「ではエルさんにもご指摘いただきましたので、改めてこれからの方針を考えましょうか。アルヴィンさんもユリウスさんもよろしいですかな?」
「あいよ。感動の再会はまたいつでもできるしな」
「エル、ルドガーたち探しに行ったほうがいいと思う!」
はい! と、教室の学童よろしく元気に手を挙げてエルが言った。
「探しにって、どこに?」
「こことか、山の中とか」
するとユティががっちりとエルの両肩を掴んだ。目が据わっている。
「あのー、ユティさん?」
「山を嘗めないで。素人が何の装備もなく人探しに山に入るなんてただの自殺行為。二次遭難して飢えて渇いて、動く力もなくなったとこを魔物にじーーーっくり、食べられるのがオチ」
「え、ええ!?」
急に飛び出した山ガール的脅迫にエルはたじたじだ。子供ならではの豊かな想像力で「じーーーっくり」食べられるシーンを想像してしまったのかもしれない。
「で、でもっ。早くむかえにいってあげないと…迷って、こまって…みんな…泣いてる、かも…」
「エルは優しいひと」
ユティはエルのほっぺを両手で包んだ。
「だからこそ、待ちましょう。いたずらに動いてエルが傷つけば、ルドガー、悲しむ。プリンセスを迎えにくるのはナイトの役目」
「……エルがコドモだからごまかそうとしてるでしょ」
「そんなわけ」
エルはユティの手をふりほどいて仁王立ちした。
「エルはオヒメサマきらいっ。だって、おとぎばなしのオヒメサマって、待ってるだけで自分からはなーんにもしないんだもん。エルだったら、ガラスのクツ持ってお城の王子様に会いにいくし、高い塔だって自分でとびおりる。だからエルはルドガーを待つだけなんてヤなの!」
困り果てたユティがアルヴィンたちを見上げてきた。
「……どうしよう。エルがユティの予想を上回る勇者様だった」
男たちは揃って少女たちからふいっと顔を背けた。頑是ない幼女を説得するなど、この顔触れには不可能に近い。一番弁の立つローエンでさえ、今まで相手どった経験のある子供はエリーゼという内気な少女だけなのだ。
どうする――3人ともがそう思案しているのがありありと見て取れた。しかも、互いに自分以外がエルの説得に乗り出さないかを窺っている。
何だこの「先に動いたほうが負け」的空気は。
「ルドガー!!」
妙な空気をエルの弾けるような声が破った。
山間からルドガーと、ほかの仲間たちが下りてきていた。
ルドガーはエルを認めるや一目散に駆けつけてきた。エルも駆け出した。
合流した二人は笑い合い、語らっている。
「天の助け」
「タイミングばっちり。さすが王子様」
アルヴィンは軽口を叩きつつ、ユリウスの様子を窺った。
傍目にも明らかな深い深い安堵。アルヴィンに向けた再会の喜びと親愛を遙かに上回り、容易く上書きしたそれ。
ユリウス・ウィル・クルスニクの心を真実動かすは弟のルドガーだけなのだ。
(元弟ポジションとしちゃあ複雑だが、今さらベタベタ甘える歳でもねえし。それよりユリウスのルドガーへのブラコンっぷりに注意だな。こいつはご執心のもんのためなら他人をあっさり見捨てるタイプだ)
アルクノア時代に培った観察眼をフルにユリウスの気質を探る。
あのメンバーの中で他人を頭から疑ってかかる汚れ役はアルヴィンだけでいい。自分は自分なりに居場所を守ると決めたのだから。
決意も新たに、アルヴィンも仲間たちと合流すべく歩き出した。
エルの「お姫様嫌い」発言はちとやり過ぎかと思いましたが、本作のエルはこんな感じで行きたいです。エルはただ守られるだけのヒロインじゃない的なことを攻略本で中の人がおっしゃっていたので、それにインスピを受けました。それでいてエルに乙女心がないわけじゃないのはアルヴィンのご指摘通り。この先、エルがルドガーにとって「どんな存在」であろうかも、物語を少しずつ変えるファクターになっていきますので。