奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い 作:オーダー・カオス
「よし、全員揃ったか?」
「「「「「はい」」」」」
昨日、龍驤さんが前以って言っていたように一日ぶりに天龍さんが俺たちの訓練に立ち会うこととなった。
どうやら、これからは彼女も参加してくるらしい。
……まだ、大丈夫だよな?
俺はまだ訓練が始まっていないかを確認した。
龍驤さんもいることから、『訓練を始める』と言ったら、問答無用に訓練は始まるだろう。
しかし、その一言がなかったことからまだ様子見であることが窺える。
「……ふ~ん、どうやら少しは龍驤に基本を叩きこんでもらったらしいな」
天龍さんはどうやら俺たちが何時でも臨戦態勢に移れるのを見て、基本が身に付いたことを評価している。
「さてと、一昨日と比べると何処まで出来ているのか楽しみだ」
天龍さんは相も変わらず獰猛な笑みを浮かべていた。
……龍驤さんの時は何とか……
いや、あの時は本気を出してなかったから何とかなったけど……
天龍さんに言われた様に俺たちは仲間を信じていなかった。
そして、今度は龍驤さんとの訓練で仲間の遺志を踏みにじるという違う形で現れた。
仲間を信じるか……
俺ははっきり言えば、何が正しいのかなんて分からない。
もし、あの訓練が実戦で本当に鈴が命を懸けて戦って死んで、それでも相手を倒せなかった時に俺は退くことが出来ただろうか。
……守りたい連中を守れなかったらか……
守ろうと思ったものを守れなかった時、俺は自分を抑え切れるだろうか。
どれだけ……雪風はそれを……
そんな思いを雪風は何度も味わってきたのだろうか。
だからこそ、時折あんな目をする。
あの強いながらも何処か見ていて痛々しいあの目を。
……だったら、奇跡でも起こさないとな……
きっと、俺は雪風と比べるのもおこがましいぐらい弱い。
だから、他の仲間を危険にさらさない為に強くなっていく必要がある。
そして、みんなで生き残って雪風を何時か普通の学生として連れ戻す。
そんな奇跡の様なことを起こす必要がある。
そんなことが出来ないのが戦争だってのは分かってる……
でも、だからって最初からそれを諦めていたらそれこそどうにもならないよな
最初から諦めることなら誰だって出来る。
現実がそうだと思うならそうかもしれない。
でも、最初から諦めて全部捨てるのはそれは仲間を信じてないとか、仲間の想いを捨てるとかそれ以前の問題だ。
それは最初から仲間を捨てているのと変わりがない。
だから、強くならないと……!!
思えば、昨日の訓練は俺たちが、いや、俺が弱かったせいで鈴が実戦だったら命を懸ける様なことをするという現実を突き付けられた。
もし、龍驤さんの逆落としに動じないで対処出来ていれば、鈴があんな真似をしないで済んだ。
一人ひとりが強くならないといけないんだよな……
一人が命を懸けない様にするには全員が強くなって一人ひとりが背負えるリスクを軽くしなくちゃいけない。
それしか仲間を守ることが出来ない。
「……いい目をする様になったな」
「え……」
俺が考え込んでいると天龍さんはそう言った。
「そうやな。
確かに最初から諦めちまっている目なんかよりもええ目をしておる」
「……!」
「どういうこと?」
天龍さんに続いて、龍驤さんも俺が『諦めないこと』を肯定してきた。
「ええか。
確かにうちらは軍人でこれから君らが戦う場所の厳しさを突き付ける。
そして、君らのこれからの向かう場所は甘い幻想なんかも感情なんかも通らん世界や」
「「「「「………………」」」」」
龍驤さんに改めて、彼女たちがいて、これから俺たちが向かっていく世界の現実を言われて俺たちは押し黙るしかなかった。
「けどな、それでもはなから仲間を大切に想う心や守ろうとする意思を持とうとせん奴は論外や」
「え!?」
「……!!」
龍驤さんの発言に全員が強く反応した。
「ある程度の覚悟や割り切りは大事や。
だが、そういった青臭さを捨てるのは間違いや」
龍驤さんは俺たちにある程度の覚悟を持つことや戦場での理不尽を割り切ることで冷静になることの重要性を述べた。
しかし、同時に最初から仲間の命を諦めることへの言い訳に使うことだけはするなと言ってきた。
「最初から仲間を守ろうとせん奴はそいつが偉そうにいう他の大きなもんも守れん。
よく仲間を諦める奴は大義や理想やら何やらいう奴が言うが、そんなもん守るもんがあやふやで簡単に脆くなるし、独り善がりになる。
何も背負えんから、そいつはそこまでや」
「背負う……」
「……そうだ。
仲間が死んでも最初から構わないなんて奴はな……
結局は土壇場で自分が生き残ることだけを考えることしか出来なくなる。
結果的に周囲にばかり犠牲を押し付けておいて、自分の番になると自分だけは逃げようとする。
言い訳しか出来なくなる」
「……っ!?」
龍驤さんと天龍さんの仲間を大事にしない人間への批判にラウラが反応した。
それは他ならない雪風に敗北する前のラウラがタッグであった箒にしたことそのものだったからだ。
いや、ラウラだけじゃなかった。
「……守るものがあやふや……ですか……」
セシリアも何かそのことに思うことがあるらしい。
確かにセシリアも初めて会った時はイギリスの代表候補生であることに拘っていたが、その理由も何処か抽象的で何のために戦っていたのか分かりづらかった。
そういや……
俺も千冬姉のことを守れるように……って、意識する様になってから割かしまともになったよな?
