ハリー・ポッターと生き残りのお嬢様   作:RussianTea

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抑えきれない怒り

 ルーピンの闇の魔術に対する防衛術の授業は、かなり好評だった。去年からのギャップもあるかもしれないが、それを抜きに考えても、彼の授業は丁寧で分かり易く面白い。実習形式の授業が多いというのも、その人気に拍車をかけていた。

 それに反して、ハグリッドの魔法生物飼育学は多くの生徒から不評だった。何でも、ヒッポグリフの事件があってから、ハグリッドは自信を失ったらしく、レタス食い虫の世話という酷くつまらないものになったらしい。

 数占い学と古代ルーン文字学は、普通の座学であるので比較しにくいが、興味がある生徒にとっては面白いものだった。

 

 10月最後の週の月曜日。夕食を終え談話室に戻ると掲示版にホグズミード週末のお知らせが貼ってあった。

 

「お、やっと来たね」

 

 ホグズミード村とは、英国で唯一の魔法族のみで構成されている村である。そこには様々な店や観光スポットなどもあり、3年生になると、許可証に保護者からのサインを貰うことで、決められた日にそこへ行くのが許されるのだ。1、2年生は留守番ということであり、皆この日を待ち望んでいた。

 

  そして、10月30日、ハロウィンの前日。セフォネはスネイプの元を訪ねて、彼の研究室にやって来た。扉をノックしようとすると、スネイプが銀のゴブレットを持って出てきた。

 

「少し待っていろ」

 

  スネイプはそれだけ言うと階段を登って何処かへ行ってしまったので、セフォネは取り敢えず部屋に入ってドアを閉めた。

  相変わらず薄暗い部屋で、中央には魔法薬の調合に使う鍋が据えてあり、机にはその材料が入っていたと思われる瓶が置いてある。ラベルを見る限り、かなり貴重なものや高価なものなどが使われた薬品らしい。

  あまりうろつくのも憚られるので、セフォネは椅子を用意して座り、スネイプの帰りを待った。5分後、スネイプが帰ってきた。

 

「して、何用かね?」

「これですわ」

 

  セフォネは懐から許可証を取り出し、スネイプに渡した。当然、サインはされていない。セフォネの保護者は、彼女の名付け親であるスネイプだからだ。

 

「ああ、なるほど。確かに受け取った」

「どうもありがとうございます、セブルス。ところで、何の薬を調合していたのですか?」

「ルーピン教授の持病に効く薬だ」

「ルーピン教授ですか? 確かに健康とは言い難いご様子ですが、セブルス自ら調合するほどのもので?」

 

  ただの病気であれば、ホグワーツの校医であるマダム・ポンフリーに頼めばいいだろうに、なぜ態々スネイプに頼んでいるのか。

 

「ふむ……そうだな、この材料を見ただけでは分からんかね?」

 

  スネイプは意地の悪い笑みを浮かべながら、薬棚から幾つかの材料を取り、セフォネの前に並べる。その種類は多種多様であり、それ等を組み合わせて作る薬は思いつかなかった。

 

「……残念ながら、私には」

「そうだろうな。この薬は最近開発されたばかりのものだ。ここで我輩が答えをくれてやってもいいが、それでは身にならんだろう。セフォネ、お前に我輩からの特別課題だ。この薬が何であるかを突き止めよ」

「ルーピン教授に聞けば済む話では――」

 

  そこまで言いかけて、セフォネははたと気付いた。それは、ルーピンが隠しておきたい何かなのではないかと。そして、その薬の正体を知ればそれが判明し、だからこそ、スネイプはここまで意地の悪い笑みを浮かべているのだと。

 

「――なさそうですね。期間は?」

「クリスマスまでとしよう」

 

  後およそ1ヶ月。多いのか少ないのか判断しかねる長さだが、セフォネはそれに頷いた。

 

「分かりました。ルーピン教授の秘密、必ず暴いてみせましょう」

 

