Fate/Grand Zero   作:てんぞー

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二日目-1

『―――ちょっとこれはどういう事よ!! ツッコミどころが多すぎてどこから何を言えばいいか私は全く分からないんだけど!! 全く分からないんだけど! どれからはじめればいいのよー! もー!』

 

 シャワーを浴び終わって体はさっぱりとし、眠気も完全に洗い流した。だけどそれでも体全体のだるさは消えない。祝杯を上げてから気絶する様に眠ったが、それでは魔力の回復は不完全だったようで、昨日に戦闘の代償として体が不調に陥っていた。過去の経験からすれば一日魔力を使わずに過ごせばそれで何とかなると言った所だろう。が、やっぱりだるい。あまり体を動かしたい気分ではないし、スピーカーモードでダイニングのテーブルの上に置いた携帯端末が五月蠅くてしょうがない。それでも一日経過したのだからやはり、連絡は入れなくてはならないのだが。

 

『とりあえずまず最初に応えて―――貴方はアニムスフィア(私たち)を裏切ったの?』

 

「それはNO、と断言させてもらう。聖杯戦争で勝利したら聖杯をお前に渡すつもりでいるし、最初から最後までずっとそのつもりだ。俺自身にゃあ聖杯なんてもん、無用の長物だからな。くれるって言われたってリサイクル屋で売るぐらいの事しかできねぇわ」

 

「聖杯の探索者たちが卒倒しそうな発言だな」

 

 残念ながら万能の願望器という言葉に魅力は感じないのだ。なにせ、”都合が良すぎる”のだ。殺し合いはともかく、サーヴァントを全滅させれば願いが叶うよ! なんてどう信じろと言うのだ。魔術があーだこーだ言われても、労力に対して成果が見合わない。だからどうしても自分は聖杯の機能に対して信を置く事が出来ない。だから聖杯自体に興味はないのだ。

 

「よっこいしょっと」

 

 椅子に座り、両足をテーブルの上に乗せて休みながらオルガマリーとの通信を続ける。

 

『じゃあはっきりと聞くけど、なんでレフを裏切ったの。時計塔の方はカンカンよ』

 

「アイツ、最後の最後で裏切る気配あったからな。殺される前に確実に殺せるタイミングで始末した」

 

『もうちょっと交渉とか様子を見るとかなかったの!?』

 

「いや、アレはマスターの判断で正しい」

 

 こちらの代わりにスカサハが言葉が挟んできた。

 

「ああいう輩は隙を見せればそれに食らいついてくるような者だ。怪しい、そして敵であると理解したなら殺せる時に迷う事無く殺すのが最善だ。その機会を逃せば、二度と機会がやってこない可能性も存在するのだ。だったら殺せる時に殺さぬば、此方が殺される」

 

『うっ―――』

 

 流石のオルガマリーも大英雄の言葉には言い返す事が出来なかった。そしてその言葉にはこちらも賛同する。”あの時殺せばよかった”というのはもう二度と帰ってこない話なのだ。だとしたら事前に殺すしかない。そしてレフは怪しい上に目が濁っていた。殺す直前に理解した。アレは確実に此方を裏切るつもりでいた。同じ日に。おそらくは洗脳か何らかの手段で。まぁ、もう殺してしまったから関係のない話なんだが。

 

『うー! じゃぁ次! 初日からの襲撃!』

 

「遠坂とアインツベルンが鉄壁すぎるからどっかで削っておかないと終盤はいって相手が磐石な状態で戦えちまう。最低限遠坂かアインツベルンのどちらか一方を削っておけば中盤戦で両陣がぶつかる必要が出てくる、勝つためにはな。という訳で霊地を一か所潰した。まぁ、理想から言うと遠坂を潰すのが一番だったんだけど―――」

 

 流石にあの黄金にはビビった。というか勝てるイメージが湧かなかった。幸い、スカサハに令呪を全部ぶち込めば首を取れる”かもしれない”というレベルで勝機がある。それを合わせ、マスターである時臣を優先的に狙えば何とか倒せるかもしれない……とは思いたい。現状、正面から絶対にぶつかってはいけない相手筆頭だ。アレが存在する限りは遠坂邸への攻撃は不可能だと考えた方が良い。

 

 何より【天を翔けろ、太陽よ(サルンガ)】が通じないのでは話にすらならない。

 

「次善案でアインツベルンの霊地潰しだ。幸運なことに二回も宝具をぶっ放してくれたおかげで霊地潰しが更に効率的になってくれてる。今頃アインツベルンのマスター―――衛宮切嗣は魔力不足で苦しんでいる筈だぜ。サーヴァントの維持の為に令呪を消費するか、或いは用意していた礼装を消費して魔力にするか。どちらにしろアインツベルン相手にはアドバンテージを稼ぐ事が出来た」

 

