奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い 作:オーダー・カオス
と言うか、多分これからたびたびあるかもしれません
―ヒソヒソー
あ~あ……誰も声をかけないでいますよ……
クラスの紹介が中途半端に終わり、そのまま一時間目の授業に入ったことでクラスの親睦を深めることが完全に個人間に委ねられたのだが、そう言った「当たり前」のことよりもクラスの誰もが私の護衛対象の少年を遠巻きに見ているだけであった。
これではクラスの団結とか以前の問題ではないのか。
たまに彼が近くの人間に声をかけてもすぐに隣の人が億劫になってしまって彼がクラスに打ち解けるきっかけすらもない。
「ゆっきー……これ、まずくないかな?」
と私に小声で語りかけて来たのは私のルームメイトでありこのクラスにおける「助手」であり、布仏さんの妹である布仏 本音さんであった。
彼女とは一週間前にこの任務に就く前に更識さんと布仏さんの紹介で出会ったばかりでお互いの親睦を深めるために一緒に外出して私の私物や私服を購入したりとしている。
なんとなくだが、彼女も更識さんとは違う意味で時津風と似ている。
更識さんが活発な時津風なら、本音さんはのんびりしている時津風だと思う。
「そうですね……このままではクラスの中で彼が孤立しかねません」
そもそも31人いる生徒のうち、たった一人だけ男子と言う時点で仕方ないのかもしれないがこれはまずい。
今、この場では誰もが緊張感、羞恥、そして牽制によって手を出せずにいる。
彼の存在は思春期の女子、しかも、ある意味女学校とも言えるこの学園においてはとても大きな意味になる。
さらにそこに拍車をかけているのは彼の容姿だ。
「司令」ほどではないが顔が整っている。
軍に入ったら恐らくは漢前になるだろう。
ただ我ながら未練がましいとは思うが既に既婚者である「司令」一筋の私はなびくことはないが。
ここで私か本音さんが接触すると言う手もあるにはあるが、護衛対象に護衛が不必要に接触するのはなるべくなら避けたい。
仮に護衛の役目がなかったら声をかけるが。
そうして、自体が膠着していると
「……ちょっといいか?」
「え?」
長髪のポニーテールの救世主が現れた。
「ゆっきー、あれは……」
「ええ……篠ノ之さんですね。
これは助かりました」
織斑さんの弟さんに声をかけたのは私のもう一人の護衛対象であり、彼の幼馴染である篠ノ之 箒さんだった。
彼と彼女の関係については更識さんから渡された資料で把握している。
もちろん、彼らの姉同士の関係についてもだ。
どうやら、二人にとっては久しぶりの再会らしく篠ノ之さんが思い切って声をかけたらしい。
そんな幼馴染同士の逢瀬を観察していると
「ねえ、ゆっきー……
おりむーなんか睨まれてるんだけど」
「そうですね……と言うか、本音さん。
私の時もそうでしたが会って間もない人のことをよくそうやって呼べますね」
私は本音さんの順応性の高さにツッコミを入れながら、なぜか久しぶりに再会した幼馴染に対して睨みだした篠ノ之さんの様子に多少、違和感を感じた。
「あ、どうやら二人とも廊下に出るらしいよ」
「そうらしいですね……
ま、久しぶりの再会なのでしょうから積もる話もあるのでしょう」
どうやら二人は廊下で二人きりで話したいらしい。
しかし、周囲の女生徒たちも多少野暮ながら二人の会話が気になるようで聞き耳を立てようと廊下の近くに集まった。
「少し、無粋ですがこれはチャンスです」
「そうだね」
クラスの大多数の人間が二人に耳を傾けたことで私たちが二人に注目しても不自然ではなくなった。
彼らにとっては気の毒かもしれないし、六年ぶりとも言える再会に水を差すような真似はしたくはないがこちらもこの世界でできた
『妹のことをお願いします』
本音さんの姉である布仏さんと更識家の当主で彼女らの主人である更識さんにも頭を下げられているのだ。
本音は護衛ではなく監視を担当している。
