奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い   作:オーダー・カオス

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E―5―2で沼り続けている件。
小鬼や陸上……マジやばいでしょ。
こっちにはローちゃんとプリンツいないし、ビス子も今回ドロップして育っていない。
しかも陸上攻撃対策のロケランも二つのみ……
あ、これ詰んだ。
リシュリューとコマちゃんいるけど、機動部隊切り換えも無理かも……オワタ\(^o^)/

とりあえず学んだ事。
海外艦は春から育てておけ。ですね。


第29話「姉の話」

「雪風の一番上の姉さんか……

 じゃあ、厳しいお姉さんてその人の事か?」

 

 私が最初に陽炎姉さんのことを話そうとすると、一夏さんは『一番上の』という言葉から私に複数の姉がいることを察したらしい。

 一夏さんは私に複数の姉がいることを知ると、陽炎姉さんのことを不知火姉さんのことだと勘違いしてしまった。

 

「クスっ……

 違いますよ。その厳しい人は二番目の姉です」

 

「え?そうなのか?」

 

 その勘違いが少しおかしく思ってしまい、私はつい笑ってしまいながらも、厳しい姉が次女の不知火姉さんであることを教えた。

 

「じゃあ、その一番のお姉さんてどんな人なんだ?」

 

 長女の陽炎姉さんが件の厳しい姉ではないことを知ると、一夏さんは陽炎姉さんがどんな人なのか気になってしまったらしい。

 

「う~ん……何と言うか、まさに皆を引っ張る長女て感じでしたね」

 

 私は陽炎姉さんのことをもっとも端的に表した言葉で説明した。

 

「天性の人たらしで明るくて何時の間にか相手の心に入ってくるような人でしたね。

 関わっていると自然と友達になっているような人ですよ」

 

「へえ~、そんなフレンドリーな人なのか」

 

「はい。友人に対して、所構わず『大好き』とか、『愛している』とか臆面もなく言ってくるような人でしたよ」

 

「それは……

 何と言うか、すごいな……」

 

「それで特に仲の良かった人たちも少し口調がきつい人や無口な人だったんですけど、姉さんのことが大好きでしたよ」

 

 続けて私は陽炎姉さんのことをもっと詳しく話した。

 陽炎姉さんは本当に人たらしで駆逐艦の中で一、二を争う人望を持っていた。

 しかも、彼女は自分の好意を包み隠さずに相手にぶつけて来るので大体の人が恥ずかしくなってしまう時がある。

 加えて、あの誰であろうとも(神通さんを除いて)口調が乱暴になりがちな霞ちゃんでさえ素直ではなかったけど、陽炎姉さんのことが大好きだったことも伝えておいた。

 

 ハハハ……

 霞ちゃんが聞いたら真っ赤になって怒りそうですね

 

 私は意外と照れ屋な霞ちゃんの本人が絶対に明かしたくないであろう本当のことを説明したことに、本人がきいたら顔を真っ赤にして否定しそうな姿を想像して微笑ましく思ってしまった。

 

「お、おう……

 すごいな、その人。

 と言うよりもお姉さんの友達も随分と個性的な人なんだな」

 

 一夏さんは陽炎姉さんの人たらしぶりを聞くと、陽炎姉さんだけでなく、彼女の僚艦であった霞ちゃんや霰ちゃんのことにまで驚いてしまったらしい。

 確かにあの二人も陽炎型の姉妹たちと比べても遜色がないほどに個性的だった。

 そう考えると、陽炎姉さんはなるべくして、十八駆のまとめ役にして盛り上げ役になったといえるかもしれない。

 そして、何よりも

 

「はい。でも姉妹たちも姉さんの友達も姉さんのことが大好きだったと思いますよ。

 友達想いで、仲間は絶対に見捨てないと心の底から言える方でしたので」

 

 陽炎姉さんは私の知る限り、最も仲間想いな駆逐艦だった。

 彼女の水雷魂は本物であり、そして、彼女の仲間を絶対に見捨てないという信念は「二水戦」だけでなく、呉の駆逐艦全員に響き渡り呉の駆逐艦には「仲間を絶対に見捨てない」という彼女の考え方が必ず根底にあった。

 

「……かっこいいな」

 

「はい!

