ハリー・ポッターと生き残りのお嬢様   作:RussianTea

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どうも、初めまして。ロシアンティーと申します。
身分上、かなり不定期更新になります。あと、1話1話の文字数のバラ付き、とかもあります。
キャラの性格は勝手に変えちゃうかもですし、主人公の性格も変わっちゃうかもしれません。

なお、感想の返答は、時間があるときにさせていただきたいのですが、あまり出来ないかもしれません。でも、ちゃんと読ませていただくので、是非ともお待ちしております。

それでは、よろしくお願いします。


THE PHILOSOPHER'S STONE
ブラック家のお嬢様とダイアゴン横丁


  日付は8月1日。

  1匹のトラ猫が、夏の日差しが照りつける道を歩いていた。夏休みだというのに、外で遊ぶ子どもたちも、車を洗う父親たちも、近所同士の会話に勤しむ母親たちも、誰もいない。完璧な無人である。周囲の家々の玄関は煤れていて、いくつかの家の窓は割れており、ゴミが積み上げられたような家もあった。

  ここはグリモールド・プレイスという、廃れた住宅街である。この住宅街には、なぜか12番地がなかったが、住民は、そのことを不思議に思わなかった。どうせこの場所を作った人間たちが間違えたのだろう、と考えていたからだ。

  トラ猫は11番地と13番地の間で、直角の姿勢で座っていた。瞬きもせずに、ジッと建物と建物の間を見ている。トラ猫が来てから5分ほど経った頃だろうか。突如、その家と家の隙間辺りから、1人の少女が現れた。

  黒髪紫眼の少女だ。身長は140センチ後半といったところ。所々にフリルがあしらわれた、膝丈までの上品な黒のワンピースを身に纏い、その上に薄手のカーディガンを着ている。足はタイツに隠されて、その雪のような白さの肌が露出している部分は、首から上と手首から先だけである。

  少女はゆっくりと歩きだし、トラ猫の数メートル先まで来ると、少々警戒したような様子で、訝しげな目でその猫を見た。手を懐にいれ、何かをすぐ取り出せるような体勢で、静かに口を開いた。

 

「ホグワーツ魔法魔術学校の方ですか?」

 

  すると、その猫はエメラルド色のローブに同じ色の三角帽子を被った老婆の姿になる、いや、戻った。

  老婆は驚いていた。それもそのはず、彼女は動物もどき(アニメーガス)であり、その変身術はかなり高度なもの。自分のことを猫ではなく魔女だと見破れる人物は、彼女の知り合いの中でも、片手で数えられるほどしか存在しない。

 

「よくお分かりになりましたね」

「この場所にわざわざ留まる猫などいませんから」

 

 なるほど、納得である。老婆はそう頷いた後、彼女をしげしげと眺めた。

 

(似ている……母親そっくりです。しかし……目だけは、父親の目です)

 

  少女は、老婆が知る彼女の母親そっくりの、非常に整った顔立ちをしていた。淡い桜色の唇、すっきりと通った鼻筋に見事な黒髪。しかし瞳は、母親が灰色だったのに対して、父親と同じ神秘的な紫色である。

  老婆は暫く彼女を観察した後、一応、自分の目当ての相手であるかどうか、確認をとった。

 

「お名前を伺ってもよろしいですか?」

 

  その問いに少女は薄く微笑むと、優雅にお辞儀をして名乗る。

 

(わたくし)は、ペルセフォネ・デメテル・ブラックと申します」

 

  間違いなく純血の血筋とされる聖28一族に連なる、高貴で由緒正しいブラック家。その直系のただ1人の生き残りのお嬢様であり、ブラック家の現当主であるのが、老婆の眼前にいる少女。

  そして老婆が知りうる限りの彼女についての情報が、脳裏に浮かぶ。

 

  彼女の母親はデメテル・ブラック。

  オリオン・ブラックとヴァルブルガ・ブラックの間に生まれたブラック家の長女で、兄にシリウス、双子の弟にレギュラスを持つ。事故により10年前に廃人となり、1年前に死去。

  父親はアレクサンダー・ブラック、旧姓ブルストロード。デメテルとはホグワーツ卒業後に結婚。シリウスが家から追放され、レギュラスが死喰い人となり消息を絶ったために家督を継ぐ者がいなくなっていた状態のブラック家に婿入りした。事故により10年前に死去。

  セフォネの祖母ヴァルブルガは跡継ぎであった婿を失い、愛する娘が廃人になってしまったショックにより人間不信に陥り、以後表舞台から姿を消した。それでも孫を一人前の当主に育てるべく、色々と教え込んでいたという。

