ハリー・ポッターと生き残りのお嬢様   作:RussianTea

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1年の終わり

  賢者の石事件から3日が経った。生徒たちの間では、この事件はハリー・ポッターと2人の友人が活躍したことになっており、セフォネの存在は知られていない。これは、セフォネ自身が望んだことであり、3人には堅く口止めをしてある。

  なぜなら、スリザリンの生徒であるセフォネがグリフィンドール生である3人に手を貸すという事実は、世間体が悪いから。そして、セフォネが傍観者となる道を残したい為に、ヴォルデモートに逆らったハリーを手助けしたことが公になって欲しくなかったからだ。

  さて、ホグワーツでは今学期の学年度末パーティーが開かれようとしていた。

  大広間はグリーンとシルバーのスリザリン・カラーで飾られ、その象徴である蛇が描かれた巨大な大弾幕が教員が座るハイテーブルの後ろの壁を覆っている。

 

「7年連続での寮対抗杯優勝かぁ」

「今年の7年生は全ての学年で優勝したことになるね」

 

  エリスとドラコがやや興奮気味に会話している中、セフォネは静かにゴブレットを傾ける。

  自分の予想が正しいのならば、ダンブルドアは駆け込みで点数を入れるだろう。何点入れるかは分からないが、高得点であることは間違いない。それにより、スリザリンは2位に転落する。

  事件以降、医務室のマダム・ポンフリーに絶対安静を言い渡されていたハリーが大広間に入ってくると、途端に静まり返った。数秒後、再起動したかのように皆が会話を再開する。その話題は言わずもがなハリーのことだ。ハリーがロンとハーマイオニーの間に座ったと同時に、ダンブルドアが前に出てきた。

 

「また1年が過ぎた!」

 

 ダンブルドアは朗らかに言った。生徒たちは次第に静まっていき、ザワザワとした余韻が無くなると、ダンブルドアは続けて言った。

 

「一同。ご馳走にかぶりつく前に、老いぼれの戯言をお聞き願おう。何という1年だったろう。君たちの頭も以前に比べて少しは何かが詰まっていれば良いのじゃが……新学年を迎える前に、君たちの頭が綺麗さっぱり空っぽになる夏休みがやってくる。それでは、ここで寮対抗杯の表彰を行う。点数は次の通りじゃ。4位グリフィンドール、312点。3位ハッフルパフ、352点。2位レイブンクロー、426点。そして1位スリザリン、482点」

 

  スリザリンのテーブルから嵐のような歓声が上がり、大広間の空気を振動させる。ドラコなどゴブレットをテーブルに叩いて喜びを表現している。行儀が悪いので止めろとセフォネは言いたくなったが、これが空喜びになることを予想しているが故に、それが滑稽であった。

 

「よし、よし、スリザリン。よくやった。しかし、つい最近の出来事も勘定に入れなくてはなるまいて」

 

 ダンブルドアの言葉に、大広間はシン、と静かになった。スリザリン生の歓喜の笑みが、引き攣ったものになる。

  ダンブルドアは1つ咳払いをした。

 

「えへん……駆け込みの点数をいくつか与えよう。えーと、そうそう……まず最初は、ロナルド・ウィーズリー君」

 

  ダンブルドアに指名されたロンの頬が紅潮し、赤かぶのようになったため、突然のことに唖然としていたエリスは思わず吹き出した。

 

「ここ何年か、ホグワーツで見ることができなかったような、最高のチェス・ゲームを見せてくれたことを称え、グリフィンドールに50点を与える」

 

  グリフィンドールから天井を吹き飛ばすような歓声が上がる。ロンの兄で監督生のパーシーは弟を誇り、

 

「僕の兄弟さ! 一番下の弟だよ。マクゴナガルのチェスを破ったんだ!」

 

  どうでもいいが、パーシー、マクゴナガルに先生をつけるのを忘れている。監督生なんだから、そこらへんはきちんとしなさい。

 

「次に、ハーマイオニー・グレンジャー嬢。火に囲まれながら、冷静な論理を用いて対処したことを称え、グリフィンドールに50点を与える」

 