  スネイプはその返答に口元をさらに歪め、セフォネも悪戯っぽく笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  さて、10月31日はハロウィンの日でもあり、ホグズミード週末の日でもある。朝食を取り終えた生徒たちは、早速ホグズミードへ向かった。

  村はハロウィンムードに包まれて、様々なイルミネーションが施されており、立ち並ぶ店はホグワーツの生徒でごった返している。

  セフォネはエリスと最近仲の良いダフネ、そして珍しくミリセントという顔ぶれで、ホグズミードへと続く道を歩いていた。

 

「では、本日はパンジーはドラコとデートなのですか」

「そうよ。包帯巻いてた時のドラコを、良くパンジーが世話してたでしょう? それで、一緒にホグズミードへ行こうという話になったらしくてね」

 

  ドラコの包帯は1週間ほど前に取れた。というか、取ったと言った方が良い。それでもドラコの仮病は、他寮の生徒たち、特にグリフィンドールから悪感情が寄せられていた。

 そして今、ルシウスが息子を怪我させられたとしてハグリッドの免職とヒッポグリフの処刑を要求しているらしい。前者はダンブルドアの手によって免れたものの、後者は魔法省の管轄のため、どうなるかは分からない。

  それはさておき、ミリセントが親友のパンジーをドラコに取られてしまった為、今日はこの4人というメンバーになっているのだ。

 

「じゃあ、最初どこ行く?」

 

  ホグズミードに到着し、エリスが皆に尋ねた。

 

「私はどこでもいいから、あんたたちが決めていいわよ」

「なるべく空いてるとこがいいわね」

「しかし、どこも混雑していますね」

 

  と、取り敢えず相談しながら歩いていると、いつの間にか人が少ない場所に来ていた。

 

「あそこはどうですか? 結構面白そうですよ」

 

  そう言ってセフォネが指差したのは、"ホッグズ・ヘッド"という胡散臭そうな古ぼけたパブだった。

 

「いや、あそこはちょっと……」

「やばそうだし……」

「まあ確かに面白そうっちゃ、面白そうだけどね」

 

  エリスとダフネは顔を顰め、ミリセントは思いの他反応が良い。

 

「面白そうって……セフォネは分かるとして、ミリセントは意外ね」

「案外思考が似てるというか……そういや、あんたたちって従姉妹だったのよね」

 

  ダフネが思い出したように呟く。セフォネの父アレクサンダーの旧姓はブルストロードであり、ミリセントとは従姉妹の関係なのだ。

 

「まあね。でも、セフォネと会ったのはホグワーツでよ。それまでは一切面識なし」

「そういえば、そんなこと前に言ってたわね。でも何でよ?」

 

  エリスが不思議そうに首を傾げた。エリスは名家の出というわけではないので、あまり家柄云々とか親戚がどうこうとかは経験したことがないが、従兄と会ったことくらいは何度でもある。それでは、この2人が面識がないのは不自然だ。

 

「私が引き篭もっていたというのと、今現在ブラック家とブルストロード家の関係が良好でないからというのもありますね」

「良好じゃない?」

「ええ。私の父アレクサンダーはミリセントのお父様の兄であり、ブルストロード家当主の座を譲ってブラック家に婿入りしたのですが……」

「父さんはそれが気に入らなかったみたいでね。当主とかそういう硬い身分が好きじゃない人だから、押し付けられた、って」

「もとよりあまり仲の良い兄弟とは言えなかった両者は、それで完全に対立することになり、今こうして確執が生まれているわけでして」

 

  セフォネが近親者としてマルフォイ家としか関わりがないのは、この為である。去年のクリスマスパーティーでブルストロード氏と顔合わせはしたものの、やはり良い印象は持っていないようだった。

 

「大体、ホグワーツ入学のつい前日まで、従姉妹の存在なんて知らなかったのよ。あんまりセフォネとは関わるなって言われてね。まったく、そこまで目の敵にしなくてもいいのに」

