ハリー・ポッターと生き残りのお嬢様 作:RussianTea
ホグワーツ教師リーマス・ルーピンは、目の前の光景に目を疑っていた。
先程、ハリーたちのコンパートメントに
そこで見た光景は、間違いなく異様だった。
「あれは……天…使…?」
金色に輝く炎の天使が、
「生徒か……?」
仮に生徒だとしたら、一体何故あのような魔法を使えるのだろうか。
少女は杖を振って炎を消し、風に攫われていく
「あれは……シリウス…に似ている……? まさか、デメテル? いや違う。そうか……彼女が…」
少女は何故か血が流れている唇に杖をあてて傷を直し血を拭う。列車に戻ろうと振り返り、視線の端にルーピンを捉えたようだ。少女はルーピンに向き直って、まるで仮面を被ったかのようにガラリと表情を変えて、人が良さげな笑みを浮かべ、軽く会釈すると列車に戻っていった。
「どういうことなんだ? いや、まずはハリーを」
ルーピンも親友の息子の様子を見に列車に戻った。
セフォネが
「セフォネ! 貴方大丈夫!?」
「ええ、何も問題ありません」
心配そうにしているエリスに、セフォネは微笑みかけた。4人は既にチョコを手にしており、少しは回復しているようだ。見た限り、1番症状が軽いのは年齢が高いエリスとダフネ、2番目がアステリアで、1番
震えながらチョコを齧るラーミアを、アステリアが心配そうに覗き込んだ。
「大丈夫? ラーミア」
「う…うん………大…丈夫…」
見たところかなりダメージを負っている。そんなラーミアを見て、アステリアが急に抱き締めた。
「ふぇ!?」
「こんなに冷たいのに、大丈夫なわけないじゃん」
「あ、あの……その、ありがとう……」
恥ずかしそうにしながらも、ラーミアはアステリアに抱かれるがままになっている。それを見てセフォネが冗談めかして言った。
「私の従者が貴方の妹に取られてしまいましたわ」
「この子、案外人たらしなのよね。普段はお子様の癖にこういう時に気が回ったりするし」
それを皮切りに、コンパートメントの雰囲気が徐々に戻っていくような気がした。エリスはチョコを銜えながら、セフォネにもそれを差し出す。
「ほい」
「ああ、チョコを配ったのは貴方でしたか。良く知っていましたね」
「まあね。家にあった闇の生物の本にかいてあったのよ。ほら、貴方も」
「どうも」
セフォネは蛙チョコレートの箱をエリスから受け取った。その時指が微かに触れ、エリスはピクリと反応した。
「…! セフォネ……貴方……」
「どうかしましたか?」
箱を丁寧に開けて蛙チョコレートを頬張るセフォネはいつも通り、優しげな笑みを浮かべている。
だが、エリスは気付いた。
彼女が無理をしていることに。その笑みが、仮面であるということに。
何故ならば、彼女の指はまるで氷のように冷たかったからだ。体温が低いというレベルではなく、およそ体温が無い。そして、彼女の膝がほんの僅かに、注視しなければ分からない程に微かに震えていた。つまり、
エリスは尋ねたかった。だが、出来なかった。
セフォネの目だ。彼女のアメジストのような瞳が、底が知れないほど深く暗い闇に囚われているように見えたからだ。
エリスは直感的に感じた。今は触れてはいけないと。
「ううん、なんでもない。それより、
「撃退しましたよ。まったく人騒がせなことです」
まるで、多めに出された宿題をやり終えたかのような気軽さだ。4人は呆気にとられた。ダフネが何か思い出したかのように、セフォネに尋ねた。
「そういえば、さっきあんたが出したの有体守護霊よね?」
「ああ、そういえば1年の時見せてくれたやつだったわね」
「1年!?」
