奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い   作:オーダー・カオス

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序章「一つの終わり」
序章「不沈艦の最期」


「―――陽さん!!」

 

「しっかりしてください!!」

 

 中華民国海軍の娘たちの声が暴風雨で負傷してしまった私の耳に響いてきた。

 あの深海棲艦との大戦を終えて、私たちは多くの仲間を失いながらも勝利することができた。その後、私はいまだに世界中に存在する深海棲艦との戦いの為にこの上海に旗艦として派遣され、戦闘に参加できなくなってからは教官として中華民国海軍の後進を育てることになっていた。

 だけど、どうしても終わりが近づいて来ているのに私の頭に浮かぶのは平和になった世界のことよりもあの大戦のことと既にいない戦友たちや私の同型艦である姉妹たち、私の初恋の人であったあの人、そして、最後に私の前でいなくなった『彼女』のことであった。

 17回以上に及ぶ激戦に私は参加してきた。

 味方が全滅に等しい戦いの中でも私は奇跡とも言えるほどに小破以上の損害を受けたことがなく、毎回生還してきた。

 後の人は私の戦歴を「奇跡」、「幸運艦」、「不沈艦」、「不死身」といかにも伝説であるかのように呼んだ。

 けれど、私はそれを誇ることができなかった。

 本当に幸運だったら目の前で多くの戦友や姉妹の死を目にすることなく救えたはずだ。

 彼女たちの死をお気に入りの双眼鏡で確認する度に私の涙はレンズに溜まり続けた。

 

 それに……沈まない船なんてないんです……

 

 今の私は暴風雨によって致命傷を負い役目を終えようとしている。

 そう、沈まない船なんて存在しない。たまたま私は戦場で沈むことがなかっただけだったのだ。

 私に言わせれば、皆の語る私の"幸運"は幸運なんかじゃない。

 もちろん、私の級名である陽炎型駆逐艦の性能の優秀さも私が生き残ってきたことに大きく貢献したのだろう。

 だけど、本当の理由は本来ならば護衛である私のことを多くの戦友たちが身を挺して守ってくれたことで私はここにいるのだ。

 誰もが自分が生き残れないと見るとすぐに私に嘘をついてまで戦域から逃がそうとした。

 ある時は無理矢理、他の無事な仲間に言いつけて私を引っ張らせて戦場から離脱させようとしてきた。

 またある時は、あと少しで共に戦場から帰還できたのに力叶わず私に救援を呼ばせると嘘を吐いて自分のことを犠牲にして殿を務め、私が戻ってきたときには既に沈んでいた。

 私が最後に護衛するはずだった彼女や多くの戦友、私の同型艦である妹たちも私と同じように護衛任務に就いていた同僚に私のことを託して、「生きろ」と命じて沈んでいった。

 そして、目の前で妹も失って我を失いかけて敵に突撃しようとした私のことを制止して他の生き残りの艦と共に離脱し、私たちの行った決死の作戦でがら空きになった本拠地を本隊が打ち破ったことで人類の勝利で戦いを終えた時に傷心の私を支え続けてくれた彼女も、一緒に平和な世界でがんばっていこうと約束をしていたのに敵の生き残りの奇襲で沈んでいった。

 私に幸運があるとすれば、それは私を生かそうとしてくれた彼女たちがいてくれたことだった。

 

 日本に残っている皆さん……あとはお願いしますね……

 

 私は未だに故郷の海を守っている既にかつての総艦数の2割以下になってしまった戦友たちに思いを馳せた。

 既に戦闘に参加できなくなったのに私はなぜか故郷に帰ろうとしなかった。

 そして、私はこの地で生命を落とそうとしている。

 

「丹陽さん!しっかりしてください!

 あと少しで日本なんですよ!だから、頑張ってください!」

 

「台湾島まで、あと少しです!

 だから、頑張って!!」

 

 彼女たちは日本領である台湾島に近づいたことを口にしている。

 どうやら、彼女たちはせめて私のことを日本で最期を迎えさせたいと動いてくれたのだろう。

 本当にいい娘ばっかりだ。

 でも、台湾島からなら確かに晴れれば故郷である本土が見えるかもしれない。

 

「ありがとうございます……みなさん……」

 

 ようやく、終わりが見えてきたことに私は安心してか、育ててきた中華民国海軍の皆に私は感謝の気持ちとどうしても伝えたいことがあった。

 

「みんな……強く生きていくんですよ……?」

 

 私は多くの死を見てきた。

 だから、こう言いたかった。

 「戦場の死は名誉の死」なんて言う人もいるけど、生き残った、取り残された私からすれば本当に辛いものなんです。

 誰だって、好き好んで死ぬわけじゃないのはわかっているんです。愛する人々を助けるために死力の限りを尽くして死んだこともわかっています。

 それでも、つらかった。

 自分勝手なだとは思うけど、失うということはとても苦しいことなんです。

 守る事ができないということは本当につらいんです。

 だから、せめてこの娘たちを始めとした新しい時代を生きる艦娘たちにはそんな苦しい目に遭って欲しくなかった。

 

「雪風……!!」

 

 私が中華民国海軍の艦娘たちに最後の一言を伝えると突然、扉が勢いよく開かれて私の名前を呼ぶ声が入ってきた。

 だけど、この声を私は知っている。

 この声は私の大好きなあの人の声だった。

 

「しれぇ……」

 

 既に口を動かし、舌を回す力もなかったのか私は昔のように舌足らずのような呼び方で彼を呼んだ。

 そして、彼が来てくれたことに嬉しさを感じたのか、それとも安堵したのか分からないけど私の意識はゆっくりと遠のいて行った。




 主人公は雪風です。
 元々、艦これが出る前から好きだった艦でしたけど、艦娘になってからさらに好きになった艦です。
 あの艦これのひたむきな明るさは史実を考えると驚くぐらいに明るい気がしますけどそれもとても大好きなのも事実です。
 しかし、彼女の内面を描くことになる小説の主人公にするとなると流石に多くの戦友の死を見てきてそれを心の底では何にも思わないとは思えないのでなんだかんだで悩み続けながら生きていたと言う設定にしてみました。と言うか、あれだけいい子なんだから逆に気にすると思います。
 あと、あの双眼鏡の設定は泣きました。
 それでも、私は雪風はとても強い子だとは思うんですけどね。辛いことがあってもそれでもしっかりと生きていく。それが雪風の強さだと思います。
 何よりも雪風は敵のことを沈めるためよりも味方の生命を救うために生まれてきた艦だと思います。

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