奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い   作:オーダー・カオス

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第103話「事実」

「雪風、悪かったって」

 

「だから、機嫌を直してくれ」

 

「む~……!」

 

 雪風と箒とシャルの三人が無事とは言い切れないが、帰って来たことで俺たち三人がいる部屋に向かったが、俺たちよりも先に艦娘の人たちが居ても立っても居られずに雪風達の部屋に突入していき加賀さんが来るまで部屋に入るタイミングを逃していた。

 流石に雪風にとっては25年ぶりの再会に水を差す様なことはしたくない。

 鈴が箒を追い出してしまったが龍驤さんと朝潮が問題ないと言ったことで追いかけずにいた後、次は雪風とは気まずい雰囲気になってしまった。

 しかし、その後に叢雲と呼ばれる艦娘と年齢の話題になり、俺が雪風を怒らせるもそれに今度は武蔵さんが便乗し実は雪風が子供舌だったことが発覚し、俺は一応フォローのつもりで『可愛いな』と言った瞬間に雪風に更なる精神的なダメージを与えてしまった。

 そして、現在雪風は枕を抱えていじけており武蔵さんたちが宥めようとしていた。

 

 ……言いにくいけど、ちょっと可愛いな

 

 ただそのあやされる様な扱い方といじけ方が逆に可愛く見える。

 何というか、今までよりも完全に子供っぽさが出てきてしまっている。

 それと今までと違って少しだけであるが明るくも見える。

 

「でも、あの雪風さんがあそこまでからかわれるなんて想像も出来ませんでしたわ」

 

「ああ、しかしだ……

 お姉様の意外な一面もやはり、いいものだ」

 

「……アンタ、本当にぶれないわね」

 

 セシリアたちも今の雪風の状態を見て衝撃的らしい。

 ただラウラはいつも通りではあるが。

 

 ……というか、本当に三十歳なのか?雪風って?

 

 まさか雪風が俺たちどころか、千冬姉よりも年上だと思わなかったが、今の雪風の状態と今までの言動を顧みると少なくとも三十路には見えない。

 例えば、俺と山田先生との事故を見て赤面したり、シャルの性別が露見した時の逃走時の懇願、今回の水着での恥じらい。

 いくら何でもそっち方面での免疫がなさすぎないだろうか。

 いや、ことごとくが俺にも責任があるが。

 

 でも割と大人的な優しさと言うか、余裕と言うか、そういうのもあったけど……

 

 しかし、逆にそういった面を除けば大人っぽいところもあるにはあった。

 俺が実技訓練でグラウンドに穴を空けた際に率先して手伝ってくれたり、鈴とセシリアが噛みついてきた際にフォローしてくれたり、みんなが辛辣な言い方を言う際にも丁寧に言ってくれたりと色々な面で助けてくれていた。

 

 いや……でもあれは雪風の性格もあるんじゃないのか?

 

 しかし、これは大人の余裕と言うよりもむしろ、雪風本来の性格が強いのかもしれない。

 実際、あのショッピングモールで俺が女尊男卑の思想に染まり切った女に絡まれた時に雪風はそんなことをお構いなしに『間違っている』と言ってくれた。

 あの言葉でどれだけ俺が救われたことだろうか。

 

 思えば……そう言うことだったんだな………

 

 今でも俺は雪風を含めた彼女たちが違う世界から来たということに対しては半信半疑だ。

 でも、「女尊男卑」に対してまるで知らないと言った風にそれを無意識に否定し続けた雪風を見て何となくその事実に説得力を感じてしまった。

 あの時、俺は雪風を妖精みたいな存在だと感じたがある意味では間違っていなかった。

 

 ………ぶたれた甲斐があったな

 

 雪風にとってはこの世界の風潮は関係ない。

 そんな彼女がこの世界の理不尽で傷付いていいはずがない。

 だから、あの時に代わりにぶたれたことに俺は良かったとすら感じた。

 

 雪風、お前は大丈夫だよ

 

 俺は雪風の怯えを否定した。

 恐らく、彼女がこの世界で生まれていても彼女は「女尊男卑」の在り方に染まらなかった。

 それだけ強い娘だ。

 雪風は姉がいたことと亡くなったことを伝え、そして、今日になってあの目の理由を明かした。

 あの目は奪う者への怒りそのものだ。

 だけど、それは決して憎しみなんかが根源なんかじゃない。

 きっとあれは雪風の強さの表れだ。

 

 あれは優しさが理由なんだ……

 

 雪風の強さ。

 それは優しさだ。

 もし奪われたことだけが理由ならそれはただの憎しみだ。

 でも、雪風は奪われることへの怒りをまだ持っている。

 それは大切な誰かを守ろうとする彼女の力だ。

 