 

「知り合いからはセフォネと呼ばれることが多いですわ。以後、よろしくお願い致します」

 

  セフォネは姿勢を戻し、老婆の瞳を覗き込んだ。

 

「ところで貴方のお名前は?」

「ああ、まだ名乗っておりませんでしたね。これは失礼。私はホグワーツの副校長ミネルバ・マクゴナガルです。本日はこれを渡しに来ました」

 

  マクゴナガルは封筒を取り出し、セフォネに渡した。それを受け取るセフォネの右手薬指には、ブラック家の紋章が刻まれた印章指輪。彼女の、細くてしなやかな指には少し不似合いな、ごつい印象を与えるものだった。

 

「大変失礼かとは思いますが、この場で拝見してもよろしいでしょうか?」

「ええ、どうぞ」

 

  セフォネは許可をとって封筒を開くと、入学許可証には目もくれず、入学に必要な物のリストを見た。

  用意すればいいものは、教科書とローブくらいだろうか。他には屋敷にあるものを持っていけばいい。しかし、どうせならこの機会に、自分の杖を持とうと考えた。今懐にある杖は、母親が使っていたものである。

 

「……なるほど。確かに受け取りました。ご足労頂き、感謝いたします」

「いいえ、礼には及びません。本来ならばもっと前に渡さねばならなかった物なのですから」

 

  普通、ホグワーツからの入学案内書は11歳の誕生日に届くものである。セフォネの誕生日は9月22日。本来であれば何ヶ月も前に届けられるはず。しかも、教師が自ら出向いて手紙を渡すのは、その生徒がマグル生まれの場合のみである。魔法族の家には、フクロウで届けられるのが一般的だ。

  では、なぜマクゴナガルがわざわざ出向いたのか。

  理由はただ1つ、彼女の家――グリモールド・プレイス12番地にフクロウが辿り着けなかったからだ。最初はフクロウの不備かと思い、2度ほど手紙を出し直したのだが、フクロウは手紙を届けることなく戻ってきてしまう。

  原因はフクロウではない、グリモールド・プレイス12番地、ブラック邸にある。

  この家はセフォネの祖父、オリオンが知りうる限りの安全対策を施した。よって位置探知等は不可能。さらに、祖母ヴァルブルガが安全確保のために"忠誠の術"をかけ、これにより"秘密の守り人"が情報を漏らさない限り、封じた秘密が外部に漏れることはなくなった。今現在の秘密の守り人はセフォネである。いまでもマクゴナガルにはブラック邸は見えていない。

  このため、フクロウはグリモールド・プレイス12番地に辿り着くことはおろか、見つけることもできなかったのだ。

  これを解消するためには、手紙の差出人が情報を教えられなければならない。

  仕方がないため、マクゴナガルが不可視の家の前まで出向き、家人に気づかれるのを待っていた、というのが事の次第である。

 

「それはこちらの責任。そちらに落ち度はございませんわ」

「まあ、それはいいとして。ダイアゴン横丁へはいつ行くつもりですか?」

「どうせなら、これから向かおうかと思っております」

「そうですか。丁度良かった。私も用があるのです。一緒に行きませんか?」

 

  用がある、というのは嘘である。実際は彼女のことが気がかりだったからだ。

  かなりしっかりしているようだが、11歳の子どもに全ての買い物が出来るのか。そして、セフォネはあのブラック家の娘なのだ、まともに育っているのか。あの事件のこともある。

  彼女の人となりを見極めるのも、教師の仕事のうちである。

  そんなことを考えていたマクゴナガルは、彼女が自分の瞳をジッと見つめていることに気が付いた。

  セフォネは自分に気づいたマクゴナガルに、ニコリと微笑む。

 

(わたくしを見極める……ですか。あまりいい気持ちはしませんが、少しつきあってもいいかもしれませんね)

 

「はい。是非とも同行させて頂きます」

 

  セフォネがマクゴナガルの瞳を見つめていたのには訳がある。彼女の心を読んでいたのだ。いわゆる、"開心術"である。

  普通だったら、優秀な魔女であるマクゴナガルが心をいとも簡単に見られることはないのだが、相手が11歳の少女であったため、油断していたのだろう。

  そもそも、油断云々の前に、この年で開心術を使える人間はほぼいない。しかし、セフォネはそれを、しかも気づかれずに行ったのだ。

  このことから分かるように、セフォネは既にかなりの使い手の魔女だ。ホグワーツ7年生レベルに既に到達、いや、それ以上かもしれない。なぜなら、彼女は闇の魔術の知識が豊富だからである。