エリスの何気ない言葉に、ダフネが驚きのあまりチョコを取り落としそうになる。それもそのはず、"守護霊呪文"は高難易度魔法の象徴ともいえるもので、多くの魔法使いは守護霊を生み出すことが全くできない。例え実体のない守護霊であっても作ることができれば有能な魔法使いの証とされる程だ。それを有体のものを、しかも1年の時点で成功している。少し知識のある人間なら、驚かずにはいられない。
そして驚いたとともに"まあ、セフォネだから"と納得してしまった。
「流石は我ら"スリザリンの王妃"ね」
「何ですかそれ?」
「決闘クラブ以降に出来た貴方の渾名よ。一番"姫"が定着しているのだけど、あの闘いぶりを見てからは他にも"女王"とか"女帝"とか出てきて」
「はぁ……もう何とでも呼んで下さい」
セフォネは困ったように肩を竦めた。
ホグズミード駅につき、3年生組と1年生組は別れた。去年と同じようにセストラルが引く馬車に乗り込む。ダフネが扉を閉めようとした時、くたびれた様子の白髪混じりの男性がやって来た。
「やあ、同席していいかな?」
「どうぞ」
ダフネが外向きの笑顔を向けて、男性を招き入れる。小さいころから親と共にパーティーによく出ていたダフネは、人付き合いが得意なほうであるのだ。
ルーピンはダフネの隣、セフォネの真正面に座った。
「ありがとう。私は今年から"闇の魔術に対する防衛術"の教員をつとめる、リーマス・ルーピンだ。よろしく。君たちの名前は?」
こんな痩せ細った弱そうな男性があの呪われた教科"闇の魔術に対する防衛術"の教員なのか、とエリスは訝し気な目になる。ダフネは去年の無能よりましなら何でもいい、と思っていた。
そしてセフォネは、この男に対して警戒心を抱いていた。先程、"聖霊の
この技はセフォネが6年の歳月を費やして創り上げたもので、最上級レベルの退魔の魔法である。よって、闇の生物であり、存在が曖昧な
そんな魔法界の常識を覆す秘術のこの特性に、彼が気付いたかは分からないが、
それに、彼はセフォネを注意深く観察しており、そして決して目を合わせようとしていない。つまり、開心術を警戒しているのだ。あくまでさり気ない動作だが、この馬車に乗ったのは確実にセフォネを探るためだろう。
「エリス・ブラッドフォードです」
「私はダフネ・グリーングラス」
ルーピンは手を差し出し、2人と握手する。
「それで、君は?」
「ペルセフォネ・ブラックと申します」
「よろしく、ペルセフォネ」
セフォネはルーピンと握手した。そして、ルーピンの視線が一瞬、右手薬指のブラック家の家紋が入った印章指輪に向いたのを、セフォネは見逃さなかった。
(…先手必勝、ですかね……)
「先生はホグワーツの出身で?」
「ああ、そうだよ」
「何年度の卒業生なのですか?」
「1978年だ。もっと老けて見えるだろう?」
「失礼ながら、確かに」
2人は微笑み合う。傍から見れば仲が良さげだが、裏では腹の探り合いだ。そしてセフォネは、もう十分彼を理解した。
彼は伯父シリウス・ブラックと父アレクサンダー・ブラックと同い年。そして母デメテルは彼の1つ下。容姿を見ただけでセフォネの正体くらいは分かったのだろう。
犯罪者の近親者ゆえ警戒されているのか。だとすれば、彼の前で
「さっきは大丈夫だったかい?」
「はい、セフォネが追い払ってくれましたから」
そんな思惑を露知らず、エリスは普通に受け答える。
「追い払った? 驚いたな、この歳で守護霊を創り出せるとは」
「恐縮です」
「学期が始まっていたらスリザリンに点をあげていたところだよ」
その時、車内の温度が下がった。正門付近に
「いつの間に?」
「馬車に乗る前から待機させておきました」
