ソード・オブ・ジ・アスタリスク   作:有栖川アリシア

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到着、絶天

フローラを救出した綺凛と紗夜。

「と、刀藤様!ありがとうございます!」

「いいえ、それより早くあの扉の向こうに――」

「あいっ!」

フローラは涙をぬぐって走り出す。子どもとはいえ、《星脈世代》すぐに入口までたどり着いた。

 

「さて、どうしますか?」

「知れたことだ、お前たちを排除して、娘を取り戻す」

どうやら退いてくれる気はないみたいだ。その証拠に、男の腕から黒塗りの刃が滑り落ちる。

 

「(…実剣ですね)」

どうやら、相手はこちらを殺る気満々のようだ。

 

「でしたら、命に代えてもここを通すわけにはいきません」

綺凛は、そういって千羽切を構える。どうやら、ここまでの攻防から推測するに、男の能力はいくつか制限があることは明白だ。

 

「(相手の能力は、闇討ちや暗殺に特化したもの…正面から戦う場合は別でしょう)」

と推測しているが

 

「――くッ!?」

男の斬撃を受け取める。的確に急所だけを狙い、尚且つずしりと重い一撃だ。

それを跳ね上げるが、すかさず男が鋭い突きを返してくる。綺凛は、それをかわすが、そこに男の膝が腹部を抉る。

 

「――ッ!?」

思わず床に崩れ落ちそうになるが、それはできない。

 

「(……強い、ですが)」

侮っていたわけではない。万全と言えども今の彼女とこの状況はキツイ。

それに、剣技では綺凛が上回っているが、体術では完全に負けている。しかも、攻撃に一切の躊躇がない。

とはいえ、後ろの紗夜に助けを求めたいが、生憎フローラを守らなければならない以上、加勢も厳しい。

 

「(一か八か――)」

そう考えるが、男はその余裕を与えてはくれず。驚くほどに静かな走りで間合いを詰めると、鋭い連続攻撃を繰り出してくる。そして

 

「――終わりだ」

「えっ?」

ふいに男がつぶやき、目の前からその姿が消える。眼前には壁。そこで初めて気づいた。自分が罠に嵌められたことを。

「綺凛よけろ!」

 

紗夜の声にはじかれるようにして身をひるがえすがわずかに遠い。そして、影から伸びてきた棘が綺凛の脇腹を貫通した。

 

「あああああっ!」

焼けた鉄の塊を押し付けられたような痛みに、思わず悲鳴が漏れる。見る間に服が赤く染まり、急速に力が抜けていく。千羽切を取り落としそうになったその時だった。

 

 

「綺凛!!」

自分の名前を呼び捨てで読んでくる男性の声。この情勢下で最も頼もしい人物の声だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

到着しホールについてみれば、若干手遅れなものの、何とか間に合ったようだった。

 

「綺凛!!」

直ぐさに駆け寄る斑鳩。見れば脇腹から血が出ており、服が赤く染まっている。

 

「悪い、遅くなった!」

斑鳩はすぐさま、その棘を弾き消し飛ばし、綺凛を抱える。

 

「大丈夫か!?」

「は、はい」

意識がもうろうとしているが、一先ずは大丈夫のようだ。斑鳩は、すぐさまリフレッシュを綺凛に多重掛けする。すると綺凛の傷がみるみるうちに癒える。

 

「驚いた…棗斑鳩だと、それに治癒だと」

「…」

斑鳩は何も言わない。ただその場で敵をねめつける。

いや、この場合、斑鳩の内なる殺意によって言葉すらもが停止しているからだ。

 

「…下種共が」

「なに?」

斑鳩は、かろうじて言葉を紡ぐ。

 

「黒猫機関金目の七番ヴェルナー、雇い主は言うまでもなくディルクか」

「――なにッ!?」

ボソリとつぶやく斑鳩。心底つまらないと思う。だが、その言葉に動揺が伝わってくる。

男は、実剣と棘で攻撃してくるが星辰力の壁に阻まれる。

 

 

「なんだ…こいつは!?」

ヴェルナーはほんの少し狼狽する。データでは、いたってこちら側の世界に踏み込んでいない健全な生徒の筈だ。しかし、彼は濃密な殺気をコートでも着込むように身にまとっているのだ。いくらがこの学園でもそこまで濃密な殺気を纏っているやつはいない。黒猫機関でもだ。

瞬時に感知する濃密な殺気。どう考えても押さえているが、そのこぼれ出ている量が異常だ。

 

「(まさか、こいつの本性か…?)」

そう思いながらもヴェルナーは斑鳩に攻撃を加えようとするが。その瞬間、鈍い音と共に何かが砕けていた。

 


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