奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い 作:オーダー・カオス
「せ、先輩って……」
「どういうことですの?」
天龍さんの口から出てきた先輩という単語に俺たちは今回3度目となる困惑をしてしまった。
そもそも、「先輩」といっても俺に至っては「IS」を扱ってからまだほんの数か月程度だ。
一体、どうしろと言うのだ。
「ま、今にわかるさ」
「だから、どういう―――」
俺たちが未だに天龍さんの真意が分からないでいると再び彼女は含みを持たせた言葉を返した。
「お~い、天龍」
「お、来たか!」
「龍驤さん……?」
そんな風に答えが分からないなぞなぞを出されてこそばゆい気持ちになっている時と同じ様な感覚に陥っていると龍驤さんが来た。
そして、天龍さんはそれを見て『来た』と言った。
……いや、それはないだろ
天龍さんは俺たちに『先輩になってもらう』と言ってきたが、龍驤さんに限ってそれはないだろう。
この三日間、指導してもらってわかるが、俺達と比べて断然、彼女の方が強い。
というよりも彼女は教官だ。
明らかに今、考えたことは矛盾だらけであり得ない。
となると、益々意味がわからねぇ……!
考えれば、考える程よくわからない。
一体、天龍さんは、いや、目の前の二人は何を考えているのだろう。
本当に訳が分からない。
「……ここが学校……」
「綺麗~」
「「「「「!」」」」」
龍驤さんの後ろからあまり聞き慣れない声がしたので彼女の背後を眺めるとそこには二つの人影があった。
「あ、あの二人……」
「確か……」
その二人は確か、あの時あの旅館にいた艦娘だった。
一人は腰まで伸びる黒髪を生やしている俺たちよりも年長そうに見える終始落ち込んでいた人で、もう一人は明るい茶髪のセミロングで二本のおさげを結っている雪風の同僚の子だった。
「あの……もしかすると、天龍さん」
何となく天龍さんの言っていた言葉の意味を察してしまい、俺は声を掛けた。
「あぁ。ちょっと、その前に……
阿賀野、照月。
自己紹介はまだなんだから今のうちにしておけ」
「は、はい!
阿賀野型軽巡洋艦、一番艦の阿賀野だよ。
よろしく」
「秋月型駆逐艦、二番艦の照月です!
よろしくお願いします!」
「は、はあ……
よろし―――」
「てめぇらもまだだろうが。
それとも「お前」やら、「あんた」やら、「君」やら、「貴様」で呼ばれるつもりか?」
「―――す、すみません!
えっと織斑一夏です。
よろしくお願いします」
「凰鈴音。中国の代表候補よ。
「鈴」って呼んで」
「イギリスの代表候補生のセシリア・オルコットですわ。
以降、お見知り置きを」
「フランスの代表候補生のシャルロット・デュノアです。
よろしくお願いします」
「ドイツの代表候補生のラウラ・ボーデヴィッヒ中尉です」
彼女たちが自己紹介を終えると彼女たちがいる訳を知りたくて訊ねようとした矢先、天龍さんにこちらも自己紹介をする様に促されてそれぞれが自己紹介を行った。
そういえば……
艦娘って顔と名前が一致するのが天龍さんとか金剛さんとかぐらいだよな……
自己紹介を終えて気付いたことだが、俺たちの中で知っている艦娘は割と少ない。
知っているのは今、教官をしてくれている天龍さんと龍驤さん。
艦娘の中心人物とも言える金剛さんや加賀さん。
俺ですら知っている戦艦の代名詞の武蔵さん。
そして、雪風と同期で那々姉さんの教え子の一人であった朝潮と少し世話好きそうな叢雲ぐらいだ。
色々と覚えておかないとまずいよな……
もう一つ、今回気付かされたことだが、もしこっちが覚えていないとかなり失礼だということだ。
人の顔と名前が一致しないのは失礼だとよく言われている。
気を付けるべきだろう。
ただあれだけの人数を覚えられる自信はないが。
「で、その……
天龍さん、どうしてこの二人が?」
「そうですわ!
それにさっきの―――」
「『先輩』ってどういうこと?」
自己紹介を終えて、ようやく俺たちは本題である目の前の二人がいることについて訊ねた。
「ああ、そうだった。
実はな、お前たちに折り入って頼みたいのはこの二人に「IS」の指導をして欲しいんだ」
「「「「「……え?」」」」」
今の天龍さんの一言に俺達はまたしても思考が止まってしまった。
「あ、あの……それはどういう意味で?」
言葉の意味は分かった。
しかし、それが何故、今、この場で使われるのか理解出来ず俺は彼女に念を入れて訊ねた。
「だから、この二人に「IS」の指導をしてやってくれ。
特にこういうのはデュノアとボーデヴィッヒが向いているだろ。
頼む―――」
「「「「「ええぇぇぇぇええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえええええええええええ!!?」」」」」
「―――て、うるせぇな」
もう一度、突き付けられた事実。
それに俺たちは衝撃過ぎて大声をあげてしまった。
「あ、当たり前でしょ!?」
「私たちが指導!?」
「それも艦娘の!?」
「正気ですか!?」
「というよりも俺なんかまだ数か月しか動かしてませんよ!?」
全員が思いの丈を叫んだ。
天龍さんは俺たちに阿賀野さんと照月さんの指導をして欲しいと言ったが、本当に正気で言っているのだろうか。
彼女たちは艦娘だ。
そんな相手に俺たちなんかが教官が務まるはずがない。
というよりも、気が引けてしまう。
「安心しろ。
そこら辺のことは考えている。
というよりも、だから、この二人なんだ」
「……え?」
「どういうこと?
