ソード・オブ・ジ・アスタリスク   作:有栖川アリシア

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火葬の時間

「――《魔女裁判》の時間だ!」

斑鳩は凄みをつけて言う。視線の先には彼女がいる。

 

「…運命は、変わらない」

無表情で先ほどとは数百の腕を繰り出してくる。それを全て剣で防ぐ。

 

「まずは、これだ」

「――ッ!?」

彼女の姿勢が一気に崩れる。無理もない、この世界に来る前に"とある妖精王"が使ったとされる重力魔法を使ったからだ。

そこから、タイラント・ハリケーンで巨大な竜巻を発生させて彼女の瘴気を一瞬無効化し、竜巻と共に飛ばしていた雷雲からサンダー・ボルトで相手を強制的に麻痺状態に陥れる。

苦悶の表情をする彼女。我ながら酷いことをしているという自覚はあるものの、全く手を緩める気などさらさらない。

 

 

 

「さぁ、こっからがメイン(火葬の時間)だ…」

種はできた。後は、燃やすだけだ。斑鳩はスカーレットファーブニルを振るう。

 

「待ってそれは――」

「いや待たん」

一気に振り下ろすと同時に業焔の旋風が巻き起こる。彼女の瘴気を種として燃え上がっていくのだ。

比例的にその焔は増殖していく。

同時に、その旋風の中から彼女の苦悶に満ちた声が聞こえてくる。

それから、彼女の瘴気を燃やし始めて数時間後、どうやら、瘴気は消え焔の色が普通の色に戻る。

斑鳩は、火葬をやめ、旋風を収束させ彼女に駆け寄る。気づけば周囲の産業廃棄物も跡形もなく燃え尽きている。

 

 

 

「…あう」

彼女に駆け寄り、その身体を抱きかかえる。所々ではなく、服装の大部分が燃えていた。

 

「さて、その毒をきっちり吐き出してもらいましょうかね――|汝は満たされる、聖なる水、冷たい死を遠ざける《スー・フィッラ・ヘイラグール・アウストル・ブロット・スバール・バーニ》」

彼女の全身に掛けると同時に、その高位回復呪文によって生成された水を飲ませる。すると、彼女は思いっきり吐血と共に体の中の何かを吐瀉する。

 

「おい、大丈夫か!?」

斑鳩が声を掛けるものの黒い何かを吐瀉をしまくる。

 

「(まさか、体内から毒を吐き出しているのか…?)」

斑鳩は、高速詠唱で何度もそれを行う。何度も行うたびに、彼女の身体から毒素と思わしきものが吐瀉される。このままでは体力がと思い、斑鳩は懐からこの世界の物ではない甘酸っぱい不思議な味がする液体が詰まった小瓶を取り出し、彼女に呑ませる。それを飲ませた直後、彼女は盛大に黒い何かを吐瀉すると共に意識を失った。

 

 

 

「(……やべぇ)」

若干、事の重大さに気付きつつも、ここにいる必要性もないので、斑鳩は彼女をお姫様抱っこし産業廃棄物処理場を離れ、近くの海浜公園に向かった。

 

「(こんなところか・・・)」

心地よく海風に吹かれながら気絶した彼女の顔を覗き込む。その寝顔は年相応の可愛らしいものだ。

 

「(この世界に来て初めてか…)」

この世界に来て初めて女の子をお姫様抱っこしたなと思いながらいる斑鳩。

 

「(にしても…)」

若干頭をかく斑鳩。無理もない、彼は今問題に直面しているのだ。問題とはズバリというわけではないが、彼女の服装だ。一応マントを羽織らせているが、彼女は全裸だ。斑鳩が手加減なしてやってしまったために下着まで燃やしてしまった。故に全裸だ。かろうじて人がいないから何ともないがこのままだと下手に人にでも見られれば<絶天>という二つ名が<変態>の称号に変わりかねない。

だが、ここにきてもう一つ重大なことに気付いた。

 

「…消えている?」

見れば先ほどまで彼女から放出されていた禍々しい瘴気が完全に消えていたのだ。

 

「――まさかな…」

と思いつつ入ると

 

「ん…うぁ」

彼女が目を覚ました。

 

「おはよう――襲撃者さん」

「どちらかというと、今の立場から見ればあなたよ」

彼女は自分の置かれている状況を確認してからそういう。斑鳩に10のダメージ。

 

「ハハハ・・・それは言わないでくれ」

苦笑いしながらいう斑鳩。そんな中、彼女は視線の先の海と周囲に広がっている草むらを一瞥し

 

「変わったのね…運命は」

どこか哀愁深く、そして慈しむように、そして嬉しさの籠った声音でいう彼女。その二人を斜陽が朱色に照らしていた。そんな中、彼女はこちらを見る。

 

「貴方、名前は――いや、聞くまでもないわね、棗斑鳩」

「そっちは俺の名前を知っていて当然だよ、何せ俺を襲ったんだからな」

「そうね、自己紹介がまだだったわね、本当ならここで立って自己紹介したいけど生憎運命が変わって早々、私は露出狂になる気はないし、この格好でいる気もないわ、貴方携帯持っている?」

「え、あぁ」

どこかで誰かがみているんじゃないかと思いながらも斑鳩は彼女に携帯を貸す。すると慣れた手つきでダイヤルしどこかに電話をかけ始める彼女。そして、数分後やって来たのは、同じレヴォルフ学園の生徒だった。

そして、その手には手提げバックがあった。

 


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