もし彼女たちが言う様に俺にとっての守るものが漠然としたものだったら俺はただの落ちこぼれになっていた。
それは「IS」に関わる前からだ。
俺はたった一人で育ててくれた千冬姉に楽をさせてあげたいと考えて、勉強に励む様になった。
それがなかったら俺は何時までも千冬姉に守られるばかりの情けない弟のままだった。
……きっと、雪風に『腰抜け』って言われてもそれを抵抗なく受け止めてたよな……
あの「ハンデ」の件で俺は雪風に『腰抜け』と言われて怒ることが出来たが、もし、千冬姉に何時か楽をさせることを意識することがなかったら、俺は一生情けない本当の『腰抜け』になっていた。
誰かがいるだけで自分を、大切に出来るんだな
誰かがいなかったら自分を大事に出来ない。
それは決して、自分の身の安全を守るということだけではない。
弱いままで常に誰かに守られて当然だと思って何時までも情けないままということだ。
自分の強さを守れない。
それは自分をダメにすることとほぼ変わらない。
自分に言い訳をしないか……
最初から仲間を大事にしない奴は結局のところ、仲間が死んでも平気でいいと思っている。
そして、自分だけが安全なところにいる。
結局、成長しようとする気もなく、ずっとそのままでいようとする。
「どうやら、君らの中にも思い当たる節がある子がいるらしいな。
勿論、君たちにはある程度は誰かの指揮系統に入ってもらうからそこで命令には従ってもらうことになる。
任務の遂行という最低限のこともやってもらう。
でも、だからといって何時までも他人から指示されることだけを待つのはダメや」
「他人からの指示だけじゃ……」
龍驤さんは俺たちの中でラウラとセシリアが反応しているのを見て、続けて任務の遂行を最低限のものだと告げた。
かなりハードルの高いノルマだが、同時に彼女はただ命令に従うことはダメだと言ってきた。
その彼女の『他人からの指示』という言葉に今度はシャルが反応した。
そうだよな……シャルも……
親や国からの命令で自分の意思がなかった……
シャルが反応するのも無理はない。
シャルは俺と雪風の説得がなければ、一生フランス政府とデュノア社に縛られ続けた
それしか道が見えなかったのだ。
「……難しいですね」
俺はそう呟いた。
感情に呑まれ過ぎてもいけない。
でも、だからといって感情を捨ててもいけない。
そんな中で戦わなくてはいけないのは難しいだろう。
「ああ、そうやで。
けど、そうせんと生き残れんし、勝てん、最後に負けるんや」
「……はい」
龍驤さんは俺の『難しい』という発言を否定しなかった。
それはこの人自身もそれを決して『当たり前』だと言い捨てていないからだろうし、そのことの難しさを理解しているからだろう。
……雪風に謝らないとな……
龍驤さんに言われて俺は一週間前の件での雪風の撤退時に怒ったことに謝りたくなった。
雪風はあの時、箒とセシリアに脱落者が出てもそれに構わず逃げ続けろと言ってきた。
あの時、俺は雪風を責めてしまった。
しかし、その後に雪風は敵の攻撃を食らってしまったシャルを助ける為に自分だけ残った。
少なくても、仲間を大切にしてたからあの言葉を言えたし、行動できたんだよな……
雪風のあの行動は少なくても、龍驤さんの言う『仲間を大切にしない奴』の行動じゃない。
そして、仲間を助ける為に仲間を先に行かせた。
二つの意味で雪風は仲間の為に動いた。
なのに俺は彼女の真意を知らずに怒ってしまった。
そうだよな……
雪風が仲間を見捨てるなんてする筈がない
俺は改めて雪風にもう一度会う理由が出来た。
「じゃあ、意気込みはこれまでや。
皆、準備はいい?」
ある種の講義が終わり、龍驤さんは俺たちに準備が出来ているのかを訊ねてきた。
この人は『訓練開始』と言った途端に容赦を失くすが、それでも『準備』については確かめてくれる。
それは不慮の事故を防ぐこの人なりの考えだ。
「はい」
「ええ」
「大丈夫ですわ」
「はい」
「はっ!」
全員が『応』と答えた。
となると既にもう訓練は始まっていると考えなくてはならないだろう。
「よし、訓練―――」
「「「「「……!!」」」」
龍驤さんの声に全員が集中している時だった。
「―――始めるぜ!!」
「「「「「!!?」」」」」
開始の合図を告げたのは天龍さんであり、彼女はいきなり俺たちに向かってきた。