奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い 作:オーダー・カオス
「私は……うんうん。
私が当主を務めてる更識という家はこの国における各国からの諜報活動、つまりはスパイ活動を取り締まる役割を代々担ってきた家なの。
言うなれば、対暗部のための暗部と言った訳。
だから、今回はあなたが情報を管理できているか確かめさせて貰ったの」
「え!?は!?」
またしても会長の口から出てきた衝撃のカミングアウト。
何と目の前の俺と一つ、二つしか変わらない筈の生徒会長はとんでもないもう一つの要職を担っているらしい。
いやいや……
見た目や年齢が当てにならないのはもう雪風たちのことで……
一瞬、年齢を理由にそれはないと思いそうになったが、既に雪風たちという生まれたときから軍人だった例外などを多く見てきたことからその認識を改めようとするが
いやいや……
あっちはある意味、そういった風に生まれてきたからそうなったけど……!
いや!?それは艦娘の人たちを馬鹿にしているような考えだよな!?
どう判断すりゃあいいんだ!?
俺は迷ってしまった。
俺のこういった考え方は雪風たちを悲しませる考え方になるはずだ。
どう考えればいいのか本当に困ってしまった。
「あっはははははは!!
いいね、織斑君。やっぱり君の人間性は信頼できるよ」
「え?龍驤さん?」
俺がどう言えばいいのか悩んでいると龍驤さんは大笑いしてきた。
「織斑君。
今、君は更識の年齢から『そんな役割をしているなんて』と思ったけどそれを言うのは失礼だと思ってたよね?
それでその後にうちらのことを引き合いに出して納得しようとしたけど今度は艦娘と人間の違いでうちらに失礼だと思って悩んだ……
違うかな?」
「うっ!?」
す、鋭い……
龍驤さんには全てお見通しだった。
俺は失礼を通り越して、彼女たちを傷付けかねないことを考えていた事実に罪悪感を感じたが
「ありがとうね」
「……龍驤さん?」
告げられたのは責める言葉でもなく感謝の言葉だった。
「うちらはまあ……普通の人間と違うからね。
生まれも、多少の能力も……
そこは決して変えられない事実だよ」
「……っ!」
「「………………」」
頭の何処かでは分かっていた。
艦娘と人間は一見すると同じ様に見えるが、ちょっと違う存在なのだという事を。
笑いもする。
怒りもする。
泣きもする。
だけど、生まれは全く違う。
でもそれを言ってしまえば、自分が彼女たちを人間扱い、いや、正確には同胞ではないと考えているのではと思ってしまって受け入れられなかったのだ。
「……でもね。
それの何が悪いのかな?」
「……!」
しかし、龍驤さんは俺の懸念に対して、その事の何が悪いのかと答えた。
「確かに生まれは君らとうちらは違う。
だけど、君らと感情を共有できるし、絆を育むことも出来る。
それに君らが抱いている認識には侮蔑が込められている訳じゃないのは分かるよ。
だから、安心していいんだよ」
龍驤さんは俺たちは悪意がないから別に気にしないと言ってきた。
それでも、何処か彼女は悲しそうだった。
もしかすると……
あっちの世界で何かそういうことがあったんだろうな
今まで俺たちは雪風たちのいた世界の人々は艦娘に対してあまりそう言った悪意を持っていなかったと思っていた。
彼女たちがここまで人間たちに対して、善意を向けてくれていたからそうだと思っていた。
しかし、何割かは彼女たちに謂れのない悪意を向けていた人間もいたということだろう。
「IS」の登場で立場が悪くなった男たちが女に対してそう言った感情を向けていることもあったしな……
いや、それでも前提が違うよな
確かに同じ様に力を持つ相手に対しての妬みの感情を持っているという点では同じだろう。
けれども、こっちの世界の場合では実際に戦争をやって命の危機に自らを投じている艦娘と違って、「女尊男卑主義者」や「IS至上主義者」の人間は特権の恩恵の中にいる。
そんな人間たちと雪風たちを一緒にするのは俺は嫌だ。
一方的な悪意と自らに還ってくる悪意とでは全く違う。
「……とりあえず、更識がそういった立場に君らと一つ、二つしか年齢が変わらないのに就いていることに対して疑問を感じるのはいいことだと思うよ?
