奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い   作:オーダー・カオス

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とりあえず、戦闘前会話です。
次話から戦闘になります。
一回投稿ミスしました。(編集前にent二度押しでそのまま投稿で未完成のまま投稿しました。)
本当にすみません。


第11話「背負うもの」

「ゆっきー、大丈夫?」

 

「陽知さん、がんばって!」

 

「あの偉そうな女に一泡吹かせて!」

 

「あ、はい……」

 

 私が今日迎えたクラス代表決定戦のためにアリーナのAピットに向かっていると、その道中に本音さんと相川さん、夜竹さんの三人を始めとしたクラスの何人かが私のことを心配したり激励したりとしてきて私は少し気圧された。

 その何人かの頭にあるのは『打倒、オルコット』なのだろう。

 

「あの……陽知さん……」

 

「……?」

 

 そんな中、少し引っ込み思案そうに見える女子生徒が私に声をかけて来た。

 

「こんなこと戦わない自分が言うのはおかしいとは思うけど……勝って……」

 

「……え?」

 

 その生徒はどこか私に心苦しそうにしながらもいきなりそう言った。

 

「ごめんなさい……

 でも、私オルコットさんやクラスの人に男の人を馬鹿にされてちょっと悔しかった……」

 

「……どうしてですか?」

 

 そんな彼女の言葉に私は興味と「あの人」から感じたものと同じものを感じた。

 

「私……お父さんがいつも仕事で家族のために頑張っているのを知ってるから……

 だから、悔しかった……」 

 

 彼女はとても無念そうにそう言った。

 辺りを見回すと何人かは目を瞑り、何人かはバツの悪そうな顔をしていた。前者は彼女と同じものを心に抱き、後者は初めて「女尊男卑」と言う言葉の本質(醜さ)に触れたのだろう。

 彼女の言葉と目に込められたものを受け取って私は不思議な安堵と強い決意を抱いた。

 いや、安堵はともかく、決意に関しては「より固まった」と言った方がいいだろう。

 

「あ、雪―――じゃなくて、陽知さん!」

 

 私たちがアリーナのピットに到着すると山田さんが駆け寄ってきた。

 

「山田先生、どうしたんですか?」

 

 私は山田先生が呼びかけて来た理由を訊ねた。

 

「すみません。

 今日の試合の予定なんですが……初戦は陽知さんとオルコットさんで、その次は陽知さんと織斑くんになりました」

 

 と申し訳なさそうな表情をしながら山田さんは今日の試合日程を告げた。

 

「え!?それじゃあ、陽知さんが一番不利じゃないですか!?」

 

 夜竹さんが山田さんの明かした情報を耳に入れて声をあげた。

 確かに彼女の言う通り、この試合日程は私が一番不利だろう。

 先ず、初戦と言うことはこれから自分の対戦相手になる二人を第三者、つまりはこの場合は織斑さんの弟さんはその二人のことを観察することができることから初戦で戦う二人の「情報」を得られるのだ。

 「情報」はかなり重要なものだ。

 「情報」があるかないかで戦いの優劣は大きく変わる。

 だから、あれだけ「電探」や「レーダー」、「偵察機」の存在は重要なのだ。

 この試合日程において情報面に関しては織斑さんの弟さんが最も優位だろう。

 だが、私が最も不利と言えるのは次の試合だ。

 この場合は第一試合から第二試合に連続で出る人間、つまりは私は連戦による疲労や情報を相手に晒していると言う弱点を抱えている。

 そして、最後の第三試合では情報面では互角ではあるが、一呼吸おけるもう一人の第一試合の対戦者、つまりはオルコットさんは織斑さんの弟さんよりも体力的には有利だろう。

 

「そうですよ!それにオルコットさんは「代表候補」ですよ!?