言っておくが、アタシたちがひよっこなのはアナタたちに教えてもらったんだけど……」
「り、鈴……」
あの鈴ですら、今回の決定には自分がまだまだひよっこであると自嘲しながら、それを教えたのは天龍さんと龍驤さんであることから懐疑的になっていた。
鈴の言う通り、俺体が自分の未熟さを突き付けられたのは他ならないこの二人だ。
そして、艦娘が俺らなんかよりも圧倒的に場数を踏んでいることも教えられた。
なのに艦娘には技術を教えるとはどういった了見だろうか。
全く分からない。
「あぁ、それなら安心しろ。
この二人はお前らと大体同じだ」
「……は?」
「え?」
「はい?」
「え?」
「何ですと?」
俺らの疑問に天龍さんは阿賀野さんと照月さんは俺らと同じだと言ってきた。
「うぅ……私だって……」
「あ、阿賀野さん!?気を確り!!」
「え?」
天龍さんの言葉で阿賀野さんはさらに落ち込み、照月さんは焦りながらそれを宥めようとした。
「ああ……その……あれや。
こいつら、最新最鋭の艦娘だったんだ。
あ、言い方は気にするな。
ただな……その……」
「?」
龍驤さんは阿賀野さんの様子を見てかなりバツの悪そうな表情を浮かべた。
「……戦いの経験が少ないんや」
「「「「「え」」」」」
龍驤はそう言った。
「こいつら、戦いの途中で生まれたんだけどその影響で戦いの経験を積む機会がなくて、艦娘としての戦いの技術が殆どねぇんだ」
「うぐっ!?」
「「「「「え」」」」」
「あ~、阿賀野さん!?」
天龍さんは少し困った様に申し訳なさそうにそう言った。
すると、阿賀野さんはかなりのショックを受けたのか、昏倒しそうになり照月がそれを支えた。
「それって……」
「鈴さん。
それ以上はいけませんわ」
「……そうね」
鈴が察したことに言及しようとした矢先、セシリアがそれを止めた。
経験を積めなかったって……そういうことだよな……
鈴が、いや、俺達が察したことはあまりにも辛いことだった。
本人にとっては今は、ただ落ち込む失敗談の様にしか感じないが、第三者からすれば彼女の落ち込んでる理由は重過ぎる。
年齢は関係なしか……
龍驤さんや武蔵さんの件で見た目で判断できないが、恐らく艦娘の中では二人は若い方なのだろう。
そんな彼女たちでも死ぬ。
背筋が冷たくなった。
「という訳だ。
お前らにはこの二人に「IS」の技術を叩き込んでやって欲しい」
「わかりました……
でも、それならあなた方の方が……」
「そうですわ。
確かに経験はわたくしたちの方がありますけど……」
「その……」
事情はわかったが、それでも俺たちは気が引けてしまった。
そもそも戦闘の経験は天龍さんたちの方が上だ。
なのに俺たちが戦う術を教えるのは間違っている様に感じてしまった、
「いや、俺は、いや、俺たちはこいつらには艦娘の戦い方じゃなく、「IS」の戦い方を教えるべきだと考えている。
むしろ、こいつらを選んだのもそれが理由だ」
「何だって……?」
天龍さんは艦娘としての戦い方ではなく、「IS」の戦い方を二人に教えると言ってきた。
「俺たちは自分の戦い方が身に染みついている。
当分、「IS」に慣れるまで時間がかかる。
それを考えると、まだそこまで戦い方が染みついていないこいつらに「IS」の戦い方をお前らに教えてもらいたいんだ」
「「「「「!?」」」」」
天龍さんは神妙な面持ちでそう答えた。
「確かにうちらは「深海棲艦」との戦いに慣れている。
けどな、これからは君らの連携も考えなきゃならん。
そうなると、こいつらが適任や」
「だから、頼む……!」
「龍驤さん……天龍さん……」
天龍さんと龍驤さんの顔は苦しそうだ。
それは今まで自分が使っていた戦いを変えていかなければならないという彼女たちの悔しさがあった。
「……わかりました。
やらせてください」
「やってくれるか?」
「「「「「はい!」」」」」
「ありがとな」
「ありがとう」
天龍さんは俺達が肯くと嬉しそうに礼を言ってきた。
「よし。照月、阿賀野。
今日は見学だ。
確りと見ておけよ」
「「はい!」
どうやら、二人は見学らしい。
確かに「IS学園」の生徒でもない二人が訓練に参加していたら目立ってしまうだろう。
……雪風。俺たちに出来る何かがあったぞ!
俺たちが艦娘に「IS」の戦い方を教える。
それは結果的に雪風を助けることに直結する。
それに考えるだけで俺たちは、いや、俺は僅かながらも胸が熱くなった。
だから、お前もがんばれ……!