奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い   作:オーダー・カオス

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第73話「目」

「いや~。

 驚いたよ。本当にあの子達、人間と身体スペック変わらないのにこの世界の何処のISのパイロットよりも使いこなしてるよ。

 君たちの世界って魔境?」

 

 二日間かけて行われた作戦の成功。

 本来ならば、いや、この世界に来て初めて理解出来たことだが、「深海棲艦」がいる海域では既存の通信手段が通用しない中、どうやったのか分からないが、篠ノ之先輩は作戦の経過を全て把握しているらしい。

 彼女は私の仲間達の戦闘の様子を見て、彼女らがこちらの世界における最高戦力と同等以上の戦闘力を持つことに珍しく驚いているらしい。

 

「ある意味、地獄とも修羅の庭とも言える世界でしたよ……

 ただ、それだけで言い表せる世界でもありませんでしたが」

 

 彼女の指摘に私はそう返した。

 あの世界は地獄の様に絶え間なく何度も苦しみが押し寄せる世界でそれを戦いで防ぐことを強いられる修羅道の様な世界でもあった。

 しかし、だからと言って、あの世界の人々が修羅の様に戦いを求めていた訳ではない。

 何よりも束の間の平穏に見せる人々の営みは尊いものだった。

 

「ふ~ん」

 

「……だからと言ってこの世界を戦乱の渦に巻き込む様な真似は許しませんよ」

 

「チっ……!何で分かるかな~?」

 

 今のやり取り彼女がこの世界に再び何かやらかそうとしているのを読み取り、私は制した。

 この人のことだ。

 今まで飽きていた人類であっても可能性があり、それを輝かせる手段があるとすれば平気でこの世界を地獄とも修羅道に帰ることも厭わないだろう。

 かつて「IS」の真の意味を履き違えた人類に絶望し、あの事件を引き起こした時の様に。

 この人は世界を変えることなど躊躇なく行う。

 その中で力を持たない人間や変化についていけない人間が死んで逝くことなどお構いなしに。

 

「……でも、あの「深海棲艦」だっけ?

 あれどんな物質で出来てんの?」

 

 私に考えを見透かされて先輩は「深海棲艦」のことに対して話題を変えた。

 彼女は「深海棲艦」がどの様な物質で構成されているのか興味を抱いているらしい。

 

「……生物的な部位は倒すと共に消滅し、残るのはこちらの世界にもある物質ですよ」

 

 私は自分の知る限りの情報を伝えた。

 「深海棲艦」は倒すことに成功しても、何故か生物的な部分は消滅してしまい何で出来ているのかを把握することが出来ない。

 ただ残されているのは普遍的にある金属等の元素だ。

 そのことから「深海棲艦」は現地で資源を回収し、それによって増殖していくという仮説が立てられている。

 

「ふ~ん。

 じゃあ、現地調達ってことだね。

 資源の奪い合いって人類同士じゃなくても起きるものなんだね?

 まあ、動物だって餌の奪い合いとかするもんね?

 あれれ?となると、あの肉体は何かな?」

 

「知りません」

 

 ある意味、人類の戦史の起源の縮図であると皮肉りながらも彼女は「深海棲艦」の肉体の方に興味を抱き始めた。

 もし「深海棲艦」の肉体が何で出来ているのか理解出来ていれば、私達の世界も大分楽になっただろう。

 そもそもあれらは物体であって、物体ではないのかもしれない。

 

「じゃあ、鹵獲は無理かな?

 それに交渉の余地はなさそうだし」

 

「それは無理です

 というよりも前者は兎も角として誰が好き好んで実験の被験体になることを承諾すると思っているんですか?」

 

 私の知る限り「深海棲艦」を鹵獲する試みは幾度も在ったには在ったが、それらは悉く失敗している。

 そもそも、陸地に輸送したとしてもそれらが陸での暮らしに適応して新種が生まれる危険性があることもあって、慎重になっていたのだ。

 というよりも仮に彼方と交渉出来たとしても実験に等しいことをされかねないのにそれを相手が許すとは到底思えない。

 

「ま、そうなるかな。

 それじゃあ、先ずは専用の観測装置で作るかな~」

 

「………………」

 

 この人はこういうところは賢いですね……

 やっぱり

 

 鹵獲は無理だと断言されてもこの天才は基礎である相手の観察を可能とする機材を作るところから始めるつもりらしい。

 どう足掻いても不可能とすら思える現実を目の前にしてもこの人はそれを実現させようとする手段を自らの手で作ろうとする。

 それが道徳や倫理を度外視しなければ、素直に尊敬すべき点だろう。

 

「それにしても、あのチートちゃん。

 本当にチートだね」

 

「……?

 どういうことですか?」

 

 「深海棲艦」の話題を話し終えると彼女は雪風に話題を変えた。

 私としてはどうして彼女がそこまで雪風に興味を抱くのか気になる。

 雪風はあくまでも「天才」と言っても「艦娘」という枠組みの中に入るだけだ。

 それは詰まるところ、艤装を展開すると言う点以外においてはただの強い人間と変わらない。

 それにも関わらず、目の前の彼女は楽しそうにしている。

 

「だって、実年齢30歳近く?

 いや、正確には精神年齢45歳かな?

 その経験を差し引いたとしてもあの判断力と戦闘力は人間を超えてるよ?」

 

「何が言いたいんですか?」

 

 先輩は嬉々として雪風の強さを評価した。

 確かに雪風の実力は経験で裏打ちされている点もあるが、彼女の才能に寄るところも大きい。

 だが、ただそれだけだ。

 彼女が興味を抱く分類の人間ではないだろう。

 

「ま、艦娘という生物の中では一番注目すべきということには変わりないかな?

 少なくてもビームを直前で避けるなんて芸当を見せてる時点で人間を遥かに超えてるし」

 

 それでも雪風という艦娘に興味を持つ理由は彼女には在るらしい。

 それが艦娘を測定するための基準なのかはわからないが。


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