奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い   作:オーダー・カオス

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第26話「見付ける者」

「ユッキ―に酷いことをしてしまったネ……」

 

 私は昨夜のことでユッキ―とどう接すればいいのか分からなかった。

 私自身、提督と榛名の二人が結ばれたことへの喜びが在り、同時に『どうして自分は先にここに来てしまったのか?』という悔しさも感じている。

 けれども、それは二人の幸せを否定するものではなかった。

 ただ羨ましいという感情だった。

 

 ユッキ―はただ……

 本当のことを教えてくれたのに……

 

 ユッキ―に関してもそれは同じだ。

 あの娘は私の求めに応じてただ本当のことを話してくれただけだ。

 

 No(いけまセン)……

 あの娘にとっては私は……Vision(目標)なのニ……

 

 あの娘は未だに私のことを強く慕っていてくれている。

 神通と一度、話したことがあるが、彼女は私に

 

『雪風は艦娘としての在り方をあなたに教えられたことであなたを目標としています』

 

 だと語った。

 そんな私が自分の都合でした質問が原因で勝手に傷付いてそのことであの娘に負い目を感じさせ苦しませるなど在ってはならないはずだ。

 

 あの娘は本当に優しい娘ですカラ……

 それを知っているのに私ハ……

 

 佐世保で生まれた時から私はあの娘を見ていた。

 あの娘は本当に健気でいい娘だ。

 常に周囲を思いやる心を持っている。

 もし、あれで艦娘としての才能がなければ、それで良かった。

 本来ならばあの様な娘は戦場にいていいはずがない。

 しかし、あの娘は天才過ぎた。

 だからこそ、戦場で求められた。

 そして、その優しさ故に守る為に強くなろうとする。

 その度に多くのものを失い、それでもなお強くなり、守ろうとして失っていく。

 今、彼女は多くのものを見てきたからこそああなった。

 かつての優しさを残し、悲しみと痛みを身に付けて。

 

 とっくのとうニ……

 私を超えていマース……

 

 本人に言えば、謙遜の言葉で否定しようするが、あの娘は私を既に超えている。

 それは艦娘としてではなく、背負っているものもだ。

 

 軽はずみに訊くなんて……

 

 私は彼女の憧れであり続けることが出来なかったことを悔やんだ。

 あの娘の抱えているもの。

 それを考えれば私が我慢すべきだったのだ。

 

「あら?金剛?」

 

「……!

 Hey!扶桑!どうしまシタ?」

 

 私が悩んでいると扶桑が前からやって来て声を掛けてきた。

 私は自分のしたことが理由で自分が悲しんでいることを大っぴらに晒すことを避けるために何時もと同じ振る舞いをした。

 

「少し夜空を見ていたの……」

 

「扶桑は風流ネ!」

 

 どうやら扶桑は夜風に当たって夜空を見ていたらしい。

 お淑やかな彼女らしい。

 

「月はあんなに輝いているのに……」

 

「……Negativeさも変わら―――

 ―――Positiveさでしたネ、あなたの場合は」

 

 しかし、持ち前の後ろ向きか前向きか分からない性格を出してきた。

 扶桑は勘違いされがちだが、何だかんだで前向きさはある。

 そこは姉としての一面さなのかもしれない。

 

 姉……デスカ……

 

 けれども、扶桑のその一面を見て逆に私のほうが落ち込んでしまった。

 姉として、榛名を心の底から笑顔で祝福出来ない自分。

 そのことで自分を憧れに見てくれている雪風を苦しめてしまった自分。

 そんな姉としても、先輩としても自分の矜持が失われつつあるのだ。

 

「どうしたの?金剛」

 

「What’s?」

 

 私が姉として、先輩としての不甲斐なさを感じていると扶桑が気になったらしい。

 

「いえ、operation(作戦)のことデ……」

 

 私は誤魔化すために明日の作戦のことを考えていると答えた。

 

「……嘘ね」

 

「!」

 

 しかし、扶桑は私の嘘を直ぐに見破った。

 

「何で私が嘘を吐いていると思っているんデスカ?」

 

 私はこれ以上、追究されない様に嘘を吐いている理由を否定しようとしたが

 

「あなたが戦いのことで悩むなんてことはないもの」

 

「!?」

 

 迂闊だった。

 彼女の言う通り、私は今まで戦いに対して戸惑いを見せたり暗い顔をしてこなかった。

 そんなことを今までしてこなかったことなのに、それをしてしまったことで違和感を覚えられて、嘘を見破られてしまった。

 慣れていないことで誤魔化した。

 それを彼女は見逃さなかったのだ。

 

「……雪風のこと?」

 

「!?

 Why(何故)!?」

 

 扶桑はさらにユッキ―のことまで言い当てた。

 

「やっぱり……」

 

「どうして分かったのデスカ!?」

 

 どうして、彼女がユッキ―のことまで分かったのか不思議で彼女に訊ねた。

 

「だって、今日のあなた達……

 と言うよりもあなた、雪風に対してぎこちなかったもの」

 

「うっ!?」

 

 どうやら彼女は今日のユッキ―と私、特に私がユッキ―に対してぎこちなかったことで気付いたらしい。

 なんてことだ。

 慣れないことをして次々とドツボにはまってしまった。

 

「それでどうしたの?」

 

「うぅ……」

 

 扶桑に問い詰められて完全に逃げ場を失った。

 言うべきだろうか、言わないべきだろうかという以前に完全に逃げ場を失った。

 

「実は昨夜、ユッキ―に……

 「あの世界」でのその後を訊いたネ……」

 

「……!

