「なにッ!?クソッ!」
その場を駆けて逃げていくその紳士。斑鳩は周囲の状況を見る。襲撃者がこれで終わることはないだろうと思うので、斑鳩は地面を蹴ってジャンプし空中で一回転し、ヨルベルトの前に出る。
「い、斑鳩君!?」
「理由は後です、逃げてください」
狙いがどうなるかわからないので、追っ手をほかの面々に任せて斑鳩は護衛に入る。
見れば、焦ったのか、今度はこちらにキマイラが襲い掛かってくるが、たかが疑似動物如きが斑鳩の足止めも出来るわけもないので、
「――遅いんだよ」
剣を青白い残光と共に4連続で振るい斑鳩は、一刀両断する。その間に護衛の人にヨルベルトを任せる。それから、会場の招待客とこちらの間に魔力障壁を作り出し、安全を確保する。
「(クリア――)」
そして、犯人はどうやら逃げられたようだ。会場はとりあえずの平穏が戻っている。
「ま、とりあえずかな――」
と剣をしまっていると
「全く、お前にはつくづく驚かされるものだ――」
其処には赤いドレスを身にまとってユリスがやれやれといった表情で其処にいた。そして、後ろから綾斗達もやって来た。
「にしても、静かになったな、今日はお開きかな?」
静かになってしまった会場を見ながら言う斑鳩。
「そうだな、流石にこの騒動ではな――にしても、手際が早いな、気づいていたのか?」
「直前にな、雰囲気に気付いていな」
「そうか、にしても兄上の事は流石だな」
「ありがとう、さて、会場が少し荒れてしまったから直すとしようか」
「ん、出来るのか?」
「造作もない事さ」
そういうと、重力魔法を多用し斑鳩は会場の壊れた食器やグラスを片づけ、そして机の配置を戻す。
そして、料理とかが元通りになる。
「ちょっと遅くなったが、小さい食事会でもしようか」
斑鳩は椅子に座り、皆に促すように視線を向け小さいが華やかな食事会が始まった。
小さな食事会も終わり、斑鳩は用意された自室に戻っていた。自室からは月が見える。
「(こっちはこういう風に見えるのか…)」
斑鳩の中で海外の月というのは何処か趣深いものがあり、少し思いにふけっていると
コンコンコン―
斑鳩の自室のドアが叩かれた。
「はい」
「斑鳩様、私ですフローラです、少しよろしいでしょうか?」
訪ねてきたのは、メイドのフローラだった。
「あぁ、フローラちゃんか、どうぞ」
「失礼します」
そういうと、扉を開け中に入ってくる。
「どうしたんだい?さっきの襲撃で何かあったかい?」
「いえ、その件ではないのですが、国王陛下がお呼びです」
「・・・ヨルベルトさんが?」
ただ事ではななさそうだと思い斑鳩は、服装を整えようとするが
「斑鳩様、服装はそのままで結構と」
「…?」
斑鳩はフローラに連れられ、ヨルベルトの私室の前にやってきた。
「国王陛下、斑鳩様をお連れしました」
「ありがとう、入ってもらって」
そういうと、ドアが開かれる。開かれると、そこにはソファーに寛いでいるヨルベルトがいた。
「おっ、来た来た、入って頂戴」
「失礼します」
一応ということで、中に入る。ユリスがいないこともあり、少し緊張している斑鳩。
「ま、そんな固くならずに、ちょっと夜更けに来てもらったのは、君にお礼をしたくてね」
「お礼、ですか?」
この世界もそうだが、そうじてお礼というのはいい意味と悪い意味がある。そのどちらにも心当たりがある斑鳩。
「まずは、さっきの件、ありがとう非常に助かったよ」
「いえ、当然のことをしたまでですよヨルベルトさん」
「ははは、さすがだな、ま、僕の愛人たちもかなり君を評価していたよ」
「そうでしたか、ご無事でなによりです」
「ありがとう、さて、ここからが本題だ」
「"三兆"、この数字に心当たりないかな?」
いきなり直球の直球を投げ込んでくるヨルベルト。
「……その件ですか」
「あぁ、フローラもがんばってくれたようでね」
「(ユリスが、俺のことに関して語気を強めていたのはこういうわけか…)」
そんな中、ヨルベルトは少し真面目な顔になり
