奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い   作:オーダー・カオス

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今回はある意味、会話パートです。
しかし、思ったことがあります……
これ、会話か?と



第17話「正しさの重さ」

 神通さんが去ってから五日が経ち、月曜日となりその日の放課後となった。

 寮生活と言うこともあって、常に学園の中にいるので軍にいた時と変わらないが、やはり新しい週の始まりと言うのは新鮮味がある。

 やはり月曜日の訓練は格別である。

 

「「月月火水木金金」の日々を送ってきましたが、やはり本当の意味での月曜日と言うのもいいですね」

 

「……ゆっきーてたまにブラックジョーク染みた前向きな発言するよね……

 いや、ジョークがジョークじゃないけど……」

 

 私の呟いた一言に本音さんは少し引いていた。

 

「いやぁ……身体に染み付いたものですのでこればかりは仕方ありませんよ」

 

「そう言う自覚があるのもすごいよね……」

 

 実際、私は自らに課している訓練が世間一般からすれば、狂っていること位は自覚している。

 私と同じようなことを私は他人に強要するつもりはないし、それは間違っていると理解している。

 

「当たり前じゃないですか?

 『自分が出来るから』と言って他人にまで同じことを求めるのは間違いですよ。

 努力と言うのは、いや、努力することが出来る(・・・・・・・・・・)と言うのもそれは本人の才能なんですよ。

 それで自分以外が努力しないのは周りが劣っていると言うのはただの独り善がりになっちゃいますよ」

 

「へえ~……ゆっきーて、何と言うか……

 努力と根性こそが全てと思っていそうだから意外」

 

 私なりの努力に関する見解を受けて本音さんは意外だったらしい。

 実際、我が帝国軍にもそう言った精神論万能主義が存在していたのは事実だ。

 と言っても資源が少ないためにそうならざるを得なかったが。

 

「でも、ゆっきーて何と言うか……

 「天才」なのに「努力家」でもあるからすごいよね」

 

 本音さんは私のことをそう断じるが

 

「いえ、本音さん。

 確かに私は恵まれているかもしれませんが、本当に憧れるのは本当の意味での「努力家」の方ですよ」

 

「……え?」

 

 自分でも烏滸がましく傲慢であると思うが私は自分は恵まれていると理解しながらも私にとっての「憧憬」そのものである私にとっての「英雄」にして「戦友」の姿を頭に思い浮かべてそう言った。

 

彼女(・・)は私にとっての憧れそのものでしたよ」

 

「……彼女(・・)?」

 

 私は最新鋭艦であり艦隊決戦における完成形である「陽炎型」だ。

 その点においては私の素の強さは他の駆逐艦の娘たちよりも優れているに等しい。

 しかし、彼女(・・)は違った。

 

「私の「IS」の名前の由来になった少女ですよ」

 

「名前……「初霜」てゆっきーの友達の名前だったの!?」

 

「はい」

 

 私の「憧れ」。

 それは紛れもなく初霜ちゃんだった。

 

「私は彼女ほど心優しくて強い子は見たことがありませんよ。

 そして、私よりも彼女は強いです」

 

「ゆっきーよりも……?」

 

「はい」

 

 私は彼女に誰よりも憧れている。

 なぜならば

 

「きっと私は自分に才能が無かったら彼女と共に最後まで戦い抜けませんでしたよ」

 

『私は「失敗作」って言われてるけど戦い抜けたわ。

 それでもそんな私でも誰かを守るために戦えた。

 それは紛れもなく「初春型(私たち)」の誇りよ』

 

 私は才能があった。彼女は才能がなかった。

 しかし、心の強さにおいては彼女は誰よりも負けない。

 彼女が卑下していたように「初春型」は基となった駆逐艦の影響で何かと上層部からは「失敗作」と呼ばれる時が多かった。

 だが、仮に私が彼女たちの様に才能が無くても腐らずにいられたかと言うと分からない。

 それに私は心が弱い。

 そんな私を彼女は「あの日」まで支えてくれた。

 

『雪風ちゃん……生きて……?』

 

 そして、そんな彼女との「約束」が私を支え、今でも彼女はなぜここに彼女の名前を冠する「IS」があるのか分からないけど力を貸してくれている。

 だからこそ、彼女は私にとっての「憧れ」だ。

 

「それに……私も一回、「正しさ」……いいえ、「独善」で失敗したことがありますから……

 しかも、一国の総旗艦になった時に……」

 

