奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い   作:オーダー・カオス

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今回、短いです。
申し訳ございません。


第52話「器の大きさ」

『艦隊旗艦、扶桑。

 帰還致しました。艦娘及びその妖精に欠員なしです』

 

「わかりました!」

 

 映像に映った扶桑さんからの報告を受けて私達は艦娘も妖精さんが全員、無事であると言う結果をようやく事実として喜べた。

 

 信じらせません……

 

 いくら小さな規模と言っても戦闘があったのにこちらに犠牲者が出なかった。

 事実となったのにそれが未だに信じられない。

 戦いには否応にも死が付き纏う。

 なのに今回は死者が出なかったのだ。

 本当に信じられない出来事だ。

 

「み、みなさん!

 お疲れ様で―――!!」

 

 全員の無事を確認した山田さんは喜びのあまり、大きな声で労いの言葉をかけようとした。

 

「―――……あれ?」

 

『「「!!?」」』

 

 しかし、その言葉は続かなかった。

 山田さんは突然、姿勢を崩してしまった。

 それを見て、この場にいる私と阿武隈さん、そして、画面に映っている扶桑さんたちは一斉に顔色を変えた。

 

「山田さん!!?」

 

「だ、大丈夫ですか!?」

 

 私と阿武隈さんはすぐに山田さんに駆け寄った。

 

「あはは……大丈夫です」

 

 山田さんは私達に笑顔を取り繕って『大丈夫だ』と返してきた。

 

 無理をさせてしまいました……

 

 その痛々しい思いやりの心に触れて私は自分たちの考えの浅はかさを痛感させられた。

 

 この人は優し過ぎます……

 

 山田さんが倒れたのは緊張状態から解放されたことで一気に心労が爆発したのが原因だ。

 ただ、それはただ緊張したからではない。

 それだけ、この人にとっては今回の出来事は重いものだったのだ。

 優しい彼女にとってみれば辛いものだったのだ。

 

 少しずつ……その少しずつが重いことに気付けないなんて……

 

 私達は彼女に少しずつ慣れていってもらおうとした。

 実際、今回の作戦は小規模だった。

 しかし、その小さな出来事でさえも彼女にとっては負担が大き過ぎるものだったのだ。

 

 仮令、犠牲者なしでも……

 この人にとっては誰かを危険に晒すこと自体が許せないことだった……

 

 私達は誰も死なせずに済んだことで山田さんの心への負担は小さいものだと思っていた。

 しかし、彼女の耐えられた負担量のことを考えていなかった。

 彼女という器に注がれる水の許容量を履き違えていたのだ。

 加えて、この人は戦いへの覚悟はあるが、誰かを危険に晒すことへの覚悟は出来ていなかった。

 それ程までにこの人は守ることに特化した人なのだ。

 

「……山田さん。

 もう大丈夫です。

 あとは私達で……」

 

「え……ですけど……」

 

「雪風ちゃんの言う通りだよ!

 後は大丈夫だから!」

 

「お願いですから、もう休んでください」

 

「……わかりました」

 

 これ以上の負担を山田さんにかけたくなく、私と阿武隈さんは後の処理は私たちが行うことを伝えた。

 

 マズいですね……

 しばらくはこっちの世界の人たちには前線に出られるまではこういった指揮を採って欲しかったのですが……

 

 今回の件で私たちは山田さんに提督としての才能があると確信した。

 しかし、それと同時に彼女にとってこの立場は致命的に向いていないことも理解させられた。

 本来ならば、「深海棲艦」との戦いに慣れている私たちが前線で戦い、この世界の人たちが実戦に赴ける様になるまでは後方にいてもらうつもりだった。

 けれども、今回の山田さんのことでそれも難しいことが判明した。

 

 ……私たちがしばらく提督役もこなすことも視野に入れないといけませんね……

 

 戦力の低下は避けられないが、いざとなれば私達が提督の役目も行わないとならないだろう。

 

 ……織斑さんは無理ですね……

 

 

 一瞬、織斑さんも考えてみたが、それを即座に否定した。

 彼女は確かにある意味では提督としての役割の重責に耐えられるだろう。

 けれども、あの人はその強気な性格故に反感を抱かれかねない。

 責任の重さを知る私達は兎も角として、それを知らない人間は反発するだろう。

 それに加えて彼女はこの世界における知名度が大き過ぎて、そういった立場に立つことも難しい。

 しがらみも多過ぎるうえに大き過ぎる。

 

 十年間……持ち堪えましたね……

 私達の世界……

 

 提督の人選を決めるだけでここまで難航している現状に私はそう感じた。

 折角、見付けた適性のある人物も耐えられるか分からない。

 提督を見付けよく私たちの世界は「深海棲艦」が現れてから十年近く持ち堪えることが出来たのだ。

 

 山田さんの為にも他の人を……

 と言いたいところですが……

 ただでさえ少ない「IS」の乗り手を減らすのも……

 

 人間大の相手と戦う相手には艦娘か「IS」が最適だ。

 そんな乗り手を戦場から遠ざけるのは戦力の低下を招く。

 しかし、今、実情を知っているのは全員、「IS」に携わる人間だ。

 

 せめて……

 妖精さんが見える人がいれば……

 

 最も適性のある人間を見付ける手っ取り早い方法は妖精さんが見える人を見付けることだ。

 しかし、それは様々な意味で運任せに等しい。

 

 これは戦う以前の問題ですね……

 

 明確な答えを得ることは出来ず、ただ課題だけが増えている。


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