奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い 作:オーダー・カオス
何なんだ……あいつは……
教官の名を辱めた存在であるあの男に一発喰らわせようとした瞬間、私の右腕は一人の生徒によって止められた。
歯牙にもかける必要もなかった存在の一人に邪魔されたのだ。
それが私には信じられなかった。
当然ながら私はそいつのことを見た。
その女は見た所、日本人のようであった。
しかし、その女は軍の資料に書かれていた
明らかにその女はただの一般生徒に過ぎない存在だったはずだ。
それなのにそのただの一般生徒が私を止めたのだ。
あの拘束の仕方……明らかに……
『ヤチ』と呼ばれた女は私を無理なく止めた。
あの状態で暴れていたら確実に関節をすぐにでも外せるようにと。
あの一瞬であんなことを出来るとは普通では考えられない。
そもそも、私の行動にすぐに気づいて、私を止めたことがあり得ない。
……ちっ!
同時に私は奴に言われた言葉と向けられた目を思い出して苛立ちを感じた。
あいつは私のことを明らかに蔑んだ。
注目に値しないと思っていたこの学園の生徒の一人に過ぎない存在が私を小馬鹿にした。
私に怖じ気つくことなく、あの女は私を下に見た。
「IS」をファッション感覚で見るしかない連中の一人である人間がだ。
そして、なおかつ私にはもう一つ奴に対して気に食わないことがある。
『それと陽知。
お前らしくないぞ』
あの教官があの女に対して明らかな「信頼」を込めて言ったのだ。
教官の向けた目はあの男に対する視線と同じ目だった。
私には見せてくれない「信頼」。
それを教官はあの女に向けたのだ。
ヤチぃ……!!
この感覚はなんだ。
初めて私はこの感情を抱いた。
既に以前の私とは違うと言うのに関わらず、胸が痛い。
いや、違う。
これはあの男を初めて知った時から感じている物と同じだ。
何なのだこれは。
注目に値しないはずの人間をなぜ私はここまで気にせねばならないのだ。
「遅い!」
「あらあら」
第二グラウンドに到着した一夏さんとデュノアさんを織斑さんは叱責し、神通さんは笑顔で迎えた。
恐らくデュノアさんが正体を秘密にするためにコソコソと着替えたこと、一夏さんが初めてできたと思った学園での同性の友人との話題で盛り上がってしまったことが原因だろう。
「織斑君?あなたは一応、この学校ではデュノア君の先輩なのですから、しっかりと彼を指導しないといけませんよ?」
心なし
彼女は明らかにデュノアさんの性別を知っている。
しかし、それでもわざと泳がせている節が見受けられる。
だが、それがある意味神通さんらしいのだ。
神通さんは決して、相手に強制させたり強引な手を使わない。
相手が自らボロを出したり、自主的にさせて相手に逃げ道を与えないようにするのだ。
「な、那々姉さん……」
「ここでは川神先生です。
まあ、今回は道中で色々とあったと思いますのでとやかく言いませんけど、今度から気をつけてくださいね?」
「は、はい!」
「それとデュノア君も次からは遅れないようにしないといけませんよ?」
「はい」
神通さんは何食わぬ顔でデュノアさんにも注意した。
ある意味、一組の指導体制は神通さん、織斑さん、山田さんの三人であることから理想的なのかもしれない。
織斑さんが気を引き締めて、山田さんが生徒たちのフォローに回り、神通さんが最後を締める。
おかげでこのクラスは程よく秩序が保たれている気がする。
ただ今回の件で思った事であるが、デュノアさんを一夏さんと一緒にいさせるのは護衛としてはとても不安である。
恐らく、ただの諜報員だと思うが、そうでなかったら一夏さんの身が四六時中狙われる可能性がごくわずかであるがある。
なんとかできないものだろうか。
「ずいぶんとゆっくりでしたわね」
一夏さんとデュノアさんが私たちのいる端に来るとセシリアさんは開口一番で嫌味を言い放った。
ちなみになぜ私もここにいるかと言えば、セシリアさんと本音さんたちのグループの中間地点にいるからだ。
私はセシリアさんとも友人である。