「なんと言うか、名家同士も大変なのね」

「本当よ。やけにしがらみが多いし、親の関係が子供にまで反映されるし、礼儀にはうるさいし、世間体は気にするし……」

 

  ブラック家、ブルストロード家と同じく聖28一族の家系であるグリーングラス家の長女として、ダフネが愚痴を言い始める。

 

「ほら、折角のホグズミードなのですから、こんな話は止めにしましょう。取り敢えず今後の方針は"三本の箒"でバタービールでも飲みながら考えませんか」

 

  3人はそれに賛同し、セフォネたち4人は三本の箒へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  その日の夜は、例年通りハロウィンパーティーが執り行われた。大広間はホグズミードに負けないくらいにハロウィンムードに染まっており、くりぬかれたカボチャに蝋燭が灯っていて、蝙蝠が群れを成して天井を飛び回り、これでもかとカボチャ料理がテーブルに並んでいる。今日がホグズミード行きだったということもあってか、生徒たちはテーブルのあちこちで菓子を配り合っていた。

 

  そうして楽しい一時を過ごし、宴がお開きになって寮に戻ってから10分も経たない頃だった。

  談話室にスネイプが来て、全員大広間へ集合との知らせを受けた。既にグリフィンドール生がいて、後から他の寮の生徒たちも来た。

 

「流石はハロウィン。一昨年はトロール、去年は秘密の部屋、今年は何なのでしょうか?」

「縁起でもない。今年こそは平和であって欲しいわよ」

「それはどうでしょうね」

「なんでそんなに嬉しそうなのよ」

 

  呆れ顔でやれやれ、と首を振るエリスだが、その時ダンブルドアが大広間に入ってきて、手を叩いた。

 

「静まれ」

 

  突然の招集に戸惑っていた生徒たちは口を噤み、ダンブルドアの言葉を待った。

 

「今宵、この城に侵入者が現れた。教員一同は城をくまなく捜索せねばならん。ということで、気の毒じゃが皆は今夜ここに泊まることになる。監督生は交代で見張りを、ここの指揮は主席に任せようぞ」

 

  ダンブルドアに続いて、教師たちが出ていく。

 

「で、侵入者って一体……」

「シ、シリウス・ブラック!?」

 

  一体何があったのかをグリフィンドール生に聞いていたレイブンクロー生が恐怖のあまり声を上げたのが、2人の耳に入った。

  エリスは目を瞬かせ、セフォネは額に手を当てて唸る。

 

「………えーと」

 

  エリスが恐る恐るセフォネを見ると、悪戯な笑みが途端に凶悪な笑みに変わっていた。

 

「…我が一族の恥……殺るしかないですね」

 

  エリスは最後の言葉を聞かなかったことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  その日以降、ホグワーツはシリウス・ブラックの話で持ち切りだった。皆、彼がどうやって城に侵入したのかを考え、様々な意見が出た。

  その中には、彼の唯一の親族である、この学校に通う姪が手引きしたのではないか、というものもあった。

 

「それで、この視線の集まりようですか」

 

  1週間後の日曜日の朝、朝食を取りながらセフォネが不快そうに目を細めた。無論、皆が皆彼女を疑っているわけではなく、寧ろその数は少ない。レイブンクローやハッフルパフの生徒たちの中にはセフォネのファンの者も多くいるし、大体普通に考えれば、セフォネとシリウスが手を結びようがないことくらい、誰にでも分かる。片や学生、片や囚人であり、連絡手段すらないのだから。

  それでも、常よりスリザリンを目の敵にしているグリフィンドール諸君は、そうは思っていない様子であった。

 

「しょうがないんじゃない? 唯一の親族なんだから」

 

  隣でオートミールを掻き込んでいるエリスが、飲み込みながら言った。セフォネは相変わらず甘いものばかり皿によそいつつ、その間違いを正す。

 

「唯一の親族、と皆は言っておりますが、ブラックの名を持っているのが私とシリウスであるだけの話。家と親戚関係にあるのは、マルフォイ家をはじめ、クラウチ家、クラッブ家、フリント家、ブルストロード家、ヤックスリー家、ロジエール家……とまあ、挙げればきりがありませんわ」

