奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い   作:オーダー・カオス

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第23話「歪が招く矛盾」

「織斑……

 だが、これからどうするつもりだ」

 

「う……」

 

 三人が会長のしようとしていることに対して反感を抱かないことを表明した後、一人だけ暗い表情を浮かべていたラウラが現実を突きつけてきた。

 

「そうですわね。

 確かにわたく納得したところで」

 

「その選択を選ぶのはあくまでも会長の妹よね……」

 

「僕らに出来ることは……」

 

「……ないな」

 

 そう。

 俺が出来ることと言えば、今回の様に予め会長がしていたことを打ち明けることぐらいだ。

 話したとしても会長とその妹への反感を和らげることは出来たとしても、俺たちが納得するだけで会長たちにしてあげられることはない。

 あくまでも会長は妹の意思を尊重したいだけだ、

 そこに俺たちが介入することは出来ない。

 

「妹さんに何かしらの手伝いをするってことはそれって戦いに巻き込むことと変わらないよね」

 

「ああ。間違いなくな」 

 

 シャルの言う通り、ここで更識に何かしらの協力をするということは「専用機」の開発を手伝うということだ。

 つまりは「専用機」がなかったことで今までは「代表候補生」として半ば扱われることがなかった宙ぶらりんの状態から抜け出すということだ。

 本人にとってはそれは今の段階では好ましいことだ。

 しかし

 

 

「……それはフェアではありませんわ」

 

 それは絶対に後で更識を裏切ることになる。

 俺たちは既にある程度の事情を知っている。

 対して、更識はそれを知らない。

 知らさないで避けられない戦いに引き返せない状態に置かれるのはいくら何でも酷すぎることだということを全員が感じている。

 

「あ~……分かっているけど、それでも人でなしなことなんて出来ないわよ……」

 

「うん。僕は少なくとも無理」

 

 鈴とシャルは断固として会長の妹を巻き込みかねないことに反対した。

 鈴からすればほぼ詐欺紛いの行動は容認できないことだ。

 シャルからすれば、かつての自分と同じで平穏に生きられたにも拘わらず他人の思惑で人生を狂わされるようなことを強制することは許せるはずがない。

 

「……私は出来れば参加してもらった方がいいと思っている……」

 

「ラウラ!?」

 

「ちょっと、何考えてんのよ!?」

 

「そうですわ!?」

 

 その中でラウラは消極的に、いや、ただ願望だけを伝えた。

 

「……私達の目的はお義姉様を助けるということだ。

 その目的に関してならば、どちらかと言えば更識が戦いに加わることは求められる」

 

「うっ!?」

 

「そ、それはそうだけど……」

 

「でも……!?」

 

 そうなんだよな……

 

 ラウラは反対意見の中で軍人としての判断から俺たちの『雪風の助けになりたい』という目的の為には更識が戦いに加わっていくことがその可能性を少しでも高めることを冷静に告げた。

 実際、ラウラの言う通り、俺たちからすると会長の妹と雪風とでは優先順位が違う。

 雪風の力になりたいのなら、ほど赤の他人である更識は戦いに参加させた方がいいのに決まっている。

 

「……だが、それはきっとお義姉様が最も嫌うことだ」

 

「!」

 

「ラウラ……」

 

 しかし、ラウラは自分が最も助けたいと願う雪風がそれを最も望んでいないことにも言及した。

 実際、雪風もそんなことを知ったら、いや、そもそも俺たちが今していることを知ったら怒るだろうし、泣くだろう。

 

「八方塞がりね……」

 

「ええ」

 

「うむ……」

 

「だな」

 

 結局の所、自分たちの中での納得は出来たし、これで拗れる様な事はなかった。

 しかし、その後の具体策は思い付かないという状態である。

 

「でも……今はそう思えるだけいいのかもね……」

 

「う……そうね……」

 

「大切なのですわね……」

 

 話しても信じてもらえない。

 話したことで逆に巻き込みかねない。

 どっちにしてもこの状況を打開することは出来ない。

 分かった事は今はこう考えることが出来ることも、気付けることも、それを嫌がる余裕があるということぐらいだ。

 恐らく、これから始まる戦いは戦争は戦争の中でも悲惨なものになるのだろう。

 ある程度、お互いに疲弊し切ったからもう止めようと思える戦いなどではなく、どちらかが滅びるまで戦い続けるものだ。

 

 俺たちは忘れたくないな……

 

 きっと、その戦いの中で多くの大事なものを失い、すり減らしていくことになる。

 そんな中でも人間としての心は残しておきたいと思うのは傲慢なことだろうか。

 綺麗事であったとしても。

 

 

「……ごめんなさい。

 虚ちゃん、本音ちゃん」

 

「お嬢様……」

 

「謝らないでよ……」

 

 私はいつも自分のわがままに付き合ってくれていた二人の幼馴染に謝った。

 私のせいで二人も簪ちゃんとの間に溝が出来てしまった。

 きっと春までなら二人はここまで憎まれなかっただろう。

 けれども、私は二人にも決定的な溝を作ってしまった。

 