 無論、それで留まる訳ではない。視線をスカサハへと向ければスカサハは視線の意図を理解し、そして頷く。

 

「昨夜の戦場にいたサーヴァントの真名はあの狂戦士を除いて大体だが看破する事が出来た。どれも大英雄の名に相応しい英霊ばかりだ。ふ、私を殺せるかどうか、気になる所だな」

 

『マスターがマスターならサーヴァントもサーヴァントね! まぁ、裏切ってないって言うなら解ったわよ。完全に信じられるわけじゃないけど、現状貴方達以外に賭ける事の出来る対象もいないからバックアップは続けるわ。ただ次からは―――』

 

「事前に話を入れておくよ。クライアント無視しすぎて首を斬られるのも嫌だしな」

 

『よろしい。じゃあ、こっちはこっちでモニタリングしているから、今日はしっかり休んでおくのよ。じゃあね』

 

 五月蠅かったオルガマリーの声が携帯端末から聞こえなくなる。通話が切れたという証拠だ。はぁ、めんどくさい、と息を吐きながら深く椅子に座りこみ、体を休める。昨夜魔力を完全に放出しきってしまった為、本日に関しては完全に休息を取らないといけない。【天を翔けろ、太陽よ(サルンガ)】も問題がないかどうかチェックやメンテナンスを行わなくてはいけないし、戦った後の方が面倒なのはどんな時も一緒か、と思う。

 

 それでも、まぁ、成果はあった。

 

「感じからしてあの騎士(セイバー)の宝具を間違いなく黒甲冑(バーサーカー)黄金(アーチャー)が避ける余裕はなかった。アーチャーに関しては宝具の詳細が不明だからどうか解らないが、バーサーカーに関してはアレから逃げる為に間違いなく令呪を1画切らせる事が出来ただろ」

 

「ライダーに関しては運が良かったのか寸前に回避出来たようだがな」

 

 昨夜の戦いで得られたものは真名、宝具、詳細、そして敵の霊地と令呪の消耗だ。それに対して此方は大量の魔宝石と本日の活動停止、がコストという所だろう。やはり此方から仕掛けて良かったと思う。後手に回る所だけはあり得ない。陣営として相手の方が強力なのが解っているのだから、後手に回れば後手に回るほど不利になって行く。キャスターでもない限りそれは聖杯戦争における絶対のルールだし、キャスターにしても対魔力スキルの存在によって圧殺できる。

 

 昨夜の戦場は良かった。一方的にこちらの思惑と強みを押し付ける事によって有利に展開を運ぶことのできる、そういう戦場だったからだ。【天を翔けろ、太陽よ(サルンガ)】や言葉を使う事でメインの意識をスカサハではなく此方へと向け、サポートに入らせる程度に留める。そして最後の最後で仕事を完遂させるのは意識が余り行っていないスカサハの方だ。流れとしては結構綺麗に出来たと思っている。ただ、唯一不安なのが、

 

 ―――衛宮切嗣の存在だ。

 

 たぶん、昨夜のやり方を覚えられた。少なくとも俺だったら覚えておく。そもそも見た感じ、防衛というスタイルには根本からして似合わないタイプの様にあの男は思える。アインツベルンの霊地という拠点があったからこそ防衛に回っていたが、その枷がなくなれば自由に動くようになるに決まっている。少なくとも俺だったら本来の武器で戦い始める。つまりは軽いフットワーク、近代兵器、狙撃そして爆撃。本来の領域で戦えるようになったわけだ。だからこそ一番最初のターゲットを遠坂にしたのだが。

 

 それでも霊地は潰さなくてはならなかった。そうじゃなきゃ再び回復された魔力で【約束された勝利の剣(エクスカリバー)】を食らう事になる。いや、正直対軍、対城規模の宝具を、しかも最上級ランクのそれを二連続で放ってくる時点でだいぶ恐ろしい。これからは連続で放つようなことは不可能だろうが、ゲリラ戦術でぶっ放されてくると思うと色々と恐ろしい。それにしたって間違いなく切嗣、というよりはアインツベルン全体が此方を恨んでいるだろうし。

 

「真名の方はどうだ?」

 

「アーチャーもバーサーカーも悪いが読み取れなかったが、あたりはつけた。セイバーは騎士王アーサー―――なぜか女だったがな。そしてそれに凄まじい執着心を見せているバーサーカーはおそらく同じ時代でアーサー王に敵対していた存在なのだろう。蛮族と呼ばれる連中が英霊になるほどの武功があるようには思えん……おそらくはカムランの丘で敵対した誰かだろうな」

 

「ほんとスカサハ姐さんは物知りだな」

 

「人よりも長く生きていれば暇な時間がある。本を読んだり思考に没頭でもしなければ廃人になるものだ」

 

