奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い 作:オーダー・カオス
「お~し、みんな!
今日はうちが相手や。よろしゅうな~」
「「「「「……はい」」」」」
「あれ?」
昨日の天龍さんに代わって今度は龍驤さんが俺たちのコーチを引き受けてくれた。
彼女は元気に挨拶をしてくれたが、失礼だと理解しながらもそれに対して俺たちは元気に応えることが出来なかった。
「どうしたんやみんな?
そんなに声を落として?
そんなんじゃ訓練に身が入らんよ?」
「……すみません」
龍驤さんは俺たちの様子を見て怒ったり怒鳴ったりせず明るく声をかけてきた。
どうやら天龍さんと異なりこの人はこういう形なのだろう。
しかし、俺たち昨日の天龍さんとの訓練で色々と自分の非力さを思い知らされた。
元々、俺はそこまで自信があった訳ではなかったが、他の四人は初心者同然の天龍さんに負けたことである程度存在した自信の根拠を失ってしまっている。
だが、それ以上に俺たちは天龍さんに『仲間を信じていない』と言われたことが辛かった。
その結果、疑心暗鬼とまではいかないが、全員が全員で他人ではなく自分を信じられなくなってしまっていてぎこちなくなっている。
「……う~ん。
しょうがないな~。
じゃ、始めよっか?」
そんな俺たちの様子にも構わず龍驤さんは訓練の始まりを伝えた。
「「IS」の準備はええかな?」
「え?あ、はい……」
「そんな消極的な声じゃあかん。
安全は問題ない?」
「?」
彼女は「IS」の準備が出来ているのかを訊ねさらに安全のことすらも入念に確かめてきた。
「よぉし!
先ず始めにみんなにはうちらや「深海棲艦」の扱う艦載機についての説明してくよ?」
「!」
「艦載機の?」
「そうや」
龍驤さんは訓練の前に俺たちに艦載機のことを説明することを告げてきた。
「深海棲艦」のあの大群のビット染みたものを知ったことから俺たちとしては重要なものになってくるだろう。
こちらとしてはそのことを説明してもらえることはありがたいことだ。
しかし、果たして今の俺たちにこのことを聞かせて身に入るかどうかは別として。
「よっし!先ずはこっちの世界でも有名な戦闘機こと、艦上戦闘機についてや!」
「え?」
「どうしたんや?」
「え、あ、その……
戦闘機は戦闘機じゃないんですか?」
龍驤さんの説明を聞いて俺はいきなり躓いた。
「戦闘機」は「戦闘機」のはずだ。
それなのにどうしてそんな言い方をするのだろうか。
「一夏さん……それは……」
「え?」
セシリア、いや、彼女を含めた他の三人も妙な視線を俺に送ってきた。
一体、どういうことだろうか。
「あ~、それはしゃあない。
確かこの世界じゃそういう認識をしている人間が多いんやろ?
織斑先生から聞かされたわ」
「?」
そんな俺の疑問に対して龍驤さんは四人とは異なり『仕方ない』と言ってきた。
「織斑先生の弟やっけ?
