翌日――早朝
斑鳩は、早朝のアスタリスクの街並みを眺めていた。視線の先からは、ゆっくりと海面から太陽が上がっていく。
「(ここまで来たのか…)」
剣を携え、その陽を見ている斑鳩。そして、ゆっくりと陽が上がっていく。それはいつもと変わらない
朝の風景。ただ陽が登って陽が降りて夜になる。そんな単純なものだが
「(決勝か――)」
心の奥底で高ぶる鼓動。すでに、弓は放たれようとしているが、今は違う。
「(今は、今を行くだけだ――)」
そう自分に言い聞かせ、いつも通りの瞑想に斑鳩は入った。
「そろそろ…時間だな」
控室のソファに座って目を閉じていた斑鳩は時刻を察知し紗夜に声をかけた。
「そうだね」
短く答えると、立ち上がって二人で大きく伸びをし、控室のドアを開き、通路を歩き出す。
「この通路を歩くのも最初で最後か…」
「そうだね…シリウスドーム派手に壊したからね――アルディが」
「…請求書は、委員会より個人的にあの二人にしたほうがいいだろうね」
「だよね…けど、そうなると斑鳩もだよ?」
一応斑鳩もアルディほどではないが派手にシリウスドームを壊している。ちなみに、その件でクローディアも苦言を言われたらしく、夜吹経由でしこたまというわけではないが、小言は言われた。ちなみに、その後、この前だというのに土下座までする羽目になった。何とか許してもらえた。
そんなことを思い出しながら通路を歩いていると、突然紗夜がつぶやいた。
「――斑鳩、ありがとう」
「え?」
「斑鳩、ここまで連れてきてくれてありがとう」
「それはお互いさまだよ――当初の目的は達成したが、ある意味であっちも、そしてこっちもは本気が出せる」
「うん」
『さぁー西ゲートからは星導舘学園の棗斑鳩選手と沙々宮紗夜選手も入場です!ニ週間の長きに渡って様々な闘いが繰り広げられてきたこの《鳳凰星武祭》もいよいよラストバトル!!決勝戦です!』
『いやぁ、楽しみッスね!』
決勝戦にふさわしいアナウンス。決勝のステージに出る直前、紗夜が足を止める。
「斑鳩」
拳を軽く突き出してくる紗夜。それを何も言わずに答える斑鳩。そして、斑鳩と紗夜はステージに出た。
一気に歓声が沸き上がる。同時に、斑鳩は決勝の相手を捉える。言うまでもなくユリスと綾斗だ。
「不思議なものだな、こんな状況だというのに――今の私はこの試合に勝ちたくてたまらない」
「うん、俺もだよ」
「よし、ならば私もお前も精々欲張るとしよう、望むものすべてを手に入れてみせようではないか」
「何一つ取りこぼすことなく、ね」
ユリスと綾斗がつぶやく。それを聞き逃さない斑鳩と紗夜。
「このような形で相見えることが出来たとはな、綾斗、それにユリスも」
「うん、それはこっちもだよ、斑鳩、紗夜も」
斑鳩は、エリュシデータとファーブニルを取り出す。
「にしても、この形で良かった」
「どういうこと、斑鳩?」
「なんの気兼ねなくぶつかることが出来るからさ」
「そうだね、それはこっちもだよ、斑鳩」
綾斗がそういう。
「あぁ、そうだ――相手が二人で良かった、全力を知っているだけ、こちらも有利に行ける」
「それはお互いさま、リースフェルト」
ユリスの言葉に紗夜が反応する。
「相手にとってこれほど満ち足りたとは――幸せなことだ」
「斑鳩、感傷に浸らない」
綾斗は黒炉の魔剣を構える。
どうやら、あの気難しい魔剣も今回ばかりは盛り上がっているみたいで、綾斗に従順のようだ。
「悲しいことだが、ここでおまえらの願いはへし折らせてもらうぞ」
「私達には、私達の夢がある――邪魔はさせない」
斑鳩は本格的に身構える。視線の先には、万全の状態のユリスと斑鳩。
「紗夜、いけるな?」
「もちろん」
龍虎相見えるようにお互いがお互いを捉える。そして、カウントダウンが始まる。周囲の声はもはや何もきこえない。同時に斑鳩の血流が早まっていく。同時に、戦闘を求める衝動に掛けた手綱をいっぱいに引き絞る。相手は天霧綾斗だ。僅かな躊躇を払い落し、二振りの剣を抜きはらう。最初から全力であたらねば失礼になる相手だ。二人とも中央のカウントには視線を向けなかった。しかし
「《鳳凰星武祭》決勝戦、
最後の合図が鳴り響いた。地面を蹴ったのは同時だった