奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い   作:オーダー・カオス

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第10話「背負う役目」

「しっかし、難儀なものだね。

 家長制というよりも、名門の世襲って」

 

「そうだな。

 それに俺らの時代じゃ父親や長男が家や家族を守らなきゃならないって考え方だったがこの世界じゃそういうの関係なしにその立場に就くのも不思議な感じだな」

 

「そういう社会の変化もあるってことかな?

 今度、雪風に戦いが終わった後の世界の変わり様を訊いてみようかな?」

 

 更識から妹のことと未完成とはいえ、俺たちにも隠していた専用機のことの話を聞かされて指摘すべきことを指摘し終えた後、俺と龍驤は更識が背負う当主としての責任について考えさせられた。

 俺達、艦娘は姉妹しかいないことから姉ならば妹を守るという認識はあったにはあったが、俺たちの生きた世界の人間の多くは父親や長男が家や家族を守ると言う考えが強かった。

 しかし、この世界ではそういった考えは女性の社会的地位の向上を切っ掛けに薄れ、加えて、「IS」の存在により「更識」の様な代々の役目を持つ名門の当主という家や家族を守り、役目を果たすという立場を女性が全うする様になっている。

 それは社会の変化の表れだろう。

 少なくても俺たちの生きていた時代ではその立場に女性が任されることは想像できないだろう。

 

「……提督たちもきっと今、うちらと同じことを思っていたんだろうね」

 

「ああ……」

 

 同時に俺らは生まれて初めて提督たちの気持ちを理解させられた。

 

「……『お前たちの様な女子を戦わせるなんて』。

 初めて聞いた時は馬鹿にされていると思ったがな……」

 

 提督を始めとした帝国軍人たちの多くは俺達が戦場に出ることに戸惑いを見せていた。

 そのことに対して、反発を覚えていた艦娘も多くいた。

 特に武人肌の長門や一見冷静に見える加賀はそれが顕著だった。

 女の姿をしていることから戦わせることに戸惑いを覚えられた。

 はっきり言えば、馬鹿にされていると思ってもいた。

 だけど、それは違ったのだ。

 

「……泣いてくれたからな、あの人たちは」

 

「……うん」

 

 あの時代に共に戦ってくれていた男たちは泣いてくれていたのだ。

 俺たちが傷付き、倒れ、死んで逝く。

 そんな中であの男たちは泣いてくれた。

 ようやくそれで分かったのだ。

 あの男たちは本来自分たちが背負うべき役割とそれに伴う苦しみを俺たちに背負わせてしまっていることへの悔しさと無力感から泣いてくれていたのだ。

 俺たちを侮ってなどいなかったのだ。

 

「親の苦労が親になって分かる子供の気分だね」

 

「全くだ」

 

 そして、更識の今の状況はまさに昔の俺たちだ。

 女だからという理由であの少女があの立場にいることが決して不釣合いなどという訳ではない。

 女であろうとその資格があるのならば、当主になるのは自然の理だ。

 この世界じゃ「IS」を扱うことが当主にとって大きな利点になると言うのならば全くおかしい話ではない。

 

 ……お前もまだ守られるべき子どもだろうが

 

 だが、あのまだ少女としか言いようのない年齢の人間が社会の闇や人間の業と向き合い、心が休まらない場所に身を置いていることが悲しかった。

 それも自分が憎まれても愛する妹を守りたいという一心の下であの少女は動いている。

 

「……本当に気付いたのがうちらで良かったね」

 

「ああ」

 

 龍驤は今回の件で露見したのが俺達、艦娘で良かったと発言し俺もそれに同意した。

 もし、人間の誰かにばれれば、間違いなく更識は身内贔屓だと糾弾されていただろう。

 

「驕りだとは思うが、俺ら艦娘は人間と違って割り切っているからな」

 

 露見したのが人間。それも不特定多数の人間だったら更識は必要以上に人間の業に晒されていただろう。

 それは俺達が人間を見下している訳じゃない。

 生まれ持った価値観から俺たちは戦いに自分の身を投じるのは特別なことじゃないと考えること出来る。

 しかし、人間は違う。

 人間にとっては戦いは乱世の時代じゃない限りは非日常的なことだろう。

 そして、「更識」の様に戦いに身を投じる役目を持つ家に生まれた人間がそれを拒否すれば、それを糾弾することになる。

 そこに自らの家の権力を加えれば尚更だ。

 

「……俺たちは責める気には……いや、責めたくないな」

 

「うん……むしろ、応援したいよ」

 

 だが、俺たちはむしろ更識にはその我欲を貫いて欲しいと願ってもいる。

 

「あいつのやり方は間違っている。

 でも、あいつの願いは決して間違ってなんかいない」

 

 はっきり言えば、更識のやり方は非難されるべきことだろう。

 自らの地位を使い、姉として妹を傷付け、周囲にその尻拭いをさせる。

 それを『間違っていない』など擁護する方が難しい。

 しかし、その願いはたった一人の妹を守りたいという純粋という想いが根底なのだ。

 

「それを否定するということはうちらが守りたいと願ったものを否定しちゃうことになるよね」

 

 龍驤の言う通り、更識の願いを否定することは俺たちの願いを否定する事だ。

 

「あいつはもう戦っている。

 それなのにこれ以上、差し出せなんて言う方が間違ってんだろ」

 

「うん。そんなの既に戦ってくれている軍人に『お前の家族も戦場に出せ』て言ってんのと変わらないよ」

 

 既にあいつは自らを戦いの身に投じている。

 それはあいつが守りたいと願う愛する者の為にだ。

 戦う人間の主な理由は生まれ持った役目か、食い扶持を稼ぐ為か、守りたい者の為に戦うかだ。

 その守りたい者まで差し出せというのは明らかに間違っている。

 願いを根本から否定する押し付けを目の当たりにしたら俺たちだって腹が立つだろう。

 

「……復讐に駆られる奴は否定しない。

 だが、誰かを復讐に走らせるかもしれない原因を作るのはあっちゃならねぇだろ」

 

 最悪、妹まで戦場に出て死ぬことになれば更識は全てをかなぐり捨ててでも復讐の鬼になる可能性もある。

 自分の幸せを拒み、ただ相手を滅ぼす。

 その為に多くの犠牲を厭わなくなる。

 愛する者の存在はそれを止める楔でもあるのだ。

 

「……雪風はその分、強かったね」

 

「……ああ」

 

 雪風がその道に走らなかったのは奇跡なのだ。

 姉妹を始めとした大切な者を奪われ続けても怒りと憎しみに呑まれないで狂わなかった。

 あいつは深海棲艦を憎んでもいても、それ以上に守ることを優先した。

 本当に強い奴だ。

 

「……だけど、もう遅いんだよな……」

 

「うん……」

 

 しかし、もう更識は手遅れだ。

 妹を遠ざける筈だったのに、あいつのその願いは叶わないだろう。

 

 お前はそう言うところは鈍い……楽観的過ぎたんだ

 

 たった数日でしかないが、俺は多少は更識という人間を理解した。

 あいつは現実を見ることが出来るのに、愛があり過ぎることでその眼を曇らせてしまった。

 それはもう取り返しのつかない所まで来てしまった。

 最悪で、そして、美しく尊い形で更識はつけを払うことになるだろう。


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