 世界で一番かっこいい姉さんです!!」

 

 私は一夏さんに陽炎姉さんの仲間想いな一面を誇らしく語ることができ、一夏さんにも陽炎姉さんのカッコよさが伝わったことに非常に満足してしまった。

 

「何せ、二番目の姉さんはその姉さんのことが大好きでしたから」

 

「?

 それって、厳しいお姉さんのことか?」

 

「はい!」

 

 私は陽炎姉さんのことが世界で一番大好きだったであろう不知火姉さんのことを話しに出した。

 あの人は他の誰よりも陽炎姉さんのことが大好きだった。

 そもそも、不知火姉さんがあんなに厳しくならざるを得なかったのは次女として長女の代わりに妹たちを守りたいと思ったことや、せめて陽炎型の名前を守ることで陽炎姉さんの名前だけでも守りたいと願って妹たちに強く在って欲しいと思っての事だった。

 

「でも、その人……

 雪風に物凄く厳しかったんだろ?

 お姉さんが好きなら、どうしてその同じお姉さんの妹である雪風を……」

 

 一夏さんは不知火姉さんの厳しさの理由を知らないことから、やはり、不知火姉さんの厳しさが不可解に思えてしまったらしい。

 確かに彼の言う通り、ただ厳しいだけならば妹をいじめる嫌な姉にしか思えないだろう。

 相手の痛みを考えないでただ厳しくあろうとするのは相手が自分に屈服することを楽しんでいるだけのことだ。

 人間には自らの立場をいいことに弱い人間を虐げる人もいる。

 虐待と呼ばれるものの中には子供という逆らうことの出来ない弱者を大人が虐げている。

 まさにこれだ。

 だけど、私は不知火姉さんがそういった人間と同じだと言われると『それは違う』と大きな声で否定できる自信がある。

 なぜならば、

 

「一夏さん……

 ()()()()()()って何だと思いますか?」

 

 私は不知火姉さんの持つ本当の優しさとその強さを知っているからだ。

 

()()()……()()()……?」

 

 一夏さんは唐突に私の口から出て来たその言葉に戸惑いを覚えたらしい。

 けれども、こんなことを突然言われたら困るのは仕方のないことだろう。

 でも、私はどうしてこれだけは言いたかったのだ。

 

()()()()()()とは、()()()()()()()()()()相手の為だけに相手と向き合えることを言うんですよ」

 

「……相手に嫌われても……」

 

 私は最も尊敬する姉である不知火姉さんの持っていた優しさと言う強さを話したかった。

 ()()()()()()とはただ相手を甘やかしたり、耳障りの良いことばかりを言うことではない。

 もし、それが「優しさ」だと言うのならば、それは間違いだと断固として私は言う。

 

「だって、この世の中で一番怖いことって自分の大好きな人に嫌われることじゃないですか?

 それなのにその大好きな人に嫌われるかもしれないのに相手の為に向き合える……

 それって、すごく勇気のいることでその人のことを大切に思ってなくちゃ出来ないことじゃないですか?」

 

「……あ」

 

 そう。本当に相手のことを思うのならば、その人のことを本気で心配してその人の悪いところを指摘したりするものだ。

 逆に甘い言葉しか囁かない人がいるとすれば、その人は優しい人間なんかじゃない。

 ただ相手のことを怒らせるのがめんどくさいだけだ。

 その時点でその人間にとっては、その人はその程度の価値だと言うことなのだ。

 自分にとって都合のいい上辺だけの関係。

 だから、本当に優しい人と言うのは本当の意味で相手を思いやれる人間なのだ。

 

「……私の姉さんはそんな人でした」

 

