If なんば~ず ~ Sweet Home ~ 作:vangence
スカリエッティ家において、俺は基本朝・昼・晩と食事の世話をしている。
なぜかというと、関わり始めてからひと月ほどで気づいたんだが…。
この家には料理という概念が欠落してたんだなこれが。
どのぐらいかって言えば小学生にして水とサプリメント・レトルト・インスタント食品ばかりで生活してたってレベル。
あまりの異常さに当時幼かった俺でさえ危機感を抱き両親に連絡。
それがスカリエッティ家の食卓再生計画の幕開けだった。
当初は母さんが来て料理を作っていた。
あのときの少女達含め一人の成人男性が食事に感動している様はまるで火を得た人類のようだった。
しかし俺の母さんも忙しい身、しょっちゅう来て料理は作れない。
そこで白羽の矢が立ったのがこの俺だった。
当初は近所のおばさん方に頼もうとしたが、気味が悪いとのことで交渉失敗したらしい。
両親の都合でよく家を留守にされることが多い鍵っ子だった俺はそこら辺の小学生に比べてそれなりの家事スキルは身に付けていた。
そこを買われての人選だったらしい。
そんなこんなで俺はスカリエッティ家の料理番に就任したわけだ。
最初は俺もそんなに器用だった訳じゃない。
だって小学生だぜ? 作れる物もたかがしれてる。
失敗だって何度もした。
けど、やめようとは思わなかったんだなこれが。
なぜかって?
こんな俺の料理でもあいつ等はうまいって言ってくれたからだと思う。
だから俺も期待に応えようって努力した。
そんな感じで時が過ぎ俺は高校二年生。
努力の甲斐もあり、スカリエッティ家の食卓を完全再生させることに成功した。
ついでに俺は未だに料理番だ。
今だって晩飯の後に食器を洗っている。
洗剤を含ませたスポンジで皿を洗い、洗剤を流す。
「はい、ディエチ姉」
「うん」
隣で布巾を持っているディエチ姉に皿を渡しディエチ姉が拭く。
「追加です」
「……」
そして、ディードとオットーが食卓の皿を洗い場まで持ってくる。
それをまた俺が洗い、ディエチ姉が拭く。
長年の間に編成された食器洗いのための特別チーム…というか単に真面目な面子を集めただけなのだが。
姉妹のうちこの面子以外基本食事関係に関わろうとしてこない。
まぁ某メガ姉みたいに関わらせないのもいるが…。
セッテ姉も志願しては来たのだが、どうも作業中チラチラこちらを見てくるので集中できず解雇となったのはまた別の話。
洗い物の最中暇なので、最近見ない顔の話をふる。
「そういや今日もジェイル帰って来なかったなぁ」
「この間電話で連絡してきたよ」
「マジか、それで何だって?」
するとディードがジェイルのまねをして話の内容を説明しだした。
「世紀最高にして最大の発明が生み出されようとしている! すまないがしばらく家を空けることになるが心配はない。既に五代くんの母に連絡をしてあるからね、彼女達に世話になるといい。主に悠くんにね。ではまたね……だそうです」
「あの野郎」
最近母さんの帰る頻度がやけに減ったと思ってたのはそのせいか。
体よく押しつけてったな。
「でもいつだかそんなこと言ってなんか作ってきてたよな。あれ何だったっけ?」
「……あぁ、ありました2年ほど前に」
あのときもしょうもない物作ってきた憶えが・・・。なんだったっけ?
「……(ガサゴソ)」
「……どうしたのオットー?」
突然オットーが戸棚の奥を漁りだした。
すると奥から埃をかぶった機械を取り出してきた。
たしかあれは……。
「オットーそれって……」
「……全自動た●ご割り機」
「「「……」」」
そうだあのときはこれを作って来たんだった……。
「あの時の衝撃は今でも忘れないよ・・・」
「だな、二ヶ月も家を空けた結果完成したのがあれじゃあな」
意気揚々とジュエルが取り出したとき、そりゃもうビビったわ。
「でも製菓会社に売り込んだらスゴイ好評だったんですよね」
「……現在の国内製菓会社中80%のシェア」
「意外と凄かったよね」
てかオットーなぜそんなこと知ってる。
「というより、ほいラスト一枚」
そんなこんなで洗い物終了。
全自動た●ご割り機……久しぶりに今度つかってみるかな。
「んじゃ、俺帰っから」
「うん、お疲れ様」
ふと、ディエチ姉が時計を見る。
「今日は早く帰るんだ?」
「へ? あぁ、そうだな。結構はやく終わったし」
するとディエチ姉が少し思案して、質問してくる。
「まだ早いし……少し話そう?」
「そうだなぁ・・・」
別に家に帰ってもやることもないしな。
「了解、付き合うよ」
「ありがと悠。ここじゃなんだし、部屋ではなそう」
ディエチ姉に連れられ、長い廊下を通って部屋に通される。
「お邪魔します」
「いらっしゃい、そこ座っていいよ」
言われるまま、ディエチ姉のベットの上に腰掛ける。
この家の全てのベットにおいて言えることだが、相変わらずふかふかだ。
ディエチ姉は背もたれに両手をかけて座る。
部屋は綺麗に整頓されていて、不快感を感じさせない。
さすがはディエチ姉ということだろう。
ふと、部屋の一角を占領している物について質問してみる。
「結構増えたね」
「そうかな、前に来てから……20冊ぐらいだよ?」