君、軍が使っている飛行機は全部「戦闘機」やと思っておるんやろ?」
「え!?違うんですか!?」
龍驤さんは俺が『軍の使っている飛行機=戦闘機』という認識を持っていることに言及してきた。
彼女の言い方や四人の反応からするとどうやらそれは間違っていたらしい。
「正確には軍が扱う飛行機は「軍用機」と一括りされていて、戦闘機はその分類の一つや」
「そうだったんですか……」
生まれて初めて知った事実に俺は僅かながらの衝撃を受けたが余り驚かなかった。
そもそも自分がこういった知識に乏しいのは自覚している。
だから、そこまでの衝撃はないのだろう。
「あれ?でも……「銀の福音」は軍用機だったような……?」
「まあ、それは所謂「大人の事情」て奴や。
そもそも少しかじったから正確やないが、「アラスカ条約」ちゅう「IS」を軍事利用するのを制限している条約があるのに軍事利用しているんやから、あれは例外やしそこら辺あやふやなんやないかな?」
「は、はあ……」
龍驤さんの口から出てきた「大人の事情」という単語で「IS」が軍事利用制限されているはずなのに「軍用機」扱いされている存在があることへの矛盾に対してはもやもやは残ったがある程度得心は得た。
よく考えてみれば「アラスカ条約」で軍事利用が制限されている中で「軍用IS」という存在があるのは所謂、暗黙の了解という奴なのかもしれない。
「じゃ、先ずは「艦上戦闘機」こと「艦戦」や。
まあ、これはみんなご存じ「零式艦上戦闘機」こと「零戦」が含まれとるで。
で、「艦戦」の主な役割は敵への攻撃よりも相手の軍用機の迎撃することで味方の攻撃部隊や艦隊を護衛することやな」
「そうなんですか」
今まで戦闘機を他の軍用機とごっちゃにしていたこともありまたしても新しい知識を得た気分だった。
戦闘機の役割はどうやら味方を守ることが主な役割らしい。
「あ~、でも「艦戦」にはそこまでの対艦戦闘能力はあらんけどだからといって油断はあかんよ?」
「?」
「ん~、実は単純な火力やと艦戦は他の戦闘向けの機体の中ではない方や」
「え!?」
意外な事実だった。
俺の中では「IS」が台頭する前は最強の戦力の一つだった戦闘機が一番火力がないとは思いもしなかった。
「だけど、それはあくまでも軍艦相手にや」
「?」
「それはどういうことですの?」
しかし、龍驤さんは軍艦相手にはそこまでないと言ったが、まるで他にも何かある様に言ってきた。
「人間大相手には十分な脅威やで?」
「え!?」
龍驤さんのその発言に俺はとんでもなく嫌な予感がしてきた。
「よう考えてみい?
人間が持てない口径の機銃と同威力のものを積んだ素早いちっこいのが群れで襲い掛かってくるんやで?
人間が狙われたら蜂の巣どころか、身体が下手したらバラバラになるで?」
「!?」
「う、うわぁ……」
「それは……」
龍驤さんの説明に俺たちはその光景を思い浮かべてゾッとした。
あの大群の中での艦戦はどうやら一機一機の火力そのものは低いらしいがそれでも群れで襲い掛かって来るだけで補う範疇を超えている。
火力がないからと言ってもそれでも、所謂ガトリングかそれ以上の火力を持つ機銃を持って襲い掛かってくる大群。
十分、恐ろし過ぎる。
まるでピラニアやスズメバチの群に襲われて穴だらけになるかズタズタにされた死骸だ。
「だから、「IS」の「絶対防御」だけを当てにするのは絶対にやってはいかん。
下手しなくても酷い死に方をするで?」
「……わかりました」
「肝に銘じさせていただきます」
その事実に俺たちは満場一致で肝に銘じた。
穴だらけでなるのがマシで最悪身体がバラバラになる。
そんな死に方は確かに恐ろしい。
「ま、気を取り直して次行ってみよう!
