If なんば~ず ~ Sweet Home ~   作:vangence

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Presious

 人生において最も重要なことってなんだと思う? 

この問いに対しての答えは多種多様、十人十色、千差万別あると言ってよいだろう。

 

 

 俺は、受け入れることだと思っている。

恐らく、皆には好きなものが一つはあるよな?

それはゲーム、スポーツ、恋愛……なんでもいい。あったとして、皆は好きなことをすることを拒みはしないだろう?

 

 

 でも、世の中好きなことばかりで満ちているわけではない。

例えば、アニメが好きな人がいたとする。その人にとってアニメはとても大切なものだ。

しかし、その人はすべてのアニメを大切に思えるわけではない。

苦手なジャンルというものが出てきてしまうのだ。

耐性のない人間には、BLも百合も受け付けることはできない。

見ているアニメの中に苦手なジャンルが少しでもあると、大好きなものの中に不純物が混ざったような気がしてしまうのだ。

 

 

 苦手なものがあるのは人間の性故に致し方ないことだとは、俺も分かっている。

しかし、自分にとって苦手なものが大切だ、大好きだ、と言う人間がいるというのもまた一つの事実だ。

 

 

 人は魅力無きものには惹かれない。つまり、何かしらの美徳があるからこそ、そのジャンルは存在し続けることができるのだ。

もしかしたら、苦手なものも理解しようと受け入れる姿勢を自ら示せば、そのジャンルの美点に気が付き、自分の好きなものの幅を広げることができるかもしれない。

 

 

 それは、とても素晴らしいことだとは思わないだろうか?

好きなものの新たな一面を、奥深さを一層味わうことができるのだから。

 

 

 しかも、それは好きなものであることに限ったことではない。

嫌いだったものも、美点を見つけて好きになれれば、世の中はさらに素晴らしく見えるとは思わないか?

故に俺は受け入れることが大切だと思うのだ。

 

 

 そう、苦手なものを受け入れることはとても大切なのだ。

 

 

「よーし、あとテストまで一週間だ! 部活は今日から活動禁止だぞ。わかったな!」

「「「「「…………はい」」」」」

 

 

 ……そう、苦手なものを、受け入れ、なければ……

 

 

「今回のテストが赤点だったらアタシら先生たちとの忘れられない夏休みを過ごせるからな、楽しみにしてろよ井上!」

「「「「え~~~~~!!」」」」

「なんで俺名指しされてるの?」

 

 

 ……俺達、テスト期間……入ります。

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

「起立、礼」

「「「「さようなら」」」」

「よーし、お前らより道なんかしないでサッサと家帰って勉強しろよー」

 

 

 終礼の挨拶をして、ヴィータ先生が教壇からピョンと降り教室からでると、途端にクラスが騒がしくなる。

あるものは荷物を持って帰宅、またあるものは友人と駄弁り、またあるものは学校に残って勉強する用意を始めていた。

そして俺たちの場合は、

 

 

「悠! 頼む、勉強教えろください!!」

「敬語も碌にできないようなアホは俺の手に余る。諦めろ」

「そ、そんな殺生な……」

「すまないが悠、この後用事がなければ一緒に勉強しないか?」

「おういいぞ、その代り阿部は数学教えてくれ」

「イジメはダメ絶対ってお前ら教わんなかったのかよ……」

 

 

 井上のことは放っておいて、俺たちは家に帰って勉強する派だ。

しつこい井上をあしらいつつ、帰宅準備を開始する。

 

 

「あれ、悠の家で勉強やんの?」

「んーまあ、そうするつもり」

 

 

 学校で勉強するというのも、気を紛らわすものがないので集中するのには良いのだが。俺の場合は家のほうがなんとなく性に合ってるのだ。

すると、井上が一言声をかける。

 

 

「じゃあ悠の家にGO!!」

「なんでお前、俺の家に来る気になってんの?」

「…………ええっ!?」

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 学校からそれほど遠くない家に着き、阿部達と勉強の準備を始める。

机に向かって、いざ勉強と行こうとすると、井上が質問を飛ばしてきた。

 

 

「あれ、初日のテストの教科ってなんだったっけ?」

「お前……先週から張り出されてたろうが。初日は歴史と英語だ」

「歴史かぁ……あれ、そういえばお前らの選択って」

「「世界史」」

「俺だけ日本史じゃねえかよおぉぉぉ……」

 

 

