If なんば~ず ~ Sweet Home ~   作:vangence

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も、もしかしてお前

 ディードとの仲直りから数日が過ぎた。

今日までにいろいろあったな。

 

 ヴィータ先生にやらかしてしまったせいで、そのことを聞きつけたシグナム先生に教育的指導(お仕置き)を喰らったり。

ゲンヤ先生との柔道での十本勝負を強いられたり。

いやぁいろいろあった。

 

 

 

 

 そんなこんなで本日、球技大会当日です。

 

「おーがんばれークア姉ー」

 

 現在俺達が観戦しているのは女子サッカーだ。

ちょうど試合をしているチームに知り合い(クア姉)がいたので休憩時間の間に応援に来たというわけだ。

 

「いやー五代君、阿部君。ひとつ良いかね」

「なんだよ井上?」

「そうだぞ。なんだいきなり」

 

 井上が右手を挙げて拳を広げる。

 

「ナイスブルマ!」

「「ナイスブルマ」」

 

 手に向かってハイタッチ。

感動を共有しあった。

 

 この学校ミッドチルダ学園はブルマ推奨校だ。

何故かと言えば、学園長が原因だ。

学園長リンディ・ハラオウンは名前から分かる通り日本人ではない。

そして学園長は非常に親日家で有名である。

 

 だが学園長は日本に対する知識が徹底的に根本的に間違っているのだ。

そのせいで学園長室は現在、おかしな日本文化の巣窟と化している。

なぜこのような事を説明したかと言うと。このブルマも学園長の間違った日本知識の産物であるからだ。

 

 ……噂によると。この件の首謀者はゲンヤ先生とレジアス教頭等、男性教諭達が学園長をそそのかしたとかなんとか。

何はともあれ、ここはある種の楽園となったわけである。

 

 

 

 

 ……お、クア姉にボール飛んできた。

 

「クア姉落ち着いてー」

 

 クア姉はボールを見ながら落下地点に向かう。

そしてボールをトラップ……できなかった。

というか、落下地点に到達できてないし。

 

「あっむぎゅ!」

 

 しかもコケた。

ボールばっか見てるから足下がもつれたれたらしい。

隣から井上が尋ねてくる。

 

「クアットロ先輩って……もしかして」

「……実はそうなんです」

「今日はあれの日なんじゃ(ザシュ)」

「井上、少し自重しろ」

 

 井上の両目に阿部の人差し指と小指が突き立てられる。

井上は声も出せずに悶絶した。

自業自得だから心配はしない。

 

「まったく……懲りない物だな」

「まぁ更正のしようもないし、無視しよう」

「そうだな。話を戻すがやはりクアットロ先輩は……」 

「あぁとんでもない運動音痴だ……」

 

 クア姉は運動音痴なのだ。

頭が良い分、比例しているのかとんでもなく運動が苦手だ。

未だに逆上がりができないことを誤魔化しているレベルだ。

 

「大丈夫か。あれ派手に転んだが」

「大丈夫だろう。そんなヤワな人じゃない」

 

 そう言って俺たちは観戦を続けた。

ついでにコケたクア姉が少し可愛く見えてしまったのは気のせいだと思っておく。

 

 

 

 

「はいクア姉、お疲れ様」

「ぜひゅーぜひゅー……あ゛、あ゛り゛が……げほっごほっ」

「はいはい、よくできました……っと」

 

 クア姉が倒れ込んできたので正面から抱き留める。

過剰な運動のせいか体が熱く火照っていた。

 

「……あんまべたべたすんじゃないわよ……げほっがっ」

「……はいはい」

 

 世話の焼けるお姉ちゃんですよ、まったく。

 

「まったくクアットロ! なんださっきのし…あ……い……」

「ん? あぁチンク姉じゃん。試合終わったの?」

「お、おおおお前達はっ、こんなところでな、なんて破廉恥なことを!!」

 

 チンク姉が顔を真っ赤にしながらこちらを指さす。

()(クア姉)を抱き留めている。

……よく見れば確かにこの状況はまともじゃないな。

 

「べ……べつに良いじゃない……疲れてるんだから」

「なら私が看病してやる! どくんだ悠!」

「え、ちょ」

 

 チンク姉に割り込まれ、クア姉は少し不満げだった。

 

「チンク姉の種目はバスケだったっけ?」

「あぁそうだな。悠もバスケだろう? 頑張れ」

「ん……了解」

 

 チンク姉ってこういう時体育会系だよな。

ま、俺も嫌いじゃないけど。

 

「悠そろそろ時間じゃないか?」

「え? あぁヤバ!」

 