「ゆっきーを口実にしちゃったのは……

 その悪いことだけど……」

 

 簪ちゃんが私達を憎んだ最大のきっかけは雪風ちゃんを利用したことで完全な意味で専用機の完成が中止同然になったことだ。

 それに加えて、本音ちゃんは雪風とも親しくしている。

 今までは多少、苦手意識が在った程度だったが、最早それは憎悪になってしまった。

 

「……どうして、こうも間が悪いのでしょうか……」

 

 虚ちゃん苦虫を嚙み潰したよう表情を浮かべた。

 そう。本来なら憎まれるだけで良かった。

 あの子が平穏無事であるのならそれだけでよかった。

 たったそれだけで私は救われた。

 だけど、今は最悪だ。

 

 話なんて……

 聞いてくれないわよね

 

 私はあの子の判断に任せたい。

 その結果、どっちの道に向かってもあの子の好きな様にさせたい。

 けれども、今はそれすら不可能になっている。

 先ずはこれから始まるであろう恐ろしい戦いをあの子に教えなくてはならない。

 あの子が知らないまま後で悔やむ様な選択だけは選ばせたくない。

 それなのに話を得る機会が掴めない。

 

 どうすればいいの……?

 

 ここに来て、本当の意味で私はどうしようもなかった。

 今まで一人で何とかしようとしてきた。

 だけど、今回ばかりは独善なんかでは済まされない状況になってしまっている。

 誰かに憎まれても自業自得だと自分に言い聞かせていた。

 虫のいい話だとは思っていた。

 

「お嬢様……

 ゆっきーに相談したら?」

 

「本音ちゃん……

 それだけは出来ないわ。

 私はあの子を利用していたのよ……

 あの子に頼る権利なんて……」

 

 そんな風に今までこんな時よりも追い詰められている私に本音ちゃんはそれだけは避けたかった。

 既に私は雪風ちゃんを利用していた。

 あくまでも雪風ちゃんのことも守る為に行ったことではあるが、打算はあった。

 それに結局は他人任せになる。

 自分の妹のことでそこまでの負担をかけるのはこれ以上は許されないことだ。

 

「いい加減にしてください。

 お嬢様」

 

「虚ちゃん?」

 

「お姉ちゃん?」

 

 私が本音ちゃんの考えを否定しようとすると虚ちゃんが私を叱るように言ってきた。

 

「……頼るのと利用するのとでは違います。

 それを何よりもお嬢様はこのまま誰かに雪風さんに自分がしてきたことを話させるつもりですか?」

 

「!?」

 

 虚ちゃんは私に発破をかけてくれた。

 その話はもう一つ、私が恐れていることだった。

 

「それは嫌よ……」

 

 そんなことは嫌だ。

 どう説明したって責めれられることは覚悟の上だ。

 けれども、誰かに話されることは嫌だった。

 せめて自分の口からちゃんと伝えたいのだ。

 

「お嬢様は考え過ぎなんです。

 自分一人で何もかも抱えてはいけません。

 頼るということは解決してもらうことではなく、自分の弱さをさらけ出して心から誠意を見せるということなんです。

 それを忘れないでください」

 

「……そうだったわね。

 ありがとう」

 

 思えば、解決の手段ばかりを求めてきたことで私は他人の心を蔑ろにしてきたのかもしれない。

 妹のこともそうだが、結局は私は色々な人々に不誠実であり続けた。

 自分が傷つくだけでいいと思いきや、その実、私は多くの人々を傷つけてきた。

 目の前の二人もだ。

 

 せめて……話はしましょう……

 今度、家のことや「専用機」持ちになるということへの覚悟を問うぐらいは……

 

 きっと今の状態では簪ちゃんとまともに話が出来るとは思えない。

 だけど、私が今までしてきたことやあの子がどうしたいのか、そして、それが招くかもしれないことだけは話しておくことにする。

 

 私のデータ……

 少しでもいいから提供しないと……

 

 どっちにせよ、あの子には選択の幅を狭めることはしないことにした。

 あの子が険しい道をえらぶのなら、その道を走れる靴ぐらいは用意してあげるべきだろう。

 

 本当は全ての「IS」に関わる人間が考えなきゃいけないことだろうけど……

 

 私の様に生まれた時から決められた立場がある人間ならともかく他の人々にも力と向き合う機会やそれに伴う運命への説明はされるべきなのだ。

 この世界の歪み。

 それは単純に「女尊男卑」や「IS至上主義」などの目に見えるものではなく、平和の中で忘れられてしまった

力がもたらす恐怖への忘却なのだ。

 

 思えば……

 兵器が兵器だと思われないで憧れること自体がおかしいわね……

 

 軍人を目指す人間と「IS」への憧れを持つ人間の大きな差はそこにあった。

 片や自分が恐怖と向き合うことを自覚でき、片やそうではない。

 その矛盾を知らない人々がどうなっていくのか気になってしまう。


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