澄まし顔で答えるセフォネに、喰えない生徒だ、とルーピンは苦笑した。セフォネは簡単そうに言っているが、守護霊を長い間顕現させておくには、相当の技術と魔力が必要になる。大人の魔法使いでも簡単には出来ない芸当なのだ。
馬車が校庭に降り立つと、4人は馬車を降りる。丁度そこでドラコがハリーに絡んでいた。話から察するに、ハリーは
「どうかしたのかな?」
やんわりとした口調でルーピンが割って入り、ドラコはまだからかい足りないのか、少々不満げな顔をしていた。
「やあ、セフォネ、エリス。ダフネもいたのか」
「もいたのか、とは何よ。私はおまけじゃないわよ」
「悪い悪い。他意はないよ」
そこに、スリザリンの女子生徒数名のグループが声をかけてくる。
「セフォネ、エリス。久しぶりね」
「ご無沙汰しております」
「やっほー」
「2人とも、調子どう?」
それに続き、また数名が集まってきてと、自然と彼女の周りに人が集まった。2人はスリザリン生の中で人気が高い。一番は容姿であるのだが、その性格もである。
基本スリザリンには名家の出身が多く、自分本意で我の強い人間が多い。また、そういう出身であるため、親の地位で序列が出来てしまう傾向もある。ドラコが常にクラッブとゴイルを従え、男子生徒に持ち上げられ、一部の女子に擦り寄られているのが、その最たるものといえる。
そんな中、数々の純血家系と繋がりを持つ純血中の純血、事実上の王族であるとも言われた由緒正しい家柄であるブラック家の当主たる存在であるセフォネは、それを鼻にかけることもなく、人を見下すこともなく、皆と友好的に接する。エリスはスリザリンの良心とも呼ばれるほど人に気配りが出来る性格。偶に、何故スリザリンなのかと問われる程だ。ドラコもこの2人には一目置いているという事実も相まって、この2人はちょっとしたアイドル的存在となっている。
勿論、それを気に食わない者もいた。初期のパンジー・パーキンソンやミリセント・ブルストロードなどである。だが、そういった彼女たちも、セフォネの人を惹きつけたり、人を納得させてしまう魅力などの、所謂カリスマ性というものに惹かれ、今では普通に良好な関係である。
「私は無視?」
「ちゃっかり僕もスルーされたな」
「何、嫉妬? 女の子相手に情けないわね」
「まあいい。早めに席をとっとくか」
残されたダフネとドラコは肩を竦めると、恐らくまだ捕まったままであろう2人の友人のために席をとった。
新入生歓迎会は例年通り大広間で執り行われる。マクゴナガルが椅子と組分け帽子を用意し、組分け帽子はホグワーツの歴史と寮の特色を歌う。そして、マクゴナガルが新入生の名前を呼び始めた。
「アルフォード・デイビット!」
この生徒はハッフルパフに組分けされ、ハッフルパフのテーブルから歓声が上がる。その後、ハッフルパフ、スリザリン、スリザリン、グリフィンドールと続き、アステリアの順番が回ってきた。
「グリーングラス・アステリア!」
流石のアステリアも緊張した面持ちで椅子に座り、組分け帽子を被る。30秒ほど後、組分け帽子が高らかに言った。
「レイブンクロー!」
アステリアは姉と一緒でなかった為か、僅かに寂しそうな顔をしたが、それでも自分が望んでいた寮に組分けされて嬉しそうにレイブンクローのテーブルについた。
「レイブンクローにとられちゃったか。お祖母ちゃんは大喜びかしらね。孫が同じ寮に入ったって」
そうぼやくダフネも少し寂しそうであった。
組分けは順調に進んでいき、いよいよ最後はラーミアの番。
「ウォレストン・ラーミア!」
その名が呼ばれた時、彼女の父が在学中もレイブンクローの寮監だったフリットウィックが身を乗り出した。子供がいることを知らなかったらしく、驚いた様子だった。そして、驚いたことにスネイプも僅かに興味を示していた。