 ハーマイオニーが、嬉し泣きで腕に顔を埋めた。グリフィンドール生たちは、あちこちで我を忘れて狂喜している。100点も増えたのだ。

 

「3番目は、ハリー・ポッター君……その完璧な精神力と、並外れた勇気を称え、グリフィンドールに60点を与える」

 

 耳をつんざくような大騒音だった。グリフィンドールは、トップのスリザリンに10点差まで迫った。

 ダンブルドアが手を上げたことで、大広間は徐々に静かになる。

 

「勇気にも色々ある。敵に立ち向かうのには勇気が必要じゃが、味方の友人に立ち向かっていくのにも、同じくらい勇気が必要じゃ。よって、ネビル・ロングボトム君に10点を与えたい」

 

  まるで大爆発が起こったかのような歓声が上がる。同時優勝だが、それでもグリフィンドールは勝利を勝ち取ったのだ。ハッフルパフ、レイブンクローもグリフィンドールと同じくらい歓喜の声を上げる。結局スリザリンをトップから引き摺り下ろす事は出来なかったが、しかし、今年はスリザリンに寮杯を独占されないで済むのだ。

 

「従って、飾り付けをちょいと変えねばならんのう」

 

 ダンブルドアが手を叩くと、飾り付けの半分がグリフィンドール・カラーの真紅と金色に変わり、横断幕は、半分が消え、そこにグリフィンドールのライオンが現れた。

 

「食えない狸爺ですわ……」

 

  自分が褒賞無用、と言った以上、トップから落ちるのは予想していたが、まさか同時優勝にさせるとは。こちらに気を使ったのか、公平にしたかったがゆえか。

 

「セフォネからそんな言葉が出るとはね」

 

  エリスはセフォネの発言を少々勘違いしているようだが、そう言っているエリスの顔も苦々しげで、他のスリザリン生たちも同様だ。ドラコなど怒りのためか驚いているのか、ゴブレットを持ったまま固まっている。

 

「さて、気を取り直して、頂きましょうか」

 

  さっさと気持ちを切り替えたセフォネは、ゴブレットに赤い液体を注いだ。

 

「……セフォネ、それワイン?」

「ええ」

「ええ、じゃないわよ! どっから持ってきたのよ!」

「教員テーブルから呼び寄せました。折角のパーティーですし。エリスも一杯どうですか?」

「貴方は最後まで変わらないわね……」

 

  お嬢様然としておしとやかでいつも微笑みを絶やさず、それでもって破天荒な一面も持つセフォネ。怒ると怖いし、やたら強いし、たまに憂いを秘めた瞳でもの思いに耽っていたり、その黒髪紫眼という容姿も相まって、どこかミステリアスな印象を与える彼女だが、エリスはそんなセフォネと友達になれて良かったと思った。

 

「ねえ、セフォネ」

「何ですか?」

 

  セフォネがゴブレットを机に置き、エリスに顔を向ける。エリスは満面の笑みで言った。

 

「来年もよろしくね」

 

  セフォネは微笑み返した。

 

「こちらこそ」

 

 

 

 

 

  翌朝、学年末試験の成績が発表された。談話室の掲示板に張り出されている用紙に、生徒たちは群がる。

 

「これは驚いたわ……」

「どうかしたんですか?」

 

  寝間着の上にガウンを羽織ったままのエリスに、既に制服のローブに身を包んでいるセフォネが尋ねた。

 

「あれ見てよ!掲示板の成績表!」

 

  言われた通りに成績表を見る。1位はセフォネ、2位はハーマイオニーで、続いて3位にエリスだ。

 

「凄いじゃないですか」

「1位のあんたが言うか……それもそうなんだけどさ、10位以内を、2位のハーマイオニー以外全てスリザリンで独占なんだよ!」

 

  エリスより下の名前を見ていくと、確かにスリザリンで独占している。8位にドラコの名もあった。

 

「おや、本当ですね。昨晩の意趣返しができましたわね」

 

  この朝飯の時間、知識を誇るレイブンクローから敵意と賞賛を込めた視線を送られ、スネイプは始終ご機嫌だったことは、言うまでもない。

 

 

 

 

 

