奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い   作:オーダー・カオス

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第18話「迷いと渦巻く希望」

「『分かっているつもりだった』か……」

 

 会長の呼び出しと彼女が俺を呼んだ理由である妹の件の謝罪を受けた後、最後に彼女が漏らした言葉が頭に残り続けた。

 

 知っているのと、知るのとじゃ……

 全然違うな

 

 会長は恐らく、今までの状況の中じゃ妹を守る方法としては最も適していた手段として妹への妨害を行ってきた。

 それが妹の意思を踏みにじることだと理解しながらも。

 

 だけど……それは俺も同じだな

 

 初めて会長という大切な人間を死地に送り出すことを厭う人間を見て、俺は戦争に関わっていくということの意味を知った。

 

 何が正しいのか、本当に分からない……

 

 戦争なんてない方が絶対にいい。

 だけど、「深海棲艦」という脅威が襲来しているのだから、それを避けることも見て見ぬふりも出来ない。

 それをすれば大切な人たちや、そして、平穏に生きたい人々の営みすら奪うことになる。

 しかし、その為に誰かに犠牲を強いることは果たして正しいことなのだろうか。

 

「俺は―――」

 

「あ、一夏」

 

「―――ん?」

 

 何が正しいのかと分からず深みに沈んでいきそうになっていると、廊下の向こうから俺の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。

 

「あれ?みんな?

 どうしたんだ、そんな浮かない顔をして?」

 

 前を見てみるとそこにはまだこの時間帯なら訓練をしているであろう鈴たちがいた。

 だけど、彼女たちの纏っている空気は重苦しかった。

 

「……それはこっちの台詞よ」

 

「そうですわ」

 

 俺が全体の空気のことを訊ねるとあちらも俺の悩みを見透かしたかのように訊ね返して来た。

 

「……いや、その……

 とりあえず、俺の部屋に来るか?」

 

「……うん」

 

「そうですわね」

 

「それがいいと思う……」

 

「異論はない……」

 

 恐らく、この場で誰かに聞かれることが好ましくない内容なのはお互い様だろう。

 そのことから、俺たちはお互いの抱えている事情を部屋で話すことを決めた。

 

 

「ふ~ん?

 天龍は伝えてくれたんだね?」

 

「……ああ」

 

 織斑君が帰った後、うちは天龍と阿賀野、照月と合流した。

 そして、天龍がうちらが今鍛えている生徒たちに戦争に関わっていくことへの意義を訊ねたことを説明された。

 

「あいつら自身は覚悟……というよりも勇気があることは理解できている。

 だが、あいつらは自分たちを思う人間がどれだけ自分を思ってくれているのかを分かっていないところがある。

 そして、自分たちが傷つくことで生まれる悲しみと苦しみもな」

 

「そうだね」

 

 天龍の言う通り、あの子たちには勇気がある。

 そして、友達思いだ。

 雪風の為ならば、彼らは平気で自らを犠牲に出来るだろう。

 しかし、それは一方的なのだ。

 他者に対しての感情はあるのに他者が自分に向ける感情をつい、忘れてしまいがちだ。

 そういう優しい子たちなのだ。

 

「で、お前らはどうする?」

 

「え!?

 そ、それは……」

 

「う~ん……」

 

 うちと天龍がこの世界の子らとのことに関して話し合っている中、うちは先ほどから黙っていて話を聞いていた阿賀野と照月に意見を求めた。

 この二人は今日の天龍の質問が理由でほぼ巻き添えで訓練を中断させられた。

 そのことから二人の話を聞いておくべきだと思ったのだ。

 

「……悪いな、二人とも。

 巻き込んじまって」

 

「え!?」

 

「で、でも……」

 

 天龍は先ずは二人に謝った。

 そもそも今回のことに関しては何時かは訊ねなければならないことではあった、

 けれども、目の前の二人を含めたうちら艦娘には質問の内容が当て嵌まる要件が揃ってない。

 だから、ある意味では二人はとばっちりを受けたも同然なのだ。

 

「二人とも、今回のことをどう思った?」

 

「……?」

 

「どうって……」

 

 うちはうちら艦娘の中で経験の浅い二人に今回の件で感じたことを訊ねた。

 これはこの二人、いやうちら艦娘全員にとっても大切なことだからだ。

 

「それはその……

 心配してくれる人がいていいな~って」

 

「うん。

 それとそういう人たちがいることも忘れちゃいけないですよね?」

 

 満点の回答だった。

 二人は羨むことはあったが決して、妬むことはなかった。

 

「二人がそう思える娘たちで本当に良かったよ」

 

「ああ……

 きっと、お前たちは強くなる」

 

「え?」

 

「あ、ありがとうございます……?」

 

 そのことにうちと天龍は心の底から喜びを感じた。

 二人はうちらの称賛に対して、虚を突かれた表情を浮かべた。

 二人はまだよく理解してないようだったが、今、二人が感じた感情は非常に大切なことなのだ。

 そして、それは忘れてはならないことなのだ。

 

 ……この世界の人たちはどう思うか……

 

 しかし、それでも元々守るために生まれてきたうちらと異なり人間の人々は違う答えを出すだろう。

 人にはそれぞれの生きる道がある。

 その中で戦う力を持つ者は否応にも周囲から戦うことを期待され、望まれていくことになる。

 仮令、それが同じ人間であろうとも。

 

 

 うちらも気を付けないとね……

 

 ただその希望と期待は時として危険なものとなり得る。

 目の前の二人が知らないであろうもう一つの悪意。

 そのことも覚悟しなければならない。

 

 どうか……

 この娘たちとあの子たちが負けないように……

 

 うちはどの様な選択をしても悪意の渦にこの娘たちとあの子たちが呑まれず挫けない本当の強さを持つことを祈った。


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