ラーミアは緊張しないように周りを一切見ず、ただ組分け帽子を一点に見つめて歩いていく。そして、椅子に置かれた組分け帽子を手に取り、目を閉じて椅子に座ると、そっと組分け帽子を被った。1分、2分と経つが、帽子は何も言わない。5分を越えた頃、生徒たちがざわめきだす。
組分けに5分以上の時間がかかる生徒は"組分け困難者"と呼ばれる。これは50年に一度しか出現しない程の珍しい現象である。
「組分け困難者か」
ラーミアがセフォネの従者だということを知らないドラコは、ただ興味深そうにラーミアを見ている。エリスはハラハラと、セフォネは面白そうにラーミアを眺めていた。
結局、ラーミアの組分けは10分掛かった。そして、最後に組分け帽子が高らかに宣言した。
「レイブンクロー!」
組分け困難者を獲得したこともあってか、それとも単にラーミアが可愛い為か、レイブンクローから歓声が上がった。普段は大人しめのこの寮がここまで盛り上がるのも珍しい。
ラーミアは組分け帽子を脱いでレイブンクローのテーブルに行こうと足を踏み出し、そこで止まった。そして教師陣を振り向くと、セフォネと全く同じ動作で優雅にお辞儀した。そして生徒のほうへ向き直り、一瞬セフォネと目が合う。セフォネは微笑み、ラーミアも微笑んだ。そして、いまだ歓声が鳴り止まぬレイブンクローのテーブルに向かって歩いて行った。
「あんたのメイドさん、流石というか只者じゃないわね。組分け困難者だなんて」
「ていうか、お辞儀の仕方がセフォネそっくりでびっくりしたんだけど」
「まあ、私が仕込みましたからね」
ただしくは仕込まされた、であるが。何でも彼女は本を読むのが好きで、マグル界の小説に出てくるような完璧で瀟洒な
「メイドって何のことだ?」
1人事情を知らないドラコが会話についていけず、首を傾げている。
「いえ、気にしないで下さい。それよりもスポンジケーキを取っていただけますか?」
「初っ端からケーキか? ……まあ、君らしいが」
ラズベリージャムと生クリームをスポンジ生地に挟んだケーキを皿に装い、ドラコがセフォネに渡した。
「どうも」
そして、それを幸せそうに頬張るセフォネ。甘いものを食べている時は、セフォネは歳相応の笑顔になる。周囲の男子はそれを見て、スリザリンで良かったと心から思ったのであった。
新入生歓迎会も終わり、夜。セフォネは寮の寝室で寝間着に着替えて寝ようとしていた。エリスは睡魔に耐え切れず、制服を全て脱ぎきらないでYシャツのまま寝てしまっている。Yシャツの裾から太ももが顕となっており、風邪をひかないように毛布を被せてやる。さて、自分も着替えようかとネクタイを解いた時、突如目の前に炎が現れて、一枚の羽が羊皮紙と共にヒラヒラと舞い降りた。
「この羽は一体……? それに、この羊皮紙は……」
そこには特徴的な、斜めった文字でこう書かれていた。
『今宵ちょっと一杯付き合って欲しい。3階のガーゴイル像の前が校長室の入り口じゃ。追伸、わしは最近黒胡椒キャンディがお気に入りでのぅ』
「一杯って……私は仮にも生徒なのですがね」
セフォネは解いたネクタイをもう一度結び直し、念のため"目くらまし術"を掛けて校長室へと向かった。
ラーミアとアステリアがレイブンクローへ………公式だとアステリアはスリザリンなんですけど、それだとラーミアとの絡みが減っちゃうので。ラーミアをレイブンクローにした理由は、彼女にスリザリンは合わないと判断したからです。
全然話進まなかったです。申し訳ありません。何が真似妖怪だよ、まだ新学期入って1日も経ってないよこの野郎、と思って下さって構いません。