次は「艦攻」の説明や!」
俺たちが「艦戦」という存在が少なくても人間相手には十分過ぎる程の脅威であることを認識していると龍驤さんは次に「艦攻」と呼ばれるものについての説明らしい。
「これは正式名称は「艦上攻撃機」と言ってな。
役割として素早く魚雷を相手に叩き込むことや」
「魚雷を?」
「せやで。
ある意味、こいつらの存在が水上戦での役割を雪風や神通、天龍たちから奪った存在になるな」
「え?雪風や那々姉さんたちから?」
「そうや。
何せ、艦船よりも数が多くて細やかに早く動いて接近することが出来る。
そういった面では巡洋艦や駆逐艦を使うよりも「艦攻」を使った方が打撃を与えやすいんや」
龍驤さんの口から出てきた雪風や那々姉さん、天龍さんといった俺たちを圧倒してきた面々から役割を奪ったとする「艦攻」の説明に俺たちは度肝を抜かされた。
あれだけ強い人たちでもまるで仕事を失うなんて一対、どういうことだろう。
「だけど、水雷屋の素の火力がなければ姫や鬼にも勝てんよ」
「!?」
けれども龍驤さんは昨日天龍さんが語った「姫級」や「鬼級」について言及しそれら相手には「艦攻」だけでは足りないと語った。
「「艦攻」の役割は最初の一撃としては有効やがトドメを刺すには向いておらん。
だから、追撃戦で他の艦隊のみんなに任せたり、他の艦載機との連携が重要になってくるんや」
「艦隊だけじゃなくて……
他の艦載機ですか?」
その説明を受けて「艦攻」が強力な機体であることは理解したが、同時に決定打にならないことを理解した。
「そうやで。とりあえず機動部隊で戦う際には先ず「艦戦」や「艦攻」で相手の航空戦力と水上戦力を奪ってその後に艦隊のみんなと「艦爆」で〆るのが定石や。
これが粗方の艦載機の戦術や」
「「艦爆」……?」
艦載機のそれぞれの役割を教えられたが次に出てきた「艦爆」という新しい言葉、いや、艦載機の言葉が気になった。
「まあ、「艦爆」は正式名称を聞けばある程度察しが付くと思うけど、「艦上爆撃機」のことや」
「ば、「爆撃機」……?」
その名前を知って俺は何となくそれが何なのかを理解した。
名前からして明らかに「艦爆」とかに使いそうなのが分かったからだ。
「まあ、要するに仰山爆弾を積んだ艦載機や。
「艦攻」と違うのでちょっと工夫が必要で先に制空権を確保したり「艦戦」で護衛せんといかんことやな。
後は奇襲かな?
けれども、破壊力なら間違いなく「艦攻」より上や」
「……?
「艦攻」と「艦爆」て両方とも爆弾を載せてるんじゃないんですか?」
少しだけだが「艦攻」と「艦爆」の違いが分からなくて俺は違いを訊ねた。
「ああ、それは載せてる爆弾の種類が違うんや。
「艦攻」は魚雷で、君たちの世界ではミサイルちゅう奴やっけ?
それを搭載した戦闘機みたいな役割をしている感じやな。
要するに目の前の敵を倒すのが「艦攻」やな?
多分、君が「軍用機」を全部「戦闘機」やと思ったのもこの世界の戦闘機が「艦攻」の役割も担っていることにもあると思うな」
「あ、成る程……
じゃあ、「艦爆」は?」
何となくだけど、俺が「軍用機」を全部「戦闘機」だと思った理由が分かった。
成る程、ミサイルを戦闘機が積んでいたからその影響で認識してしまったのか。
「「艦爆」はまあ、普通の爆弾を大量に積んでいてそれを敵に投下していくのが仕事やな。
だから、爆撃機やな。
これでわかった?」
「あ、はい。
わかりました」
何となく、今の説明で「艦攻」と「艦爆」の違いは分かった。
つまり、爆弾が自分で動くか、その当たり方が違うかの違いらしい。
「じゃあ、みんな。
他に分からんことはない?」
龍驤さんは俺たちにわからないことはないかと訊ねてきた。
「いえ、大丈夫です」
「違いはわかったわ」
「はい」
「ありがとうございます」
それに対して他の四人は『大丈夫』だと答えた。
流石に俺と違ってそこら辺の知識は詳しいのかもしれない。
「ふ~ん、ならよかった。
これで気兼ねなく出来るわ~」
「?」
「あの、それはどういう……?」
俺たちがもう疑問がないことを理解すると龍驤さんはにっこりとそう答えた。
「うちは言ったで?」
「え」
龍驤さんは表情を変えることなくそう言った。
その直後だった。
「……!?」
上から大量の黒いものが降り注いできた。
それに気付いた瞬間、それらは爆ぜた。