それと相川さんたちがデュノアさんに興味を抱いて私を後押ししたのが大きな理由だ。
多分、私を通してデュノアさんとお近づきになりたいのだろう。
事情を知らない彼女たちがそう思うのは仕方ないがデュノアさんも彼女たちも少し不憫だ。
「スーツを着るだけで、どうしてこんなに時間がかかるのかしら?」
セシリアさんはなおもまくし立てる。
考えるまでもなく、彼女は不機嫌である。
「道が混んでいたんだよ」
とさすがに自己弁護もしたくなったのか、一夏さんは原因の一つを口に出した。
実際、神通さんも言っていたが表向きでは一夏さんとデュノアさんはたった二人しかいない男子だ。
当然ながら、人だかりができるだろう。
「ウソおっしゃい。いつも間に合うくせに」
いえ……今回はいつもと違いますし……
しかし、それでもセシリアさんはそれでも納得できないようだ。
私には解る。彼女はなぜだが、デュノアさんに嫉妬している。
なぜ彼女はデュノアさんに嫉妬するのだろうか。
女の直感でデュノアさんの正体にでも気づいたのだろうか。
ただ気づいていないで嫉妬しているのであれば酷くないだろうか。
デュノアさんは一応、表向きは男性であり嫉妬するのはいくら何でも間違いのはずだ。
確かに今の一夏さんは今まで見せたことがないほどに楽しそうだ。
まさか、そんなことで嫉妬しているのだろうか。
いくら何でも嫉妬深過ぎないか。
表向きは同性同士の友人なのだからそこら辺は汲み取ってもいいはずだ。
「ええ。さぞかし女性の方との縁が多いようですから?
そうでないと二月続けて女性からはたかれたりしませんよね」
……ああ……そっちですか……
どうやら見当違いのようだったらしい。
セシリアさんはボーデヴィッヒさんが一夏さんに初対面ではたかれそうになったのを一夏さんに原因があると思っているらしい。
しかも、女性関係を色々と邪推したうえで。
ただそれを止めた身として言いたいことがある。あれには全く痴情のもつれがなかったと私は自信を持って主張できる。
「いや、セシリアさん……
あれは―――」
私は一夏さんの名誉のためにも、いや、女性関係に関しては意図せぬうちに相手の心を射止めることから誤解されながらも、今回の件に関しては濡れ衣であると一言告げようとするが
「なに?アンタまたなんかやったの?」
後ろからしてきた声で遮られてしまった。
その声を聞いて一夏さんは左右を見回すが
「後ろにいるわよ、バカ!」
気づいていない一夏さんにしびれを切らして鈴さんが大きな声で罵倒してしまった。
妙にいつもより攻撃的ではあるが、恐らくセシリアさんと同じように女性の影でもちらついたのだろうか。
鈴さんはセシリアさんよりも多少落ち着きがあるが、一夏さんに同性の話が出てくるとどうしても感情的になってしまうのだ。
「こちらの一夏さん、今日来た転校生にはたかれそうになりましたの」
共に嫉妬の感情を分かち合い、なおかつ自らの言動に正当化できるとでも意識的に、いや、無意識にセシリアさんは恋敵である鈴さんと一時的に手を組もうとした。
「はあ!?一夏、アンタなんでそうバカなの!?」
すると、鈴さんが乗ってしまい、理不尽な物言いをした。
「あ、あの……お二人とも止めた方が―――」
しかし、今回の件は明らかに一夏さんが理不尽な暴力に遭ったと確信を持って言えることから私は二人を止めようと思った。
それにこれは二人のためでもあるのだ。
「……安心しろ。バカは私の目の前に二名いる」
「代表候補生のお二人方。今は授業中ですよ?」
遅かった……
二人は恐る恐る声のした方を振り向いた。
そこにはしかめっ面と微笑と言う対照的な表情を浮かべた二人の鬼が立っていた。
「これは残念ですね?
織斑先生」
「全くだな」
二人はセシリアさんと鈴さんに対してじわじわと真綿で首を絞めるかのように宣告を下そうとしない。
それを見て、二人はただ怯えるのみだった。
だが、それは一瞬で終わるのは慈悲であるのか、裁きなのかは誰も知らない。
「二人とも。
罰として、放課後グラウンド十周だ」
「「そ、そんな~!!?」」
ただ織斑さんの下した罰は案外普通であった。
あれ?割と……原作での千冬さんの体罰は温情?