レンズ越しのセイレーン【完】   作:あんだるしあ(活動終了)

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 彼は悪いことしてないよ だから ねえ ケンカしないで


Mission6 パンドラ(7)

 戻ってルドガーたちを探していると、彼らは祠から下りてきた。それもあの気難しいミラを伴って。

 エルとミラが離れたところで、ユティはアルヴィンに事情を尋ねる。

(どうやったの?)

(まあ口八丁手八丁ってやつで)

 ルドガーたちはミラを上手く誘導し、ミュゼのもとへ案内させる算段をつけたらしい。これからニ・アケリア霊山に向かうそうだ。

 つまり、ルドガーは仕事のためにミラを騙したのだ。

「これでいいのか」

 ユリウスは詰問調でルドガーに言う。ルドガー、それにレイアが、気まずげに目を逸らした。

 そんな悩み濃き色の青年と少女の両方に、後ろからアルヴィンが両腕を回して肩を抱いた。

「若者をいじめるなよ。仕事にはこういうこともあるだろ」

「と言うことは、お前は『こういうこと』が珍しくない仕事をしてるわけだな」

「……よくお分かりで」

「兄さん! アルヴィンは」

「いいよ、ルドガー。事実だ。――お前ら先に行け。すぐ追っかける」

「君も行け」

「ラジャー。――ルドガー、レイア、行きましょう。エルとミラが待ってる」

 アルヴィンから託された二名と手を繋ぎ、引いた。ルドガーもレイアもユリウスとアルヴィンの対決を気にして何度も後ろをふり返ったが、ユティは酌量せず彼らを引っ張っていった。

「ねえ、ユティ、ほっといていいのかな。アルヴィンとユリウスさん」

「今からアルフレドはきっとドロドロの話、する。レイアにもルドガーにも見せたくない顔、使う」

 アルフレド・ヴィント・スヴェントが人生の大半を被って過ごした、醜悪な仮面。他者を騙す、謗る、責める、扱き下ろす、アルヴィンの武具いらずの武器。

 それを見られるのを彼は望まない。好意ある人々に自分をよく見せたいと考えるのは人類共通のいじましさだ。

 そして、それはユリウスにも適用される。ルドガーに仕事用の被り物を目撃された日には、ユリウスが再起不能になりかねない。

「ワタシたちにできるの、見ないフリだけ。割り切って」

「……そうだな」

「……わたしはなんか、イヤかも」

 それ以上は言葉を重ねなかった。ただ3人、手を繋いでニ・アケリア参道へ歩いて行った。

 

 

 

 参道入口に到着すると、その場に留まっていたエルとルル、ミラがようやく来たか、という空気で出迎えた。ユティが両脇にいたルドガーとレイアから手を離した。

「もー、遅いよルドガー」

「ナァ~」

「持ちかけたのはそっちなんだからシャキシャキ動いてちょうだい。こっちだって暇じゃないんだから」

 この、外見は「女」そのものを体現した完璧なものながら、内面は攻撃的でとっつきにくい女性が、元素を統べる大精霊マクスウェルだというのだから、世の中は色々と理不尽に出来ている。

「ああ、わる……」

「暇でしょ? あそこで姉さんの帰り、待つだけなんだから」

「ちょ、ユティっ」

 ミラは剣呑さを隠さずにバラ色の虹彩を細めた。

「……あのね、おチビさん。私は確かにあそこで何もせず突っ立ってたけど、私は時間を姉さんを『待つ』ために使ってた。だから暇っていうのは私には当てはまらないの。分かった?」

 言い切ってミラは、ルドガーとエルとレイアの視線が彼女自身にじっくり注がれているのに気づいたようで。

「な、何よっ。悪かったわね、長々と熱く語って。言っとくけど先に振ったのはそっちなんだから。分かりやすいように説明してあげたんだから、むしろ感謝してほしいくらいだわっ」

 ミラは頬を薄く染め、腕組みしてそっぽを向いた。

 ルドガー、レイア、エル、ユティは円陣を組む。

「――なあ、ミラって正史でもあんな性格なのか?」

「――ツンデレお嬢様系」

「――ぜんっぜん。わたしたちが知ってるミラとは正反対。正史のミラはもっとサバサバしてるし、恥ずかしがるとこなんて見たことないよ」

「――ねえ、そもそも何でミラ、テレてるの?」

「――オトナになると素直な気持ちを口にするだけで恥ずかしくなっちまうもんなんだよ」

「ちょっと! こそこそ何話してるの! 行くの、行かないの!?」

「分かった、行く行く! 行くから精霊術の準備するな!」

 ルドガーは慌てて女性陣を背中に隠し、両手を思いきり振ってミラを止めようとする。

「あ。無詠唱ってとこはミラと同じみたい」

「そんな共通項知りたくなかった!」




 満を持してのミラさん登場です。読者様方、お待たせいたしまして実にすみません。先日感想板でまるで読者総員の意見を代弁するようなカキコ(ぶるり)がありましたので慌てて上げさせていただきました。実は拙作では何気にミラさん重要ポジだったりするのですが、ストーリー進行上表に出る機会が少ないといいますか……これからもがっかりさせてしまうかもしれません。
 ルルの飼い主チャット+アルヴィン&レイアばーじょん。お楽しみいただけたでしょうか。ささいな(?)話題でムキになるユリウスさんは実はメンバー中誰より少年なのかもしれないと思ったチャットでした。そういう情操もルドガーと会ってから改めて培われたものだと思うと…(T_T)ホロリ ユリウスがPTインする完全版はどこですかー!?

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