数日後
「お疲れ沙夜」
「そっちこそお疲れ、斑鳩」
ドームの控室で拳を軽くぶつける斑鳩と沙夜。無事、五回戦を突破したのだ。
「どうやら天霧の方も順調といったところか」
「みたい、斑鳩いく?」
「もちろん」
そういうと斑鳩と沙夜は立ち上がる。そんな中、唐突にノック音が響き空間ウィンドが開いた。
『斑鳩先輩、ちょっと困りましたー』
そこには弟子であり師匠でもある刀藤綺凛の姿があった。
「綺凛ちゃん、どうしたの?」
『そ、それがその、リースフェルト先輩に来客なのですが、ちょっと…』
「わかった、とりあえず入ってくれ」
そういうと、斑鳩は心のどこかで面倒な事になったと思いながらドアを開いた。
「じゃあ、君はリーゼルタニアから一人で?」
「あい!フローラと申します、みなさま、よろしくお願いします!」
若干舌足らずな所もあるが、フローラと名乗ったその少女は直角になるくらい深々と頭を下げた。
どうやら、話を聞く限りユリスの関係者らしい。
「そんで?」
斑鳩が綺凛の方に視線をやる
「受付で随分と難儀していたようなので、話を伺ってみたらリースフェルト先輩のお知り合いだとおっしゃるものですから」
凄く目立っていたであろう光景が瞼の裏に浮かぶ。
「あい、助かりました!ありがとうございます、刀藤様」
それにしても控室に入ってもらったが、違和感がすごい。
「まったく、来るなら来るで一報くらよこせばいいものを……」
フローラの頭をやさしく撫でながら困ったように笑う。
「だって陛下が《鳳凰星武祭》のチケットをくれる代わりに、姫様似は絶対内緒にしておくようにって」
「はぁ…兄上は相変らず戯れがすぎるな、どうせその格好も兄上の入れ知恵だな?」
「あい、それでいけば姫様もすぐにわかるからって」
「(一歩間違えれば警察行きだがな…)」
ユリスはこめかみを押さえながらため息を吐く。とはいえ、その服装から見ても、妙に着こなしている感じがある。
「でもでも、今となってはフローラの普段着みたいなものですから、着慣れていて楽ですよ?」
「そうは言っても、ここは王宮ではないのだからその格好はな」
「普段着って?」
綾斗がユリスに尋ねる。
「フローラは王宮付きの侍女として働きに出ているのだ、まぁ、まだ見習いといったところだが」
「(だから、ってわけかー)」
と納得する斑鳩。
「あ、そうそう!陛下から御言付けがあったのでした、『年末までには一度戻ってくるように』だそうです」
「ふん、兄上め、どこぞからせっつかれでもしたか…まぁいい、言われなくても、どうせ一度戻らなくてはと思っていたところだ、それにみんなのところへ顔を出さないとならんしな」
「あい!みんな心待ちにしています!」
「それと、陛下といより孤児院全体からなんですが、学園都市にいるはずの『"
「――『"
「陛下の話だと、孤児院にすごい寄付をしてくれたそうなんです」
「孤児院に?すごい寄付?」
「えーと」
そういうと、何やら手紙を取り出す。
「フローラ、見せてくれ」
「あい!」
彼女がその手紙をユリスに渡すと、ユリスの顔がひきつった。
「な、なんだこれは!?た、確かなのか!?」
「あい、陛下自らが確認しました、この数だそうです」
「一、十、百、千、万、十万、百万、千万、一億、十億、百億、千億!?」
振り込まれた金額を見て顔を引きつらせるユリス。桁が違うというレベルではないのだ。
「確かにこれは探さないといけないな」
「ということです」
「わかった」
そういうユリス。そんな中、
「あぁ、そうだ、ねぇ、フローラちゃん?」
「あい?」
「故郷でのユリスってどんな感じなのかな?」
「…なんだ、やぶから棒に?」
「いや、純粋に気になっただけだよ、ほら、ユリスはあんまりそういうことを話してくれないからさ」
「……そうだったか?」
実際、めったにないのは事実である。
「んー、どんなと言われましても、特に今と変わりませんよ?」
そういうと、ユリスの故郷のことについて話し始めた。