「そう……ってクラッブもなの? ていうか、フリント先輩まで?」

「ええまあ。ミスター・フリントで思い出しましたが、クィディッチの練習はどうですか?」

 

  来週の土曜日には、今年最初のクィディッチの試合が行われる。2年連続で敗退していることもあり、スリザリンチームのやる気は半端ではない。

 

「ま、順調よ。今年こそは優勝してみせるわ。ね?」

「そうだとも」

 

  チームの要たるシーカーであるドラコが、任せろと言わんばかりに胸を張った。

  その後、練習へ向かう2人を見送り、セフォネは図書館へと向かう。スネイプに出された課題を解くためだ。休日ということと、ここ数日の雨が止んで久しぶりの晴れ模様であるためか、図書館には人があまりいなかった。

 セフォネは魔法薬についての本が立ち並ぶ棚の前に立つと、出版が新しい順に5冊ほど取り、凄まじい速度でそれを読んでいく。細かい字が並ぶページを僅か数十秒で捲っていくその姿は、傍から見れば適当に読んでいるようにしか見えないが、速読に長けているセフォネにはちゃんと読めている。

 

「これ……ですかね?」

 

  トリカブトが材料に使われていたことから、いくつかの薬品をピックアップしていくが、その中に、"脱狼薬"があった。それは最近開発された薬で、人狼が満月の夜の前の一週間、この薬を飲むと、変身した際も理性を失わずにいられるというものらしい。その調合は非常に難しく、普通の魔女魔法使いではまず不可能である、と書かれており、簡単な材料が参考までに記載されていた。

 

「なるほど……ルーピン教授が抱える秘密とはつまり……セブルスも人が悪い」

 

  その言葉とは裏腹に、セフォネの口元には微笑が浮かんでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  シリウス・ブラック侵入事件も徐々に一段落し、ホグワーツ中がクィディッチの試合を待ち望んでいる金曜日。明日は試合だというのに、最近悪かった気候が激しさを増し、もう2日ほど雨が降り続いている。

  その日の闇の魔術に対する防衛術の授業は、スネイプがルーピンの代理として行った。午前中にそれを受けたグリフィンドールからは不満たらたらだったが、スリザリンとしては自分のところの寮監であるため、別に不満はない。唯一あるとすれば、授業の難易度が高かったことと宿題の量が多いことだろう。スネイプは教科書の一番最後の項、"人狼"についての講義をし、月曜日までに羊皮紙2巻分のレポートの提出を課した。

 

「スネイプ教授」

 

  授業終了後、セフォネはスネイプに話しかけた。

 

「どうした? 人狼について何か質問かね?」

「ええ。"脱狼薬"について」

 

  その返答に、スネイプは三日月型に口を歪めた。

 

「なるほど。先日の課題をもう解いたか。流石だ」

「だからこそ、今日は狼人間についての講義をしたのでしょう?」

 

  狼人間についての講義を受けてレポートを書けば、狼人間の詳細を理解できる。そして、頭の回る生徒であれば、ルーピンが狼人間だという真実に気付けるはずだ。

 

「ハーマイオニーなどは気付くでしょうね。しかしなぜ、貴方はルーピン教授をそこまで目の敵にするのですか?」

 

  スネイプはセフォネの父と同級生である。それは即ちルーピンとも同窓であるということだ。学生時代に何かあったとしか考えられない。

 

「……過去の遺恨と言っておこう」

「その程度の推量はできているのですが、まあ無理にとは言いませんわ」

 

  セフォネは肩を竦めると、一礼して教室を出ようとした。

 

「訳を知りたければ、直接ルーピンに聞いてみろ。秘密を知られたくなければ話せ、とな」

 

  それを言われた時のルーピンの表情を考えたのか、スネイプは邪悪な笑みを益々歪める。これは根が深そうだ、とセフォネは苦笑したが、これは自分を警戒しているルーピンに対していい牽制になるだろうと思い、セフォネはセフォネで笑みを漏らした。

