奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い   作:オーダー・カオス

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ナンバー28さんにステキな推薦文を書いていただきました!
本当にありがとうございます。

冬イベ、ようやくE7第二ゲージだけれども……
第一ゲージの方がきつかった気が……


第2話「悪ふざけの意味」

「更識さ~ん!!」

 

「ゆ、雪風さん……!?」

 

「あら雪風ちゃんじゃない?ノックもなしとは失礼ね?朝の走り込みはどうしたの?」

 

 朝早くに訪ね、しかもノックもせずに生徒会室に殴り込みをかけると言う非常識な振る舞いをしていることは自覚しているが、今はそんなことを配慮するつもりはない。

 

「誰かさんのお陰でなしになりました」

 

「へえ~……そうなの?

 珍しいこともあるわね」

 

 完全に此方に何が在ったのかを理解していながらとぼけているのが丸見えなニヤケ顔の元凶に感情のままにラウラさんのことを訊ねようとしたが、先月の件で彼女の術中に嵌まるとロクな目に遭わないことを学んだのでぐっと堪えた。

 少なくとも、ここでラウラさんが裸で私の寝込みを襲った(?)ことがばれれば確実に楯無さんに玩具にされかねない。

 それだけは避けなくてはならない。

 

「どうして、ラウラさんに鍵を貸すことを許可したんですか?」

 

「えっ!?」

 

 とりあえず苛立ちを何とかひた隠しにしながら私は訊ねた。

 どうやら、布仏さんはこの事を知らなかったのか、かなり驚いていた。

 今回のことは明らかに危険なことだ。

 下手をすれば、私の正体が外部の人間に露見されかねない事態に発展する可能性もあり得る。

 ただでさえ、先月のことで私は「第三世代」の中でも最強格の「黒い雨」を圧倒し、「世界最強」と呼ばれる織斑さんの身体能力を模倣した「VTシステム」を撃破している。

 その為に私は注目されている。

 情報漏洩の可能性は少しでも摘むべきなのにこの人はそれをわざわざ増やしたのだ。

 きっと彼女のことなので何かしらの真意があるとは思うが、それでも今回のことに関しては懐疑的だ。

 

「あら?その様子だと……

 フフフ……」

 

「……!?」

 

「……?」

 

 更識さんはまるで私が今朝直面したことに気付いたのか笑みを深めた。

 私は一瞬、蛇に睨まれた蛙の気持ちになった。

 いや、私的には「二水戦」で神通さんに慣れる前に神通さんに乗せられる時の回避不可能状態に陥った時の気分になった。

 つまり、何が言いたいかと言うと、冷や汗が止まらない状態である。

 

「ふ~ん?」

 

「な、何ですか!?」

 

「別に~」

 

 更識さんは私のことを探るように笑ってきた。

 いや、確実に彼女は気付いている。

 私は何としても彼女に弄ばれないようにこれ以上の詮索は避けようとしたがそれでも彼女の脅威は去ることはなかった。

 

「コホン……

 お嬢様?本当にボーデヴィッヒさんに鍵をお貸しになることの許可をお出しになられたのですか?」

 

「……これから楽しくなるのに……

 虚ちゃんのいけず」

 

 助かりました……

 ありがとうございます。布仏さん……

 

 更識さんがまたも私を弄り倒そうとしたが布仏さんの助け船でそれは防がれ事なきを得た。

 私は心の中で布仏さんに感謝した。

 

「そうよ。

 本音ちゃんに訊かれたから許可を出したわ?」

 

「なっ!?本音がですか!?」

 

「うん、あの子、最近ボーデヴィッヒちゃんと、雪風ちゃんを介して仲良くなったらしいわ。

 だから、雪風ちゃんとのこと(・・・・・・・・・)で色々と相談しているらしいわ」

 

「あの子ったら何をしているの……

 あれ?雪風さんとのこと(・・・・・・・・)……?」

 

「………………」

 

 まさか自分の妹が今回の騒動に大きく関わっているとは思いもせず、布仏さんは唖然とした。

 さらに更識さんは含みを持たせた言い方をして、話題を引き戻そうとした。

 私はそれを聞いてどう動けばいいのか窮してしまった。

 下手に動けば、更識さんにはばれているであろうあの件が布仏さんにも知られ、余計に恥を掻くだけだ。

 

「ボーデヴィッヒちゃん。完全に雪風ちゃんに懐いているわね?

 『お姉様』と呼んでいるし……フフフ……」

 

「……!?」

 

「な!?違いますから!!

 決して、そんなことは―――!!」

 

「……そんなこと(・・・・・)

 それって一体どういうことかしら?」

 

「―――あっ!?」

 

 しまった……!?

 

 完全に乗せられた。

 彼女は別にそういった意味で言ったわけじゃない言い方をした。

 それにそういった意味を持たせるような発言は明らかに失策だった。

 

「ねえ?一体、どういう意味なの?」

 

「ま、まさか……」

 

「い、いえ!ですから、そういう意味では……!!」

 

 布仏さんに勘違いとはっきり言えないのが苦しいが勘違いされてしまった。

 恐らく、ラウラさんのあの行動は今まで誰にも甘えることの出来なかったことによる反動だ。

 きっとそうだ。そうに違いない。

 

「フフフ……

 まあ、この話題についてはここまでにしておこうかしら?」

 

あ、あれ……?

