手くいなすアルヴィンの、好対照な構図。

 ――実はこのイベントの前に、アルヴィンとユルゲンスは商売の方向性の違いからすわコンビ解散かという不仲に陥っていた。

 そこで彼らの歩み寄りを願って開催したのがこの、彼らが卸すフルーツの実食販促イベントだったのである。

 

「大成功だったもんな。お前らの作戦大当たり」

 

 メイドに扮して試食皿を勧めるユティとエルの写真を、アルヴィンは取り上げる。素材のいい女の子が売り子だったのはアドバンテージだったとルドガーも内心では大いに賛成している。

 

「もう当分ナップルとパレンジはいいって思ったよね」

「思った思った。あとパイ生地こねるのが地味にキツかったなー」

「試食用の切り方って中身崩れやすくて気を遣ったし」

「一度皿に盛るとどっちがどっちか分からなくなってエルにどやされた」

 

 ほかにも、店じまい後に肩を組んだアルヴィンとユルゲンスとのツーショット。レイアの取材を受ける様子。裏方で追加分のパイを焼くルドガーと、仕事上がりに応援に来たジュード。ビラ配り中のローエンとエリーゼ。

 

「港で面白い実食販売やってるっていうから駆けつけてみたら、まさかのアルヴィンとユルゲンスさんだもんね。びっくりしたよ」

「その割にちゃっかり取材してたろ」

「座して待ってもネタは来ない。スクープのためなら友達でも厭わない!」

「パクられた……」

 

 ――ちなみにその記事は「エレンピオスとリーゼ・マクシアの架け橋を目指す/異国商人コンビ奮闘記その第一歩」と銘打たれ、新聞の端っこに小さくだが掲載された。

 

 そしてバー・プリボーイでの打ち上げ写真。バランも参加していた。アルヴィンの恥ずかしい過去は色々とユルゲンスに伝わったらしいがそれは脇に避けて。充実感のある打ち上げだった。

 

 他にも、サルベージを続ければ、出てくる出てくる。いつのまにか、あるいはみんなで切り取った思い出。

 

 ジュードと若き日のディラックのツーショット。そのすぐ次の日に撮った、実家の診療所で両親に囲まれてはにかむジュードの家族写真。

 

 ガイアスとマシーナリーズの集合写真(inサマンガン樹界)。

 

 幽玄の氷花咲く洞穴に佇む、氷精セルシウス。

 

 「クマの手」ゲット直後のはしゃぐ(本人は否定するが)ミラ。さらには新婚夫婦よろしくミラにネクタイを直されるルドガー。

 

 ミュゼ手作りのハーピーの羽根飾り。メンバー分全員を並べて複雑感漂う撮影会だった。

 

 各地で集めた猫にまみれる愛らしいエルとルルが何十枚も。

 

 ギガントモンスター退治クエストは、互いの技を引き立て合い、トドメを刺したシーン、決めポーズまでばっちり納まっている。

 

「こうして拝見すると、ユティさんがいかに腕のいいカメラマンか分かりますね」

「ステキな写真、たくさん撮ってくれてありがとうです」『ベストショットクイーン・ユティ、バンザ~イ!』

「ワタシの取り柄、コレくらいしかないから」

「またまたご謙遜を。カメラはお小さい頃から扱ってらっしゃるのですか?」

「ん。とーさまの友達のおじさまがくれた。ワタシが気に入ったって知ってから、おじさま、毎年色んな部品くれた。フィルターとか高感度レンズとか、あの三脚ケースも。全部おじさまのプレゼント」

 

 ユティは愛おしげにカメラを撫ぜた。その仕草に「おじさま」への愛情が表れている。

 

「この変わった折り紙も『おじさま』直伝かしら」

 

 ふよん。ミュゼが漂ってきて、ユティの前のペーパークイリングを摘まんだ。

 

「ううん。それはおじさまのイトコから教わった。写真撮ってアルバムに貼るだけなんて殺風景だ、って。これだけじゃなくて、シールとかスキミングテープとかレースの活用法も、おじさまのイトコから」

 

 ユティはミュゼの手からペーパークイリングを取り上げると、イスに登ってミュゼの髪に器用に飾った。赤いバラがミュゼの水色の髪に映える。

 

 ミュゼは(レイアのコンパクトの)鏡を見てきょとんとしていたが、すぐに浮遊してミラのもとへ行った。

 

「どう? 似合うかしら」

「わ、私!? えっと、その……似合ってる…んじゃない、かしら…私は、綺麗だと思う、とても」

 

 ミラは真っ赤になりながら言い切った。――たとえ正史と分史の隔たりがあっても、ずっと仲違いしていた姉と話しているミラの姿に安心した。

 

 ミラが初めて家に来た日はそれこそどうしていいかさっぱりだった。自分が壊した世界からの漂流物。どう扱っていいか分からなかった。アルヴィンの「ここにいていいって実感を作ってやれ」アドバイスもイマイチ実践法が分からなかった。そしてルドガーなりに悩み、エルと同じく、ミラにはことさら優しくするようにした。

 

 そしたら段々と、ミラと二人、エルも加えて3人でいるのが普通になってきた。親子連れだの恋人だの間違えられたがそれは余談だ。

 自惚れと言われるかもしれないが、今、ミラと最も心的距離が近いのはルドガーだと自負している。

 

 