  それはひとえに、ブラック家の大量の蔵書のおかげである。彼女は地下にある図書館に1日中引きこもり、1日中本を読み、魔法を実践していた。その生活をかれこれ5年以上、続けてきたのだ。

  マクゴナガルは少しだけ違和感を感じたのか、眉を潜めたが、すぐに表情を戻した。どうやらバレなかったらしい。

 

「では、私に掴まりなさい」

「失礼いたします」

 

  "付き添い姿表し"というやつだ。"姿表し"をする人間に触れることで、一緒に移動するというものである。

  セフォネは既に自力で姿表しをすることができるが、この術の使用に必要な免許を持っていないため、素直に従い、左手を軽く掴んだ。

  セフォネがマクゴナガルの腕を掴むと、マクゴナガルはその場で姿表しした。それに連れられて、セフォネもグリモールド・プレイス12番地から、ダイアゴン横丁へと移動した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダイアゴン横丁。そこは魔法使いや魔女が必要とする、ありとあらゆる魔法道具が売られている横丁。ロンドンにあるパブ"漏れ鍋"の裏庭にある壁の特定の煉瓦を杖で叩くと、ダイアゴン横丁に入ることができる。

 マクゴナガルはセフォネを連れ、漏れ鍋にやってきた。このパブはマグルの本屋とレコード屋に挟まれており、ほとんどのマグルはこの店の存在に気付くこともなく通り過ぎてしまう。

 2人はダイレクトに漏れ鍋に"姿表し"したため、店の客から少し驚かれていた。マクゴナガルの姿を見た店主のトムが、気軽に話しかけた。

 

「お久しぶりです、マクゴナガル先生。新入生の案内ですか?」

「ええ」

「これまた可愛いお嬢さんだ。お名前は?」

 

 トムが愛想よくセフォネに笑いかける。セフォネはトムに微笑み返すと、軽くお辞儀をして名乗った。

 

「ペルセフォネ・ブラックと申します」

「ブラック……では彼女が……」

 

 そう驚くトムをマクゴナガルは受け流した。あまり周囲の注意を引きたくはない。

 

「トム。すいませんが、先を急ぎますので。行きますよ、ミス・ブラック」

「はい。ではミスター、ご機嫌よう」

 

 もう一度お辞儀をしてから、セフォネはマクゴナガルの後を追う。

 マクゴナガルは裏庭に行くと、数えることもなく目的のレンガを、杖で3回叩いた。すると、叩いたレンガが震え、壁に穴が空いていった。次の瞬間、大きなアーチ型の入り口が現れ、2人をダイアゴン横丁へと誘った。

 

「まず、どこへ行きます?」

 

 鍋屋や薬問屋が立ち並ぶ道で、セフォネの前を歩いていたマクゴナガルが尋ねた。

 

「手持ちが少ないので、まずはグリンゴッツへ」

 

 グリンゴッツとは、魔法界の銀行のことで、小鬼が経営する、魔法界唯一の銀行である。ホグワーツ以外で最も安全な場所、と評されるほどの安全性を持つ場所だ。

 小さな店が立ち並ぶ中、ひときわ高くそびえ立つ、白い建物が見えてきた。ブロンズの扉の前には、制服を着た小鬼が立っていて、2人が通るとお辞儀をした。

 中には銀製の2番目の扉があり、盗人に対する警告文が書かれていた。

 そこも過ぎると、広々とした大理石のホールに出る。2人はカウンターに近づき、帳簿をつけている小鬼に話しかけた。手が空いている小鬼がいなかったのだ。

 

「よろしいでしょうか」

 

 セフォネが話しかけると、少し面倒くさそうに顔を上げた小鬼だったが、セフォネの顔を見た瞬間、態度が変わった。

 

「こ、これはブラック様。ようこそおいで下さいました。自らお越しになるのは珍しいですね」

「いつもは任せきりですからね。偶には自分でと。それでは、金庫に案内をお願いします」

「かしこまりました。では、お手数ですが、お杖を拝見させて頂きます」

「どうぞ」

 

 小鬼はセフォネから杖を受け取ると、念入りに調べ始めた。

 

「あれは貴方の杖ですか?」

「いいえ。あれは、母のものです」

 

 セフォネの説明に、マクゴナガルはなるほど、と頷くとともに、少々後悔した。彼女の母親が亡くなって、まだ1年しか経っていないのだ。もう少し気を使うべきだった。

 そんなマクゴナガルの心中を読み取ったのか、セフォネは「お気になさらず」と言った。

 

