赤い月が、二つの|世界≪ゲームワールド≫を隔てている門を血のような赤い色に染め上げていた。
「……」
視線の先にあるのは、巨大な構造物。この構造物は二つの|世界≪ゲームワールド≫の領域、いわゆる暗黒界と平和な世界である人界を隔て続けてきた。それがまさに崩壊せんとしていた。
いくらイベントとはいえ、|人界≪プレイヤー≫側の無限にも等しかった力の一滴が尽きた瞬間に鳴り響いた巨獣の雄たけびは、現実と錯覚するくらいに禍々しいものだった。
そして、最後の砦とも言える所に一条の亀裂が走り、眼を焼きかねない白い光の演出と共に、浮かび上がる文字
【
視線の先には猛獣やゴブリンの群れ。そして、それに相対するようにある広大な戦場にはたった二人しかいない。そして、天まで届くほどの閃光を放ちながら、巨大構造物、いや門が崩壊し始めた。
『闇の国の将兵どもよ!貴様らは待ち望んだ刻が来た!命ある者はすべて殺せ!奪えるものは余さず奪え!――蹂躙せよ!!』
大門の崩壊の音は否応なく耳に入っていた。視線の先の戦場には敵のラスボスの言葉に反応するかのように獣の声やゴブリンのウォーという声が沸き起こっている。そして突き上げられた無数の武器は血の色に染まっている。
「(―― 一万三千か…)」
ざっと見渡して戦力を図る
『第一陣――突撃開始!!』
ゆっくりと立ち上がり、剣を構える。そして一刻ごとにその兵士たちが近づき始める。
「・・・実質一人か」
ケタケタと笑いながら、そのゴブリンたちを見据える。そして、突撃兵のゴブリンが凶悪な鎌を無造作に振り上げる。
刹那――
鋭く空気を裂く音と共に、青白い天幕内部の薄闇に響いた。
「……ぐ、ひ……?」
何が起きたのか訝しむようなゴブリンの唸り声。その顔の真ん中を赤い線が音もなく横切り、ゴブリンの頭の半分がずるりと滑り、地面に落ちた。
「(悪いが・・・ここから先は通すわけにはいかないんだよ)」
ありったけの力を振り絞って突撃していく。ゴブリン達、いや1万5千の敵勢力の目標は大門破壊ではない。
視線先にいるプレイヤーたった一人だ。
凶暴な雄たけびで襲い掛かってくる軍団。一斉に蛮刀を振り上げ、前後からとびかかってくる敵兵めがけて、剣技を放つ。それはまさに連続した一つの美技だ。
ばらばらと幾つもの首が落ちていく。
そして、視線の先から現れる巨大なゴブリン
「――小ボスか」
「あーあ、派手に殺して――」
強烈な殺気を滾らせていたが、そんなことはどうでもよかった。今はただ目の前の敵を一匹残らず殲滅すればよかった。
「……あ」
言葉を交わさずに自分の部隊の大将が殺されたことに、半ば畏怖を感じている。
「ば、バケモノがぁぁぁ!!」
言葉を覚えた何匹かのゴブリンが襲い掛かってくる。それを冷めた目で一瞥したと同時に、手元の剣を閃かせ一薙ぎでゴブリンたちを葬る。
視線の先では、ゴブリンやオーク、それにジャイアントの命がたった一人の人間によって失われていく。
その中で黙々と剣をふるっていく。
そんな中で数千ものオーガによる弩弓が飛んでくる。また、広域焼却弾が飛んでくるが
「――…-…--」
空に向かって何かを叫んだ瞬間にそれらは突如現れた光線によって消滅する。
その目にあるのは闘志ではない、もはやそれすらを超越した何かだった。視界に入るものをすべて斬り伏せ飛んでくるものを全てはじけ飛ばし、阻んでくる巨壁をすべてなぎ倒していく。
とっくにレベルはカンストしていた。だが、一兵ごとに心の中で溜まっていく何か。
「……」
そんなものを考えずに、斑鳩は剣をふるった。
ガバッ!!
「……」
背中にはじっとりした汗でシャツが張り付いていた。
「(夢か…いやなものを見たな)」
斑鳩は、水を飲み再び床に就いた。
「さぁ!星導館学園チームとエキストラチーム、両チームがステージに降り立ちました!さあさあさあ!いよいよ、ついに、この学園代表チームの頂点を決める最後の戦い《六花祭》決勝戦が始まります!」
決戦が始まろうとしていた。