 退屈は心を殺す、なんてことを聞いた事があるが、文字通りスカサハにとって退屈は致命傷になりえる毒なのだろう。だからこそ彼女の鍛錬は今も終わっていないのだろう。体を動かし、本を読み、武術と学問に、神話に通ずる事で退屈から逃れている。廃人になって体を放置しても死ねるわけではない。スカサハの地獄には終わりがないのだ。

 

「ともあれ、アーチャーはおそらくこの世全ての財を集めたと言われる彼の英雄王だな。そうでなくては財を湯水の如く投げ捨てる戦い方は出来まい」

 

「英雄王……英雄王……駄目だ、知らねぇわ」

 

「古代バビロニアの王ギルガメッシュだ。調べておけ」

 

 スカサハに解ったと返答しつつも、頭の中で今出ているサーヴァントの情報に関して整理する。

 

セイバー:騎士王アーサー

アーチャー:英雄王ギルガメッシュ

ランサー:影の国の女王スカサハ

ライダー:征服王イスカンダル

アサシン:ハサン(固定)

キャスター:詳細不明、脱落済み

バーサーカー:おそらくはアーサー王と同年代、対立側の戦士

 

「こう並べてみると一気に情報が出てきたな。アサシンがハサンで固定されているという事は全ての陣営が把握している事だからそれは完全に開示情報だとして、キャスターの脱落もすべての陣営が知っている。ライダーがイスカンダルだという事は本人が名乗ってるから周知の事実、セイバーがアーサー王なのも宝具から簡単に解っちまうな」

 

「加えて言えば昨夜、おぬしが丁寧に私の名を叫んだからランサー・スカサハという情報も出ているだろうな。バーサーカーの執着を見れば情報が隠蔽されていても大体どの時代かは予想する事も出来る。……こうなってくると今回の戦い、真名の把握具合に関してのリードはアーチャーに関する事ぐらいだけだろう」

 

「そのアーチャー……ギルガメッシュ王だっけか? に関しては遠坂陣営自体が把握しているだろうし、あちらさんはこっちと全く同じように真名を把握していると考えていいな。初日ででかい花火をぶっぱなしたのはいいが―――」

 

 ―――全体的に劣勢なのは間違いがないな、と判断する。

 

 そもそも遠坂とアインツベルンが磐石すぎて、そこを切り崩さない限りは、外様のマスターには勝利の可能性すら存在しないのだ。だから昨夜は本当に理想的な展開を運ぶ事が出来た。それはいいのだ、だが”それだけ”だとも言える。まだアーサーは潰せていない。ギルガメッシュに関してはもはやどうやって倒せばいいのかすら解らない。アインツベルンの霊地を破壊して戦力の低下を発生させる事は出来たが、

 

 それでもサーヴァントやマスターを討てた訳ではない。

 

 まだ遠坂はほぼ無傷だ、あそこをどうにかして削らない限りは此方の勝機が見えない。アインツベルンは殴り合える領域まで引きずり落とした、次は遠坂の出番だ。

 

 ―――そこで思い出すのはギルガメッシュを相手に相性の良さを発揮していたバーサーカーの存在だ。

 

 宝具のガトリングを前に、避けるどころか迎撃しながら接近する事が出来た、あの異常な技量と宝具の簒奪能力。もし、アレに【神殺し】を加える事が出来れば―――それはギルガメッシュをもっとも効率的に殺す事が出来る毒になるのではないのだろうか?

 

 ―――悪くはないかもしれないな、これ。

 

 そんな事を思ってコーヒーでも作るか、と椅子から体を立ち上げた時、

 

「―――マスター、空から何かが来るぞ」

 

「え?」

 

 スカサハのその声を確認する為にもダイニングの窓を開け、そして空へと視線を向けた。気づけば影が差し込んでおり、太陽の光を邪魔する様に鉄塊が空から落ちて来るのが見えていた。それに爆弾が積まれている様に見え、衝撃でも喰らえば激しく爆裂する様にも見える。というか爆発させる意志しか感じない。

 

 人はそれを、爆弾の積み込まれたセスナ飛行機と呼ぶ。

 

 またの名を飛行機テロとも呼ぶ。

 

「やられたらやりかえすってお前正気かよ衛宮切嗣ゥ―――!」

 

 

                           ◆

 

 

 そのわずか数秒後、阻まれることもなく落下したセスナが双子館へと突っ込む様に衝突し、瞬間的にセットされていた爆弾が一斉に起爆、

 

 朝の冬木に轟音と爆炎のモーニングコールを響かせた。




切嗣「昼間は聖杯戦争ダメ? やだなぁ、魔術なしの個人的なテロだよ。私闘だからセーフ」

 冬木はこれから泥沼の魔術と近代兵器の泥沼ゲリラ戦が開始しますが、今日も冬木は平和です。冬木のプロ市民はテロ程度では慌てないのだ。

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