奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い   作:オーダー・カオス

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第12話「希望と真実」

 「IS」の性能には驚きはあった。

 しかし、事件の首謀者が捕まっていないことや民間人、それも日本を狙われたことへの怒りがそれを上回ってしまった。

 それに加えて、「白騎士事件」への不信感で「IS」の性能よりもこの事件の裏の方が気になってしまった。

 

「雪風……次に話すのは「白騎士事件」のその後の世界のことだ……」

 

 そして、もう一つ気になったのは織斑さんの苦しそうな表情であった。

 轡木さんは彼女に「彼女の親友」と言ったが、もしかすると「白騎士事件」の関係者に友人でもいたのだろうか。

 ならば、私はあまり深く追求すべきではないと思った。

 

 大切な人を失う辛さは誰よりも知っていますしね……

 

 多くの別れを経験したことで嫌でも知っている離別の苦しみを考えて、彼女への追求は避けた。

 

「はい、見た所「白騎士」を……この場合は拿捕と言うよりも捕獲すらできなかったことで世間で余り注目されなかった「IS」の軍事利用を日本だけが行使可能であったのを国際社会で危惧したことが「アラスカ条約」の締結の大きな要因だと思いますが」

 

 私は少なくとも「IS」を当時の日本だけが所持しており、なおかつ「白騎士事件」のことだけあってか、当時の日本がこれを使って覇権主義に走らなかったことに安堵感を抱いた。

 私の世界でもあの大戦中ないしは戦後において、弱り果てた各国のどさくさに紛れて領土を掠め取ろうと画策していた軍の上層部の人間が多かった。

 それも私たちを利用してまで。

 だが、それに異を唱えたのは「あの人」やアジア圏が既に欧州から解放されたと考えてこれ以上の領土拡大の必要性はないと考えた人々であった。

 そのおかげで「艦娘」を人間と人間の紛争に参加させないと、私たちが取り戻したアメリカのボストンで締結された「ボストン条約」も当時最大の保有量を誇った日本が率先して結んだことで締結できた。

 あれはあの戦いの中で人類を守るために戦った私たちへの感謝を込めての贈り物として「感謝条約」とも言われている。

 

「……そうだ。

 「アラスカ条約」が結ばれたのは平和を愛する日本人の国民性にもあるにはあるが、そう言った外交的要因が大きい」

 

「すごいですね、雪風さん。

 私よりも年下に見えるのにそんなことまで把握できるなんて」

 

 と織斑さんは私が推測したことに特段驚くこともなく、山田さんは教師であることから成人は過ぎていることもあってか、私が十六か十七程度の少女に見えたらしく、私の年齢と噛み合わない軍人としての振る舞いに感心を示すが

 

「……山田さん、あの……とても言いにくいのですが

 私の年齢は恐らくはあなたよりも上ですよ?」

 

「「「「………………え?」」」」

 

 私の告げた事実にこの場にいる全員が鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をした。

 いや、当然だと思うけど。

 

「ちょっと待て……雪風……失礼だが……

 お前、一体いくつなんだ……?」

 

 と織斑さんは恐る恐る訊いてきたので私は

 

「三十歳ですよ?」

 

 私の進水日を生年月日として考えて数えてみたら

計算される年齢を素直に答えると

 

「「「「ええええええええええええええええええええええええええええええええ!!?」」」」

 

 一斉に驚いた。

 いや、普通そうなるだろう。

 私、いや、私たちは艦娘だからと言って、特別扱いされることを嫌うことがあった。

 そして、多くの艦娘たちは戦いが終わった後の平和を夢見て、軍の世界だけではなく、外の普通の世界のことを知ろうとよく学んだ。

 だから、私たちの年の取り方が人間と違うのは理解していた。

 私たちは最初から戦える状態で生まれてくる。それでも、心があって知識もある。ただ私は12歳ぐらいの見た目の頃から戦っていたから、普通ならば異常だろう。

 戦国時代ならば、いざ知らず。

 と言っても私の最期の時には二十五歳ぐらいの見た目年齢にはなっていたが。

 

「み、三十路なんですか!?」

 

「アンチエイジングなんてレベルじゃ……」

 

「し、信じられん……」

 

「よ、世の中の女が聞いたら……羨ましがるぞ……」

 

 山田さんは自分も他人のことが言えないぐらいに童顔なのに驚き、更識さんは苦笑いしながらも「不老長寿?」と言う扇子を広げ、轡木さんは最早、それしか言える言葉がないらしく、織斑さんは自分の肌を確認している。

 

「まあ、こう言った話は置いといて……

 早く、話を進めていただけますか?」

 

 と私は先程の「白騎士事件」のことで苛ついたので、多少八つ当たり気味に悪戯心が湧き自分の年齢を冗談のネタに使って彼らの反応に満足して心に余裕が持てたので話を続けようと思った。

 多少、悪趣味であるが、中華民国時代には旗艦や訓練艦を務めているとたまに堅苦しくて息が詰まりそうになるので、冗談を言う時があった。

 いや、上官であり教官である私がたまには気を抜かないと部下や教え子たちも緊張し過ぎてがちがちになりかねなかったのが大きな理由でもあるけれど。

 とりあえず、空気が少し和んだところで私の苛立ちも収まってもいたので話を進めようとした。

 