「孤児院の件、本当にありがとう、正直かなり助かった、心からお礼を言わせてくれ、ありがとう」
「いえ、道楽に使うより、良い使い道が見つかったので、当然のことをしたまでです」
「世の中には、そういうことを心からいえる人が何人いるかな…」
「何人でしょうね?」
というヨルベルト。自然と握手を求めてくるので、斑鳩はそれに応える。
「さて斑鳩君、個人的にも国として君にぜひ何かお礼をしたい、何がいい?」
「何がいいと言われましてもね…特にこれといって」
「そこをなんとかな、こうみえても少し気にしてしまうタイプの人間なんでね僕は」
律儀な人だなと思っていると、ふと脳裏をとあることがよぎった。
「その、もし叶うならでいいんですが、俺が
そういうと、ヨルベルトは目を丸くして
「あぁ、寧ろこちらから頭を下げてお願いしたいところだよ、ぜひ、このリーゼルタニアに住んでくれ、ユリスもきっと喜ぶから」
「ありがとうございます、お礼はそれでいいですよ」
「いいのかい?それだけで?」
「えぇ、いいんですよ」
そういうと、それから少し言葉を交わし、斑鳩は部屋を出た。
翌日――
当然というわけではないが、斑鳩と綾斗たちは揃って王宮に呼び出された。
「ギュスターヴ・マルローですか」
斑鳩は、近くの扉によりかかりながら話を聞いていた。
「うん、まぁ、僕もよく知らないんだけどね、警察の人たちが言うには昨日の犯人はそういう名前らしいよ」
昨日と同じ部屋で話すヨルベルト
「にしても、面倒な奴が現れたものですね、たしか、ギュスターヴってアルルカントの学生でしたよね?」
「えぇ、その筋では有名人ですよ」
「たしか、《翡翠の黄昏》を起こした人物の一人、二つ名は《創獣の魔術師》でしたよね?」
「えぇ、アスタリスク史上最大のテロ事件です」
「…ということは、あのヒゲはテロリスト?」
「いんや、シンパと考えるのが妥当だろうな、たぶん金で動いている、そういうことだろ?」
と斑鳩が視線をクローディアに向ける。すると、彼女は携帯端末を操作すると、複数の空間ウィンドが現れた。現れたのはテロ事件に関するニュースのようだ
「これらは全てギュスターヴ・マルローが関わっていたと目される事件です。彼らには政治目的を達成するような思想がありません、それは《翡翠の黄昏》以降、主義主張の異なる様々なテロ組織と組んでることからも窺えます」
「今回のは、《翡翠の黄昏》の逃げ延びたメンバーの関連が高そうだな」
「…なるほどな」
「ま、ギュスターヴ・マルローが魔獣使役の使い手だということは分かった、問題なのはここへの侵入方法だ、ヨルベルトさん、警察からはなんと?」
「あぁ、その件だが、ギュスターヴとやらは銀河の研究所幹部と身分を偽ったようだが、その際に使っていた銀河のIDは本物だったそうだ、止められるわけがない、僕だって無理だよ」
「統合企業財体のIDを?」
クローディアが眉を顰める。
「どうかしたのかい?」
「統合企業財体のIDは本社が直轄の組織の人間にしか与えられません、本来ならそう簡単に手に入るようなものではないのですが…」
「誰かに頼まれたような口ぶりでしたし、やっぱり大きな組織が背後にいるのでしょうか…」
「いんや、ある意味での個人かもしれないな…」
ある種の予測が斑鳩の脳裏をよぎるのでそういう。
「あ、そうそう、それと一応警察から護衛をつけるように要請が来てるけどどうする?」
「私には不要だが、必要なものが入ればそうする」
「ま、最悪ユリスの護衛はこっちでするんでいいですよ――なんたって、ここには《鳳凰》を制した二人と元星導舘一位もいますからね」
と護衛は不要ということで落ち着かせる
「それは頼もしい、実際うちの護衛より君たちのほうが強いだろうしね」
「そういうことです、んじゃあ、俺はクローディアと紗夜と綺凛ちゃんを連れて出ているんで、あとは三人でどうぞ」
「気を遣わせて悪いね、後で個人的にお礼をしたいから迎えを寄越すよ」
「お手数かけます」
そういうと、斑鳩は空気を読んで三人を連れ出し、外に出た。