 それなら、オルコットさんが続けて第二試合に出るべきですよ!!」

 

 相川さんが続けて抗議し、他の生徒たちも続いた。

 総合的に見て、私が一番不利でオルコットさんが一番有利だろう。

 この中で「代表候補」と言う強さの目安になる肩書きを持つ彼女が一番有利なのは確かにバランスが悪いだろう。

 

「うぅ……それが、オルコットさんも

 『どうして、私が最も優位なのですか!?馬鹿にしていますの!?』と怒っていました……」

 

 生徒たちの抗議の声に山田さんは少し涙目になりながらオルコットさんの主張を伝えた。確かにあの無駄にプライドが高いオルコットさんならばそう言った言葉を口に出すだろう。

 

「実は……その試合日程は……織斑先生の提案でして……」

 

 山田さんは少し、言い辛そうにそう言った。

 

「お、織斑先生が言ったんですか!?」

 

 山田さんの明かした今日の試合日程を立てた人物の名に私と本音さん以外の生徒たちは驚愕した。

 当然だろう。

 織斑さんの存在はかなり大きいのは入学初日で知っている。

 その彼女が言うのならば、ほとんどの人間は何も言えないだろう。

 しかし、そこでおかしいのはなぜ、現状で一番技術面に劣る彼女の弟さんがなぜ、一番有利な配置がされていないのだろうか。

 

「それに……織斑君はその……「専用機」が今、届きまして……」

 

「え!?今、来たんですか!?」

 

 山田さんの明かした事実に私は驚きを隠せなかった。

 「専用機」には「初期化」や「最適化」の時間を要する側面もある。

 今回の試合日程はそう言った事情によって最善の組み立てができなかったからこうなったのだ。

 こればかりは本人の心構えとかでどうにかなるものではない。

 万全な状態で戦えなければ後で尾を引く可能性もある。

 

「ま、まあ……織斑君二戦目以降なのは……」

 

「仕方ないわよね……」

 

 一見すると身内贔屓にも思える織斑さんの采配だが、今回の件では十分公平である。

 少なくとも、弟さんの対戦位置に関しては公平性が見受けられる。

 

「でも、陽知さんが一番不利なのは……」

 

 それでも、私とオルコットさんの順序については難色を示す声が強かった。

 

 なるほど、『存分(・・)にやれ』と言うことですか……

 

 だが、私の考えていることは彼女たちとは真逆だ。

 多分、この立ち位置は織斑さんからの私に対しての「激励」なのだろう。

 

―キュイーンー

 

「え?陽知さん?」

 

「こ、これが陽知さんの……カスタム機……!」

 

「は、早い……!」

 

 私は織斑さんからの無言の檄を受け取ると間髪入れずに「初霜」を展開してその場にいる全員に『是』と答えた。

 

「……皆さん、心配してくれてありがとうございます」

 

 私は振り返ってからどういった目的であろうと私のことを応援しようとしてくれたり、案じてくれた彼女たちに感謝した。

 彼女たちは『打倒オルコット!』と言った動機を持って私のところに来たのかもしれない。

 それでも、好意は好意だ。

 感謝はすべきだ。

 

「もう一つだけ皆さんにお願いしたいことがあります。

 いいでしょうか?」

 

 そんな彼女に私は言いたいことがあった。

 それは

 

「今日の試合がどのような結果で終わってもオルコットさんのことを邪険に扱わないでください」

 

「「「……え」」」

 

 オルコットさんを「許す」ことだった。

 彼女たちの中にはオルコットさんに対する憤りを持っている者が大半のはずだ。

 もちろん、私はこの試合の中で彼女に色々なものをぶつけるつもりだし、これは勝利宣言にも聞こえるし相手を侮辱することになるのかもしれない。

 だが、その後のことに対してはわだかまりを残したくない。

 

 何せ……これは「戦争」じゃないのだから……

 

 私とオルコットさんがこれからすることは「戦争」でもないし、「生存闘争」でもなんでもない。

 ならば、憎しみなんて必要ない。

 「妹」を奪ったあの「悪魔」に対して捨て切れない憎しみを抱くからこそ言いたい。

 

