問題児たちが異世界から来るそうですよ?~私は科学者です~   作:東門

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第六話

吹き飛んだ白夜叉に対し二人は流石にやりすぎてしまった、と思ったが白夜叉は無傷だったのだ。どうやら“サウザンドアイズ”の幹部だったようで相当強いらしい。

なかなか混沌とした状況だったがなんだかんだと白夜叉は非礼を許してくれた。

なぜかというと―――――

 

「さて、仕事の依頼ならおんしのその年齢の割に発育がいい胸をワンタッチ生揉で引き受けるぞ、黒ウサギ」

 

「「「「どうぞどうぞ」」」」

 

「え、きゃっ、ってなんなのですかコレわーー!??」

 

シュタインのギフトによって黒ウサギは地面から生えてきた拘束具によって両手を後ろ手で組まされ、その豊満な肢体を相手に見せつけるように突き出す形で拘束されてしまった。

 

「おおっ!こ、これはスケスケで濡れ濡れな黒ウサギが見せつけるように……素晴らしい!ではさっそく――――」

 

「オーナー、それでは売上が伸びません。ボスが怒ります――――あと、幹部としてもっと節度ある行いを心がけて下さい」

 

そう言って店員が今にもルパンダイブを決め込みそうな白夜叉を羽交い絞めにする。

そうして時間を稼いでる間に黒ウサギは「冗談じゃないのですよー!」と拘束具を破壊して逃れた。

その光景に白夜叉は絶望したような表情を見せる。

 

「なんということだ…なぜ、なぜこのような不条理がまかり通るのだッ!?」

 

「何故も何もないのですよ!」

 

またしても場が混沌としてきたが白夜叉は黒ウサギの艶姿に満足したらしく先ほどの件は水に流し、こちらの用事も白夜叉が個人的に請け負ってくれることになった。黒ウサギGJ!

 

「さて、まずは自己紹介しておこうかの。私は四桁の門、三三四五外門に本拠を構えている〝サウザンドアイズ〟幹部の白夜叉だ。この黒ウサギとは少々縁があってな。コミュニティが崩壊してからもちょくちょく手を貸してやっている器の大きな美少女と認識しておいてくれ」

 

「その外門、って何?」

 

「箱庭の階層を示す外壁にある門ですよ。数字が若いほど都市の中心部に近く、同時に強大な力を持つ者たちが住んでいるのですよ」

 

そう言って黒ウサギは図解入りで説明してくれるのだが、そこに書かれているのはどう見ても。

 

「……超巨大たまねぎ」

 

「いえ、超巨大なバームクーヘンではないかしら?」

 

「そうだな。どちらかといえばバームクーヘンだ」

 

「ガクッ……なんと身も蓋もない。これは決してバームクーヘンではなくてですね」

 

「いや、これは間違いなくバームクーヘンだな……ひどい絵だ…」

 

別段自信があったわけではないだろうに黒ウサギの書いた絵はなかなかすごかった―――別の意味で。

結果、黒ウサギは自慢のウサみみをへニョらせてしまった。

 

「ふふ、うまいことに例える。その例えなら今いる七桁の外門はバームクーヘンの一番薄い皮の部分にあたるな――時に黒ウサギ。その水樹の苗は一体誰が、どのようなゲームで勝ったのだ?知恵比べか?勇気を試したのか?」

 

「十六夜さんとシュタインさんです。でも知恵比べでも勇気を試したわけでもありませんよ?一瞬のうちに御二人が鮮やかな連携攻撃で倒してしまったのですよ」

 

「なんと!?クリアではなく直接的に倒したとな!?ではその童たちは神格持ちの神童か?」

 

「生憎と、そんなケッタイなものを持った記憶はないな。それに神格と言ってもあの程度なら一人でも十分だっただろうな」

 

「ああ、ちょっとは楽しめたけどな」

 

その言葉に頼もしさを感じつつ、黒ウサギはそういえばと疑問を白夜叉へとぶつける。

 

「白夜叉様はあの蛇神様とお知り合いだったのですか?」

 

「知り合いもなにも、アレに神格を与えたのは私だぞ。もう何百年も前の話だがの」

 

