If なんば~ず ~ Sweet Home ~   作:vangence

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ブレイクファースト 

 海鳴市には大きなお屋敷がいくつかある。

 一つはアメリカ人実業家 バニングスの屋敷

 二つ目は資産家である月村の屋敷

 

 

 そして三つ目。業界内では天才とも大馬鹿とも呼ばれている自称『人類史最高にして最凶の科学者』

 科学者 スカリエッティの屋敷

 

 その科学者の家は俺の家の隣である

 通常そんなでかい屋敷があれば、その家主に多少は興味がわくのだろうが、彼の場合は例外だろう

何故かといえば、その家主がおかしいと傍からみてまるわかりだからである

 

 連日のように響いてくる謎の爆発音

 

 時折聞こえてくる奇妙な高笑い

 

 広大な庭の一角を埋め尽くすほどのガラクタの山

 

 変人丸出しである。

 元々空き屋だったのだが、俺が小1ぐらいの頃にある一家が引っ越して来た

 それが彼等 スカリエッティ一家だった

 最初は当然俺も興味がわいた

 大きな屋敷という存在は、少年の好奇心を掻き立てるのには十分な材料だろう

 

 しかし、その興味は数日ほどで失せてしまった

 関わりたくないという気持ちが勝ってきたのだ

 

 数日でさっきの説明みたいなことがあれば小学生だった俺でもヤバイと気づく

 こいつらとは関わらない方がいいって少年が備えていた防衛本能が決めたのが10年ぐらい前のこと

 

 

 

 

 そしてそれから約10年後、俺はその家で朝食を作っていた ―――――――――――――――

 

 

 

 

 あれ、おっかしいなぁ?

 

 

 

 

 全員分の茶碗にご飯をよそって机の上に並べる。

 本日は和食だ。

 味噌汁をよそっていると、誰か入ってきた。

 見るとスカリエッティ家の長女であった。

 

「おはようウーノ姉。珍しく早いじゃん」

「おはよう悠。たまたま早く起きただけよ……今日は和食なのね」

 

 そう言ってウーノ姉は食卓の椅子に座る。

 すると、また誰かが部屋に入ってきた。

 今度は三人一緒であった。

 

「おはよう悠」

「おはようトーレ姉。今日は和食だよ」

「そうか、和食は好きだ」

 

 すると、隣にいるメガネの少女・クアットロが文句を言う。

 いちいち文句が多いんだよとは口が裂けても言ってはいけない。

 長い付き合いの間に覚えた彼女たちの対応に必要な知識の一つである。

 

「えーワタシは洋食の方がいいんだけど」

「クア姉には別で用意してあるよ」

 

 そう言ってパンとスクランブルエッグを乗せた皿を食卓に置く。

 

「珍しく気が利くじゃない」

「珍しくは余計だ」

「アタシは悠が作った物ならなんでも美味しいと思う」

「……ディエチ姉、ハズイからやめて」

 

 ディエチ姉は素でこういうことを言ってしまう。

 俺はディエチ姉のそういうところが大好きです。

 

「そうよディエチちゃん。こいつにそんな優しいこと言う必要ないわ」

「……メガ姉は一言二言多い」

「あら、悠。今なにか言った?」

「な、なにも」

 

 あ、危なかった。

 聞こえてないと思ったんだけど・・・

 あれ以上言っていたら何されてたことやら。

 

「じゃあ準備終わったし戻るわ」

「悠は食べて行かないの?」

「悪いなディエチ姉。今週は俺日直なんだ。だから早くいかないと」

「そっか」

 

 そう言ってディエチ姉は鮭の骨を取る作業にいそしむ。

 するとウェンディとノーヴェが駆け込んできた。

 ウェンディはラクロスのユニフォームを着ていて、ノーヴェは柔道着を持っていた。

 

「あ、朝練遅れるッス!」

「俺も遅れそうだから朝飯いらねぇ!」

「おい、二人共。朝食べて行かないと辛いぞ」

 

 トーレ姉の言葉も聞かずに二人は味噌汁だけ掻き込んでさっさと行ってしまった。

 トーレ姉がやれやれと言わんばかりに、溜め息をこぼす。

 

「あいつ等……」

「二人とも相変わらずアホねぇ」

 

 ある意味でクア姉も同じだと思うのだが。

 

「昨日言えば起こしてやったのに……」

「まぁいつもの事じゃない」

「いつもの事って……」

 

 確かにいつものことだが妹達がそれでいいのか、ウーノ姉……

 仕方ないので食パンを出して野菜を切り始める。

 ディエチ姉が尋ねてくる。

 

「何やってるの?」

「二人に差し入れ」

「ふふ、やっぱり悠は二人に甘いわね」

「茶化さないでよ……」

 

 ウーノ姉が微笑みながら麦茶をあおる。

 いつもウーノ姉はこんな感じでからかってくることが多いが、それを何となく心地いいと感じてるのも本当のことだ。

 でも、ううけっこうハズイな……。

 

「うわキモ~い、なににやけてるのよ」

 

 ……このメガネ、年上だが殴っていいだろうか?