しかし、万が一の時は彼女にも危険が及ぶ可能性もあり得る。
そうならないためにも私はなるべく目立とうとも思っている。
ただでさえ、私の「監視」と「補佐」を担当もしているのだ(ちょっと、性格がマイペースで不安にもなるが)。
私の体面や美学を気にしている暇などはない。
そして、廊下の二人の会話と互いの表情を気にしていると
「ふむ……どうやら、彼女が織斑さんのことを睨んでいるのは一種の照れ隠しのようですね」
篠ノ之さんは普通なら理不尽極まりないことで声を荒げて織斑さんの弟さんは戸惑っているようだ。
ただ彼女の表情を見てみるとどうやら隠しきれていない嬉しさが滲み出ているのが読み取れる。
邪推かもしれないが、もしかすると彼女は彼に対して好意を抱いているのかもしれない。
「え?それ本当?」
「えぇ……私の同僚にもああ言った人はいましたので……」
それにお姉ちゃんも……
二水戦旗下の駆逐艦は直属の上司である呉の提督に対して基本的に二つの態度で接する。
一つはただ純粋に敬愛し素直に好意を示す。
朝潮ちゃんや荒潮ちゃん、大潮ちゃん、天津風などがそうだった。
もう一つはそっけなかったりかなり厳しい口調で接する。
こっちは満潮ちゃん、霞ちゃん、お姉ちゃん辺りがそうだろう。
ただし、後者の方も実は提督に対してかなりの好意を抱いてるのだがやはり自分が尊敬する提督なのだから名提督になって欲しいと言うのが動機だ。
ちなみに私は呉提督のことは上司としては尊敬していたが私が異性として意識したのは佐世保の「司令」だけである。
う~ん……でも、あれじゃ逆効果だと思うんですけどね……
しかし、そんな素直になれない同僚や姉妹たちを見てきたこともあるのでそう言った感情に理解はいくし、思春期の女の子だからある程度の気恥ずかしさをコントロールするのが難しいのは解る。
この私だって「初恋」をしてもいたのだし、中華民国では多くの部下や教え子のそう言った相談にも乗っていたのだからある程度のことは推測できる。
ただあの様子だと脈を作ることすらも無理だ。
そもそも呉の提督だったからよかったんですけどね……
つんけんしていた部下の駆逐艦たちのことを呉の提督が嫌いにならなかったのはひとえに呉の提督の器の大きさと彼もまた元「二水戦所属の水雷屋」だったからだ。
水雷屋の特徴は基本的に軽口をたたき合うがそれもある程度の慣れ合いでもあるのだ。
水雷屋はお互いに軽口を目の前で叩き合って初めて水雷戦隊になる。
そこから鉄の結束を生み出すものなのだ。特に「二水戦」はそれが顕著だ。
そのため、私は箒さんが仮に目の前の少年に恋心を抱いているのならばとても不安に感じた。
あの態度で自分が恋心を抱いているのだから気づけと言われても困るだろう。
『私はね……別に提督が私のことを嫌いでもいいのよぉ……
そもそも……自分の口の悪さぐらい自覚してるし……』
最も二水戦で口調が厳しい霞ちゃんすらもレイテで多大な犠牲を払って「シーレーン」を確保してさらにはハワイの米軍とも連携可能になった後、本土に帰還する途上で台湾近くで私と酒を酌み交わしていた時にこぼした本音でそう言っていたのだ。
―キーンコーンカーンコーンー
と若い二人の様子を見て私が老婆心を抱いていると休み時間の終わりを告げるチャイムが響いた。
「席に戻りましょうか」
「そうだね~……」
メリハリはつける。
「二水戦」でそれを学んだ私はなるべく授業が始まる前に席に着こうと思った。
周囲の人たちも同じように着席しようとしており、護衛対象二人も再び素直になれずにいる篠ノ之さんが少しつんけんしながら先に教室に戻り、織斑さんの弟もその態度に戸惑いながらも戻ろうとしていた。
問題は……如何にして、普通のクラスメイトとして接するかですね……
私は今後どうやって件の二人に接していくか非常に困ったが、私には本音さんと言う協力者がいる。
彼女の性格ならば問題がないだろう。
ある意味、更識さんの人事は見事だろう(本音さんはデスクワーク苦手ですし)。