「へぇ? じゃあオマエはあの蛇より強いのか?」

 

蛇神に神格を与えた相手。当然そのような存在に十六夜の食指が動かないはずがない。

事実、神様などといってもあの程度か、と蛇神との戦いに失望と不満を持っていたのだ。ここに来てさらなる大物を逃がすはずがない。

 

「ふふん、当然だ。私は東側の〝階層支配者〟だぞ。この東側の四桁以下にあるコミュニティでは並ぶものがいない、最強の主催者なのだから」

 

当然、ほかの二人も十六夜同様勝気な性質を持つ。

強者を前に頭を垂れ戦闘を回避するような温い考えは持たず、積極的に向かっていく。

 

「そう……ふふ。ではつまり、貴女のゲームをクリア出来れば、私たちのコミュニティは東側で最強ということでよろしいのかしら?」

 

「無論、そうなるの」

 

「そりゃ景気のいい話だ。探す手間が省けた」

 

「抜け目のない童達だ。依頼しておきながら、私にギフトゲームで挑むと?」

 

「え?ちょ、ちょっと御三人様!?ってあれ、シュタインさんは?」

 

「お前はやらねえのか」

 

「あいにくと私は慎重な性質でね。“強者”に挑むときは準備を忘れないんだ」

 

この台詞を聞いた三人、特に十六夜は失望にも似た感情をシュタインへ向けていた。

おもしろそうな相手を前にしながら動く気がない、というのはいささか拍子抜けだったのだ。

 

しかしその考えは即座に否定されることになる。

彼は臆病だったわけではなく、ただ賢明だっただけだったのだと。

 

「なるほどな。だが、ゲームの前に一つ確認しおておくことがある。

おんしらが望むのは“挑戦”か――――もしくは、“決闘”か?」

 

白夜叉が取り出した双女神の紋が入ったカードを取り出し、そこから光が溢れ世界がその有様を変える。

一瞬もかけずに世界そのものが、白い雪原と凍る湖畔そして――――太陽が水平に廻る世界へ切り替わった。

 

「……なっ……!?」

 

異常、その一言では語り尽くせない程の神秘と奇跡の体現。

正真正銘、世界一つと同一の規模のものを瞬時に展開した白夜叉の尋常ではない力に三人は息を飲んだ。

 

「今一度名乗り直し、問おうかの。私は〝白き夜の魔王〟――太陽と白夜の星霊・白夜叉。おんしらが望むのは、試練への〝挑戦〟か?それとも対等な〝決闘〟か?」

 

「ふ、ふふふ……水平に廻る太陽―――白夜と夜叉、なるほど。この世界はあなた自身の在り方の体現か?」

 

パチパチと心底楽しそうに両の手を打ち鳴らすシュタインに、白夜叉は壮絶な笑みを浮かべながら、ここが自分のゲーム盤であることを語った。

 

「これだけ莫大な土地がただのゲーム盤……!?」

 

「参った。やられたよ。降参だ、白夜叉」

 

「ふむ?それは決闘ではなく、試練を受けるという事かの?」

 

「ああ、これだけのゲーム盤を用意できるんだからな。アンタには資格がある。――いいぜ。今回は黙って試されてやるよ、魔王様」

 

十六夜が両手をあげて降参だ、というようなポーズをとる。

自分が売った喧嘩を取り下げねばならない状況に十六夜は歯噛みする。

シュタインが言った“強者”という言葉の意味を遅まきながら理解したのだ。

それはほかの二人も同じなようで、

 

「く、くく……して、他の童達も同じか?」

 

「……ええ、私も、試されてあげてもいいわ」

 

「右に同じ」

 

「ああ、“今回は”だな」

 

「ほう、その言い方だと次は“決闘”を挑む。と言っているように聞こえるが?」

 

「いずれは挑むさ。さて……“白夜”の抗するには“極夜”を展開すれば……」

 

シュタインはブツブツと呟きながら座り込み周囲の雪や石を採取し、メアリに水平に廻る太陽を撮影させる。

 

 

 

 

 