 そうえいば、この三人の中で唯一日本史選択者だったのって井上だけだな。

すると困ったな。いつも赤点ギリギリなこいつに指導できる人間がいないぞ。

井上の奴は、キャラ通りというかオツムがよろしくない。

唯一の救いが、得意教科が数学だったことぐらいだろう。

 

 

 しかし、日本史選択してるやつか……。

セッテは理系だし……ああ、ノーヴェがいたか。確か彼女は日本史を選択していたはずだ。

 

 

「ノーヴェを呼ぼう。確か日本史選択だったはず」

「ふむ。そうだな、確かに彼女だったら井上にも日本史のにの字ぐらいは教えられるはずだ」

「……今、さり気なく馬鹿にされた気が」

 

 

 そうと決まれば善は急げだ。携帯を取り出し、記憶させてあるノーヴェの番号を呼び出す。

意外なことに、ノーヴェは3コール以内ででた。

 

 

「もしもし、ノーヴェか?」

『おう、何の用だよ。今忙しいんだけど?』

「いや悪い、少し用事あがあって。勉強教えてくんない?」

『勉強? ……ああ、来週テストだからか。だけど何を教えて欲しいんだよ?』

 

 

 手短に今回の件の下りを説明する。

ノーヴェは少し思案し、数分後には承諾してくれた。

 

 

 回答から数分かからずにノーヴェが家に来た。そりゃまあ、家が隣同士なんだから早いのは当然なのだけれど。

しかし、来たのはノーヴェだけではなかった。

 

 

「お邪魔するッス」

「失礼します」

「お邪魔します」

「……ども」

「こりゃまた……随分と大所帯で来たな」

 

 

 順番に、ウェンディ、ディード、セッテ、オットーと家に上がり込んできた。

想定外の人数に苦笑いをする俺に、ノーヴェが説明を入れてくる。

 

 

「もともと、アタシらだけで勉強するつもりだったんだけどな。悠が突然連絡してきたからついてきたんだよ。」

「そうか、そりゃ悪かったな。ごめん」

「別に、嫌ってわけじゃねえけど……」

 

 

 キャラに合わず控えめになるノーヴェ。ていうか、お前が突然そんなしおらしくなると、まるで俺が悪いみたいな気分になるだろうが、いつもみたいにガツンと言ってくれよ。

気まずくなる俺とノーヴェを尻目にウェンディ達は俺の部屋に上がりこんでいこうとする。

 

 

「おいちょっと待て、こんな人数俺の部屋に入らないぞ」

「あーそうッスね。それじゃあリビングで勉強するッス」

 

 

 わらわらと皆がリビングへ移動する。

俺の家のリビングは自慢ではないが結構広い。

しかし、今の人数は俺を加えて8人と結構な人数だ。今の俺の懸念事項は勉強会がゲーム大会にならないことを祈るばかりだ。

そんなことを思っていたら、早速井上がウェンディに声をかけた。

 

 

「初めましてだね、ウェンディちゃん、分からないところがあったら俺に聞いてね。手取り足取り丁寧に教えて上げるよ」

「……あ、あははは。気持ち悪いんで遠慮させてもらうッス」

「ぐぉお……笑顔で罵倒された。だが許せるッもっと罵ってくれ!」

「井上、いっぺん死んでみるか? そういえば、ウェンディに会うのって初めてだったっけ?」

 

 

 ついでに言えば、井上はセッテとノーヴェ以外の姉妹とは縁が無い。

クラスが違うというのもあるが、率直に言って俺やセッテ達2年組の姉妹達が、井上を皆にあまり会わせたくなかったというのが正直な話だ。

すかさずセッテが井上の話を遮りに行く。

 

 

「私達の妹に猥褻行為を働かないで下さい。訴えますよ?」

「……セッテちゃん相変わらず俺の事嫌いみたいだね。一言一言に鋭い刃物みたいな殺傷能力を感じるよ」

「セッテはアタシ達や悠以外には結構ドライだからな。気を付けないとトラウマ植えつけられるぜ」

「生真面目なんスよ、生真面目」

「……そんなことない」

 

 

 憮然とした表情でセッテが答えながら俺の隣に座る。

セッテは理系なので、言わずもがな数学に強い。俺はガチガチの文系なので、教えてもらう事が多く配置としては調度いい。

 

 そして、もう片側には阿部。阿部は文系でありながら、数学もなかなかに得意だ。

それも、成績上位者に名を連ねるほどだ。言わずもがな、文系科目も当然得意。教え方も上手なので、この位置に座ってもらう。

ある意味、対数学という面においてはこれ以上ない布陣だ。

 

 え? ウーノ姉達じゃ駄目なのかって?