「あ、ああ……「アラスカ条約」によって、世界の主要国家に「IS」はほぼ均等に分配され、未だに謎の多い「IS」の研究と操縦者の養成も兼ねてこの「IS学園」が設立されたんだ」

 

 と私の催促に彼女は多少、顔を引き攣らせながらもこの「IS学園」が設立された経緯を説明してくれた。

 まるで、文明開化時代の鹿鳴館みたいだ。

 

「なるほど、優れた技術を研究するには確かに一か所に集めた方が効率がいいですね」

 

 あのどこか気に喰わない製作者の技術力を認めるのはしゃくだが、私はそう言って納得した。

 それに私は「アラスカ条約」が結ばれた理由の一つに嬉しさを感じていた。

 

『平和を愛する日本人の国民性』

 

 と言う言葉に私は喜びを感じた。

 この世界では帝国は滅び、日本は敗戦国となった。

 戦争で敗けた国家の末路がどれだけ悲惨なのかを私は軍人であることもあってよく知っている。

 正確には見たことはないが。

 しかし、見た所日本人の暮らしは落ちていない。

 それどころか、あれほどの戦力を持っているということは日本はその敗戦から立ち直ったことも理解できる。

 そして、「平和を愛する」と言う言葉に私は軍人として嬉しかった。

 私たち軍人が守りたいのはそういった平和を望む人々の笑顔だ。

 もちろん、綺麗事ばかりでは平和は守れない。

 それでも、平和を愛し祖国を大事にしてくれるだけで私はこの世界の日本人が誇らしく思えた。

 

「……ああ、そうだ」

 

 と織斑さんは私の指摘を肯定したが

 

「織斑先生?

 いつまで、当たり障りのないことだけを言うつもりですか?」

 

 と私が織斑さんとのやり取りで嬉しそうにしていると更識さんが突如、口を挟んできた。

 

「更識さん……?」

 

「更識……何を……」

 

 更識さんは表情は笑っているが、目は笑っていない表情を向けていた。

 

「更識……お前の言いたいことは解かる……だが、今は……」

 

 織斑さんは私に何かを伏せていたらしく、彼女の介入に焦りを感じていた。

 

「言っておきますが、織斑先生。

 雪風ちゃんのことを預かるのは私たち「更識」なんですよ?

 だから、中途半端な状態でこの世界の醜い部分(・・・・)を理解してしまったらこちら側にしても彼女にしても迷惑なんですよ?」

 

 と「親切心」と書かれた彼女の口調と言葉の内容からして見れば、考えられない扇子の文字を織斑さんに突き付けるように広げてそう言った。

 

 この世界の……醜い部分(・・・・)……?

 

「ねえ、雪風ちゃん?

 あなたは「IS」の致命的過ぎる欠点って何か解かる?」

 

「……え?」

 

 更識さんは突然、私にそう訊いてきた。

 あまりにも唐突過ぎる問いに私は考える暇はなかったが

 

「……エネルギーが切れやすいことですか?」

 

 私はあの性能と能力から考えられる燃費の悪さを口に出した。

 私のいた世界でも戦術から戦略までに戦果を大きくもたらす空母の赤城さんたちや戦力としては最強の大和さんを含めた戦艦の方々は資源を多く必要としていた。

 私は燃費が悪いと思っていたが

 

「う~ん、それもあるにはあるけれど……それ以上の欠点があるのよ」

 

 と彼女は「不正解」と書かれた扇子を広げてそう言った。

 

 あれだけの性能があって燃費の悪さが欠点の中でも致命的にならない……?

 

 私はそれこそ、兵器としては致命的に感じたが

 

 

「……数が少な過ぎて戦略に大きな影響を及ばさないことですか?」

 

 次に私は「IS」生産数が不足して局地的なら未だしも広域的な戦局を左右するに値しないのではと考えた。

 戦いは質よりも数であると言うのはあの戦いで何度も体感させられたことだ。

 どれだけ「IS」が優れていたとしても「戦術兵器」である限りは確かな製造ラインや維持費、量産化の目処が確立されない限りは大局を動かすことにはつながらない。それらのことができて初めて戦術兵器は「戦略」を動かすことになる。

 

「う~ん、確かに博士がいなくなってからはコアの数は限られているから……

 それも欠点と言えば欠点になるわね……

 でも、それよりももっととんでもない欠点があるのよ……」

 

 と再び更識さんは一度は扇子を閉じてからまたも「不正解」と記された扇子の文字をかざした。

 

「……まあ、常識的に考えてこんな欠点があるなんて思わないから仕方ないわね」

 

「……え?」

 

 更識さんはどこか私のことを褒めてはいるけれど、多摩さんとは違う意味での猫っぽいようだと言えば表現できる無邪気さと気紛れさを感じさせる顔をしてきた。

 

「いい、雪風ちゃん?

 私はあなたを立派な人だと信じてこれからの話をするね」

 

「あ……」

 

 とどこか姉が妹に語りかけるような私にとっては懐かしい感じの表情を決め込んでから

 

「「IS」はね―――」

 

 彼女は語り出した。

 

女性しか扱えない(・・・・・・・・)の」

 

 と、いくらなんでも「艦娘」の「艤装」でもないのに兵器としてありえなさ過ぎる欠点を告げてきた。




ほどよく、シリアスとコメディを混ぜるのは面白く感じてきました。

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