If なんば~ず ~ Sweet Home ~   作:vangence

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にぎってください

 ミッドチルダ学園は催し物が多い。

教育主任であるゲンヤ・ナカジマ先生しかり、競いごとを楽しみにしている先生方が多い。

まあ、他の学校から見ると変らしいが。

そんな彼等の言い分曰く「学生の時ぐらいしか騒げないのだから、せめて思いっきり騒げる環境を」と言うことらしい。

 

 そんな彼等の尽力もあってか、この学校の行事は年を通してかなり多い。

球技大会に体育祭、合唱コンクールに文化祭、そのほか状況によって様々な行事が追加されることがある。

去年なんかは、大雪が降ったとき、全学年合同による「海鳴合戦 雪の陣」なる大雪合戦大会が行われた。

ついでに、この雪合戦の勝利チームは教育主任率いる教師連合が優勝、俺たちのクラスが準優勝だった。

まぁとどのつまり、かなり忙しいわけで……。

 

 

「おらぁ悠! ボサッとしてんじゃねぇえ!」

 

 

「へ? ぐぼぉあ!!」

 

 声のする方向を向くと、目の前に飛んできたピコピコハンマーがあった。

ピコピコハンマーは的確に脳天に直撃、おもちゃとは思えない衝撃がはしり、バランスを崩して後ろに倒れ込む。

 

「おい悠! 大丈夫か!」

 

 クラスメイトの井上(いのうえ)(そう)が駆け寄って来て、俺を抱き上げた。

 

「おい、先生ッ悠が集中してなかったからって、あんまりじゃないですか!」

「……たしかに、今回は少しやり過ぎたか?」

 

 ヴィータ先生が、心配そうにこっちを見ながら歩いて来る。

 

「先生ッこれ以上悠に何かするっていうんだったら、代わりに俺を殴ってください! ハァハァ」

「てめえは自重しろ」

 

 抱き上げる井上の後頭部を殴りつける。

井ノ上はそのまま、無言で痛みにもだえる。

相変わらず犯罪スレスレな事すんな。

 

「大丈夫か悠? その……今回は私が悪かった、ごめん」

「いえ、謝らないでくださいよ。ボーっとしてた俺が悪いんですし」

「傷になってっかわかんねぇから、頭みせろ」

「じゃあ、しゃがみますね」

 

 少し膝を落として頭を向ける。

……このぐらいかな?

 

「どうですか。腫れてます?」

「――――ッッ! ――――ッッ!」

「ヴィータ先生、どうしたんですか?」

「ちょっと……待って……ろ……よっ!」

 

 なんだか様子が変じゃね?

すると、周囲から声が聞こえてきた。

 

「うぁ五代のヤツえぐいことを」

「でも、酷すぎないか。あれ」

「あれって天然か? クソォその才能が憎い!」

「ふ、フフフ……ユウスケよお前もこっちの人間だったか……」

 

 気付くと井上のヤツが復活してた。

なんか、マズイ事が起きているような気がする。

 

「……うがあぁぁぁぁああああああ!!!」

「!? ヴィータ先生いったい何……あべしッッ!?」

 

 再び訪れる衝撃。しかも一度ではない、連続でだ。

連続の衝撃で頭が揺さぶられる。

てか、洒落にならないぐらい痛いんだけど! 

 

「おい悠……人が優しくしてやったっていうのに。なんだその態度は?」

「え……別に何もしてませんけど?」

「……ゃくて悪いか」

「あの先生? 話聞いてますか」

 

 ピコピコハンマーを握って、体を怒りでプルプルと振るわせているヴィータ先生。

……悪い予感がする。

 

 次の瞬間、先生が……吠えた。

 

「ちっちゃくて悪いかああぁぁぁぁああああ!!!」

「ちょヴィータ先生? どこ行くんですかあ!」

「悠のバカ! アホ! うわああぁぁぁあぁぁぁ…………」

 

 ヴィータ先生はおさげを振り乱しながら走り去ってしまった。

……信じ難い事だが、ちょっと涙目だったかも。

後ろから肩を叩かれる。

 

「悠、大丈夫だったか? 災難だったな……と言いたいが、今回ばかりはお前が悪い」

「あの俺、状況を理解してないんだけど。何が起きた?」

 

 肩を叩いてきた男・クラスメイトの阿部 和高がやれやれといった風に肩をすくめる。

 

「お前……またやったのか?」

「またって……なんのことだ?」

「……なんでもないよ。気にする必要はない。練習を続けよう」

「あっおいカズ! なんだよ……いったい」

 

 カズは踵を返しみんなの所に向かった。

俺も内心疑問を抱きながらも、みんなの所に向かう。

なんだか分からないが、井上がなんだかハイになっててかなりうざかった。

 

 

 

 

 放課後、俺達は体育館の一角を利用して何を行っていたかと言えば、球技大会のための練習だ。

ついでに、俺の出る種目はバスケ。

メンバーは、俺・井ノ上・阿部。

あとの二人はクラスの男子だ。

 

