奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い   作:オーダー・カオス

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第14話「悪夢再び……?」

「はあ……」

 

 私は恐らく周囲の道行く人々から不景気そうなと思われそうなため息を吐いている。

 改修された「初霜」の受け取りと試験運用を終えて私は学園への帰路に就く前にとある約束の為にあの私の心に恐怖を植え付けたショッピングモールへと立ち寄ろうとしていた。

 しかし、今の私の心境を作り出しているのはその事が原因じゃない。

 

「白兵戦の機会がなかったとは言え……

 これでは折角の改修が泣いています……」

 

 私を大いに悩ませていること、それは新しく追加された近接用の武装である「葵」を活かしきれなかったことへの不甲斐なさだった。

 最初、意気揚々と的に向かってすれ違い様に「葵」で斬りかかったが、ある程度剣道をしていたとは言え、それは二十年近く前の話であり、その時もお世辞にも上手いとは言えない私の剣筋は遅く、当てようとしたところも明後日の方向へと向かい、さらには一瞬弾かれるのではと錯覚したほどに酷い有り様だった。

 

 ちょっと、一夏さんを見直してしまったかもしれません……

 

 艦娘が白兵戦をするということ自体が稀と言うよりも皆無であるため、経験不足ということもあるが、まさか「剣術」というものがこれ程までに難解なものとは思わず、私は相対的に一夏さんのことを再評価してしまった。

 そもそも、「雪片」という刀一本のみしか持たないでこれまで戦ってきた時点で一夏さんの素質には私も驚かされてきたが、今回の件で実戦や神通さんの訓練を剣術だけでやり遂げてきた彼の素質を再認識してしまった。

 

 ……これじゃあ、益々白兵戦は避けないといけませんね……

 

 今までは射撃戦主体のセシリアさん等の同じ飛び道具を使う相手ならば相性や経験などで優位に立てていたが、突撃主体の鈴さんや私の「逆落とし」を封殺しかねないラウラさん、加えて、一夏さんとその完全な上位互換とも言える「VTシステム」といった相手の戦いから、白兵戦が私にとっての鬼門になりつつあるのは理解していた。

 その為、今回の「葵」の導入で相手に雷撃を加えた直後にすれ違い様に「葵」の切り込みで追い撃ちを加えれば「逆落とし」の後の隙を埋める方法として悪くないと考えてみたが、やはり、そんな簡単には上手くいかないようだ。

 

「誰か、いい白兵戦の指導者はいませんかね……?」

 

 私は自分の力不足を痛感させられて白兵戦の指導者を求めた。

 思えば、今まで土壇場でどれだけ「初霜」の錨を模した槍に助けられてきたのか考えさせられている。

 あの槍と同じ形状だから、初心者の私でも扱えたのだ。

 

 一夏さんに頼むのは……いや、やめましょう……

 

 一瞬、白兵戦に特化している一夏さんに指導役を頼むことを浮かんだが、すぐに止めた。

 彼に剣術の指導を頼むと言うことは一対一の個人的な指導になるだろう。

 しかし、それはマズい。

 別にそれは一夏さんが男性だから恥ずかしいとかの理由ではない。

 

 ひと悶着どころじゃないですよね……

 確実に……

 

 問題なのは確実にセシリアさんや鈴さんたちが知ったら争いの火種になることだ。下手をすれば、乱入してくるのは以前の篠ノ之さんが本格的に「IS」の訓練に参加した際のセシリアさんが起こした一騒動で目に見えているうえに、加えて、一ヶ月前のシャルロットさんの性別が明らかになった際の一夏さんへの暴行未遂の件からも現実味を帯びている。

 

 無難に鈴さんに頼むべきでしょうか……?

 

 となると、考えられる限り次善策としては同じ様な突撃型の鈴さんに指導を仰ぐことだ。

 だが、ここにも一つ大きな問題がある。

 

 ……でも、鈴さんの教え方はあれですし……

 

 鈴さんは大雑把過ぎる。

 鈴さんははっきり言えば、学年最強クラスの実力者だ。

 私の知る限りでは、相性差さえなければラウラさん以外には完勝できると言っても過言ではない。

 その実力の根拠としてはあの天性の反射神経にある。

 「IS」の展開時間ならば、恐らくシャルロットさんよりも上だ。

 そこに神通さんの指導で培われた技術や戦略、判断力、精神力も加わり、勝てると断言出来るのは織斑さんに鍛えられたことに加えて神通さんの訓練も受け始めたことで成長し始めたラウラさんぐらいだ。

 私ですら、彼女と戦うと危うく負けそうになる。

 それほどまでに彼女は搭乗者としては優秀だ。

 そう、搭乗者としては。

 その反面、指導者としては評価できない。

 彼女の性格上、ある程度の精通した人間の模擬戦の相手としてはこれ程までに最高の指導者はいないが、一から教える指導者としては向いていない。

 神通さんも『まだ他人を教えられるほどではない』と言っていることから経験不足もあり、大雑把過ぎる性格も災いしている。

 

 あ~……どうすれば……

 

 今にも頭を抱えて途方に暮れそうになった時だった。

 

「お~い、雪風」

 

「あ」

 

 私の名前を呼ぶ声がして私は我に返り、その声がした方を向いた。

 

「シャルロットさん。すみません。

 お待たせして―――」

 

 私のことをショッピングモールに誘ったのはシャルロットさんだ。

 実は今日はシャルロットさんに買い物に付き合って欲しいと言われて、「倉持」の後で落ち合う約束をしていた。

 先日は酷い目に遭ったが、基本的に常識人であるシャルロットさんならばその心配は無用だろう。

 安心しながら、彼女の方へと目を向けた直後だった。

 

「よ、よお?」

 

「―――ぶっ!?」

 

 何故か、シャルロットさんの隣に顔を引き攣らせた一夏さんが立っていた。

 予想外の人物の存在に私は思わず吹いてしまった。

 

 な、な、なんで一夏さんがこの場にいるんですか!?

