奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い   作:オーダー・カオス

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第11話「命の重み」

「ぐっ……!!」

 

「油断大敵やで?」

 

 突如、襲い掛かってきた衝撃。

 それが爆風だと分かり、そして龍驤さんの発言から完全に彼女の差し金であることも把握した。

 

「ちょっと!?

 いきなり何すんのよ!?」

 

「そうですわ!!

 いくら何でも卑怯過ぎますわ!?」

 

 今の不意討ちに関して鈴とセシリアは抗議した。

 

「ん?何でや?」

 

「「なっ!?」」

 

「「………………」」

 

 そんな二人の抗議に対して当の本人は涼しい顔をして悪びれることもなかった。

 その態度に抗議していた二人は言葉を失い、シャルとラウラも思うところがあるらしい。

 

 ……何でこんなことしたんだ?

 

 けれども俺は怒ったりするよりも不思議に思ってしまった。

 確かにいきなりどつかれたことには衝撃を受けた。

 でも、冗談や悪ふざけでこの人が、いや、この人たちがこんなことをしてくるとは思えず、その意味を知りたかった。

 

「そもそも最初にうちは言うたで?

 『訓練を始める』って」

 

「「「「!?」」」」

 

「!」

 

 龍驤さんは俺たちに向かってそう答えた。

 確かに彼女は俺たちに艦載機の説明をする前に『訓練を始める』と言っていた。

 つまりは既に訓練は彼女が『訓練を始める』と言った時から始まっていたのだ。

 

「それに……

 「艦爆」の説明の時にも使い方の一つとして奇襲もあると言ったやないか?」

 

「「「「「!?」」」」」

 

 龍驤さんはにっこりとしながら先程までの説明の中に在った「艦爆」の使い方について言及した。

 つまり、今のはその「艦爆」の使い方の実践そのものだと言っているのだろう。

 

「これぐらいの説明をしたんやから、避けてくれんと」

 

 『もう説明はした。だから、十分に義理は果たした。』と言いたいのだろう。

 

「でも、いくら何でも……!!」

 

 それでも負けず嫌いの鈴は納得いかない様子だった。

 

「うん、じゃあ……

 その文句は何処で誰に向かって言うのかな?」

 

「え」

 

 龍驤さんは口調は柔らかいが何処か厳しい感情を込めて鈴を突き放した。

 

「今ので全員死んでもうたら卑怯とか誰に言うのかな?

 死んだら誰も聞いてくれへんで?泣き言も文句もな。

 まあ、あの世で閻魔様なら聞いてくれるかな?」

 

「!?」

 

 龍驤さんは変わらず笑顔であったがそれでもかなり癖のある言葉を鈴に投げかけた。

 死んだら文句も言えない。

 そんな死と戦場の恐ろしさを彼女は暗に伝えた。

 

「ええか?

 確かに「IS」には「ハイパーセンサー」ちゅう強力な索敵機能がある。

 でもな、それに頼ってばっかで今みたいに気付かない、手に入れた情報を使わんと意味ないんや。

 目の前のことばかりが戦場やないんや」

 

「っ!!」

 

 龍驤さんの目は真剣なものだった。

 それは「ハイパーセンサー」という強力な機能に頼り過ぎることとその情報を扱いきれないことへの警告だった。

 

「それとな。

 今のは、うちらがやられてその後に雪風たちが苦労した原因やで?」

 

「え……」

 

 最後に龍驤さんは辛そうに語りだした。

 雪風たちが苦労した。

 それが意味することが何なのか、雪風のあの悲しい顔を見ていると想像できてしまう。

 

「……「ミッドウェー海戦」」

 

「「「!!?」」」

 

「「?」」

 

 龍驤さんは苦々しそうに「ミッドウェー海戦」という名前を出した。

 その何となく聞き覚えのる様な戦いの名前に俺と鈴以外の面々が何らかの衝撃を受けていた。

 

「……こっちの世界でも起きたんやろ?」

 

「……はい」

 

「えぇ……」

 

「?」

 

 龍驤さんは『こちらの世界にも存在している』と言った。

 それに対してラウラとセシリアの二人も気まずそうに肯定した。

 

「あの……「ミッドウェー海戦」って?」

 

 俺は自分が無神経だと自覚しながらも敢えて訊ねた。

 どうやら彼女たちにとってもかなりデリケートな話題なのかは察することが出来た。

 でも、これは知っておかなければならないことだという気がしてきた。

 

「……じゃあ、その前に三つほど頭においてくれないかな?