 そんな私だからこそ失敗したことだってある。

 

「え?そうなんだ」

 

「はい。あの時、私は自分のできる限界を部下に押し付けてしまって翌日、教え子や部下たちが全員寝込んでしまいました……

 就任初日から大失敗でしたよ……」

 

「うわぁ……目に浮かぶ……」

 

 あの時の私は一度だけ第八艦隊の旗艦を名ばかりでやっていたりしたけれど、事実上の上官職は初めてだったので普段通り(・・・・)のことをしてしまったら全員が付いて来れなかった。

 そして、それこそが「私の限界」だと自覚した。

 

「ですから、本来ならば他人の失敗に目くじらを立てるようなことはしたくないんですよ……」

 

「ああ……うん……

 でも、セッシーやリンリンとかもそうだけど……

 篠ノ之さんとかボーデヴィッヒさんに関しては……

 うん……仕方ないよ……」

 

 私個人としては多少(・・)の相手の非は無視したいところだ。

 しかし、その多少(・・)の範疇を超えてしまうことが多いのでついカッとなって口を出してしまうのだ。

 やはり、私もまだまだと言うべきだろう。

 きっと昔の私ならば篠ノ之さんとボーデヴィッヒさん、いや、前のセシリアさんや一夏さんの言動を非難してもそこまで嫌悪はしなかっただろう。

 

「う~ん……それに私はゆっきーの毅然とした姿はかっこよかったと思うんだけど……」

 

 本音さんはそんな私の未熟さに対して、そう褒めてくれるらしい。

 

「……そうですね。

 確かに「正しさ」は時として輝いて見えるでしょう。

 でも、「正しさ」は同時に相手を傷付けるだけの道具にしかなりませんよ」

 

 でも、そんな「正しさ」だけで人は生きている訳じゃない。

 人は誰しも強く生きている訳じゃない。

 特に私は神通さんとの会話でそれを痛感させられた。

 シャルロットさんの件もだが、篠ノ之さんのことが大きかった。

 私は彼女の自己中心的な行動に苛立ちを感じていた。

 私は彼女の過去を知って悲しみを知っていたつもり(・・・)だった。

 だが、それは思い上がりに過ぎなかった。

 神通さんの告白で彼女と神通さんの過去を知ってからは私は自分の浅はかさを恥じた。

 少なくとも、彼女がなぜああまで他人を信じようとしないか受け容れないかの理由を知らなかったのだ。

 そして、そんな「正しさ」に囚われた私が「正しさ」を理由に彼女を責めるのは大きな間違いだ。

 

「でも、そんなゆっきーだから私は好きだよ?」

 

「「正しい」……私がですか?」

 

 本音さんは私をそれでも慰めようとしているのか私を肯定した。

 それはきっと私を傷付けないための彼女の優しさ。

 私が守るべき笑顔そのものであると考えていた。

 だが

 

「うんうん……

 相手のことを思いやれるゆっきーにだよ」

 

「……え」

 

 返って来たのは「正しさ」への称賛ではなかった。

 

「だって、「正義の味方」なんて「正義」を理由に相手を殴ることだけに何も感じないならただの相手を殴る口実に「正義」が必要なだけの弱虫じゃん。

 ゆっきーはそんなことが嫌だからあんなに悩んだりするんだよね?」

 

「……!?」

 

 私は驚いた。

 本音さんは私の苦悩を一瞬に言い当てたのだ。

 確かに私は鈴さんとの試合の後に言われた篠ノ之さんのあの発言にずっと悩み続けていた。

 

「それにさ……ゆっきーは自分のことを卑下しているようだけど……

 少なくとも、ゆっきーの「正しさ」で救われている人たちもいるんだよ?

 それも忘れちゃったの?」

 

「……え?救った(・・・)……?」

 

 本音さんの指摘は私にとっては初めてだった。

 そんなことを言われたのは初めてだったからだ。

 

「ほら、セッシーとの初めての試合でお父さんのことを馬鹿にされたようで悔しそうにしていた子がいたよね?

 あの子は戦う力がないから何も言えなかったけど、ゆっきーがセッシーに啖呵を切ったおかげで救われたと思うよ?

 それにセッシーだってゆっきーの試合前の言葉でみんなとの約束で孤立しないですんだじゃん。

 ゆっきーは自分じゃ忘れていると思うけど沢山の人を救ってきたと思うよ?」

 

「あ……」

 

 そうだった。

 セシリアさんとの試合前で私はあの少女の言葉を胸に秘めて戦った。

 

「ゆっきー……うんうん、……

 おりむーもそうだけどさ、みんな「守る」ことに拘り過ぎだよ?