 

 しかし、意外にも更識さんはこれ以上追求してこなかった。

 あっさりとこの話題を切った彼女に違和感を感じながらも私は安堵した。

 

「……で、どうしてラウラさんに鍵を貸すことを許可したんですか?」

 

 改めて私は更識さんに今回の騒動の引き金となった彼女の判断について訊ねた。

 情報管理の重要性を彼女は立場的にも職務的にも徹底しているはずだ。

 この人が熟慮したうえでの行動でも流石に今回ばかりは目に余る行為だ。

 明らかに失うものの方が大きい。

 私は真っ向から彼女の言い分を受け止めようとしたが

 

「……面白そうだから」

 

「………………」

 

「ゆ、雪風さん!?

 落ち着いて下さい!!」

 

「放してください布仏さん。

 このお気楽な頭は一発殴らないと直りませんよ」

 

「今、治るのニュアンスが違う様に聞こえたのですが!?」

 

 彼女のふざけた一言に堪忍袋の緒が切れ、今すぐにでもそのニヤケ顔を殴りたくなるが、布仏さんに羽交い締めに遭いそれは叶わなかった。

 

「と言うのは、冗談よ?」

 

「……本当ですか?」

 

「お嬢様……本当に真面目にやってください!」

 

 しかし、一分もしないうちに更識さんは前言を撤回するが、私は怪訝に思い、先ほどまで身体を張ってまで私を抑え込もうとしていた布仏さんは主に対していい加減にして欲しいと苦言を漏らした。

 

「ごめん。ごめん」

 

 更識さんは悪びれもせず、言葉だけの謝罪で流した。

 私たちがその様子を見て呆れていると

 

「まあ、ボーデヴィッヒちゃんのことだけど……

 少し、使える(・・・)と思っただけよ?」

 

「え……」

 

使える(・・・)……ですか?」

 

 更識さんは不穏な言い回しをして来た。

 

「そうよ?」

 

「ちょっと、待ってください。

 それって、一体……」

 

 その言葉の意味が理解できず私は訊ねた。

 一体、ラウラさんのことを更識さんはどう見ているつもりなのだろう。

 

「雪風ちゃん。

 あなたの目から見てボーデヴィッヒちゃんのあなたへの慕い様はどう見えるかしら?」

 

「……え」

 

 更識さんは私にラウラさんの私への慕い様を訊ねて来た。

 

「それは……」

 

 彼女の慕い様は外見の年齢としては異常には思えるが、後で更識さんに教えられた彼女の実年齢を聞いた瞬間に合点がいった。

 彼女を助けた時感じていたが、あの子は幼子だ。

 だから、織斑さんや私を強く慕うのもある意味では甘えたい子供そのものだ。

 そう考えると不自然ではない。

 

「改めて考えると実年齢的には仕方ないのかもしれません」

 

 多少、悩まされるがそれでも彼女の実年齢を考えると彼女を邪険に扱えない。

 何よりも彼女は今までまともに愛情を注がれていない。

 私にとっての司令や神通さんや金剛さん、陽炎姉さん、不知火姉さん、黒潮お姉ちゃん、お姉ちゃんのような存在がいなかったのだ。

 せめてあの子が成長して独り立ちするまでは一緒にいたくなるのだ。

 

「フフフ……

 こうしてみると、雪風ちゃんてお母さんみたいね」

 

「えっ!?」

 

 更識さんの指摘に私は複雑な気持ちになった。

 

「お、お母さんですか……?」

 

「そうよ?

 だって、ボーデヴィッヒちゃんのことを仕方のない子だと思いながらそれでも大切にしようとしているじゃない?

 そこがお母さんぽいのよ」

 

「確かにそうですね」

 

「布仏さんまで……」

 

 確かに実年齢を考えると既に私には幼い子供の一人や二人位いてもおかしくないが、そう言われると気恥ずかしい。

 

「それで……

 一体、それが何だと言うんですか?」

 

 私に母性があるのかどうかはさておき、何故ラウラさんが私を慕うことが私たちに利するのかを私は訊ねた。

 

「じゃあ、単刀直入に訊くけど。

 ボーデヴィッヒちゃんはドイツと雪風ちゃん……

 どっちを取るかしら?」

 

「……え?」

 

 更識さんは唐突にそんなことを訊ねた。

 私は突然のことに質問の意図が分からず仕舞いであったが

 

「……!?

