ソード・オブ・ジ・アスタリスク   作:有栖川アリシア

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孤児院

斑鳩は、クローディア、紗夜、それに綺凛と別れた後、王宮を出て湖畔を歩いていた。目標は対岸だ。

 

「――寒いな」

ザクザクと雪を踏みしめながら歩いていく。

貧民街のはずれの高台に、その境界はあった。教会は煉瓦と木組みの古い造りで、そこに繋がるように二階建ての屋舎が立っている。

 

「(にしても、全体的にくたびれているな…)」

と足を踏み入れると、教会の裏手から子供特有の高くはしゃいだ声が聞こえてくる。

見れば、そこには綾斗とユリスとまだ年端もいかないような子供たちがいた。

 

「あー、なつめいかるがだ!」

「ほんとだー!」

「すごーい!」

子どもたちが次々と声を上げる。

 

「まさか、お前もか――その様子だと歩いてきたのか?」

「まぁね」

と思っていると

 

「あら、やけににぎやかだと思ったらお客様だったのね、ユリス」

現れたのは初老のシスターだった。

 

「シスター・テレーゼ、あぁ、紹介します、こちらが……」

「大丈夫よ、私だって《鳳凰星武祭》は見ていたもの――ようこそ、天霧綾斗さん、それに棗斑鳩さんも」

やさしく微笑むシスター

 

「あまり大したもてなしはできないのだけれど、もし良かったらお茶でもいかがかし

ら?」

「あ、はい、ぜひ」

「良かった、じゃあ、中へどうぞ」

促されるまま、ユリスと共に教会に入る斑鳩。中に入ると、そこでは外で遊んでいた子どもたちよりは幾分年上の子どもたちが手伝っている。

 

「祭日が近いので、ちょうどそれの準備をしているところだな」

「へぇ……」

足を止めてその光景を懐かしむように見ているユリス。

 

「すまない、つい懐かしくてな」

「昔はユリスも手伝ってたりしてたんだ?」

「まぁ、一応はな」

複雑そうな顔でユリスがそういう。

 

「ふふっ、そうね、確かにここへ顔を出し始めたころのユリスは、本当になにもできない子だったわ、なにを手伝っても足を引っ張ってばかりで」

悪戯っぽく笑うテレーゼ

 

「シスター・テレーゼ、あまりいじめないでください」

「ごめんなさい、でもそんな子がまさか《鳳凰星武祭》で優勝しちゃうなんてね」

苦笑するユリスに穏やかに微笑むテレーゼ。それから屋舎の奥、ちょっとした食堂のような部屋に案内される。

 

「改めまして、ようこそ天霧綾斗さん、それに棗斑鳩さん、私はテレーゼ、一応、この教会と孤児院を任されています」

向かいに座ったテレーゼがそういうと、それ見計らったように言うまだ若いシスターがお茶を運んできた。

 

「おかえりユリス、《鳳凰星武祭》見たよーやるじゃん」

「ふふん、まぁ、当然だな」

「お、言うねー、昔はぴーぴー泣いてばっかだったくせにさ」

「(ま、普通の女の子か)」

ある種安心もしている斑鳩。それは綾斗も同じようだ。

 

 

「さて、フローラの件ではご迷惑をおかけしました、改めてお礼を申し上げます」

「いえ、こっちも色々とありましたし、いいですよ」

「それにやっぱり一番問題だったのは、私があの子を一人で行かせてしまったことだわ、無理してでも、誰かシスターを付ければ良かったのに」

力なく首を振る。それから、話も進んでいくと

 

「ユリス?」

「…すみません、少し、外の空気を吸ってきます」

部屋を出ていくユリス。

 

「ふぅ…」

重たいため息を吐いてつぶやく。

そして、三人で教会の敷地を出て荒涼とした街並みを歩いていく

 

「(どこか息苦しいな…)」

「…すまない、どうも今日は少し不安定になっているようだ」

「そういう時もあるよ」

ユリスにそういう綾斗。それから、ユリスの話を聞きながら歩いていく。そんな時だった。

 

「――ッ!?」

突然弾かれたようにユリスが顔を上げた。先ほどまでの苦悩に満ちた表情が驚愕に塗り替えられていく。

 

「今のは、まさか…」

「ユリス?」

視線の先、何かを捉えたみたいだ。

「いや、これは間違いない…」

「ユリス?一体何が・・・?」

「綾斗、すまないが、孤児院に戻って待っていてくれ、少しばかり用事が出来た」

そういうなり全力で走り出すユリス。

 

「ちょっとユリス!いきなりどうしたのさ!?」

綾斗もすぐにユリスを追って走り出す。勿論斑鳩もだ。そして、すぐに周囲の風景が街はずれの風景から雪と森に変わっていく。

 

「ユリス!」

「どけ、綾斗!私は急いでいるのだ!」

「それは見ればわかるよ、でも今のユリスをこのままいかせるわけにはいかない、どんな理由か知らないけど、一度落ち着いた方がいい」

「それは……っ!」

噛みつくように身を乗り出すが、すぐに目を伏せる。

「それは、自分でもわかっている…!だが、後生だ綾斗…行かせてくれ!」

 

少しだけ落ち着くユリス。だが、その眼には強い焦燥感がある。どうやら、よほどのことらしい。

 

「…はぁ、わかったよ、俺も着いていくからね」

「あぁ、構わない」

そういうと、二人はすぐに走り出し始める。

 

「(さて、向かうところは…おいおい)」

雪原を駆けていく三人。それから、目の前に現れた森林を駆け抜けていく。

 

「――ッ!」

まるでクレーターでも出来たかのように、ぽっかりと巨大な空間が開けていた。視線の先には真っ白な雪の平原。そして足跡。その足跡を追うように進んでいく綾斗とユリス。

舞い散る雪は、次第に強さを増している。見れば、平原の中央にはなにやら建物がある。

しかもかなりの規模だ。とはいえ、すたれている物ではなく、どこか修復した後さえ見える。

三人の視線の先の建物の前に人影一つぽつんと佇んでいる。白い髪の少女だ。

そして、ユリスはその手前で足を止め、人影に向かって呼びかけた。

 

 

 

 

「――久しぶりだな、オーフェリア」

 


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