 一つ目にこの世界とうちらの世界は違う歴史を辿った……

 これはええかな?」

 

「ああ……」

 

 龍驤さんはそう言った。

 これはきっと歴史に関わってくることだろう。

 

「ありがと。で、二つ目は戦争とはそう言うもんやということだ」

 

「!?」

 

「……わかりましたわ」

 

 次に出てきた言葉は重かった。

 それは本当の意味で戦争を知らない俺たちに配慮するためのものだった。

 同時にこれから話すことが彼女だけではなく俺たちにとっても重い言葉であるということだろう。

 

「……それじゃあ、最後に。

 うちらにはそれしか手段がなかった。

 それも理解してくれないかな?」

 

「……?」

 

 けれども、最後だけは分からなかった。

 彼女は何を言いたいのだろうか。

 『これしかなかった』。

 一体、それが何を指しているのか俺には分からなかった。

 

「じゃあ、そこの君。

 ボーデヴィッヒさんやっけ?

 「ミッドウェー海戦」とはこの世界ではどういう戦いで何を意味しているのか、具体的に全員に教えてくれないか?」

 

「え!?私がですか!?」

 

 いきなり名指しされたラウラは狼狽えた。

 

「うん。君、軍人なんやろ?

 それに雪風のことが好きなら色々知っているはずやろうし、他の誰よりもうまく説明できると思うよ?」

 

「う……はい……」

 

「じゃあ、頼むわ。

 うちが説明してもちょっと私情が入って無理やと思う」

 

 龍驤さんはそう言ってラウラに「ミッドウェー海戦」という戦いの説明を任せた。

 確かにこういったことは軍所属のラウラの方が専門家として適役かもしれない。

 

「「ミッドウェー海戦」とは太平洋戦争で日米の勝敗を分けた最大の転換点とされていて、この戦いにおける大敗が後の日本軍の敗北への道を決定付けた戦いとされています」

 

「!?」

 

 ラウラの説明に俺は衝撃を受けた。

 思い出した。

 受験の時には出てこないから覚えていなかったが確か歴史の授業の「戦時中」の範囲で僅かに触れたことがある。

 他の事柄が余りにも強烈過ぎて忘れてしまっていた。

 

「その戦いで日本海軍が被った損害は?」

 

「……当時世界最強クラスだった南雲機動部隊所属の正規空母四隻を失うことになりました」

 

「!?」

 

「え?空母……?」

 

 どうやら「ミッドウェー海戦」の敗北の結果は空母を四隻失った事らしい。

 

「空母四隻って……そんなにひどい損失なのか?」

 

 つい、俺は思わずそう呟いてしまった。

 確かに空母は大事だと思うけど、大事なのは艦載機だろうしパイロットが無事ならそこまで酷いことにはならないのではだろうか。

 

「はあ!?アンタ、それマジで言ってんの!?」

 

「え」

 

 何故か先程まで俺と同様に「ミッドウェー海戦」に対してあやふやな認識だった鈴に怒鳴られてしまった。

 

「一夏さん……」

 

「それはちょっと……」

 

「もう少し調べた方がいいぞ……」

 

「!?」

 

 さらにはセシリア、シャル、ラウラにすら呆れられた目で見られてしまった

 どうやら舟自体に戦闘能力がないのならば船が無くなっても問題なくまた造ればいいという問題ではないらしい。

 

「あ~、もしかすると君……

 空母が戦艦や巡洋艦みたいに船そのものに戦闘能力がないからそれ自体が沈んでもそこまで痛くないと思ってる?」

 

「う……!?はい……」

 

 目の前の空母を名乗っている人間に図星を指されて俺は罪悪感を感じてしまった。

 

「それはちゃうで?」

 

「え……」

 

「ええか?空母ってのは艦載機の帰るところや。

 もしそんなところがなくなったら海の上で戦ってる艦載機は何処に降りるんや?」

 

「!?」

 

 龍驤さんは笑顔を消してそう答えた。

 

「空母を失えば艦載機は後で味方に拾ってもらうか、相手を倒すことでしか生還できん。

 そうなったら死ぬしかないんやで?」

 

「!!」

 

 知らなかったのに俺は軽率な考えをしてしまったことに気付いた。

 同時にそのことを知ったことで俺は空母四隻を一気に失ったことへの意味を理解した。

 

「……あの……

 どうして異なる歴史を辿っているはずなのにあなた方はそこまで「ミッドウェー海戦」に拘るのですか?」

 

「あ……」

 

 「ミッドウェー海戦」が此方の世界での日本の敗戦に繋がったことは理解出来た。

 しかし、セシリアはどうして龍驤さんが「ミッドウェー海戦」にそこまで拘っているのか気になったらしい。

 此方の歴史と彼方の歴史が違うのであれば「ミッドウェー海戦」も起きる筈がないのでは。

 

「……ボーデヴィッヒさん。

 「ミッドウェー海戦」が起きた経緯―――

 ―――いや、日本軍が「ミッドウェー作戦」を決行した経緯は?」

 

「?」

 

 龍驤さんはラウラに再び説明をする様に伝えた。

 