 見ているこっちはいつも心配なんだよ?」

 

「え……」

 

「あの無人機の時もそうだったけど……

 おりむーを助けるためにゆっきー、自分が犠牲になろうとしたじゃん……

 そんなの間違っているよ」

 

「……それは……!」

 

 私はあの時、確かに一夏さんを助けるために自分の身を顧みもしなかった。

 自覚はしていた。

 しかし、それを他人に指摘されることでは意味が全く異なることを理解はしていたがそれでも苦しい。

 

「もちろん、私もゆっきーがどれだけ辛い過去を辿って来たかなんてわからないよ?

 だけど……それでもゆっきーが大好きだもん。

 たった5ヶ月の付き合いだけどそれでも大切な友達だもん。

 だから、ゆっきーも自分のことを(・・・・・・)見下さないでよ。

 私はそんなゆっきーのことを友達だと思ってるんだし、尊敬してるんだから」

 

「………………」

 

 返す言葉がなかった。

 私はただ「正しい」と思ったことを我で貫いただけだ。

 しかし、同時に自らの心の中で「正しさ」で誰かを傷付けていないか、相手の弱さを忘れていないのかと常に悩んでしまっていた。

 そして、「正しさ」で相手を傷付ける自分を心のどこかで嫌悪していたのも事実だ。

 ボーデヴィッヒさんの件についてはあくまでも私個人の怒りでしかなかったので割り切れていたが。

 

「……ありがとうございます。本音さん」

 

 そんな本当の私でさえも「友達」として見てくれて案じてくれる人がいるのだ。

 何よりも彼女は私を『大好き』だと言ってくれた。

 基本的に「免罪符」等と言う言葉を忌み嫌う私でもなぜか彼女の言葉には救われた気がした。

 

「どういたしまして。

 じゃあ、いってらっしゃい」

 

「はい。いってきます」

 

 いつもと同じように本音さんに見送られながら私は訓練へと向かう。

 きっと、今の会話は本質的な解決にはなっていないだろう。

 しかし、それでも彼女の言葉が嬉しくもあった。

 

 

 

「ゆっきーは……本当にかっこいいなぁ~……」

 

 毅然とした友達を見送って私は心の底からそう思った。

 私はゆっきーは「かっこいい」と思ったし「天才」とも思っているし、「正しい」とも思っている。

 けれど、ゆっきー自身は自分のことを『弱い』と断じた。

 

「……優し過ぎるよ……ゆっきーは……」

 

 私はゆっきーの強さに焦がれると共に優しさにも惹かれた。

 きっと篠ノ之さんやボーデヴィッヒさんのような人を責める際もゆっきーは『自分は正しくない』と思っている。

 それはきっとどんな相手であろうとも傷付けることを憂いているからだ。

 

「初霜かぁ……どんな子なんだろう?」

 

 私はゆっきーの「憧れ」である「初霜」と言う子が気になってしまった。

 あのゆっきーが自分よりも『強い』と誇らしく語る人物。

 気になるのは当たり前だ。

 

「……ちょっと、嫉妬しちゃうなぁ~……」

 

 そして、ゆっきーの友達として私はその子に嫉妬してしまう。

 あのゆっきーにそうまで言われるのだ。

 羨ましいと思うのは間違いじゃないだろう。

 

「……でも、ゆっきーとかんちゃんは会わせちゃいけないよね……」

 

 もう一人の私の友達であり大切な幼馴染。

 あの子を見たらゆっきーは応援したくなるだろう。

 だけど、かんちゃんからすれば、お嬢様に匹敵する才能のあるゆっきーは眩しいだけだろう。

 ゆっきーは「太陽」だ。

 輝いてるし(かっこいいし)暖かいし(優しいし)熱く(強く)もある。

 でも、そんなゆっきーの「(正しさ)」が人によっては苦しくもある。

 

「……でも、私はずっと友達だよ?」

 

 いつかきっと、ゆっきーの「(正しさ)」に耐えられなくて彼女を陥れようとする人が彼女を害そうとするだろう。

 人はそんなに強くないから。

 それでもゆっきーは折れないだろうけど。

 でも、私はゆっきーのことを信じ続けよう。

 それが私がゆっきーに出来る友達としての唯一のことだから。




「正しい」……て怖いですよね?

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