レンズ越しのセイレーン【完】   作:あんだるしあ(活動終了)

12 / 103
 わたしにだって 普通の女の子 だった時期くらいある


Mission4 ダフネ(2)

 ユティのパーティ内での立場は準戦闘員である。

 基本的には後衛にいてエルとルルに不測の事態が起きないよう待機する。前衛でルドガーたちが苦戦すれば加勢する。

 よってルドガーにすれば想像もつかないタイミング、ポイントから攻めに舞い込むため、たびたび仰天させられた。

 

「ルドガー、無事?」

「おかげさまで」

 

 今もユティは死角から銃撃してきたアルクノア兵をショートスピアで刺し貫き、ルドガーを難から逃がした。

 

「エルは」

「エリーゼに任せた」

 

 ふり返れば、なるほど、エルとルルと仲良くなろうとあれこれ話しかけるエリーゼとティポの姿があった。

 

 エリーゼ・ルタス。リーゼ・マクシアの親善使節団の一人として研究所を見学に来た学生だ。大人顔負けの強力な精霊術を使う(といってもルドガーにそのすごさは分からないが)彼女は、その才を恃みに、同級生を避難させて自ら戦場に飛び込んだ。感嘆を禁じえない行動力だ。

 

「ところでルドガー、気づいてる? 今いる場所」

「分史世界、だよな。黒匣(ジン)兵器がさっきより精巧というか、生物的になってる」

 

 ちょうどエルが落雷に悲鳴を上げた時だった。列車テロの時と同じように、気づけばルドガーは周りの全員を巻き込んで分史世界に進入していた。

 

「今回は俺、変身してなかったのに、何で入ったんだ?」

「骸殻に変身することは、分史世界への進入において必ずしも条件じゃない。ユリウスの手紙からはそう読み取れた」

「……っ」

 

 また、だ。ここ最近、ルドガーは兄の名を聞くたびにざらついた気分になる。

 

「読み取れなかった?」

「そこまで深く読み込んでない」

「不安にならない?」

「……大丈夫だろ、兄さんなら」

 

 少しの間。ユティは「そう」とだけ呟いて黙り込んだ。

 

(何度も読み返したら、そのたびに『お前は要らない』って言われてる気分になるんだよ)

 

 ユリウスは好意と愛情でルドガーを遠ざけようとしている。それくらい家族だから分かる。だが、ルドガーにすれば爪弾きにされるのと何ら変わらない。

 

 「大事に思う」が「一線を引く」とどう違う?

 

「ルドガー、ユティ、ケガはありませんか?」『あったらぼくらが治したげるよー』

 

 エリーゼとエルがルドガーたちの前にやって来た。雷パニックから時間が経ったのに、エルはまだふて腐れている。

 

「ワタシはケガしてない」

「俺も。気を遣ってくれてありがとうな、エリーゼ、ティポ」

『どーいたしましてっ』

 

 ティポを抱いてエリーゼははにかんだ。

 

(エリーゼみたいな子でさえ、黒匣(ジン)なしで高度な算譜術(ジンテクス)を操れる。すごいんだけど、何でできるんだ、って気持ちもある。これはエレンピオス人にしか理解できないだろうな。まあ、付き合いが続けば折り合いつくだろ。ジュードの時だってそうだったんだし)

 

 自分の中で結論づけたルドガーは、続いてエルの前にしゃがんだ。

 

「まだふてくされてるのか?」

「エル、ふてくされてないし!」

「しかめっ面で言っても説得力ゼロだぞ」

 

 ルドガーはエルの両頬を摘まんだ。エルは逃れようとじたじた暴れる。横でエリーゼが目を丸くし、ティポはケタケタ笑っている。

 

「いいじゃないか。雷が怖いくらい。そういう子供らしいとこ見せてくれると、俺も安心する」

「怖くないってば! 子ども扱いしないで!」

 

 エルはルドガーの手を逃れると、ルルと一緒にジュードのほうへ行ってしまった。

 

「エルってば、もったいない。子供でいられる間は、いればいいのに」

「ユティはどんな子供だったんですか?」

「毎日戦う訓練。魔物退治は、よく。犯罪者ハントは、もっと、よく。それ以外は、家におじさま方がいらした時に遊んで勉強して。おじさま方が一緒だったらとーさま付いてなくても山降りていいって、とーさま言ったから、カメラ持って、出かけた」

 

 明らかにエリーゼがコメントに窮している。ルドガーはフォローすべくコメント係を引き受けた。

 

「過保護なのかスパルタなのか分からない父親だな。よく母親が止めなかったもんだ」

「かーさま、わたしが5歳で家出てった」

 

 地雷を踏んだ。今度はルドガーが喘ぐ番だった。

 

「ヘイキだよ。捨てられたんじゃない。たまに会えた。愛されてたの、ちゃんと知ってる。ワタシとかーさまの絆は、距離じゃ、壊せない」

 

 はっきり、きっぱり、胸を張って、まっすぐな瞳で、笑って言われた。

 ルドガーはエリーゼと顔を見合わせて苦笑し合った。自分たちの動揺――母のいない子への同情は的外れにも程があった。




 エリーゼ加入回です。実にあっさりになってしまって申し訳ありません。ひとえに全員を書ききる執筆力のない作者の力不足でございます。申し訳ありません。
 「セイレーン(略)」ではアルヴィンとユリウスがプッシュキャラになりますので、彼ら以外への描写が薄くなることが今から予想されます。ご贔屓キャラが影薄い! という事態になるのがご不快な方はバックプリーズでございます。

 そしてオリ主ちゃんの問題発言その……もういくつ目か分からない!orz
 お母さんの話です。5歳で家を出て以来たまに会う。でも仲は悪くない、むしろいい。オリ主の母親ということはつまりユリウスの未来の奥さん。実は作者の中では母親が誰かは決めています。ただ決めているだけなので、本編には絡みません。ラストにちらっと出てくるだけですかね。
 すでに皆さん言うまでもなくお察しかと存じますが、ラストまでどうぞ黙秘を平に平にお願い申し上げます。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。