「……「ドゥーリットル空襲」による日本本土への空襲による衝撃による国民の不安・不満を解消の為とという説もあります」

 

「え!?」

 

 そのことに俺はまたしても衝撃を受けた。

 てっきり俺は「ミッドウェー海戦」は太平洋戦争の中でたまたま起きた戦いと言う認識だったからだ。

 

「そうや、そしてその空襲に似たもんはうちらの世界でも起きて、そして、その結果準備不足なのに作戦を決行してしまったんや……」

 

 龍驤さんは苦々しく、悔しそうに、無念そうに呟いた。

 それは彼女、いや、彼女たちにとっては忌まわしい記憶そのものであることを物語っていた。

 

「……もしかすると、歴史は変更を嫌うのかもしれんな……」

 

「え……」

 

「……いや、何でもない」

 

 龍驤さんは何か気になることを言ったが、直ぐに話を切った。

 

「……それとな。

 どうしてさっき奇襲染みたことをしたかと言えば、さっきのはまるっきし加賀や蒼龍が「ミッドウェー」で受けたことと同じだからや」

 

「え……加賀さんと……蒼龍さん……?」

 

「あの二人がですか……?」

 

 意外な人物の名前に俺たちは困惑した。

 

「……そうや。うちは「ミッドウェー」の後の戦いで沈んだんや……」

 

「!!?」

 

 衝撃的な事実に俺たちはどう反応すればいいのかわからなかった。

 『沈んだ』。

 それはつまるところ、そう言う意味だということだ。

 

「……まあ、うちは気にせん。

 むしろ、この世界でまた「深海棲艦」から誰かを守れるんや。

 ある意味、艦娘冥利に尽きるわ。

 アハハ」

 

 龍驤さんは笑って流した。

 しかし、それでも彼女の辿った人生はそんな軽いものじゃないはずだ。

 

「で、あの戦いの敗因は元々の準備不足もあるが、同時に索敵不足による敵の発見が遅れたことにある。

 その後、この世界では沈んだ飛龍だけが生き残って主力を殆ど失ったうちらは戦力の穴埋めの為に時間稼ぎをするしかなくって犠牲者が沢山出たんや。

 「ミッドウェー」でほぼ0になった勝ちを少しでも拾うためにな……」

 

「ほぼ0……?」

 

 彼女は気になることを言ってきた。

 

「……元々、あの「深海棲艦」との戦いはな。圧倒的にあっちの方が数が上や。

 だから、うちらにはゆっくりと少しでも悲惨な最期になるのを覚悟して滅びを待つか、一か八かの賭けで相手に勝つための戦いをするかの二択しかなかったんや。

 それで後者を選んでそれがほぼ0になった……

 それだけや」

 

「そんな……」

 

 龍驤さんの口から出てきた「ミッドウェー海戦」の後の彼女たちの軌跡もそうだが、彼女たちがどうして「深海棲艦」と戦わざるを得なかったのかという壮絶な覚悟に俺たちは心が重くなった。

 

 加賀さんがあの時、言ったのは……

 こういうことだったのか……

 

 あの時、加賀さんは「IS」の能力に沸き立つ仲間たちに苦言を漏らした。

 それはもしかすると、自分たちがいなくなった後のことや、それによって生じた犠牲を生んでしまった自責の念からだったのかもしれない。

 

「それと……

 これは君たち、全員も同じや」

 

「え……」

 

「アタシたちも同じ……?」

 

 龍驤さんは自分たちの過去への思いを断ち切って俺たちにそう告げた。

 

「君たちの「IS」の数は限られている。

 もし、「ミッドウェー」みたいな敗北が起きて君たちの中で一人でも欠ければ残された人間はその一人の分も頑張らなきゃあかんのや」

 

「「「「「!?」」」」」

 

「だから、自分の命は自分だけのものだとは思ったらあかん。

 油断することはダメや」

 

「……はい」

 

 龍驤さんはそう言った。

 俺たちは今まで戦場で死ぬことの意味を知らなかった。

 ただ誰かを悲しませることになる。

 それだけだと何処かで思っていた。

 でも、それは違った。

 自分一人がいなくなるだけでその分を誰かに穴埋めしてもらうことになる。

 そして、それは結果的に他の誰かを危険に晒すことだったのだ。

 

「そうか、それを聞いて安心したわ」

 

「……龍驤さ―――

 ―――!?」

 

「きゃ!?」

 

「っ!?」

 

「うわっ!?」

 

「くっ!?」

 

「……今度はちゃんと避けてくれたね。

 じゃあ、次行ってみよう!!」

 

 俺たちが戦いで死ぬことの意味を理解したのを見届けた龍驤さんはそのまま今度は「艦戦」のものらしい機銃をぶっ放し、今度は俺たちは避けることが出来た。

 どうやら、訓練はまだ続いてたらしい。


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