と今後のことを考えていると
―パアンッ!ー
「……え?」
再びあの音が聞こえてきた。
「とっとと席に着け、織斑」
「……ご指導ありがとうございます。織斑先生」
音のした方を見ると再び出席簿を手に持った織斑さんと頭を押さえている彼女の弟さんの様子から何があったか理解できた。
どうやら、
そのまま何事もなく織斑さんは教室に入ろうとした。
「……何をしている
「………………」
―ざわざわー
私はいつの間にか席から立って彼女の前に立ちはだかってしまった。
そんな私の態度にクラス中の人間がざわつき出して一瞬戸惑いの表情を見せたがすぐに公衆の前だからと言ってすぐに平静さを取り戻してどうやら彼女の素らしい不遜さで私と向かい合った。
これについては私も問題ない。
そもそも人には個性や性格と言うものがある。
これが彼女の素ならば私はそれも許容範囲内だ。
だが、そんな私にも我慢ならないことがある。
すいません、更識さん、布仏さん、本音さん……
目立つような真似をして……でも、どうしても何かをしないと気が済まないんです
私は依頼者と友人、協力者に対して心の中で詫びてから
「織斑先生、授業妨害を承知で質問したいことがあります。
よろしいでしょうか?」
一生徒にしか過ぎない私が教師に対して出過ぎた真似ではあるがそれでも私には譲れないものがある。
「何だ?」
少し、高圧的だがこれは演技だろう。
どうやら織斑さんは話は聞いてくれるらしい。
「ありがとうございます。
では、至極簡潔に言わせてもらいますが―――」
私が恩人であり担任である織斑さんに歯向かい、なおかつ護衛と言う仕事をしているにも関わらず目立つことをしているのは
「織斑さんに対する処罰の理由及びその基準に対してです」
彼女の鉄拳制裁が納得がいかなかったからだ。
「ほう?具体的には?」
て、おいおい!?
大丈夫なのか、この子!?
一時間目と二時間目の休み時間が終わりを告げて戻ろうとした矢先に脳細胞二万個ぐらいが死んだ後、その要因の千冬姉の前に立ちはだかった茶髪のセミロングの少女(確か、「やち」と言う名前らしいが)の動向が心配になってしまった。
クラスを見回してみるとやちに対して俺と同じように心配する女子やただ動揺している女子やなんか敵愾心を向けている女子など様々な反応を浮かべていた。
千冬姉もそんな彼女に対して、普通なら怯むであろう眼光を飛ばしている。
だがそれらのことをやちは気にすることなく、凛とした表情で千冬姉に向かい合っている。
なんちゅう度胸してるんだ……この子……
俺は男でありながら男以上に肝が据わっているやちに感銘を覚えてしまった。
那々姉さん以外で初めて見たぞ……
千冬姉に対して面と向かい合って歯向かっても怯むことがなかった人間は俺の知る限り千冬姉の後輩で俺も色々とお世話になった那々姉さんぐらいだ。
まるで、やちはその那々姉さんみたいだ。
そんな感想を抱いていると
「では、単刀直入に言わせてもらうと織斑さんに対する処罰の理由とその程度です」
彼女は怖気づくことなく毅然とそう言った。
「……え?俺?」
どうやら俺が千冬姉に叩かれていることに対して何かしらの不満を彼女は抱いたらしい。
辺りを見回すと今度は敵愾心だけじゃなく嫉妬の目まで加わっている。
あれか?俺に媚び売ってるとか思ってんのか?
俺は決してナルシストではないが中学時代に異性と仲の良い女子を平気で「ビ○チ」と言う連中がいたことからやちの行動に対して、嫉妬を抱く理由が理解できてしまった。
だけど、恐らくだが彼女は媚びなんて売りはしないと思う。
だって、そんなものは千冬姉相手にケンカを売るほどに得たいものとは思えないからだ。
彼女のは恐らくだが純粋な思いやりだ。
ただ俺としてはその気持ちは嬉しくはあるが、それで授業の時間が削られたり、やちが危険な目(主に千冬姉の鉄拳制裁だが)にさらされるのは俺の気が咎める。
「い、いや……やち?だったけ?