「結構でございます。では、金庫へご案内しましょう。"鳴子"の準備を!」

 

 通常の金庫であれば鍵さえあれば金庫へ案内してくれる。しかし名家であるブラック家の金庫は、このグリンゴッツの地下深くにあり、厳重に保護されている。それに案内される為にはまず、本人確認となる"杖調べ"を受けた後、"鳴子"と呼ばれる道具を使わなければならない。

 さらに、グリンゴッツの最深部にある金庫にいくのは非常に時間がかかるため、マクゴナガルに待っていてもらわなければならなかった。

 

「では、先生。暫しの間、お待ちいただいても?」

「ええ。構いません」

 

 数十分後、金を取ってきたセフォネとマクゴナガルは合流した。セフォネはまずは杖から、と"オリバンダーの店"へ向かった。

 狭くてみすぼらしい、年季を感じさせる佇まいの店に入ると、中には大男と、椅子に座った眼鏡の少年がいた。

 

「おや、先客が……ハグリッド?」

「こりゃ、マクゴナガル先生。先生も新入生の案内で?」

「ええ」

 

 眼鏡の少年は巻尺で寸法を測られている最中のようだった。セフォネはその少年に見覚えがあった。

 

「ハリー・ポッター……ですか?」

「おう。そうだ。正真正銘、あのハリー・ポッターだ」

 

 自分のことでもないのに、なぜか誇らしげなハグリッドはさておき、セフォネはハリーをジッと見つめていた。ハリーは、同世代の、しかも美少女に見つめられ、僅かに赤くなった。

 セフォネがそれを見て少し可笑しそうに微笑むと、ハリーはもはや目を合わせていられなくなったようで、自分の体のあちこちを測っている巻尺に目を落とした。

 ハグリッドもその様子を微笑ましそうに見ていたが、セフォネを見ると「ん?」と首を傾げた。

 

「お前さん、どっかで見たことが……」

 

 その時、オリバンダーがハリーに杖を持たせて色々試し始めたので、ハグリッドは思考を放棄してそちらを向いた。

 何本もの杖を試し、最後に行き着いたのは柊と不死鳥の尾羽、という、あの"闇の帝王"の兄弟杖であった。

 

「不思議な因果ですこと」

 

 セフォネがそう言うと、オリバンダーは初めてセフォネの存在に気が付いたようで、彼女を見ると驚きに表情を染めた。

 

「ブラック嬢ではありませんか。そうか、あなたも11歳でしたな」

「お初にお目にかかります、ミスター・オリバンダー」

「お母上によく似ておる……目はお父上と同じだ。どれ、杖腕はどちらで?」

「右ですわ」

 

 セフォネはオリバンダーに促され、先程までハリーが座っていた椅子に腰掛けた。

 

「お前さん……ブラック家の…」

 

 巻尺がセフォネの腕やらその他の寸法を測る中、ハグリッドはセフォネのことを複雑そうな目で見ていた。なぜなら、目の前の少女はあの、闇の魔法使いを数多く輩出した純血主義のブラック家の、現当主なのだ。ハリーの敵になるかもしれない人物である。

 ハグリッドはそう思っているが、セフォネはそんな気はさらさら無かった。そもそも、彼女は純血主義者ではない。そんなことよりも、どちらかと言えば、死の呪文を跳ね返したというハリーに興味を抱いていた。あくまで、学術的好奇心として、であるが。

 

「えっと……あの、君は?」

 

 ハリーはそんな両者の思いも知らず、間の抜けたような声で、若干裏返り気味の声で尋ねた。

 

(初心ですね)

 

 同い年ながらもそんな感想を抱いたセフォネが、微笑みをハリーに向けた。

 

「ペルセフォネ・ブラックと申します。セフォネで構いませんわ」

「よ、よろしく、セフォネ」

「こちらこそ」

 

 さて、少年少女が自己紹介を交わしている間に、採寸は終わったらしい。というか、なんでハグリッドとハリーは残っているのだろうか。

 そんな疑問はさておき、オリバンダーはセフォネに杖を持たせ、色々と試し始めた。

 

「ぶなの木にドラゴンの琴線。23センチ」

「柳に一角獣ユニコーンのたてがみ、34センチ」

「マホガニーに不死鳥の羽。27センチ」

 

 といった具合に様々な杖を試すが、どれもしっくりこない。やがて、ハリーの時よりもおおきな箱の山ができていた。

 

「難しい客じゃ……ここ数年で一番難しい……」

 