「いやいや、十分多いって」
ディエチ姉は現在文芸部に所属している。
ある日突然に文学に目覚めてしまったんだよな。
部屋の一角には本がぎっしり詰まっている本棚が鎮座している。
「これなんて凄い厚いよね、ええと……『こかくちょうの夏』?」
すると、ディエチ姉がやっぱりという顔をする。
「私も始めはそう読んでた。それって『
「姑獲鳥? へぇ、なんか難しそうだなぁ」
「そんなのことないよ、今度貸そうか?」
「……うん、機会があったらね」
でもこれ、ほんとに厚いんだけど。
1000ページ以上あるんじゃないだろうか。
正直俺には読める気がしない。
「最近調子どう? クラスの友達とかもうできた?」
「うん。っていうかクラスの面子がほとんど変わらなかったしね」
「そっか、担任はヴィータ先生だっけ」
「そうなんだよ。それが聞いてよ、この間さ――――――――――」
「――――――――― で、井ノ上のヤツがコ●ラとメ●トスを同時に……って、もうこんな時間か」
「結構話込んじゃったね」
時計を見ると針は九時頃を指していた。
「明日も早いし、そろそろ戻るわ」
「そう? それじゃ…………ちょっと待って悠」
「? どうしたの」
ディエチ姉が立ち上がってこっちに来る。
何事かと思うと、ディエチ姉が横に座った。
ギシ、とベットのスプリングの音がやけに大きく聞こえた。
隣でディエチ姉はじっとこっちを見てくる。
「な、なに?」
「…………最近、悠が大人っぽいなって思ってた」
「へ? なんだよいきなり」
少しムスッとしてディエチ姉は続ける。
「2年ぐらい前までは、私やウーノ姉とかに甘えてばっかりだったのにね」
「まぁ、俺も大人になってきたってことじゃない?」
俺だっていつまでも子供ってわけじゃない。
クアットロ姉とかには、まだまだ子供だといわれるけど。
「……ねえ悠。どれだけ悠が大人になっても、私たちは悠のお姉ちゃんだよ?」
「…………ん」
優しく微笑んだと思うと、ディエチ姉が頭を抱いてきた。
あったかい手が頭を優しく撫でてきた。
なんだか、とても穏やかな気分になる。
「恥ずかしいんだけど……」
「ダメ、たまにはお姉ちゃんに甘えなさい」
「でもさ」
言い返そうとするとあたまをぎゅっとされてしまい何も言えなくなる。
ディエチ姉のパジャマから、いいにおいがする。
女性特有のにおいとでも言えばよいのだろうか。一切の不快感を与えない、落ち着く香り。
「悠は昔から優しい子だから、がんばって大人になろうとしてたのも知ってる」
頭の上から優しい声が聞こえてきて、なんだか安心する。
「悠が大人になるのはしょうがないことだよ。でもね、私たちだって大人になってるんだ」
「……ディエチ姉?」
上を見ると、目の前にディエチ姉の顔があった。
すこし、悲しそうな顔をしていた。
「悠が私たちのためにいろいろ頑張ってくれてるのも……分かってる。でも、もう少し、ううん、もっと私たちを頼って?」
まっすぐ、こっちを見てくる。
なんだか、こういうお姉ちゃんっぽいことされたの、確かに久しぶりかも。
「辛いことや、苦しいことがあったらいつでも言って」
「……うん」
「ウーノ姉やクアットロ、ウェンディやノーヴェ……みんな悠の味方だから」
ディエチ姉に、いや彼女達に俺は無用な心配をかけてしまってたと気づいた。
同時に、なんだか凄く悔しかった。
みんなの手助けがしたくって、始めてたはずなのに結局心配をかけさせてたから。
なんだかやるせなくって、心配させてた事を謝りたくて、ディエチ姉の体を抱きしめる。
女性らしい華奢な体だった。あまり強く抱きしめると折れてしまいそうなくらい。
しかしそこには女性の弾力も備わっており、いつまでも抱きしめていた欲望に駆られる。
「……おねえちゃん……心配かけてごめん」
「……大丈夫、悠はいい子だよ」
ディエチ姉がぎゅっとしてきたからこっちもぎゅっと仕返す。
「っん……悠、悠」
すると、むこうはもっと強く抱きしめてくる。
ウーノ姉とかにも最近されてなかったから、すごく気持ちいい。
体のあったかさとか、心のあったかさとか、いろんなものが伝わってくるみたいな感じがする。
「……ゆう」
「おねえちゃん」
あったかくて心地よい時間を味わう。
ずっとこのままでいたい、ふとそんなことを思った。
突然ドアが開かれるまでは。
「失礼します。ディエチ姉様、この間借りた本を……」
「「ん?」」
目を向けるとそこには驚愕の表情でこちらを見ているディードがいた。
……やばくねこの状況。
ゆっくりと、ディエチ姉を抱いていた腕をほどく。
少し、ディエチ姉が名残惜しそうだった。
「おい、ディード落ち着け、深呼吸するんだ」
「……すーーーはーーーー」
「よし、落ち着いたら一度話を聞いてくれ、これは」
「兄様、ディエチ姉様。少しそこに直ってください」
「「……はい」」
この後、ディードに長時間、説教を喰らったのはいうまでもない。
「ねぇ悠」
「なに、ディエチ姉?」
「……ううん、やっぱりなんでもない」
「どうしたのさ、いきなり」
「―――― たとえディエチ姉様といっても、お付き合いをしているわけでもないのに、兄様とあ、あんなうらやまけしからん事を……って二人とも聞いてるんですかー!」