奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い 作:オーダー・カオス
「Oh!シャルロット!
その様子ですと怪我はないらしいですネ?」
「え?あ、はい……
あの!ありがとうございました!!」
金剛さんはシャルを視界に入れるとシャルに目立った怪我がないことを喜び、シャルは金剛さんにお礼を言った。
そう言えば……
この人が雪風とシャルを助けてくれたんだよな……
今のシャルの言葉で思い出したが、この人が俺たちとはぐれて絶体絶命の危機に陥っていた雪風とシャルを助けてくれたらしい。
「You are welcome!
私としてはユッキーとそのfriendを助けられたことを偶然だとは言え、嬉しい限りデース!!」
金剛さんは心の底から雪風とシャルを助けられたことを喜んでいた。
「By the way(ところで)?
どうしたのデスカ、皆さん?
そんな浮かない顔をしテ?」
「そ、それは……」
俺たちが自分の無力感に打ちひしがれているのに気づくと金剛さんはそれを追求してきた。
「……雪風が……
私たちに「深海棲艦」との戦いに手を出すなって言ったのよ!!」
「ちょっと、鈴さん!?」
「そんな言い方しなくても……!!」
金剛さんの質問に鈴が悔しそうに誇張が入っているがそう答えた。
それに対して、この中で比較的に冷静さを保っていたセシリアとシャルの二人が止めに入った。
ラウラに関しては「姉」として慕っていた雪風に拒絶されたことへのショックで立ち直れないでいた。
「仕方ないじゃない……!!
悔しいんだから……!!」
「鈴……」
「鈴さん……」
だけど、鈴は本音をぶちまけた。
鈴は本当に悔しかったのだ。
友達である雪風に遠ざけられるということはそれはつまり、あいつに『頼りにならない』と遠回しに言われたも同然なのだ。
いや、悔しいのは鈴だけじゃない。
この場にいる全員が悔しくて仕方がなかった。
「……Hum……成る程……
あの子もいいfriendsを持ちましたネ」
「え……」
しかし、そんな鈴の雪風に対する苛立ちを見て金剛さんは少し嬉しそうにしていた。
「どういうことですの?」
セシリアはそんな金剛さんの予想外な様子の理由を訊ねた。
「いえ。ユッキーのそう言った気遣いに対してそう怒ってくれるfriendsがいてくれるのは喜ばしいと思いましてネ」
「?」
「え?」
金剛さんはどうしてそんな風に笑っていられるのか俺たちは不思議だった。
「あなたたち……
Kind people(優しい人たち)ですネ!」
「はい?」
いきなり中学を出てから少ししか経っていない俺ですらわかる『優しい人たち』という意味の英語に俺たちはさらに困惑してしまった。
「あなたたちは要するにユッキーが戦うことを許せないと思ってくれているのですネ?」
「え?ああ、そうだけど……」
金剛さんは俺たちの戸惑いに対して当たり前のことを訊ねてきた。
誰が好き好んで友達が戦いに身を投じることを許せる。
それも「IS」というある種の安全性が保障されているものではなく、正真正銘の戦争に等しい殺し合いだ。
そんなものに友達が巻き込まれるのにどうしてそれを許せる。
「そう思ってくれるだけで、あの子が生まれた時から見てきた一人として嬉しい限りデス」
「え?生まれた時から?」
「Yes!
あの子が佐世保で生まれて呉に旅立つまで私はずっと見守ってきまシタ!
本当に可愛らしい子でしタ!」
「!?
じゃあ、どうして!!」
金剛さんは雪風が生まれた時から見守って来たらしい。
そして、そんな雪風のことを本当に愛らしく思っているのも感じられた。
しかし、どうしてそんな雪風が戦いに身を投じることを彼女は怒りを見せないのか俺たちには理解出来なかった。
「あなたたちと同じだからデス」
「え……」
俺たちと同じ……?
金剛さんの穏やかで誇りに満ちた表情から出てきたその言葉に俺たちは次に出したかった言葉を出すことが出来なかった。
「あなたたちが自分が危機に陥った時にFriendsをそれに巻き込まないことを願える人たちだと私は分かりましタ」
「そ、それは……」
金剛さんは俺たちが雪風の立場であれば同じことをしていただろうと遠回しに言ってきた。
それに対して俺たちは何も言えなかった。
もし、俺たちが雪風と同じ立場で自分が戦わなきゃいけない時に他の人間、いや、友達を巻き込めるだろうか。
「……それにあなたたちは戦いに身を投じることの意味が理解出来マスカ?」
「え……」
笑顔をそのままにして金剛さんは今までと異なり、鋭い意思でそう訊ねてきた。
「見た所、あなたたちはそれなりに場数を踏んでいるのが感じ取れマース。
However……これからユッキーや私たちがしていく戦いの意味を理解出来てマスカ?」
「っ!?」
「私たちが吞気だって言うの!?」
金剛さんの発言に鈴が怒りを露わにした。
今まで友好的な発言しかしてこなかった艦娘の中で挑発的な発言をした彼女からの問いかけに俺たちは戸惑ってしまったのだ。
「Yes.