 

 私は一夏さんがこの場にいることに混乱してしまい、その動揺は身体までに伝わり視界がぐらついてしまった。

 

「ちょ、ちょっと、シャルロットさん……

 こっちに来てください……」

 

「ん?いいけど、どうしたの?」

 

「『どうしたの?』……じゃないですよ!?

 どうして、ここに一夏さんがいるんですか!?」

 

 一刻も早く、一夏さんがこの場にいる理由を知りたくて私はシャルロットさんを近くに呼び、一夏さんに聞こえないように問い質した。

 確か、今日、彼女は自分の水着を買うから一緒に来て欲しいと私を誘ってきた。

 私としては水着知識に乏しく、何よりも前の一件で地獄を味わったことからあまり力にはなれないと伝えたつもりであったが、友人の強い頼みであったので了承した。

 友達だから来て欲しいという彼女の切実な想いだと感じたのが大きな理由だ。

 けれども、それなのに何故かこの場に一夏さんがいるのは明らかにおかしい。

 

「い、いや……

 月曜日のことで悔しくて、一夏のことを勢いで誘っちゃって……」

 

「勢いで!?」

 

 彼女の口から出て来た衝撃の事実に私は思わず呆然としそうになった。

 月曜日のあの屈辱は私も忘れていない。

 そもそも、私が多少水着を着ることに踏み出せたのはあの一件が理由の一つだろう。

 他にあるとすれば、諦めもあるにはあるが。

 しかし、だからと言って、一夏さんと水着を買いに行くという発想には至らない。

 何よりも一夏さんは男だ。

 一応、本音さんやラウラさんの時は同性と言うこともあって、ある程度のことは耐えられるだろうが、いくら何でもいきなり男性の一夏さんを呼ぶのは信じられなかった。

 

「いくら何でも、後先考えなさ過ぎですよ!?」

 

 私は思わず、シャルロットさんに抗議した。

 比較的常識人に等しい彼女がどうしてこんな衝動的なことをしたのかという分からないことへの焦りもあって。

 

「い、いや……

 一応、ボクなりに考えた結論でもあるよ?」

 

「結論ですか……

 それでは、どうして私を呼んだんですか?」

 

 ある程度の見当はついているが、私は彼女に私を呼んだ理由を訊ねた。

 

「えっと……

 雪風も一夏から水着姿を見られ慣れた方がいいんじゃないかな……?て」

 

 恐らく、それも本心ではあると思うが、もう一つ大きな理由があるだろう。

 

「本当にそれだけですか?」

 

「……ごめんなさい。

 一人じゃ心細くて……」

 

「やっぱりですか……」

 

 やはり、彼女は一夏さんと二人きりという状態に耐えられず、私にも「慣れる機会」をという名目で誘ったのだろう。

 きっと彼女も最初はそれを隠し切れると思ったのだろう。

 しかし、彼女の今までの態度を目にして私は彼女が今さらになって自分の行動の意味を理解して焦り出したことに気付いてしまった。

 私も伊達に中華民国で長年総旗艦と訓練艦をやってきたわけじゃない。

 部下や教え子が何かしら隠し事をしているとすぐにわかってしまうものだ。

 

 よく考えてみれば……私て……

 シャルロットさんたちと同じか年下の娘がいてもおかしくないんですよね……

 

 シャルロットさんの隠し事を見抜いたことで中華民国時代のことを思い出し、私は自分の実年齢を改めて思い出して、内心、哀しくなった。

 何よりも学生服を着て、学生生活を送っていることに対して私はまたもや気恥ずかしくなった。

 

「で、でも……

 抜け駆けしちゃった気分になっちゃって……」

 

「……いや、こういう場合は気にしませんよ……

 むしろ、そうしてくれると助かります」

 

 どうやら、彼女なりの気遣いもあったらしい。

 けれども、私としてはただでさえ同性にも見られるだけで恥ずかしかったのにあれ以上の恥の上塗りは避けたいので断りたい。

 誰が好き好んであれ以上の辱めを受けたいだろうか。

 

「あ、ははは……

 うん、そうだよね……ごめん……」

 

「うっ……!?」

 

 しかし、私が断ろうとするとシャルロットさんは捨てられた子犬の様に悲しそうな表情をし出した。

 思わず、それを見て罪悪感を抱いてしまった。

 

「わ、わかりました……!

 私は水着を着ませんけど、一応買い物には付き合いますよ」

 

「え?本当……?」

 

「はい」

 

 シャルロットさんの子犬染みた姿が形成する罪悪感に私は負けてしまい私は条件付きで今日の買い物に付き合うことにしてしまった。

 少なくても、女子の私がいるだけで彼女の気分は軽くなるだろう。

 

「ありがとう」

 

「どういたしまして……」

 

 ラウラさんといい、シャルロットさんといい私は割と人の頼みや落胆には弱いらしい。

 と言っても、今回の件では私にはそこまで災難は降り注ぐことはないだろう。

 

「えっと、もういいのか?」

 

「ええ、すみません。

 お待たせして」

 

 話の置いてきぼりにしてしまった一夏さんに私は謝罪した。

 そもそも今回の一件の発端は彼の例の発言にあるが、私は一つ学んだことがある。

 

 私も年長者だというのに大人気なかったですね……

 

 そもそもシャルロットさんがこうまで無茶をしたのは本来抑え役に回るべきであった私までもが暴走してしまったのが原因だ。

 

 ……今度から私も気を付けないといけませんね……


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