 放課後に練習していたのは、主に担任ヴィータ先生からの命令である。

先生はこういう祭り事が好きなタイプの人だから、かなり張り切っているため、俺達選手が、こうやって練習に駆り出されているわけだ。

……まあ、俺達も負けるのは趣味じゃないし、かなりやる気があるんだけどな。

 

「阿部!」

「―――― よっと!」

 

 阿部からのチェストパスを胸元でダイレクトで受けて、ドリブルで相手を抜く。

 

「あめぇ!」

「……ッッ」

 

 ……はずだったが、井上のスクリーンに邪魔された。

こいつ運動センスだけはバカに良いんだよなぁ……。

 

「フフフ……何時も馬鹿にされてばっかじゃ……あれ?」

 

 阿部が俺の手元を見て驚く。

なぜなら、そこに持っているはずのボールが無かったからだ。

気付けば、既に阿部がゴール下でシュート態勢に入っている。

 

「ゲッいつの間に」

「さっきバックハンドパスしてたんだよ」

「さっきって、お前ノールックパスじゃんか!」

「まぁ阿部相手だったら、安心してできるんだよ。あいつ以外じゃお前にしかできんけど」

 

 阿部が綺麗なフォームでシュートを放つ。

ボールは綺麗な弧を描き、吸い込まれるようにゴールネットを揺らした。

 

 

 

 

「あー……きっちぃ」

「運動不足だな。何か部活にでも入ればいい」

 

 バスケって初心者とか運動不足の人間のやるもんじゃないよね……。

足のふくらはぎとか、太ももとかがパンパンになってる気がする。

 

「悠はセンス良いんだけどなぁ、去年より体力落ちてないか?」

「……なんかヘコむ」

 

 トーレ姉とかにトレーニングに(強制的に)連れて行かれる事とかが多いから、体力はそこそこある方だと思ってたのに……。

 

「まぁ悠はいろいろ忙しいからな」

「あぁ……憎らしいよな、ホント」

 

 一緒に練習していた、同じクラスの男子二人から呪詛の念が向けられる。

嫉妬やら何やらをひしひしと感じる、冷たい目線だった。

いったい何だよ?

 

「美人姉妹がお隣に住んでて」

「しかも、関係が最早姉弟関係だろ……」

「「巫山戯ろ」」

 

 なんかいきなり暴言を吐き捨てられた。

まぁ確かにウーノ姉達とか凄い美人だから、一緒に居て悪い気しないけど。

 

「てか何でそんな事知ってんだ? 誰かに言ったことあったっけ?」

「美人揃いで有名なスカリエッティ姉妹とあんな親しくしてりゃ、気になって探る輩も居るって事だな」

「そんなもんかなぁ?」

 

 てか知らないところで探られてたのか俺。

阿部の言葉に少し驚く。

探られてたのは俺というよりかは、姉さん達の方なんだろうけど。

……良い気分はしないな。

 

「……あれ? あれってディードちゃんとオットーちゃんじゃね?」

「ん? ……あ、本当だ」

 

 井上の視線の先を見ると、ディードとオットーが他の生徒と一緒にバスケの練習をしていた。

 

「ディード達もバスケなんだ」

「なんだ、悠も知らなかったのか?」

「……まあな」

 

 実は最近ディードが冷たい。

いや、原因は分かってるんだけどな?

 

 先日、ディエチ姉との一件を見られて以来、ディードが少し俺を避けている。

声をかけても素っ気なく返される。話かけてこない。その他etc…。

 

 そんなこんなで、最近ディードと話してない。

いつも一緒にいるオットーは普段話しかけてこないからディードが何に参加するか知らなかったんだ。

どうやら完全に拗ねてしまっているらしい。

 

「……俺少し用事思い出したから、みんな先に帰っててくれ」

「……了解。なんか面倒事だったら手伝ってやっから。いつでも呼べよ」

「悠からの頼みなら、いつでも予定は開けよう」

「あんがと、じゃあな」

 

 阿部達と別れた後、どうするか考える。

さて、どうしようかな……

 

 

 

 

「……どうしてそこにいるんですか兄様」

「え……グウゼンジャナイカナ?」 

「……嘘くさい」

「何言ってるんだよオットー」

 

 別に二人の帰り道に先回りなんかしてたわけないじゃないか。

 

「ついでだし一緒に帰ろうぜ」

「……勝手にして下さい」

 

 俺をおいてディードがさっさと歩いて行ってしまうので後ろからついていく。

オットーが横に並んで小さな声で話しかけてきた。

 

(兄さん)

(なんだオットー)

(ディードと何かあった?)