 更識さん、あなた、まさか……!?」

 

「お嬢様!?」

 

 彼女の意図を理解した瞬間に私と布仏さんは焦りと恐怖にも近い感情を抱いてしまった。

 

「ラウラさんを手駒にするつもりですか……!?」

 

 彼女の質問の真意。

 それはラウラさんを完全に私の味方にして、いざとなれば祖国であるドイツすらも裏切らせようとしていることを暗に示している。

 

「そうよ。

 それが私の狙い」

 

 私の指摘を受けて更識さんは顔色一つ変えることなく言い切った。

 それが明らかに非道な手段にも拘わらず。

 

「ラウラさんの誰かを求める心を利用するんですか!?」

 

 更識さんはラウラさんが私を慕う心理を利用して彼女を完全に私を守る手段の一つに仕立て上げようとしている。

 確かにラウラさんからすれば、自分を失敗作扱いしぞんざいに扱った祖国よりも命の恩人であり、姉の様に慕っている私を優先したくなるだろう。

 でも、それは明らかに人の道に反している。

 人の心の弱さ、それも誰かとの繋がりを求める人間の心に付け込もうとしているのだ。

 私は彼女に反発した。

 私は彼女の過去を知ってしまった。

 戦うために生み出され、「失敗作」と言われ存在を否定され、愛情を知らなかった。

 そんなある意味では私にもあり得た鏡写しの彼女を犠牲にするようなやり方を私は到底許せなかった。

 

「……雪風ちゃん。

 あなたは一つ勘違い(・・・)しているわ」

 

勘違い(・・・)……?何がですか!?」

 

 更識さんは私にそう言った。

 しかし、既に頭に血が上りかけている私からすれば私の発言の何処に「勘違い」があるかなどわかるはずもなかった。

 

「私たちが守るべきなのはあなたであって、ボーデヴィッヒちゃんではないわ」

 

「……!?」

 

 だが、更識さんのその事実を突き付けられて私は言葉を続けることが出来なかった。

 

「いいかしら?

 確かにあなたからすれば、ボーデヴィッヒちゃんは大切な……

 そうね、妹分よね?

 分かるわよ?そういう子(・・・・・)を守りたい気持ちは。

 だけど、本当に守られるべきなのはあなた自身なのよ、雪風ちゃん?」

 

「……ぐっ!そ、それは……」

 

 更識さんは忘れかけていた私の立場を改めて私に思い出させた。

 彼女の言っていることは正しい。

 私は神通さんとは異なり、そもそもこの世界の人間ではない。

 その為、私にはこの世界における過去がない。

 だから、私の立場は不安定なもので何時崩れるかが分からない。

 

「だから、私はどんな手(・・・・)を使ってでもあなたを守るつもりよ。

 それがどれだけ他人から非難されることでも」

 

「……更識さん……あなた……」

 

 更識さんの目はどう言っても変わらないであろう強さがあった。

 それは彼女の意思の顕れそのものだ。

 だが、私は

 

「……私より年下なのに……そんな覚悟を持っているんですか……」

 

 彼女がそう言った覚悟を躊躇なく持てることが哀しかった。

 彼女は私よりも十五も下だ。

 そんな人間にこのような覚悟を持たせてしまったことを私は悔やんでしまった。

 

「あら、そう言えば雪風ちゃんて三十路だったわね。

 じゃあ、私も何か違う呼び方を―――」

 

「……このままで結構です」

 

「―――あら、残念」

 

 更識さんは再びおどけだした。

 その一連のやり取りを受けて

 

「……ありがとうございます。

 更識さん」

 

 彼女の遠回しな気遣いを察して私は礼を言った。

 今のは私が気に病むことを防ぐための彼女なりの気遣いだ。

 彼女の覚悟とそう言った他人を気遣う姿勢に私はこれ以上、彼女を責められなくなってしまったのだ。

 やはり、感じた。

 

 あなたは優し過ぎますよ……

 

 更識さんはきっと、心の中で自分のやっていることは最低なことだと理解している。

 けれど、それでも誰かを守ろうとする。

 表では笑っているが、きっと心の中では辛いはずだ。

 そうではなくてはこんな風に悪役を演じることなど不可能だ。

 

「……わかりました。これ以上、私はラウラさんのことであなたを責めません。

 だから、私は私のやり方であの子を守っていくつもりです」

 

 更識さんは必ず私とラウラさんならば迷うことなくラウラさんを切り捨てる。

 それは友人として、更識の頭首としての決断だろう。

 だったら、どうすればいいかといえば簡単なことだ。

 彼女がそんな決断を下さないで済むようにそんな状況を作らなければいいだけの話だ。

 

「そう。じゃあ、雪風ちゃん。

 川神先輩から伝言があるんだけど、いいかしら?」

 

「……神通さんからですか?」

 

 神通さんからの伝言と言われて私は元から引き締めていた気をさらに引き締めた。

 一体、何だろうか。

 

「今日の訓練は休みよ」

 

「……え?」

 

 それは余りにも信じられない言葉であった。




何故だ……ギャグをやろうとすると何故かシリアスに……
シリアスがギャグを創り、ギャグを追究するとシリアスに……
ある意味では当然の摂理なのかもしれないけど……

パワポケの緑髪伝説のようなテンポが理想だと思います。
やはり、あのライターの方は偉大です。

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