 千言を尽くしても語りきれない体験が詰まった一枚一枚。選び出しては、台紙に貼って飾り付ける。

 一枚写真が出るたびに、あの時はああだったこうだった、と話に華が咲いて作業は遅々として進まなかった。だが、ルドガーにとっては今日ほど充実した一日はない。卒業アルバム製作委員を押しつけられた時でさえ、こんな高揚した気分にはならなかった。

 

(ああ。俺、今、みんなの輪の中にいる)

 

 わいわい。がやがや。

 

 テーブル中央から減っていく写真。次々になくなるペーパーとレース。アルバム台紙の失敗作と、きりしろがテーブルに散乱する。仲間内で飛び交う、コメント用のカラーサインペン。ハギレと写真に埋まる裁ちバサミや定規。

 

(ようやくみんなの本当の仲間になれた)

 

 一枚からどんどん話が広がって、次はどこでああしようという計画まで持ち上がる始末。

 

 写真の海から自分が気に入った写真を、アルバムという、より明確な形で残す作業をする。それも仲間と協力しながら。

 

 集まったメンツの内7人がいい大人なのに、真剣にやっているのがコドモの工作だなんて。

 ここ何時間かでルドガーの口角はご機嫌に上がったまま戻らない。どうしてくれる。

 ユティのために開いたワークショップなのに、気づけばルドガーのほうが楽しんでいた。

 

(共有した時間が、思い出が、こんなにあるんだ。もう疎外感なんてない。もうさびしくない。俺もここの一員だって、この写真たちが証明してくれるから)

 

 

 

 ワークショップは夜を徹して続いた。大量の写真がテーブルからハケた時には、すでに太陽が高い位置に昇っていた(帰り際に「2日休みにしといてよかった…」とはジュードの言である)。

 

 テーブルには工作の切りくずが散らかって、人数分のコーヒーカップが物悲しく取り残されるのみである。

 

 思い出トーク×深夜のテンション+常人を越えたスペック=作業を前日の昼から今日の昼近くまでぶっ通しでもケロッとしているメンバー――という方程式が床を箒で掃くルドガーの重い頭に立ち上がった。

 

 もっともエルとエリーゼだけは年齢が年齢なので途中でダウンして、ルドガーの部屋のベッドに並べて寝かせた。エリーゼは解散になった時にアルヴィンとレイアが連れて帰った。入れ替わるようにミラがダウンしたので(ミュゼの前で緊張したのだろう)、今はミラがエルの隣で夢の中だ。

 

(俺からしてもベストショットのチャンスだと思ったのにユティの奴、動かなかった。そうでなくても、シャッターチャンスはいくらでもあって、カメラも手元にあったのに)

 

 部屋を片付けるルドガーを手伝って、テーブルの上の切りくずを摘まんではゴミ袋に捨てていくユティ。横顔は徹夜の疲れなどちらとも窺わせない。

 ルドガーはテーブルの上のマグカップを両手で持てるだけ持ってキッチンに入る。

 

(本気、なんだ)

 

 ガチャン。シンクにまとめて置いたマグカップとスプーンがぶつかり合って不協和音を奏でた。




あんだあ「あんだあでーす(≧▽≦)」
るしあ「るしあでーす(・д・。)」
あ・る「「二人合わせてあんだるしあでーす(≧▽≦)(・д・。)」」

るしあ「して(なれ)よ。前回次くらいで終わる発言をしておきながら終わっておらぬようだが?(¬_¬)ジロ」
あんだあ「終わりませんでした。実に申し訳ありませんでした<(_ _)>」
るしあ「む。思いの外素直に非を認めたのう。つまらぬ」
あんだあ「ぶっちゃけ今肩こりと眼精疲労MAXで無駄なかけ合いする余裕ないの。この暑い気候の中で作者の末端冷え症は進行する一方だ。鼻、耳たぶ、足首から下。凝りすぎて血流が胴体の外に流れていないし頭痛もドライアイ酷い。さらには連日の更新で作者の腕はとっくに腱鞘炎だ。つーわけでさくっとすませ。俺は寝たい」
るしあ「その『寝る』に関しても薬を飲まねば眠れぬ体になったというに……」
あんだあ「ぁあ?」
るしあ「(本気で余裕ないのう)今回も前回に引き続きアルバム作成会の続きぞ。時間軸的にそのキャラEPおかしい! とお思いになられた諸賢もあろうが、ここに断言しよう。実に正しいです。何卒ご理解ご容赦のほど頂きたい。なにぶん、この先はキャラEPを消化できぬジェットコースター展開になるゆえ。ここで片付けておかねば笑い話にできぬのだ。作者がいつかに宣言したGo to Dieが始まるぞよ」
あんだあ「……そもそもエルたん離脱した後に何で一気にキャラEPの終盤とか来るんだよ今そこじゃねえだろさっさと幼女助けに行けよ源霊匣(オリジン)開発とかジュドミライチャラブとかミュゼのきゃはーんとかやってる暇ねえだろJKてかそもそも幼女放置して何で平気なん主人公電話の一本は入れて所在確認くらいすんだろ会いに行くだろアイボーどうした……ブツブツ」
るしあ「布団で呪詛を吐く作者の本能(あいかた)は気にせんでくれ。おお、それとアルヴィン氏のオリEPは後日番外編に上げるとのことだ。そのためにわざわざM6を空けておいたらしい。――このくらいでよいかの?」
あんだあ「おーノシ」
るしあ「では相方が限界ゆえ中途半端ですまぬがここで切らせていただく。今回もお読みくださった読者諸賢に感謝いたす<(_ _)>」
あんだあ「――――」
るしあ「へんじが ない ただの しかばねの ようだ」

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