(やっぱ気付いたか)

 

 さすがに双子ってだけあるな。

 

(この間から機嫌が悪い。兄さんの事怒ってた)

(……少し、恥ずかしいところを見られまして)

(……詳しくは聞かない)

 

 オットーの心遣いが身に染みる。

こうゆうとこコイツの良いところだよな。

 

「そういえばさ、さっき球技大会でバスケに出るから練習してたんだけど。お前等もバスケ出んの?」

「……そうですけど。なんでそんなこと知ってるんですか」

 

 素っ気なくディードが返す。

完全に無視されて無くて助かった。

 

「いや、そのとき二人が練習してたのが見えたから、バスケ出るのかなって」

「……そうですか」

「いや二人とも上手かったぜ? 俺なんか体力落ちててスゲー辛かったのに二人とも涼しい顔してんだもん」

 

 とりあえず機嫌を取ろうと思い付いたことを言ってみた。

するとディードがジト目でこっちを見てくる。

 

「ご機嫌取りですか? 別にそんなことする必要ありませんよ。私別に怒って(・・・)ませんから」

「べ、別にご機嫌取りなんて」

「分かりますよ。兄様分かりやすいですから」

「……マジですか?」

「マジですよ。顔にでてます」

「……兄さんは分かりやすい」

 

 ディードがこっちを見る。

俺の顔ってそんなに分かりやすい作りなんだろうか?

 

「俺ってそんな分かりやすい?」

「いや……他の人には分からないかもしれません。姉様達とか近くにいる人じゃないと分からない変化です。私も……兄様とずっと一緒でしたから」

 

 ディードが薄く笑いながら言う。

 

「今笑った」

「? なんですかいきなり」

 

 いきなりの言葉にディードが少し驚く。

まぁ俺もいきなりそんなこと言われたら驚くけど。

 

「いや最近ディードが相手してくれなくて寂しいなーって思ってた」

「……寂しかったんですか?」

「うん。そりゃ喧嘩なんて殆どしたこと無かったじゃん? だからさ、ディードが話してくんなかったの辛かった」

 

 するとディードが突然そっぽを向いてしまう。

あれ普通こういう時は仲直りするもんじゃないの?

 

「あのーディードさん?」

「な、何ですか?」

「なんで顔を逸らすんですか?」

「別に何でもありません!」

 

 怒られた。

隣でオットーが「素直じゃない」と呟いていた。

 

「ディード」

「……なんでしょう」

「なんか……ごめん」

 

 なにが悪いのか、というか俺が悪いのか分からないが素直に謝る。

 

「俺にはよく分からないけど、ディードに嫌な思いさせちまったし……」

「兄様、謝らないで下さい」

 

 ディードに言葉を遮られる。

 

「別に兄様は悪くありません。ただ……私が嫉妬しただけですから」

「……嫉妬?」

 

 俺が聞き直すとディードははっとしたように言葉を続ける。

 

「ディエチ姉様のことを抱きしめてたことが羨ましかったとかそうゆうのではなくて……」

「……まったく」

 

 ディードの頭をクシャクシャと撫でる。

おぉ……久しぶりに触ったがやっぱり姉妹中で一番さらさら何じゃないかな。

 

「に、兄様っ? いったい何を」

「理由はない。ただ撫でたくなっただけ」

「……うー」

「……ずるい」

 

 オットーが不満を言ったのでついでに撫でる。

二人とも双子だけど髪質は全然違うなぁ。

 

「この間のこと、悪かったな。許してくれ」

「……ダメです。許してあげません」

 

 あれ? 許してもらえると思ったんだけど……。

するとディードがこっちを向いた。

なんだか顔が林檎みたいにまっかになってて可愛かった。

 

「も、もっと撫でてくれないととダメです」

「……了解」

 

 そんな恥ずかしそうに頼まれたら断る訳にはいかない。

髪をとかすみたいに優しく撫でる。

 

「……あっ……んっ」

「よしよし」

(……兄さんテクニシャン)

 

 くすぐったいのかディードの口から時折声が漏れていた。

 

「も、もう大丈夫です」

「もういいのか? もっとやっても」

「大丈夫ですから!」

 

 なんか今日のディードはテンション高いな。

ディードとオットーの頭から手を離す。

 

「許してくれるか?」

「……まだダメです」

 

 まだダメなのか……

今のでいけた様な気がしたんだけどな。

 

「じゃあどうすればいいんだよ」

「……手を」

「ん? なんだって」

「……手を、にぎってください下さい」

「そんなことでいいの?」

「はい、大丈夫です」

 

 ディードが言うんならそれで良いんだろうけど。

ディードに言われたとおり、ディードの手を取る。

女の子らしい柔らかくて小さな手だった。

……すこし恥ずかしいな。

 

「これで良いか?」

「はい、じゃあ帰りましょう」

「このままでか?」

「はい。このままです」

 

 家までこのままはかなり恥ずかしいな。

妹みたいなものとはいえディードはかなり可愛い女の子だ。(まあ彼女みんなそうなのだが)

そんな子と手を繋いで歩くというのは男として誇っていいんだろうけど……。

 

 すると片方の手をオットーに握られる。

 

「お、オットー?」

「ディードだけずるい」

「じゃあオットーも一緒に、じゃあ行きましょうか」

「おう」

 

 そのまま家まで三人で手を繋いで帰る。

ディードが凄く嬉しそうにしてくれてるのでので俺としても満足だ。

帰り道を夕日が赤く染め上げていたが、それと同じぐらいディードの顔も赤くなっていた ――――


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