「しっかし、まあ~……何というか、あれだ。

 うちの鎮守府ほどじゃねぇがここは女子の比率が高いな」

 

「あ、そういえば」

 

「確かにそうだクマ」

 

「不思議だね」

 

 雪風のことを武蔵さんたちが宥めていると眼帯を付けていた確か天龍さんという人が男女の比率に関して疑問を抱いたらしい。

 最近マヒしてきたが確かにこの状況で男が俺一人と言うのは普通なら不自然だろう。

 

「あ、天龍さん……それは……」

 

 天龍さんの発言にどうやら少しは機嫌を直してくれた雪風が答えようとしていた。

 しかし、その様子は何処か躊躇いがあった。

 

 あ、そっか………

 この人たちの世界……と言うよりも時代……あぁ!もう訳分かんねぇ……!

 

 俺は意味は分かっているが、どう一言で雪風たちの世界を言い表せばいいのか分からず混乱した。

 雪風たちのいた世界には「IS」は存在しなかった。

 しかし、それはあくまでもこちらの世界で言う75年前のことだ。時代が違うのだから当たり前だ。

 といっても時代が違うと言ってもあちらの世界の2022年に「IS」が出来ていた可能性もなくもないので何といえばいいのかわからない。

 

 とりあえず、雪風たちにとって「IS」は未知の技術でいいんだよな……

 

 俺はそれで片づけた。

 そう雪風たちにとっては「IS」の存在は本来なら接することもなかったものだ。

 だから「IS」の特性を知らないのも無理はない。

 

 でも……あれも話すのか?

 

 俺は「IS」のことを説明することに雪風と同じ僅かながらの不安を覚えた。

 先ず、当然ながら「女尊男卑」に対してはこの人たちは雪風と同じ様に怒りと悲しみを覚える。

 それはあの「クラス代表決定戦」での雪風の姿から察せられる。

 間違いなくこの人たちは怒るだろう。

 加えて

 

 「白騎士事件」も説明しなきゃいけないしなぁ……

 

 「IS」が広まった最大の理由である「白騎士事件」。

 あのことを知ればこの人たちは激怒するだろう。

 何故ならこの人たちは

 

 文字通りこの国の為に戦っていた人達らしいしな……

 

 命懸けでこの国を守っていた人達が。

 現代日本人の俺からすれば愛国心なんてものはよくわからないものだが、彼女たちにとっては国を守るというのは恐らくそこに住む人々の営みを守る為のものだったのだろう。

 そんな彼女たちにとってはこの国とそこに住む多くの人々、そして平和を害そうとしたあの事件は許せることではないはずだ。

 

「そのですね……皆さん、落ち着いて聞いてくださいね」

 

「どうした雪風?

 そんな苦虫を食い潰したような顔をして」

 

「そうや。

 「IS」てのは要するにうちらの艤装みたいなもんなんやろ?それも人間のみんなが使える。

 それなら別に「艦娘」が戦わないだけ人間の人たちが悲しまないで済むやないか?」

 

 武蔵さんと龍驤さんは雪風の重々しい態度の理由が分からなかったらしい。

 同時に龍驤さんの発言に俺は彼女たちの世界の人たちが「艦娘」に対してどう感じていたのかを理解した。

 きっとあちらの世界ではこの女の子の姿をしている彼女たちを戦わせることに多くの人々は喜びと感謝、そして、悲しみと義憤を感じていたのだろう。

 そんな彼女たちに男とはいえ、この世界の恥とすら言える「女尊男卑」を今から知られてしまうことが恥ずかしかった。

 むしろ、彼女たちが楽観的なのもそれが普通に異常なことであることを意味しているはずだ。

 

「……やっぱり、そう思いますよね」

 

「?」

 

「あ……」

 

 雪風は仲間たちの反応を見て悲し気に呟いた。

 それはきっと雪風も辿ってきた道なのだろう。

 

 

 

「「女尊男卑」って……」

 

「嘘でしょ!?」

 

「いくら何でもあり得ないわ!」

 

 私がこの世界の風潮である「女尊男卑」を明かすと当然ながら全員が半信半疑どころではなかった。

 むしろ、こんな馬鹿げたことが存在することがあり得ないだろう。

 

「……そうかしら」

 

「え……」

 

「加賀さん!?」

 

 全員が信じられないことに戸惑っているとその中で加賀さんが異論を出してきた。

 

「きっとこういうことは色々とあると思うわ」

 

「なっ!?どういうことですか!?」

 

 彼女達だけではなく、一夏さん達ですら言葉を失った。

 元々「女尊男卑」とは無縁の世界である私たちが加賀さんの発言を疑うのも無理はないが、それでも一夏さんや一夏さんとの交流でそういった考え方を改めたセシリアも同じだった。

 どうしてこんなことを言うのだろうか。

 

「あなたたち嘉永から続いた欧米列強からの不平等条約を忘れた?」

 

「あ……!?」

 

「?」

 

 加賀さんは私達の疑問に対していきなり江戸時代のことを持ちだしてきた。

 それに対して私達は合点が行くところがあり、一夏さん達は彼女の言おうとしていることが分からなかったらしい。

 

「あの時代、日本は軍艦どころか大砲ですらも近世のものしかなくてたった四隻の黒船の影響で海外からの圧力に屈したのよ?