 

 

 

 

 

 

 

 

  次の日。遂にやってきたクィディッチ寮対抗杯、グリフィンドールVSスリザリンの試合。

  今日の天候は最悪の一言に尽きる。

  風は唸るが如く、雨がまるで滝のように、雷鳴はまるで神の怒りであるかのように轟き、このような嵐の中で試合がまともに出来るのであろうか、とセフォネは思ったのだが、どうやら予定通りやるらしい。

 

「これ、大丈夫なんですか?」

 

  選手控え室の前まで見送りにきたセフォネが呟いた。

 

「ま、何とかなるっしょ。これよりも酷い天気でやったことあるみたいだし」

「雨なんて些細な問題さ」

 

  エリスは本心なのだあろうが、ドラコは不安で仕方がない様子である。なにせ、彼かハリーがスニッチを捕まえない限り試合は終わらない。しかし、この暴風雨の中でどうやって見つけろというのか。無理ではないだろうが、非常に困難である。

 

「気をつけて下さいね」

「ええ。ありがとう」

「ああ」

 

  2人が去ると、セフォネはローブのフードを被って観客席に来た。防水呪文を掛けてある為、自分の身が濡れることは無い。

 

「こっちよ」

 

  事前にダフネが席を取ってくれていた。

 

「それにしても、凄い雨よね。っていうか、フィールドが滅茶苦茶見えにくいんだけど」

「声援の声も聞こえないでしょうね」

 

  という会話ですら、顔を至近距離まで詰めないと出来ないほど。

  いつの間にか試合が始まっていたようだが、ホイッスルの音が聞こえなかった。選手たちは風に煽られながらも空に飛び立った。

 

  そして現在、60対20でスリザリンのリード。理由は単純、雨のせいでスリザリン名物ラフプレーが絶大な効果を発揮しているのだ。しかも、視界が良好でないため、審判の視野も狭く、違反行為をしてもペナルティを取られない。ならばグリフィンドールとしてはスニッチを取るのが最善策だが、ハリーは空中をふらふらと移動していた。大方、眼鏡のせいで前が見えないのだろう。

  すると、グリフィンドール側からタイムアウトが要求され、試合が一時中断された。

 

「エリスって箒乗ると性格変わるわよね」

 

  再開された試合を見ながらダフネが言った。普段"スリザリンの良心"と呼ばれるほど人に気配りが出来、優しい性格の彼女だが、それはクィディッチになると鳴りを潜める。

  エリスは身軽さを活かして真っ先に突撃し、敵陣を縦横無尽に飛び回ってかき乱す。そして怒涛の勢いでボールを奪うと、ゴールすると見せかけて肩越しに味方のチェイサーであるフリントにパスし、クアッフルを止めようとするキーパーの視界を自らの体で遮ると、フリントが得点を入れた。

 

「荒っぽいっていうか……あんたの影響?」

「全てを私のせいにしないで下さい」

 

  彼女が意外と好戦的なのは、1年の時から知っているし、勝利のためならば手段を選ばぬ狡猾さも、スリザリンに組分けされたのであれば持っていよう。

  試合は続き、雨の強さと雷鳴の頻度が増していく。得点は80対40、差は縮まっていない。その時、ハリーがスニッチを見つけたのか、急降下し始めた。一歩遅れてドラコも飛び出る。

  会場中が興奮に包まれ、雨をも打ち破る大声を上げた、まさにその時。

  会場内から音が消えた。そして、雨によるものではない寒気が襲ってくる。

 

「まさか……」

 

  競技場に、黒く蠢く物体が浮遊していた。その数は100を超える。

 

吸魂鬼(ディメンター)……!」

 

  ホグワーツを警護していたはずの吸魂鬼が、いまや競技場を埋め尽くしていた。20体ほどがフィールドへ、その他は観客席に向かって飛んでいく。ハリーは吸魂鬼の影響を受けると失神し、箒から滑り落ちた。