「陽知さん……?」

 

 誰もが面食らっていると先ほど私に自分の思いの丈をぶつけて来た生徒が心配そうな表情をしながら声をかけてきた。

 私は彼女、いや、この場にいる全員に対して

 

「大丈夫ですよ。私は絶対(・・)に負けませんから」

 

 安心させた。

 私には負けられない理由ができた。

 それだけで十分だ。

 そして、ピット・ゲートに足を進ませながら

 

「絶対、大丈夫!!」

 

 大きな声を出しながらいつもの言葉を叫んだ。

 そして、そのままピット・ゲートをくぐり抜けた。

 私がアリーナの空中に現れると

 

「あら?よく逃げずに来ましたのね?」

 

 オルコットさんが待ち受けていた。

 

「ええ……また一つ背負うものができたのですから、逃げるわけにはいきませんよ」

 

「……?」

 

 彼女の挑発に対して、私はそれだけの言葉をぶつけた。

 この試合に勝っても所詮は「女」対「女」の戦いでしかなく、「女尊男卑」には何も響かないだろう。

 しかし、それでも私の肩に残る「帝国海軍」の誇り、総旗艦の重み、陽炎型の名前、戦友への想い、そして、そこに加わった戦えない者からの涙をこの戦いで私はぶつけるつもりだ。

 それだけだ。

 

「よくわかりませんが……

 あなた()何かを背負ってらっしゃるのですか?」

 

 私の言い様に何かを感じたのかオルコットさんは今まで見せたことのない表情をした。

 そんな彼女の様子に私は今まで彼女に抱いていた認識を変える必要がすると思った。

 今までの彼女の言動は己の自尊心を満たそうとしたり、守ろうとする程度の気に掛ける必要もないものでしかなかった。

 だが、今の彼女には一見の価値があるようには思える。

 

「はい。私には色々と背負うものがあります。

 だから、この試合、負けるつもりはありません」

 

 私はそれだけを彼女に伝えた。

 これだけで十分だろう。

 

「……そうですか、なら、あなたへの認識を変える必要がありますわ」

 

 私の宣戦布告を聞くとオルコットさんは今までの意味もなく他人を見下す姿勢を崩した。

 

「……最初からそうやって偉そうでも相手に礼儀を示しておけばよかったのに」

 

 私は彼女のような性格をした同僚を多く知っていることから彼女の性格には何も言うつもりはない。

 ただ、彼女が今のようになんだかんだで相手への敬意を持つ心を見せておけばと愚痴った。

 

「それは無理な相談ですわ。

 あんなナヨナヨとした男とそれを物珍しいからと言って推薦するような方々にどうやって尊敬の念を抱けと言うのですか?」

 

 未だにオルコットさんはクラスの大半と織斑さんの弟さんへの認識は変えないつもりらしい。

 確かに私も彼には『腰抜け』とは言ったが、私はむしろ彼を推薦しておきながら彼を笑ったクラスの大半の方に苛立ちを隠せない。

 彼女の気持ちも解らなくもない。

 

「それは……織斑さんが男性だからですか?」

 

 私は呆れ半分と確認の念を込めて訊ねた。

 彼女の「女尊男卑」の価値観は相当根深いらしい。

 彼女が高圧的なのは実力ではなく、物珍しさで織斑さんの弟さんを選んだ周囲に対しての反発があるのは予想できていたことだ。

 

「ええ!そうですわ!