 そして、関税自主権を奪われて治外法権すらも強いられた。

 ただ相手より弱いと言うだけで」

 

「う……」

 

「………………」

 

 加賀さんの指摘に今まで飛び交っていた『あり得ない』や『理不尽』という言葉が消えてしまった。

 

「それら全てを解消する出来たのは日清・日露という二つの対外戦争で勝利できたからだわ。

 あれでようやく欧米諸国が日本を認めたと言うよりも日本を敵に回すと厄介だと理解させることが出来たのよ。

 つまりは対等の立場での交渉が可能になったのよ」

 

 続けて加賀さんの口から出てきた歴史の事実に納得するしかなかった。

 実際、明治の富国強兵政策がなければ欧米諸国と渡り合えることも出来なかったうえに、そもそも交渉の席に着くことも出来なかった。

 そして、その富国強兵政策の結果であるあの二つの勝利がなければ不平等条約の撤回はもっと先になっただろう。

 

「……確か「IS」だったかしら?

 その女性にしか使えない装備が圧倒的な力を持っているのでしょう。

 なら、それを使える側の人間が驕るのも無理はないわ。

 幕末の欧米諸国の日本への態度や日露戦争の後の日本人の白人に対する態度を見ていれば」

 

「うっ……!」

 

 加賀さんの発言はこの場にいる全ての人間にとっては心苦しいものだった。

 実際に日露戦争後の日本時の白人への態度は横柄なところがあった。

 要するに力のある人間、いや、それに追従する人間や所属する人間が驕るのは歴史上でも多くあるということだ。

 彼女の発言に艦娘はあの伝説の戦艦や金剛さんから聞かされた話を、一夏さんと言うよりも鈴さん、セシリアさん、ラウラさんたちは沈痛な面持ちだった。

 今、この場にいる全ての人間が同じ気持ちを抱いていた。

 

「……じゃあ、不平等は当たり前だって言うのか?」

 

 ここで言葉を発したのは天龍さんだった。

 彼女は不満、いや、義憤を抱いていた。

 男よりも男らしい一面のある彼女からすれば曲がったことは嫌いだろう。

 

『おやおや歴史の勉強をしたことがないのかな?

 有史以来、世界が平等であったことなど一度もないよ』

 

 その質問と加賀さんの考えに私は篠ノ之博士の言葉が脳裏に浮かんだ。

 彼女は自らの行動を屁理屈で誤魔化そうとしていたが、彼女の言っていることは事実であるのは加賀さんの言葉をなぞればそうなる。

 だけど

 

「……そうとも言えないしそうとも言えるわ」

 

「はあ!?」

 

「!」

 

 加賀さんは肯定も否定もしなかった。

 

「不平等なのは当然よ。

 でも、それを少しでも直していきたいと思えることも当然のことよ」

 

「!」

 

 加賀さんは断言した。

 それは篠ノ之博士の屁理屈を聞いた際に私が心の中で感じたことそのものだった。

 確かに人は平等ではない。

 だけど、それでもそれを嫌で変えようとする人たちの心の在り方があるのも事実だ。

 

「だから、あなた達も恥じることはもうやめなさい」

 

「え……」

 

 そして、加賀さんは少し表情を和らげて一夏さんたちの方を見た。

 

「少なくてもあなた達は今の話を聞いて恥を感じたのでしょ?

 それはあなた達がそれを間違っていると感じている証拠よ。

 だから、安心しなさい。

 むしろ、あなた達みたいな人までもをごっちゃにしたらそれこそ恥よ」

 

「「「……っ!」」」

 

 加賀さんの優しさに対して一夏さんを除く三人が動揺した。

 セシリアさんが「女尊男卑」に染まっていたのは周知の事実で、ラウラさんも力に驕っていたが、鈴さんも反応するのは意外だった。

 だけど、加賀さんの言う通り彼女たちは変わっていけるだろうし、変わったからこそ恥を感じているのだ。

 

 そうですよね……

 この人たちまでもをあの女性と一緒にしたくはありません

 

 「同じ世界の人間」だから一緒にすると言うのは結局のところ「女尊男卑」に染まった人たちと変わらない。

 だから、一緒にはしたくはない。

 それ以前に友達を侮辱したくないし、されたくもない。


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