彼女たちは、もうこと勉学に関しては俺達とは別の次元を生きているので、話がかみ合わず却下。

4次方程式を息をするように解くような人たちとは、頭の造りが違うのだろう。

 

 

「アタシは井上の担当かよ……気が乗らねー」

「悪かったな。俺よりも悠に教えた方がお前としても楽しいだろうな!」

「べ、別にそんなんじゃねーよッ!」

 

 

 予定通り井上の担当にはノーヴェが付くことに。

 

 

「ついでだから、ディードとオットーは阿部に教えてもらえ。凄くわかりやすいぞ」

「阿部先輩。よろしくお願いします」

「…………お願いします」

「いや、俺も人に教える方が良い復習になるからな。こちらとして有難い」

 

 

 そんなこんなで、皆で勉強を始める。

テスト前ということもあってか、すぐにペンを走らせる音と、解説をする声、ふざけようとする阿部をひっぱたく音しかしなくなった

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

「ここは加法定理を使って。この問題は……相互関係の公式を応用して。そうすれば解けるはずだよ」

「うん…………ああ、なんとなく道筋は見えたよ」

「その感覚を忘れるなよ。数学において大切なことは、答えに見通しをもって予想しておくことだぞ」

 

 

 ―――― デデデストーロイ ナーインボー  デデデストーロイ ナーインボー ――――

 

 

 突然おれの携帯が鳴りだして、全員のペンを走られていた手が止まる。

慌てて携帯を取り出して確認すると、アラームが鳴っていたようだった。

気が付くと、すでに5時を回っていて、空は若干赤い色を浮かべ始めていた。

 

 

「やっべ、そろそろ飯つくんないと。人数多いからな」

「あれ? 悠ってそんな大家族だったっけ?」

「いや、三人家族だよ」

「私達の分の食事も兄様に賄ってもらっていますから」

「兄さんの料理……美味しい」

「確かに料理をすることが得意と聞いていたが、そこまでとは。男として尊敬するよ」

 

 

 ふふふ、そうかなぁ。いや、確かに料理経験は長いけどぉ。一般的な男性に比べて、ほんのちょこっと料理のスキルが高いのはしょうがないっていうかぁ。

 思わず顔がにやけてしまうのが止められない。

 

 

「あんまり調子にのってるとヘマするぞ。あと、気持ち悪い。井上と同じぐらい」

「えっマジで?…………そりゃないわー。うん自重する」

「人を悪い比較に使うのはやめてもらえませんか!」

 

 

 何はともあれ、何分人数が多いから今のうちに準備をしておかなければ飯時に間に合わない。

冷蔵庫の中ってなにが余ってたっけ?

やべ、忘れた。冷蔵庫の中身を把握しておくことは、料理をすることにおいてとても重要なことなのだけれど……ちょっとへこむ。

 

 

「おいノーヴェ。お前確か鍵持ってたよな。今持ってるか?」

「アタシじゃ無くしそうとか言って、今はセッテが持ってる」

「ここにある」

 

 

 そういって、制服の胸ポケットから鍵を取り出す。

細かいことかもしれないが、人の家のカギをそんな無くしやすそうな場所にしまうのはどうかと思うぞ。

あと、鍵についてるカピバラさんのキーホルダー可愛い。後で見せてもらおう。

 

 

「俺は飯作りに行かなきゃいけないからもう行く。あとは皆勝手に帰ってくれ。戸締りは頼むぞ」

「うん。わかった」

「じゃあ行くぞ。じゃあなまた明日」

「おう、またな~」

「また明日」

 

 

 阿部と井上に別れの言葉を残して、俺はスカリエッティ家に足を向けた。

その時の俺の頭の中は、こんばんは何を作るかということでいっぱいだった。

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

「じゃあな、また明日」

 

「おう、じゃあな阿部~」

 

 

 ―――― バタン コツコツコツ…… ――――

 

 

「……よし、行ったか。それじゃあ始めるかな」

 

「なんだよ井上」

 

「変なことしたら承知しないッスよ」

 

「いやいや、別に変なことじゃないさ」

 

「悠に害が及ぶようなことだったら許しません。早く帰ってください」

 