失礼ながらあなたたちは我々が身を投じる戦いがどういったものなのかを理解出来てないというしかありマセン」
「なっ!?」
「なんだと!?」
鈴だけでなく今度はラウラが声を荒げた。
金剛さんは俺たちが雪風のことを案じてくれている気持ちに関しては感謝している様子であったが、俺たちが戦いに加わることに対しては懐疑的であった。
「……では、訊ねマス……
あなたたちは命を奪うことへの覚悟はありマスカ?」
「え……」
「!?」
金剛さんの口から出てきた言葉に俺たちは頭が真っ白になってしまった。
「命を奪うことへの……覚悟……」
「Yes.あなたたちが優しい人たちなのは理解していマース。
But,それ故に命を危険に晒す覚悟はあっても、他人の命を奪うことに対しては慣れていないデショウ?」
金剛さんの口調は今までと同じ英語交じりの訊き方であるが、言葉の内容と同じく重い意思を込めて俺たちに問いかけてきた。
「だったら、アンタたちは……!!」
鈴は少しでも負けたくないと思ったのか、金剛さんに逆に訊ねた。
それは鈴なりの優しさだった。
金剛さんの発言は裏を返せば、『敵を殺すことに躊躇いがない』ということになる。
だけど、鈴はそれに対して真っ向から疑問を呈する形で『アンタたちはそんな人間じゃないはずだ』と言いたかったのだろう。
「……そうですネ。
私たちは敵を殺すことに慣れてはいますガ……
何も感じない訳ではありまセン」
「!?」
「慣れているだって……?」
金剛さんは少し寂しそうな顔をしてそう答えた。
「……「深海棲艦」は駆逐しなければならないEnemy(敵)デス……
But,あの人の形をして、時に仲間を庇ったり、仲間を奪った私たちに向ける際の表情を目にすると……
心が痛まない訳ではないのデース」
「……!」
金剛さんは「深海棲艦」を倒さなければならない敵だと語りながらも同時に相手が見せる様々な表情に対して思うところがあり、心が痛むと告白した。
俺はあの時……
俺は「深海棲艦」に拘束された時、殺してしまっている。
あの時、俺は自分が穢れていくような感覚に陥り、もし冷静だったら発狂していた。
それをこの人たちはそれを何度も経験してきたと語っている。
『慣れている』じゃなくて……
『慣れるしかなかった』じゃないか……
俺はそう感じた。
この人たちは慣れているのではなく、慣れるしかなかったのだと。
何度も何度も戦って、相手の生命を奪って、相手の憎しみをその身で受けても進むしかなかった。
それは地獄としか俺は思えなかった。
「なら、どうして!?」
鈴は金剛さん、いや、彼女たちが生きてきた地獄に対してどうして戦って来れたのかと訊ねた。
「私たちが戦うしかなかったからデース」
「!?」
金剛さんは単刀直入に答えた。
「周囲のSisters,Friends,Fellows(仲間たち),And,愛する人たちを守る為、たったそれだけの為に戦っていた。
たったそれだけデース」
「「「「「!?」」」」」
金剛さんは明るくそう言った。
悲壮感など漂わせることなく苦しいと言いながらもそれだけは確かだったと彼女は言った。
「今の私の説明でも納得できまセンカ?」
「……ああ」
金剛さんは少し仕方なさそうに訊いてきた。
彼女の説明で俺たちは自分たちの認識が甘かったことを認めさせられたが、それでも、いや、だからこそそんな地獄に雪風を放り投げることが嫌だった。
「……優しい人たちデスネ……
Thank you」
そんな俺たちの反発を見てもなお、金剛さんは嬉しそうだった。
「ならば、あなたたちに出来ることを言わせてくだサイ」
「私たちに出来ること……?」
金剛さんは何かを俺たちに何かを言いたいらしい。
「強くなってくだサイ」
「強く……?」
意外な言葉が彼女の口から出てきた。
『強くなって欲しい』。
一体、何を思って言っているのだろうか。
「……この戦いはあなたたちが望んでも望まなくてもいずれ、戦いに身を投じるはずデース」
「「「「「!?」」」」」
金剛さんは申し訳なさそうに俺たちにそう告げた。
「私たちが全力を出しても……
勝つことは無理デース」
「そんな……」
今まで強者の風を纏っていた金剛さんの初めて見せた弱気に俺たちは愕然とした。
そして、同時にそのことで気付いた。
彼女たち、いや、雪風が立ち向かおうとしている相手がそれ程までに強大であることに。
「だから、あなたたちも戦いに身を投じぜざるを得ない時が来マース」
「!!」
そして、俺たちがその戦いに加わることを意味していた。
「もし、あなたたちの私たち……いいえ、ユッキーの力になりたいという気持ちに噓偽りがないのならば……
どうか、あの子の為に強くなってくだサイ」
金剛さんは『今は戦いに参加できずとも、もしその時が来れば、雪風の力になれる程強くなって欲しい』と懇願してきた。