  セフォネの頭には、またしてもあのビジョンが浮かんだ。自分に迫る吸魂鬼(ディメンター)の顔と、自分を庇い立ち塞がる母。

 

『セフォネ!』

 

「エクスペクト・パトローナム!」

 

  セフォネが掲げた杖先から銀色の大鷲が飛び出した。ハリーに呪文を掛けて落下速度を遅くさせたダンブルドアも守護霊呪文を使い、銀色の不死鳥が空中に放たれる。

  2匹の銀色の鳥が螺旋を描いて絡み合うように旋回し、吸魂鬼を追い払っていく。そして、守護霊が消えると同時に、ドラコがスニッチを掴み取った。

  誰もがフィールドに釘付けになっている中、セフォネは競技場の一番端に来た。そして体を末端から、黒い煙のようなものに変えていき、雨空に飛翔した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  追い払われた吸魂鬼は、未だに群れをなし、食い損ねた目の前のご馳走を忌々しそうに振り向きながら、校門へ向かっていた。その目の前に、突如黒い煙が降り立ち、それは人の体を構成する。

  目の前の吸魂鬼の大群を見て、セフォネは口元を歪ませた。

 

「抑えようとしたよ……だが、無理だ」

 

  セフォネは表面的には、復讐を無意味だと結論付けた。しかし、何年も心のうちで燻らせていた復讐心が、憎悪が、まるで閉じ込められた火が強く燃え盛るかのように、何倍にも膨れ上がって姿を表した。

 

「かつては人の身であった穢れた生き物……魂を無くし、ただ無為に幸福を貪り、生と死の狭間に存在しているお前たちは哀れだ………本当に哀れでならないよ。だが、許せない。実を結ばぬ烈花のように死ね。蝶のように舞い蜂の様に死ね! サンクトゥス・エグイニアス(聖霊の祓火)!」

 

  燃えさかる金色の天使が、彼らの前に降臨した。吸魂鬼はその眩い光に怯み、ジリジリと後退る。

 

「天使よ、彼らに死という名の慈悲を」

 

  セフォネが杖を振り、天使に吸魂鬼(ディメンター)を襲わせようとした時だった。

 

「止めるのじゃ」

 

  銀色の不死鳥が飛来し、吸魂鬼を無理やり別ルートから校外へ追い払う。そしてそこには、ダンブルドアが立っていた。

 

「ダンブルドア……!」

「もはや敬称略かの」

 

  守護霊を消したダンブルドアは朗らかに言う。そんなダンブルドアを、セフォネは睨みつけた。

 

「何故……!?」

「君も理解しているはずだし、わしも君に言った。吸魂鬼を殺すなと。大方、それが吸魂鬼を葬る魔法じゃろう。落ち着きなさい。頭を冷やすのじゃ」

 

  セフォネの眼光から鋭さが消え、殺気も魔力も霧散した。杖を振って聖霊の祓火を消す。

 

「……ご無礼を。感謝いたします」

 

  セフォネは深々とお辞儀し、去っていった。

 




ルーピンのネタバレ………セフォネなら、いづれ自分で気付きそうなもんです

ブラック家とブルストロード家………家同士ギクシャク中。

ワンちゃんセフォネにロックオンされる………一刻も早く無実を証明しないと、スネイプとのコンビで殺られます。

セフォネの飛行術………映画版で死喰い人がやっていたあれです。魔法はちょくちょく映画版からも使いますが、この作品のストーリーは基本翻訳版の小説でいくので、ベラさんとかはこの飛行術使えません。

セフォネ殺吸魂鬼未遂………先日の反省は何処へやら。吸魂鬼に会うとセフォネは幼少を思い出してしまうため、一時的に理性が吹き飛び、外向きの仮面が無くなって破壊衝動を抑えられなくなります。そして発言がやや厨二になる。



誤字報告を下さる皆様、本当にありがとうございます。見落としがちなので非常に助かります。

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