  ホグワーツでの1年を終え、生徒たちはこれから長い夏季休業を迎える。荷物を全て詰めたトランクを持ち、帰りの列車に乗り込む。セフォネとエリス、ドラコと他2名が同じコンパートメントに座った。

  初めてあった時の印象こそ悪かったが、セフォネとドラコはかなり打ち解け、今では友人関係である。10ヶ月前の列車での出来事を思い出し、セフォネの顔に笑みが浮かぶ。

  この1年は今までの人生の中で、最も楽しい1年だった。

 

「どしたの?セフォネ?」

「いえ、何でもありませんわ」

「で、そうそう。セフォネの家ってフクロウいる?」

「いませんわ」

「いないの!?じゃあ、どうやって連絡を……」

「えっと……」

 

  山篭もりならぬ家篭もりしていたセフォネは、誰かと連絡する必要などなかったし、第一グリモールド・プレイス12番地にはフクロウが届かない。だがしかし、今は友が、連絡を取り合う相手が出来たのだ。どうにかしなければならない。

 セフォネは適当に誤魔化しつつ、考えを巡らせていた。

 

(家に帰ったら郵便受けでも作りますかね)

 

  "マグル避け"と"検知不可能拡大呪文"、"盗難防止呪文"でもかけた物を作ることを考えた。

  幸い、今のセフォネが魔法を使っても、魔法省に探知されることはない。昨日の夜、ついに"臭い消し"が完成したのだ。古代の魔術と闇の魔術、それに錬金術を組み合わせて、ようやく形となった。立派な犯罪行為かもしれないが、自宅で魔法が使えないと、休暇中に鍛錬することも出来ないし、色々と不便なのだ。

 

  その後、ドラコが賭けは貴族の嗜みとか言って取り出したトランプ(自動でシャッフルする、絵が動く、不正防止機能付き)でポーカーをしたり、百味ビーンズを食べたりしているうちに、あっという間にキングス・クロス駅に到着した。

 

「じゃあ、手紙送るから!」

「ええ。心待ちにしていますわ」

 

  反対方向に行くエリスやドラコと別れ、セフォネは歩き出す。

 

「ハリー・ポッターよ! ママ、見て! 私、見えるわ」

「ジニー、お黙り! 指さすなんて失礼でしょう」

 

  改札口を出ると、そんな会話が聞こえた。声がしたほうを見ると、ハリーとロンとハーマイオニーが、赤毛の少女をつれた恰幅のよい女性に近づいていった。

  その後ろから口ひげの、機嫌悪そうにしかめっ面をした男性が何やら呼びかけ、とっとと歩いていく。ハリーはその人の後を追っていった。

  それを見届けたセフォネはタクシーを拾い、久方ぶりの我が家へ戻った。

 

「おかえりなさいませ、お嬢様」

 

  クリーチャーが帰宅した主人を出迎える。

 

「ただいま戻りましたわ、クリーチャー」

「お荷物をお預かりいたします」

「あら、大丈夫ですわ。このくらい自分で持てますもの。それよりも、お茶を準備していただけますか? 久しぶりに貴方が淹れた紅茶を飲みたいです」

「かしこまりました」

 

  3階にある自室に荷物を置き、再び居間に戻ると、紅茶の良い香りがした。すでに紅茶は準備ができており、茶菓子も添えてある。

 

「どうもありがとう」

 

  ソファーに座りクリーチャーが淹れた紅茶で喉を潤す。

 

「お嬢様。1つ、見ていただきたい物がございます」

「何ですか?」

「これで」

 

  クリーチャーが差し出したのは、1通の手紙。昔のものらしく、封筒のところどころシミが出来ている。

 

「掃除の最中に見つけたものでございます。私めには処分の判断ができかねましたので。ご確認を」

 

  宛名はアレクサンダー・ブラック、デメテル・ブラック。父と母に送られた手紙らしい。セフォネは封筒を裏返し、差出人を確認する。そこに書かれていた人物は……

 

「セブルス……スネイプ…!?」

 




賢者の石終了。
スリザリンの成績がいいのは、勉強会のおかげです。
そして、自宅で発見されたスネイプからの手紙……。
内容は次章にて。

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