 そういうことだったのね……」

 

 私はもう隠しきれないことから何があったのかを伝えた。

 扶桑はそれを見て確信を得たらしい。

 

「それでその……

 提督と榛名のことを……

 二人が無事に結ばれたのに私、泣いてしまっテ……」

 

「……そう」

 

 私は自分の自尊心とかを度外視して昨日のことを包み隠さずに打ち明けた。

 私も辛いけれどユッキ―の方が辛いはずだ。

 あの娘はただ私の頼みを聞いてくれた。

 それなのに私はあの娘は抱え込んでしまった。

 そのことが辛い。 

 

「自分が泣いてしまったことで雪風を傷付けてしまったと思っているのね?」

 

「Yes……

 あの娘は優しい娘デスカラ……」

 

 扶桑は私のしてしまったことを察してくれた。

 やはり、戦艦の中でも古株なのに私情であの娘にあの世界でのことを訊いておきながら、あの娘に自責の念を抱かせてしまったことが愚かだ。

 

「……そうね。

 でも、あなたのしてしまったことを……私は責められないわ」

 

「え……」

 

 しかし、扶桑は私のことを責めるつもりはなかった。

 

「Why?」

 

「……だって、私も同じ事をしてしまったもの……」

 

「!?」

 

 扶桑は自らのしてしまった過ちを打ち明けてきた。

 

「山城や時雨たちのことが気になって……

 あの娘にとっては辛いことを訊ねてしまった……朝潮もいたのに……

 本当は我慢すべきだったのに……」

 

 扶桑は自らがユッキ―に妹を含めた西村艦隊のその後のことを訊ねたことであの娘にとっては辛い過去を思い出させてしまったと言ってきた。

 そして、それは私がしてしまったことと何ら変わらないと言ってきた。

 

「……金剛。

 あなたが雪風に答えを求めてしまったのも無理はないわ。

 少なくても、比較的に終盤で沈んだ私達が知るには……」

 

「No!

 あの娘にこれ以上……!!」

 

 扶桑の言う通り、今いる面々で「レイテ」とその後で沈んだ私達がその後を知れたのはユッキ―だけだ。

 しかし、だからと言ってこれ以上あの娘が傷付いていいはずがない。

 どうして、あの娘だけが苦しみ、悲しまなくてはならない。

 

「……ええ。

 だから、皆で話し合うことにするわ」

 

「!?

 加賀!?」

 

 私がユッキ―が背負うかもしれないことに悲憤していると加賀が出てきた。

 

「ごめんなさい。

 少し、盗み聞きしていたわ」

 

「……別にそのことはいいネ」

 

 加賀は私に今の扶桑とのやり取りを立ち聞きしていたことを詫びたが、そのことに対しては私はどうでも良かった。

 そもそもこんな場所で話している時点で誰かに聞かれていてもおかしくない状況だ。

 それに今回の話が広まることで傷付くのは私だけだ。

 だから、このことで彼女を責めるつもりはない。

 

「それで全員と話すと言うのはどういうことデスカ?」

 

 私は加賀が口に出した全員と話し合うということの意味を訊ねた。

 

「……最初のうちに沈んだ私が自らの間違っていると思うけど全員が知っている限りの情報を共有して、雪風の話す内容を少しでも減らしていくのよ」

 

「!?」

 

「成る程……」

 

 加賀はユッキ―が必要以上に話さなくていい様に他の誰かが知っている範囲のことを互いに共有していくことを話すと決めたのだ。

 

「……金剛。扶桑」

 

「分かったネ」

 

「ええ」

 

 加賀は私と扶桑に強い声で呼びかけた。

 それはあの戦いの終盤まで戦ってきた私たちにも話をしていくことへの覚悟を問うものであった。

 私と扶桑を肯いた。

 ユッキ―にこれ以上のことを背負わせない。

 その為に私たちもまた同じ様に背負っていく。

 それであの娘の傷が少しでも広げずに済むのならばそれでいい。

 

「そう。よかった……

 ごめんなさい。二人とも……

 結局、言い出しっぺなのに私はあなた達に―――」

 

 加賀は私たちの応答を見て申し訳なさそうだった。

 加賀にとっては「MI」で初期に沈んだことで他の面々、特に当時五航戦であった翔鶴や瑞鶴に苦労を掛けさせたことが重荷になっていたのだ。

 同時に今回の件でも、自分が提案したことなのに自分が出来ることが少ないことを悔やんでいる。

 

「No……加賀、それは違うネ」

 

「金剛……」

 

「そうよ。

 あなただって……うんうん……

 誰だって辛いことをしたくてしている訳じゃないわ。

 少なくてもあなたの提案で雪風を少しで助けられるのは本当よ」

 

「扶桑……

 二人とも、ありがとう」

 

「You are welcome。

 加賀、あなたがどう思っていてもあなたのお陰で私は前を向けマシタ。

 Thank you」

 

「……そう、なら良かったわ。

 ありがとう、二人とも」

 

 加賀がどれだけ申し訳なさを感じていても彼女のお陰で私たちがユッキ―に何かをしてあげるのは事実だ。

 それだけで私は彼女に感謝しても足りない。

 

 先ずは謝らないといけマセンネ

 

 私はユッキ―に会ったら最初に謝ることを決めた。


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