 時計を見ると後十分程で開始時刻だった。

遅れたらヴィータ先生とか井ノ上達に何させられるか分かったもんじゃない。

 

「じゃあ行くから。チンク姉も頑張って!」

「もちろんだ」

「……精々頑張んなさい」

 

 チンク姉、クア姉と別れて体育館に向かって駆けだした。

 

 

 

 

「―――― 南無三!」

 

 阿部のシュートが弧を描きゴールに吸い込まれてゆき、フレームに触れる事無く綺麗に円に吸い込まれた。

同時に試合終了のホイッスルが鳴り響く。

 

「「「「「っしゃあああぁぁぁぁああああ!!!」」」」」

 

 

24-23

 

 

 大接戦の末勝利を掴んだのは俺達2-Dだった。

今回は教師陣が参加しなかった事が大きいが一筋縄ではいかない試合ばかりだった。

なにはともあれ優勝ですよ。

いや嬉しいねやっぱり、勝つってさ。

これで今日はゆっくり休める。

 

 

 

 

 そんな事を思っていた時期が俺にもありました。

 

 え? 何があったかって?

そうだなどこから説明したものか……

 

 そうだ、それは閉会式での表彰間際。

突然学園長から放たれた一言から始まったんだ。

 

 いや、正確には突然ではなかったんだ。

俺達(男子)には知らされていなかった特別企画。

 

「バスケットでの『男子優勝チーム』と『女子選抜チーム』によるバスケットボール・エキシビジョンマッチを行いたいと思います!」

「「「「「…………はい?」」」」」

 

 意味が分からないんですが?

俺達は皆思った。

何故必死こいて優勝した後にまた試合をせにゃならんのだと。

学園長曰く

 

「男女の垣根を越えて互いの力をぶつけ合う。このような事ができるのはスポーツ以外に無いと私は思っています」

 

だそうだ。

 

 サッカー等の他の球技では男女差が如実にでる可能性があるとのことでバスケットボールになったらしい。

悪くない企画だと思うよ? 俺達が出るんじゃ無ければなっ!

 

 相手は一年から三年までのスポーツセンスの良い連中を集めた先鋭チームだそうだ。

だけど、俺の場合相手チームの面子を見て一瞬で勝てる気が全く起きなかった。

 

 一応女子の方からもバスケ部員はハンデとして出場しないことになっていた。

つまり他の部活からの参加者が多いわけ。

 

 運動神経の良い女子……俺には思い当たる節が多すぎた。

 

 

 

 

「…………」

「どうしたんだよ、早く相手のメンバー表渡せよ」

 

 井上が阿部に催促する。

阿部の顔はなんだか重苦しく、憂鬱そうだった。

大体阿部がこういう顔をしている時は緊迫した状況の時が多い。

俺も正直良い予感がしない。

 

「…………ほら」

「サンキュ、ええと相手のメンバーは……」

 

 相手メンバーを見た瞬間、井上が凍り付く。

次に諦め気味な顔で俺と二人のクラスメイトにメンバー表を渡してくる。

 

「なんだよ」

「とりあえず見てみろ……ほら」

 

揃って差し出された用紙を覗き込む。

 

「「「…………まじですか?」」」

 

 井上が見せてきたメンバー表を見て俺達は口を揃えて呟く。

 

 

 女子選抜メンバー

 

 スターティングメンバー

チンク・S(スカリエッティ)  ティアナ・ランスター  スバル・ナガシマ

ノーヴェ・S  ウェンディ・S

 

 サブメンバー

ディエチ・S

 

「何これ怖い」

「Sばっかりだな」

 

 他のメンバーがその面子の名前を見た瞬間、俺達のやる気は大幅に削がれた。

だって彼女ら運動能力が異常なんだから。

 

「明らかにこっちを潰しにきてるガチなメンバーじゃねえか」

「それに引き替えこっちはクラスの運動が少しできる程度だ。しかもさっきまで試合をしていた……な」

 

 井上や阿部の表情も若干死んでいる。

かく言う俺も正直勝てる気が全然しないし。

 

「控えにディエチ姉を入れてきてるのが本気を感じさせるな」

「ああ……確かに。このオーダー考えたのって絶対正確がひねくれてるな」

 

 俺の頭にメガネをかけて嫌らしい笑みを浮かべた見慣れた女性の顔が思い浮かんだが、きっと気のせいだろう。

すると、井上が質問をしてきた。

 

「なんでディエチ先輩が控えに入ってるのがまずいんだ?」

「……お前、ディエチ先輩達の試合を見てなかったのか?」

「失敬な。胸元や腰つきを鑑賞してただけだ!」

「「…………ハア」」

 