「別に悠に危害が及ぶようなことじゃないさ」

 

「そうでなかったとしても、どうせ碌なことじゃないでしょう?」

 

「ホントにおかしなことじゃないんだよ。男子同士だったら必ずと言っていいほどしていることなんだから」

 

「私達は別に男子ではありませんが……なんなんですか」

 

 

 

 

「これから、悠のお宝本(エロ本)を探そうと思う」

 

 

 

 

「……はぁ!?」

 

「悠は間違いなくエロ本……もとい、聖書をどこかに隠しているはずだ。前に俺貸したことあるし」

 

「へ、へぇ……悠が、そ、そーいう本持ってるとはなぁ」

 

「別に驚くことじゃないッス! 悠だって男なんスから、えっちいことに興味が出るのも……」

 

「…………ウェンディ姉さん、顔真っ赤」

 

「う、うるさいッス!」

 

「うぅぅ、兄様が遠いところに行ってしまった気がします……」

 

「……そういうことだとしたら、余計に帰って欲しいです。このような話題は他人が口を出すような話ではありません」

 

「本当にそうだと思う?」

 

「どういうことですか?」

 

「悠だって男なんだ。年頃にエロいことを考えてしまうのはしょうがないし、そのことに他人が口を出すのは野暮ってことぐらいは俺も分かる。だけどな、もし悠が普通じゃない嗜好に目覚めてしまったとしたらどうだ? 誰にも打ち明けることができずに、悠が苦しんで、挙句は悠が犯罪に手を染めてしまうかもしれない。だから俺達は友人として悠の趣味嗜好を把握して、悠が危険な方向に向かいだしたら俺達が奴を止めてやらなきゃいけないんだ」

 

「…………」

 

「セッテ姉様?」

 

「……悠は絶対にそんなことはしない。そんなことする人じゃない。もしそうなろうとしたら、私達が止める。絶対に」

 

「そっか、悠も愛されてんなぁ……おっと、この話題が一番干渉するべき話題じゃなかったな。わかったよ、今回はこれで帰るとするさ。じゃあ悠によろしくな」

 

 

 ―――― バタン コツコツコツ…… ――――

 

 

「なんか、スゲェ格好いい感じにまとまってたけど。結局エロ本についての話だよな」

 

「だけど、悠が……以外ッス」

 

「そんな素振りまったくありませんでしたもんね」

 

「…………」

 

「んじゃ、そろそろ帰ろうぜ。遅くなっても面倒だしな」

 

「ちょっと待って」

 

「どうしたんスかセッテ?」

 

「……やっぱり、私達で探しておこうと思う」

 

「…………はい?」

 

「さっきはああ言ったけど、やっぱり心配。悠の持ってる本を探す」

 

「お前さっきあんなに格好いいこと言ってたじゃんか!」

 

「……とんだ茶番」

 

「悠だって男の子。万が一というのも、ありえなくない。だから私達で悠の嗜好は把握しておくべき」

 

「いやいやいや、不味いだろうが!」

 

「でも、私も少し……気にならなくもないです」

 

「……ディードに同じく」

 

「でも……やっぱり勝手に部屋をあさったりするのは悠に悪いッス!」

 

「ウェンディ……気持ちはわからなくない。でもさっき話したみたいに、悠が人には言えないような趣味を持って苦しんでいたとしたら? 確かに他人がどうこう口出しするのは野暮。だけど、私達は家族……違う?」

 

「家族だとしてもとんだお世話だろ!」

 

「…………そ、そうッスね。ちょこっとだけ、確認するぐらいだったら」

 

「う、ウェンディ!?」

 

「それじゃあ悠の部屋に行こう。時間もあまりない」

 

「いまさらですけど、ドキドキしますね」

 

「……ディードはむっつり」

 

「お、オットー!!」

 

「悠ってどんな女の子がタイプなんスかね……」

 

「……気になる?」

 

「別にそんなこと無いッス!!」

 

「お前らなんだかんだで楽しんでるよな」

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

「ハッ!」

「きゃあ! な、なによいきなり!」

 

 

 突然大声を出したからクア姉がひどく驚く。

いや、何か、いまとんでもなく嫌な予感がした。ついに俺もニュータイプへの目覚めが近づいているのだろうか?

 

 

「びっくりした~。テスト前だからって騒ぎ出すのはやめてよね」

「えっ? テストなんてあったっけ?」

「セインちゃん……あんたって娘は……」


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