 まったく、どうして不潔で野蛮で軟弱な男などをクラスの代表などに……!!」

 

「……ん?」

 

 オルコットさんの私の問いに対しての肯定に私はどこか妙な感じがした。

 私が違和感を感じたのは彼女が抱く男性に対する価値観だ。

 クラスの大半が抱く男性への考え方はただの「嘲り」だった。そこにあるのは中身がない。しかし、オルコットさんのものは「嘲り」と言うよりも、むしろ、「嫌悪」に近かった。

 それもただの「嫌悪」ではない。

 彼女のは経験から来るものに感じる。

 

「なるほど……それを聞いてなおさら負けるわけにはいきません……!」

 

 私は彼女の込められた感情に触れたことでさらに決意を固めた。

 

「何ですって?」

 

 私の煽り文句に眉を顰めて彼女は睨んできた。

 私はそのまま彼女の心を揺さぶろうと口を開いた。

 

「確かにあなたの言う通り、一週間前の彼の態度は見ていてイライラするものでした」

 

 正直に私はオルコットさんに織斑さんの弟さんに対する感想を吐いた。

 戦う力があるくせにそれを自覚せずに先にしておくべきこともしなかったことやオルコットさんの挑発にすぐに乗ったこと、何よりも相手を女だと思って「ハンデ」と言って見下しながらも周りからの嘲笑で食い下がりもしなかったこと。

 あれだけの情けない姿を見せられて誰が好意的な目で見れるのかを逆に訊ねたいところだ。

 

「でも……」

 

 しかし、それでも私は言いたいことがあった。

 いや、これだけは言わなくてはならないことだ。

 

「だからと言って、男の人を全員見下していいことにはなりません……!!」

 

 なぜならば、私は知っているからだ。

 あの男たち(・・・・・)のことを。

 海を「深海棲艦」に奪われて居場所を失った海の(つわもの)たちを。

 彼らは腐ることなどなかった。

 彼らのは誇りは決して奪われることなどなかった。

 そして、彼らは悔やんでもいた。

 私たちを戦わせることを。

 だけど、それでも彼らは命を懸けて私たちと共に戦い海を渡ろうとした。

 己の魂を高く持ち続け、私たちと肩を並べて、私たちが守ることを信じて。

 だから、私たちも彼らを信じた。

 そんな彼らのような人を知らない人間が彼らまでもを侮辱することになる言葉を出し続けるのは我慢できない。

 

「何を……」

 

 私のその叫びにオルコットさんは私の言っている意味が理解できないらしい。

 

「それに……」

 

 だが、私はそんな彼女の様子を気にせず

 

「「あの人」のことまで馬鹿になんてさせません!!」

 

 私は彼女に思いの丈をぶつけた。

 私の司令であり、私と磯風たちにとっての父親であり、そして、私の初恋の人。

 彼は強くも弱くもあった。

 でも、そんな彼だからこそ彼の奥さんや金剛さん、飛龍さん、私や磯風たちも好きになった。

 そんな彼を侮辱するのは許さない。

 

 それに……見ていて痛々しいです……

 

 何よりもオルコットさんの姿はどこか痛ましかった。

 彼女はただ知らない(・・・・)だけなのだ。

 私の知るような男たちを。

 

「なるほど……どうやら、わかったことがあります……」

 

 オルコットさんは私の啖呵を聞き終えると敵意を込めた眼差しを向けてきた。

 

「男に対する価値観においてはわたくしとあなたは決して相容れない!!」

 

 激昂しながら彼女は銃口を向けてきた。

 余程、彼女にとっては「男」と言うのは見下す、ないしは見下さざるをえない存在らしい。

 

「なら、私がすることは一つです」

 

 私が彼女にできることはたった一つだけだ。

 

「あなたを叩きのめすことです!!」

 

 彼女の傲慢な鼻っぱしをへし折る。

 彼女が知るべきことは「敗北」だ。

 

「言いましたわね!!」

 

 彼女のライフルを握る手に力が入るのが理解できた。それに対して、私も単装砲を向けた。

 

―試合開始ー

 

―ズドン!ー

 

―キュインッ!ー

 

 そして、試合開始の合図と共に互いの得物から弾丸とビームと言うそれぞれの砲火が放たれ私たちは共にそれを回避した。




これからの展開的に
セシリア戦→戦闘後幕間→一夏戦になると思います。

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