 ダメだこいつ。イカれてやがる。

きっとさっきまでの激しい運動のせいでおかしくなってるんだ。

きっとそうだ、うん。

 

「一応説明しておくが、ディエチ先輩はバスケに出場してたのは分かるな?」

「ああ、確かに見た腰つきの中ににディエチ先輩のものとかぶった気が」

「死ねええぇぇぇぇぇっっっっっっ!!」

 

 井上の後頭部に延髄切りを叩き込もうとしたが寸手のところで避けられた。

クソ、回避能力は高いなこいつ。

 

「あぶねえっ! 悠てめぇ俺を殺す気かよっ」

「殺す気だウジ虫野郎」

「ひでえな!」

 

 こうなったら最近考えた、俺の107番目の技、空中前方一回転とキックを組み合わせた強化キックを……。

井上をどうしてやろうか考えていたら阿部に割り込まれる。

鋭い眼光を向けられて俺も井ノ上も動けなくなる。

 

「落ち着け、仲間割れしている場合じゃない。あと……井ノ上は俺の説明を聞け」

「は、はい……」

「あと悠。知り合いが視姦されて腹ただしいのは分かるが、今は落ち着け」

「ああ……少し熱くなり過ぎた」

 

 阿部の言う通り、落ち着くようにする。

井ノ上の事は保留にしておこう。今は試合の方が優先だ。

 

「とにかく、ディエチ先輩の試合を見た限り……彼女の3Pシュートは、成功率9割だ」

「「「なん……だと?」」」

 

 他の三人は驚いているが、俺はその状況を見てたし、彼女達は時折人間じゃ無いんじゃないかなと思う事が多々あるので驚きはしない。

 

「明らかに終盤、こちらの戦意をへし折るための秘蔵っ子と見て間違い無い。それに加えてチンク先輩も侮れない。彼女の指揮能力には目を見張る物がある」

「詳しく説明プリーズ」

 

 井上の要求に俺はチンク姉の出場した試合の結果を見せる。

それを見た井ノ上は更に表情が死んだ。

 

「チンク姉の指揮した試合において、10点以上の得点を許した試合はないんだよ」

「他にもノーヴェとウェンディ。スバルにランスター先輩などのコンビネーションの良さに定評のある奴らも揃っている。考え得る限り最高の状況だ」

「洒落になってねえよ」

「俺だって信じたくない。だけど、この試合に負ける訳にはいかないんだ」

「そうだけどよ……この試合にはそこまでする価値があるのかよ?」

 

 日和る井上の肩に手を添えて、阿部が語りかける。

 

「価値がどうとかじゃない。みんなが努力して、手に入れることに価値がある。それに俺達は彼女達に負けるわけにはいかない。絶対にだ」

「悠もカズもわかんねぇよ……どうしてそこまでして勝とうとするんだ?」

 

 問いかけてくる井上に俺は言い放つ。

 

「俺達には男子で優勝した責任がある。三年生のバスケット部員達や他のみんなを倒した、責任がある。みんなの努力した時間を、男としてのプライドを、守り抜かなきゃならないんだ!」

「悠……お前そこまで」

「さあ井ノ上。どうする? 賢く勝てないと判断して手を抜くか、勝てないと分かりつつも全力でやるか。お前自身で決めろ」

 

 阿部の一言で、井上はハッしたように肩を奮わせ、真っ直ぐこちらを見据える。

先ほどまでの恐怖は、その瞳には無かった。

 

「……ここで逃げ出すなんて、俺らしくないよな」

「ああ……そうだな」

「男なら……やるしかねえよな!」

「ああ……その通りだ!」

 

 阿部と井ノ上が盛り上がってる途中で悪いが途中で口をはさむ。

 

「悪いが青春ごっこもここまでだ。あと一時間、できることを考えよう」

「確かにそうだな。しかし、どうする? 相手は恐らくこの試合のためにいくらか練習を行っているはず。連携の穴を突くのは難しいと思うが」

「そのことだが、俺に考えがある。だけど、これは相手にとって有効なかわり、こっちにとっては諸刃の剣だ。できるか分からないが……聞いてくれ」

 

 ほんの少しの時間でも無駄にはできない。

俺達は足りない頭をひねりながら試合への準備を進めるのだった。

 

 

 

 

「なに、あいつら? むさ苦しいわね~。 もしかして……ゲイ?」

「「「「はうあっ!?」」」」

「…………」

(兄様×阿部先輩……いや、もしかして兄様×井ノ上先輩……って私はいったい何を!?)


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