「お疲れ、斑鳩――」
「そっちもな、紗夜」
勝者インタビューをほっぽりだし、斑鳩と紗夜は互いにぐったりとした様子でソファに腰かけていた。紗夜と斑鳩の二人とも、身体の彼方此方に包帯がまかれていた。痛々しいことこの上ないが幸いにも大きなけがはなかった。とはいえ、斑鳩はこの世界に来てのかなりの無茶を行ったため、かなり満身創痍な状態である。
そんな二人の仲を穏やかな時間が流れている。
「――紗夜!斑鳩!」
わざわざ綾斗がやって来た。
「やれやれ、大丈夫か?随分と派手にやられたようだが?」
後ろから入ってきたのは、ユリスと綺凛だった。
「…問題ない、わけでもないさ、ちとばかし本気を出してな、慣れないもんだから少し疲れた」
疲れたというレベルではないのも綾斗達は知っている。
「斑鳩、どうだ?」
「ん?あぁ、メディカルチェックか…まぁ、ご覧の通り応急処置で済んださ」
若干ケラケラと笑いながら手を振る斑鳩。今は、薬も効いているのでそれなりに問題はない。
「紗夜のほうは?」
「身体のあちこち痛い、ただ、それよりも……煌式武装がいくつかおしゃかにされてしまったほうがもっと痛い」
「そうだな…そこは考えないとな」
少し斑鳩の顔が曇る。
「斑鳩、まずは一勝、いぇーい」
「お、おう」
と無理やりに紗夜のテンションに載せられる。
「まぁ、私達もすぐさまトップ2まで行ってやる、それまで休め、なあ、綾斗?」
「うん、ゆっくり休んでくれ」
「あぁ、今はそうさせてもらおう」
「まぁ、決勝では我々が待っているから、存分にこい」
「ご期待通り、全力でぶつかり合ってやるよ」
ユリスがそういって拳を差し出すと、斑鳩と紗夜はそれに自分の拳をこつんとぶつけた。そんな中
「失礼しますね」
ノックの音と共に、おだやかな声がドアの向こうから響き、クローディアが控室にやって来た。
「斑鳩くん、沙々宮さん、この度はトップ2進出おめでとうございます、星導舘学園としても、今シーズンの展望がだいぶ明るくなってきましたね」
「おう、どうもクローディア」
「…別に自分のためにやっただけ」
丁寧に頭を下げるクローディア。どうやら、結構いい感じのようだ。そんな中
「ところでクローディア、途中、フローラを見なかったか?」
「いえ………生憎とお姿は見かけていませんね」
ゆっくりと首を振るクローディア。
「試合後は沙々宮たちの控室で合流するという約束だったのだが……」
試合が終わってからは随分と時間が経つ。綾斗達の試合は夕方からでまだ余裕はあるが、少し心配だ。
嫌な気配が胸をざわつかせる。そして、そのフローラからの通信がユリスの携帯端末に入った。
「フローラからだ、まったくあいつめ、一体何をして……」
相手を確認したユリスの顔が、一瞬にして真剣な表情になる。
「音声通信だと……?」
その言葉に緊張が走る。
「……ユリス=アレクシア・フォン・リースフェルトだな?」
「誰だ貴様!なぜその端末を持っている!」
怒鳴るように問いただすユリス。相手はそれに答えない。
「この端末の持ち主は預かった、そこに天霧綾斗はいるか?」
「あぁ、俺がそうだけど……フローラちゃんは無事なのか?」
綾斗はまずなによりも大切なことを確認する。
『姫さま!天霧さま!フ、フローラは大丈夫です!』
これは間違いない、彼女の声だ。
「お前がこちらの要求を呑むならば、以後の安全も保障する」
「……その要求は?
「《
「緊急凍結処理……?」
「要求が実行されなかったと判断された場合、及び警備隊ないし星導舘学園の特務機関への連絡が確認された場合、彼女の身の安全は保障できない、またお前たちが《星武祭》を棄権した場合も同様とする、以上だ」
「あ、ちょ、ちょっと待っ――――!」
一方的にそれだけ言うと、空間ウィンドはプツりと消えた。
綾斗は慌ててユリスの手から端末を借りると、こちらからかけなおすが、当然反応はない。
「(誘拐ってわけか…上等じゃねぇか)」
まさか、ここにきてこのような状況になるとは思ってもいなかった斑鳩。
斑鳩は、自身と味方のHPをより回復させることが出来るリフレッシュを自分に多重掛けする。
反動はデカいが今はこうするしか手立てはない。
そして一瞥する。見れば、かなり青ざめた顔のユリス。しかもその声には力がなく、まるでユリスのものとは思えない。
「さてと、とりあえず落ち着こうか」
斑鳩は周囲をぐるりと見渡しそういった。