 不知火姉さんは優しかった。

 あの人は憎まれようが、恨まれようが、疎まれようが、恐れられようが、私たち姉妹を厳しく育てた。

 当然、彼女なりの『陽炎型の名前を守りたい』という妹としての願望もあったにはあっただろう。

 それでも、あの人はあの絶望的な戦局のなかで私たちに生き残って欲しいという姉としての願いもあった。

 だから、あの人は私たちに厳しく在り続けた。

 

『舞風……辛く当たってごめんなさい……

 こんなことになるのだったら……もう少し、いい姉でいるべきでした……

 陽炎……不甲斐ない私を叱ってください……お願いですから……』

 

 あの舞風の死を知った時に人目を避けた場所で仮面を外して心に秘めていた涙と共に流した彼女の姉としての本当の想い。

 本当は不知火姉さんも私たちに厳しくなどしたくなく、私たちに優しくしたかったし可愛がりたかった。 

 あれこそが他ならない彼女の本心だったのだ。

 本当は不知火姉さん自身が自らの『陽炎型の名前を守る』という自分にとっては大切な姉であり、相棒であった陽炎姉さんへの既に届かない想いであることを理解し、それを私たちにまで課すことへの矛盾と虚しさを理解していたのだ。

 姉として妹を守りたい。

 妹として姉の名を守りたい。

 その相反する感情の中で彼女は誰かの前で泣くことを自ら禁じた。

 その孤独や嫌悪を自らへの罰として甘んじて受け入れていたのだ。

 理解者が誰一人いなくても、姉妹への想いを貫いた。

 不知火姉さんは強くて優しい人だった。

 

「すごいな……その人……」

 

「はい。

 とっても強くて、優しい姉さんでした」

 

 一夏さんは不知火姉さんの強さに圧倒された。

 私は最も尊敬している姉の強さと優しさを理解してもらったことに嬉しさを感じるが、同時に不安だった。

 

「……でも、あの生き方は決して模倣していいものではありませんよ」

 

「……え」

 

「いいえ、何でもありません」

 

 私は自らの不安を口に出したが、これ以上は本当のことを知らない限りは話せないとしてはぐらかした。

 

『せめて、あの時は千冬姉の()()だけでも守りたいと思ったんだ』

 

 あの「クラス代表決定戦」の後の一夏さんの想いと答えを知った時に私が危うさを感じたのは私自身の歩んだ道と不知火姉さんの悲壮な強さを目にしていたことも理由だった。

 今はまだ姉である織斑さんが生きていることで大丈夫な方ではあるが、もし何かしらの理由で彼女が亡くなりでもすれば、一夏さんは不知火姉さんと同じことになりかねない。

 あの悲しい強さと優しさは本来ならば誰も見せるべきではないのだ。

 

「それで、次のお姉ちゃんの話なんですが」

 

「……()()()()()?」

 

 私はこれ以上、探られる訳にはいかないので黒潮お姉ちゃんのことを話そうと思った。

 その結果、ある意味では私の思惑通り、私の『お姉ちゃん』と言う呼び方に気を取られた。

 今まで私の姉への呼び方は『姉さん』だったのでいきなり『お姉ちゃん』となったことで困惑したのだろう。

 

「はい。お姉ちゃんです」

 

 私は特に親しかった姉の一人である黒潮お姉ちゃんのことを包み隠さずに昔から今になっても変わらない呼び方で呼んだ。

 

「雪風がそんな風にお姉さんのことを呼ぶなんて想像できなかった……」

 

 一夏さんは私の『お姉ちゃん』という呼び方が不思議に思ってしまうようだった。

 

「実はですね。

 私も姉の中でもこの呼び方をするのはこのお姉ちゃんともう一人のお姉ちゃんだけなんですよ」

 

 私は一夏さんに私が『お姉ちゃん』と親しみを込めて呼ぶ姉が二人いることを教えた。

 

「え?もう一人いるのか?