うちらはそう言う風に生まれて来た。でも、更識は人間の中で特殊な生い立ちをしている。
だから、それを一緒に出来ないのは仕方のないことだよ。
少なくともうちは気にしないよ」
「だ、だけど……」
俺は二つの意味で龍驤さんの言葉を素直に受け止められなかった。
一つ目は艦娘だからと言って、彼女たちが戦うのは仕方のないことだと僅かに決めつけそうになっていたこと。
二つ目は目の前の会長をそのことで年齢のことで馬鹿にしてしまったかもしれないことだ。
もしかすると、会長は年齢で自分が今みたいにその立場に相応しくないと不快な気持ちになったかもしれない。
「はあ~……
雪風ちゃんや本音ちゃん……川神先輩の言う通りの子ね。
いい人ね。あなた」
「え?川神先輩?
どうして那々姉さんのことを?」
責められると思っていたのにいい人だと言われたことと雪風やのほほんさんのことは分かるが、会長の口から那々姉さんの名前が出てきたのが意外で戸惑ってしまった。
「あ~、入学前からあの人には鍛えられていてね。
だから色々とあなた達のことを聞かされてたのよ」
「え!?」
意外な繋がりだった。まさか、那々姉さんまでもが彼女と知り合いだとは思わなかったのだ。
「……でも、心配ね」
「……はい?」
掴みどころのない会長の言葉に再び俺は戸惑った。
人柄を評価すると言ってきたのにそれに対して、今度は「危うい」と言ってきた。
どういうつもりなのだろう。
「……更識。
もっと単刀直入に言ってやりなって。
意地悪だよ?」
「すみません。
率直に言わせてもらうわ。
あなた……いいえ、あなたの人の良さを利用してくる人間はこれから増えてくるわ。
そこだけは気を付けて」
「……!
わかりました」
ようやく、先ほどの抜き打ちテストの理由が分かった。
つまりは幸いなことに俺は人柄は評価されているが、それでも人の言葉を鵜吞みにしやすいと思われているのだろう。
確かにもしかすると、さっきみたいに友人の友人を偽ってくる相手がいるかもしれないだろうし、逆に友人への信頼を損なわせる相手も出てくるかもしれない。
「それともう一つ、あなたを呼んだ理由を言うわ。
こっちの方が本来の理由なのだけど」
どうやら、ようやく俺を呼んだ本当の理由を言ってくるらしい。
「……私の妹のした非礼をあの子に代わって謝らせて。
ごめんなさい」
「えっ!?」
会長は深々と頭を下げた。
そこには他に隠された意図もない純粋な謝罪だった。
彼女はあくまでも妹のことで俺に謝罪をしたかったから俺を呼んだらしい。
「いえ、それは―――!!」
俺は会長が謝る必要などないと思って頭を上げる様に言葉を続けようとした。
いや、そもそも、いきなりビンタをされていたら多少は会長の妹への反発はあったかもしれないが、それはラウラが止めてくれた。
それにあの子の怒りには確かに道理があった。
だから、会長の謝罪は求めていないし、欲しくもなかったのだ。
俺だって千冬姉が自分の代わりに頭を誰かに下げたら嫌な気持ちになる。
きっと、それは彼女の妹だって同じはずだ。
「うんうん……
あなたや雪風ちゃん、そこにいる本音ちゃんにあの子がああいった態度を取ってしまっているの間違いなく私が全ての原因なの」
「―――何だって?」
しかし、会長の言葉に俺は耳を傾けざるを得なかった。