 

 

 

 

 

  ――――――― 私立ミッドチルダ学園

 海鳴市にある巨大な高等学校である。

 理事長 リンディ・ハラオウン氏の意向によって、それぞれの個性を最も重視する学校。

 スポーツ・勉学・趣味などを是とし、将来は世界に羽ばたけるような人材の育成を指標としている。

 行事も豊かで規模も大きく、部活動も多彩、そして指標の通り各分野での著名人を輩出しており近日人気になってきたらしい。

 

 そんな所が俺たちの学校だ ――――――

 

 

 

 

 朝のHRの後、俺は自分のクラスではないクラス『2―A』の教室に向かっていた。

 教室のドアを開け、目的の人物を捜す。

 すると窓際の席で一部どんよりとした空気を漂わせているヤツがいた。

 

「ようノーヴェ、間抜けなお前に施しをしてやろう」

 

 手に持っていたバスケットを空腹で目が虚ろなノーヴェに差し出す。

 すると生気を失っていた瞳が一気に光を取り戻す。

 

「お、おぉぉぉぉ……め、飯をくれッ!!」

 

 俺の手からバケットを奪い取り、中に入っていたBLTサンドに囓りつく。

 少女が一心不乱にサンドイッチを貪っている様子は、なんだか見ていて悲しいものがある。

 見た目がイイと余計にだ。その見た目、もはやハムスター・・・。

 

「うぅ、ふまい。ふふぁいふぉお」

「あんまり急ぐと喉に詰まるぞ?」

 

「あ、悠おはよ……ハムスター? ……なんだノーヴェか。」

 

 俺が注意をしてくると誰かが声をかけてきた。

 目を向けるとそこにはノーヴェの親友、スバル・ナカジマが立っていた。

 

「おうスバル」

「朝練の時から様子が変だと思ったけど、お腹すいてたんだ」

 

 スバルはノーヴェと同じく柔道部に所属しているのだ。

 ノーヴェは気づいたらサンドイッチを完食しており、手についたパンくずをパンパンと叩いて落としていた。

 てか食うの早すぎだろう。

 

「ごっそさん! ふぅ、いきかえったぁ~」

「ノーヴェ、急ぐのは分かるが朝飯ぐらい食っていけ。お前の分俺が食ったんだからな」

 

 朝から胃がもたれそうでした。

 ノーヴェからバスケットを回収して教室を出て行こうとする。

 スバルが声をかけてくる

 

「あれ悠、もう少しいればイイじゃん授業までまだ時間あるよ?」

 

 時計を見るとまだ授業開始までには余裕がある。

 しかし俺にはあまり時間があるとはいえなかった。

 

「わるい、ちっとばかし用事がある」

 

 まだ一人腹ぺこなヤツがいるもんで。

 そいつに朝食を渡さなければ一日が始まった感じがしないだろう。

 

「ふ~ん、ならしょうがないや」

「じゃ行くから」

 

 今度こそ教室を出ようとすると背中越しにボソッと言葉が聞こえてきた。

 

「飯あんがと……うまかった」

 

 

 

 

 

 次にむかうは一つ下の学年。

 なんか年下とはいえキツイよね、こういうアウェー感。

 時折向けられる視線が・・・。

 そんなかんじで軽く緊張しながら『1― C』の前に立つ。

 

 ……さて、どうするか。

 

 2- Aと違ってあんましこのクラスに接点がないので入るのが少々憚られる。

 誰かに頼んで渡しておいて貰おう。

 そう思っていると後ろから突然強烈な気配を感じた。

 振り返ろうと思った瞬間にバケットを反応するまもなく強奪される。

 その正体は……まぁ当然ウェンディだった。

 

「ウェンディ……腹減ってるのは分かってるけど強奪するのはどうなんだ?」

「悠……何も言わないで欲しいッス」

 

 バケットからタマゴサンドを取り出して一心不乱にかぶり付く。

 何というか……ウェンディはそれなりに容姿が整っているから、そういう女の子が一心不乱に物を貪っている様子を眺めるのはつらい物が……。

 

「ガツガツ……なんスかその目は」

「いや、なんでもないですよ?」

「……あげないッスよ」

「取ったりしねぇよ」

「これはもうアタシの物、悠でもこれは渡せないッス」

「だから取らないって……じゃあ俺戻るからな? バスケットは後にでも渡してくれ」

「うん、ムグムグ」

 

 そういって教室に戻る。

 えっと最初の授業は・・・ゲ、ヴィータ先生の現文じゃん! 

 この学校に多いのだが、授業に遅れたりするととんでもないペナルティを課す教師が多い。

 前にヴィータ先生の授業に遅れた生徒は……うぅっ思い出しただけ寒気が。

 そして俺は通路を駆けだした。

 

 

 

 

「ねぇウェンディ、さっきの2年の人っもしかしてあの(・・)五代先輩?」

「ングングそうだけど、どうして知ってるんスか?」

「だって有名だよ? 去年先輩達と組んでいろいろと伝説を残してるし」

「……マジッスか?」

「てか、ウェンディ……五代先輩と付き合ってんの?」

「―――― !? な、なんでそうなるんスか!」

「いや、だってさっき弁当貰ってたじゃん。しかも手作りじゃない、それ」

「だからって、つ、付き合ってるとか」

「普通、男子が付き合ってもいない女に弁当作るとかないって」

「でも、アタシと悠って、別にそんなんじゃ」

「あー! 今、悠って呼び捨てにした!」

「だーかーらー!」

 

 

 

 

「ハックショイ! ズズッ誰か俺の噂でもしてんのか?」

「おい何ボサッとしてんだ? アタシの授業に遅れたこと反省もしねぇで、いいご身分だなぁユウ?」

「先生、とりあえずその振り上げたピコピコハンマー(グラーフアイゼン)を下ろしてください」

「うるさい! このっこのっ」

「あぁ先生地味に痛いって!」

「おい悠! 嫌なら俺が代わっても「「「「黙れロリコン!!!」」」」」

 

「アタシはロリじゃねえぇっ!」

 

 

 

 

   朝の校舎に先生の虚しい叫びが響き渡ったのだった

 

 

 


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