 と言うよりも、どうしてそんな呼び方を?」

 

 一夏さんは私がどうして二人のことを『お姉ちゃん』と呼ぶのか気になったらしい。

 確かに彼の考え方は間違っていない。

 普通、姉妹の呼び方は共通しているものだ。

 それなのに私は黒潮お姉ちゃんとお姉ちゃんのことを他の姉とは異なる『お姉ちゃん』という呼び方で呼んでいる。

 それが気にならないはずがない。

 

「それはですね……

 私にとってはお姉ちゃんたちが初めての姉で、お姉ちゃんにとっては私が初めての妹だったからですよ」

 

「え?それは一体……

 と言うよりも、お姉ちゃん()()

 えっと、それは……」

 

 一夏さんは私が『お姉ちゃん』と呼ぶ姉が複数いることに気付いて困惑してしまったらしい。

 

「私が『お姉ちゃん』と呼ぶ姉は二人いるんです。

 特に仲の良かった姉たちだったので、そう呼んでいるんです」

 

「そうだったのか……」

 

 私にとって、黒潮お姉ちゃんとお姉ちゃんは初めての姉だった。

 佐世保で生まれた私には磯風という妹はいたが、姉は呉に所属する前にはいなかった。

 陽炎型姉妹は十九人いたのに、不思議な話だった。

 そして、私が初めて出会った姉の中、一人もまた十九人も姉妹がいるのに、呉に来るまでは姉も妹もいなかったという数奇な巡り合わせだった。

 

「それでですね、上の方のお姉ちゃんはですね。

 私とお姉ちゃんのことをとても可愛がってくれたんです」

 

 私は黒潮お姉ちゃんの話を進めようと思った。

 黒潮お姉ちゃんは私とお姉ちゃんの三人で「第十六駆逐隊」を組んでいた時に十六駆の一番上の姉として、私たち妹のことを可愛がってくれていた。

 思えば、私が不知火姉さんに当初苦手意識を持ってしまったのは黒潮お姉ちゃんに可愛がってもらっていたこともあっただろう。

 私とお姉ちゃんが喧嘩(と言っても、一方的に私が泣いてしまってお姉ちゃんを困らせているだけだったが)したりすると、直ぐに間に割って入って私たちを仲直りさせてくれていた。

 あと、料理が上手くてよく私たちにおやつを作ってくれてもいた。

 

「あと、私たちのことをよく笑わせてくれた人でした」

 

 黒潮お姉ちゃんは私とお姉ちゃんの真ん中にいて、よく笑顔を振りまいてくれて、私たちを笑顔にしてくれた。

 

『ほな。二人ともお姉ちゃんになるんやから、妹を大事にせんとあかんよ』

 

 黒潮お姉ちゃんが他の陽炎型が着任することになって「十五駆」に移籍することになった時、彼女は私たちにそう言った。

 それに対して私たちは

 

『ちょっと……

 私は既にユキという妹がいるんだけど……』

 

『私だって、磯風がいるよ!?』

 

 と思いっ切り、既に妹がいることを指摘した。

 

『あ、そう言えばそうやったな?

 あははははは、ごめんごめん』

 

 とわざとなのか、うっかりなのか分からない反応をして黒潮お姉ちゃんは豪快に笑い出した。

 

『たく……

 あんたはね~……ぷっ』

 

『あははは……』

 

 その黒潮お姉ちゃんのおどけ方に私たちは自然と笑い出していた。

 今、思えばあれは私たちが寂しくないようにするための黒潮お姉ちゃんなりの気遣いだったのかもしれない。

 その夜、私たちはあの三人の十六駆としての最後の時を笑顔で終えた。

 

「それでですね~、もう一人のお姉ちゃんなんですけど―――」

 

 私はそのままもう一人のお姉ちゃん、世界で一番大好きな姉のことを話そうとした。

 本当は親潮姉さんたちの話もしたかったけど、姉が7人もいることを話したら流石に怪しまれると思っての苦渋の判断だった。

 そして、話そうとした時だった。

 

「―――あ、あれ……?」

 

「雪風……?」

 

 だけど、お姉ちゃんの話をしようとした途端、目に違和感を覚え言葉が止まってしまった。

 

 私……泣いてる……?

 

 その違和感の正体が涙であることを知り、私は自分が泣いているということに気付いてしまった。


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