その後、白夜叉は誇り高き幻獣、グリフォンに跨って湖畔を舞うというゲームを提案してきた。

実際に眼前にグリフォンが姿を現した瞬間、黒ウサギはほんの半日ほどの経験だがシュタインがなにかするのではと警戒したが、シュタインはこのゲーム盤の探求のほうが忙しいらしく、事実上のゲーム不参加を決め込んでいた。

そんなシュタインを尻目に一番にゲーム参加に手を挙げたのは、春日部耀だった。

彼女は動物と会話できるというギフトを持っており、そのギフトでグリフォンと会話し、山脈を迂回し戻って来るまでに耀を振り落とせなければ耀の勝利となるゲームを提案した。

もっとも負ければ死、だが。グリフォンに誇りを賭けろと言い放ったのだからそれだけの代償を負うのは当然ともいえるが、いささか浅慮でもある。

 

結果としては、耀が勝利した。

風を踏みしめて走るというグリフォンの疾走は凄まじく、並の人間ならばその身体を損壊させるほどの圧力を受けながらも耀は手綱を取り落とすことなくグリフォンの背に乗ったままゴールへと戻ってきた。

気が抜けたのか、最後は落ちることになったがグリフォンとの友好の証としてその風を扱うギフトを手に入れたようで、悠々と空中を歩いて地へ舞い降りた。

 

さしものシュタインもその現象には驚き、耀の首飾りに秘密があると理解したときは散策を中断するかどうか真剣に悩んだが今はこの世界を調査することのほうが大事だったらしく、対応をメアリに任せた。

 

「コミュニティ復興の前祝いとしてはちょうど良かろう。ちょいと贅沢品だが、おんしらにはこれを与えよう」

 

話はゲームの商品のことへと移り、白夜叉はギフトの鑑定を任されたことにバツの悪そうな顔をしていた。

しかし何かを思いついたように量の手を打ち鳴らすとそれぞれの前に光り輝くカードが出現した。

 

 

 コバルトブルーのカードに逆廻 十六夜・ギフトネーム“正体不明”

 

 ワインレッドのカードに久遠 飛鳥・ギフトネーム“威光”

 

 パールエメラルドのカードに春日部 耀・ギフトネーム“生命の目録”“ノーフォーマー”

 

 シルバーのカードにヴィクター・フランケンシュタイン・ギフトネーム“第三魔法(■■■■)”

 

 

そう記されたカードはそれぞれのギフトの名称が書かれていてギフトの収納もできる素敵アイテムらしい。

十六夜と二人で取った“水樹”は十六夜の管理ということになり、今は十六夜がカードに収納して面白がっている。

 

「ふむ、では私も」

 

そう言ってシュタインもカードを取り出し、水平に廻る太陽を見ていたメアリへ向ける。

するとメアリは光の粒子となってギフトカードへと飲み込まれた。

カードには先程までそこにいたメアリの姿が新たに刻まれ、“第三魔法(■■■■)”の下に“フランケンシュタインの怪物”という新たなギフトの名が刻まれた。

 

「これは……実に面白い。“ラプラスの紙片”、全能の悪魔か」

 

この光景を見ていた周囲の人間、おおよそ予想していた十六夜を除いて白夜叉までもが唖然としている。

 

「なに……いまの?」

 

「メアリさんが、カードに、ええ?」

 

「やっぱりお前が『あの』フランケンシュタインだったんだな」

 

「これは…まさかあの娘はおんしが創ったギフトだと言うのか!?人間にそのような……」

 

質問攻めにされるシュタインの手から白夜叉がギフトカードをひったくる。

そしてそこに書かれたギフトネームに白夜叉は心臓を冷えた手で握られたような感覚に陥った。それは十六夜のギフト“正体不明”以上の衝撃だったのだ。

 

「“第三魔法”―――――――だと?」

 

 

白夜叉の様子

その言葉の持つ意味

白夜叉と“第三魔法”との因縁

 

 

それら全て今はどのように関わってくるのかわからない。

すべてを知るには知識が足りず、すべてを教えるには時間が足りない。

だから、彼らの物語を追っていくといい。そこに答えがあるはずだから。今は―――まだはやい。

 


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