 ブツブツと呟きながらオリバンダーは奥からも箱を取り出し、セフォネに試させては次、試させては次、とうとう床一面に箱が並んでいた。

 オリバンダーは真剣そのものの顔で悩んでいるが、セフォネはどちらかというと、今の状況を楽しんでいるようで、少し悪戯めいた笑みを浮かべていた。

 

「これは……いや…でも……」

 

 オリバンダーは何やら悩んでいたが、やがて決断したように、かなり埃まみれの箱を取り出した。

 

「柘榴の木にキメラの鬣。33センチ。強固で、なおかつ獰猛」

 

 獰猛?と店にいたオリバンダー以外の者が首を傾げた。彼はいままでも、頑固だとか、杖に性格があるような話をしていたが、獰猛、というのは初めてである。

 

「キメラ、ですか。珍しいですね」

「先々代のころより受け継いで来たのですが……では、これを」

 

 セフォネがその杖を握った瞬間だった。指先に何か、温かい、いや、熱いものが流れ込んできたような感覚だった。

 次の瞬間、大量の火花が吹き出し、店内に巨大な魔力の奔流が生まれる。それは床に散らばった杖の箱を竜巻のごとく巻き上げ、灯りをロウソクごと吹き飛ばした。

 突然の異常気象現象に驚愕する皆だったが、この中でただ1人、その杖を持つ少女だけが愉快そうに口元を緩ませる。

普通とは少し違う、荒々しくて、凶暴な。しかしその暴力的な魔力の奔流は、何処か幻想的な情景と感じる。まさしく、自分という魔女にふさわしい。

 

「あらあら。掃除をしなくては」

 

 暴風が収まると、店内は酷い有様となっていた。セフォネは柘榴の杖を構えると、箒をはくようにスーッと動かす。すると、散らかっていた店内がみるみる内に元通りになっていき、セフォネが杖を選び始める前の状態までに戻っていた。

 

「あまり家事魔法は自信が無かったのですが、上手くいって良かったです。この程度でよろしいですか?」

 

 未だに驚いていたオリバンダーに声をかけると、ハッして辺りを見回し、全て綺麗に片付いていることを確認した。

 

「ええ。ありがとうございます。しかし、これ程とは……」

「では、この杖を頂きます。お代はおいくらでしょうか?」

「7ガリオンです」

 

 セフォネは10ガリオン渡し、3ガリオンはチップだと言った。

 

「良い仕事でした。これからの商売繁盛を願っております」

 

 そう締めくくったセフォネは、出口付近で溜まっている3人を追い立てて店を後にした。

 その後ハリーたちと別れたセフォネとマクゴナガルは残りの買い物を済ませた。

 

「それでは、新学期に会いましょう、ミス・ブラック」

「本日はお付き合い頂き、ありがとうございました」

 

 来た時のように、マクゴナガルの付き添い姿表しによって、グリモールド・プレイス12番地に帰り、そこで2人は別れた。セフォネは、マクゴナガルには見えない敷地内に入り、階段を登る。そして蛇の形を象ったドアノブを回して、家に入った。

 

「おかえりなさいませ、お嬢様」

 

 出迎えてくれたのはこの家の屋敷しもべ妖精であるクリーチャーである。

 

「ただいま戻りましたわ、クリーチャー」

「お荷物をお預かりいたします」

「あら、大丈夫ですわ。このくらい自分で持てますもの。それよりも、お茶を準備していただけますか?」

「かしこまりました」

 

 3階にある自室に荷物を置き、再び居間に戻ると、紅茶の良い香りがした。すでに紅茶は準備ができており、茶菓子も添えてある。

 

「どうもありがとう」

 

 ソファーに座りクリーチャーが淹れた紅茶で喉を潤す。

 

「ねえ、クリーチャー。今日、ハリー・ポッターに会ったんですよ」

「あの、ポッターでございますか」

「そう。不思議よね。闇の帝王がただ唯一殺せなかった人物……生き残った男の子。私の学園生活は、退屈にならずに済みそうですわ」

 

 そう、嬉しそうに笑うと、クリーチャーが用意してくれたクッキーを頬張った。




現在のブラック家の状況

当主はセフォネ。
財産はマルフォイ家やレストレンジ家なみにある。(原作ではどうか分からないのですが、魔法界の名家なのだから、あって当然かと。というか、あるという設定じゃないと、今作の名前の"お嬢様"じゃ無くなっちゃう)
屋敷の状態は極めて良好(クリーチャーが仕事してた)。ちなみに、祖母ヴァルブルガの肖像画はなく、クリーリャーもまとも。



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