あの……俺は別に気にしていないから―――」
と本当は十分嬉しいが彼女がこれ以上俺が原因で不利益を被るのは避けたいので話を終わらせようとしたが
「別にあなたのためにやっているわけじゃありません。
これは私が納得したいから質問しているだけです」
「―――え?」
彼女はキッパリと俺のための行動ではなく、自分のための行動だと断じた。
ここまで清々しく『自分のため』と言って行動できる人間がいるのだろうか。
「……ならば、なぜそういった質問をした?」
質問をされた本人は少し興味深そうに、いや、どこか嬉しそうな表情をちょっと分かるか分からない程度に浮かべながら訊ね返した。
まるで狼が得物を目前にして喜々としているようだ。
そんな実姉の纏う雰囲気にクラスの生徒は怯えだしていた。
「理由は二つあります」
だが、そんな恐ろしい捕食者相手にやちは全く動じることなく続けようとしていた。
「先ず一つ目に私は織斑さんが叩かれた件において二つは処罰に値し他二つは値しないと考えたからです」
え!?俺、二つもあんな一撃食らうようなことしたの!?
彼女の容赦ない発言が俺は少し悲しかった。
「私は織斑さんの三回目の処罰は公私混同を防ぐためと教師と生徒の関係をはっきりさせるために必要であり、四回目の処罰はギリギリでクラスにメリハリをつけると言う点では間違ってはいないと思っています」
「ほう?」
「うぅ……」
しかし、彼女の主張に俺はぐうの音も出なかった。
確かに三回目の「千冬姉」については俺もまずかったと思うし四回目も俺ももう少しなるべく急いで座るべきだったとは思えてきた。
「ただ一回目と二回目については納得がいきません」
「……え?」
「何?」
―ざわざわー
俺は、いや、俺以外の当事者二人を除くクラス全体が騒然としだした。
ある程度のことは予測していたがこのやちと言う少女は千冬姉相手に真正面から反発したのだ。
世界最強。
千冬様。
お姉様。
クラスのさっきの反応を見れば分かるが、この「IS学園」、いや、「IS」に関わる者にとっては絶対的な存在である千冬姉相手に目の前の少女は真っ向から反抗したのだ。
それがどれだけのことなのかは「IS」に疎い俺でもある程度は理解できる。
だが、そんな完全なアウェイな空気の中でも
「一回目の件については織斑さんはこのクラスで唯一の男性です。
そして、それを含めても含めなくてもそんな彼に全員が注目すればほとんどの人間は緊張して何を話せばいいのか悩んでしまうはずです。
それを責めるのは酷です」
彼女は全く気にしないでスラスラと俺の気持ちを代弁してくれた。
そう言えば、彼女は俺がやらかした後に苦い笑いはしたが俺のことを肯定してくれていた。
この子は俺のことを……一人の人間として扱ってくれているのか?
彼女の発言はまるで俺のことを「世界で唯一の男性適合者」ではなく、ただの織斑一夏と言う俺個人を見ての言葉に思えた。
もしかすると、彼女はきっと千冬姉が相手じゃなくてもこうやって反抗して俺がやらかした本人じゃなくても擁護してくれる人間なのかもしれない。
「また、二回目の件ですが失礼ながらあのやり取りはどう見てもどつき漫才にしか見えません。
ツッコミを入れるのならもう少し力を抜くべきです」
―クスクスー
彼女の発言にクラスの何人かが失笑してしまった。
多分、彼女は真面目に言っているのだろうが、言葉が言葉だけに笑いを誘う。
と言うか、千冬姉も少しだけだが頬が引き攣ってるぞ。
この子、どれだけ勇気があるんだ。
「……それで、もう一つの理由は?」
とクラスのほとんどの人間が注目するやちの次の質問を急かした。
「はい、それは―――」
のほほんさんとの馴れ初めは番外編かけたらそこで書きたいです。
精神主義で有名な帝国海軍出身の雪風が体罰の件で怒るのは不自然な面があるとは思いますが
雪風は駆逐艦ですから割とそう言ったことには肯定的ではないと思います。
大型艦である戦艦などでは規律を正すためにやむを得ずにやるとは思いますが、駆逐艦などの場合はそう言ったことをせずとも艦長の人柄一つで一つの集団になると聞きますので。