Fate/Grand Zero   作:てんぞー

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序章-2

「―――俺は元々日本の魔術師の家系出身でな。分家とはいえちったぁ有名な所だったんだわ。まぁ、それでも才能がなかったのは確かだ。小さい頃から色々と魔術に関してアレコレ叩き込まれたもんだけど……結局は才能のなさが露呈してなぁ、放逐されちまったんだ。出来が悪くて次代を作るために利用しようにもいい種にゃあなりはしねぇって理由だな。んなわけで若い十代をホームレスという新たな職業にジョブチェンジすることになったんだわ」

 

 街路を歩いているとホットドッグの屋台を見つける。イギリスにしては少々珍しいものを見つけたな、とちょっとだけ幸運に思いながらホットドッグを二つ購入し、片方を自分用に、もう片方を隣に歩く女の姿へと手渡す。長い黒のスカートに上半身はポンチョの様な布ですっぽりと覆い隠し、首には黒いマフラーを口元を隠すように巻く、赤目の女だ。彼女はホットドッグを受け入れると話の先を催促する様に視線を向けてくる。

 

「まぁ、それで色々とやべぇ状況になるんじゃねぇかコレ? と思っていたりもしたんだけどやっぱり世間の常識と魔術世界の常識は違っててなあ……家出したって当時のクラスメイトに言って、しばらく泊めて貰ったりして食いつないだわ。その間に一人で生活する為のアレコレを覚えたりしてな―――んで日本を歩き始めたんだわ。なるべく乗り物に乗らない様に自分の足で歩き回りながら日本を回って、魔術の世界に引きこもってる奴は旅行さえもしたことねぇのかよばぁーか! って気分でな。クソヒッキー連中じゃ味わえない経験を徹底的に味わってやるぜ! って、まぁ、不良少年な時代だった訳よ、これが」

 

 ホットドッグに齧りつく。冬の寒さは嫌いじゃない。こうやって野外で食す暖かなものが体に染み渡る感覚を楽しめるからだ。旅をしたおかげで色々と感じられるものがあった。これもその一つだと思っている。そう、世界は美しいのだ。

 

「まぁ、それで割と早い段階で日本を歩き終わっちまってな。その間に喧嘩のしかただとか、金の稼ぎ方とか、魔術の実戦利用とか嫌な事ばかり覚えちまってな。でもどーしても実家の影が頭の裏にチラチラとチラつくんだわ。お金が欲しければ死徒でもぶっ殺して報告すれば多少の謝礼金はでるし、後はどっかで依頼でも引っ掛けりゃあいい。魔術ってもんは金になるからな、お金に余裕が出来たわけだから、こりゃあ日本じゃなくても外国も歩かなきゃ損だな、って思ったわけよ」

 

 酷い時代だったと思う。世間的な常識が欠落していた頃でもあった。まだ若いし、そこらへんしょうがないかもしれなかったけど。それでも、楽しかった時でもあった。いや、実家を出てからはずっと楽しい人生の様な気もするが。

 

 ホットドッグを食べ進め、人波を縫う様に、隣の女と一緒に進む。

 

「まぁ、それでただで国を出るのもつまらないしそもそも俺、ビザ発行できねぇだろ! って事実に気付いて、密入国を決心したんだよ。まぁ、それで北海道からロシアへ入ってそこでやってきたぞ北の大地、ってガッツポーズしたのは良かったんだけどここで問題に直面してな―――ロシア語も英語も俺、喋れねぇわって気づいちゃったんだ」

 

「理解していたが、やはり貴様はどちらかというと馬鹿な方だな」

 

 仕方がない、中学校を卒業していないのだから。それに多少抜けている方が楽しいって理解したのだ。

 

「まぁ、これが寒くて寒くて辛くてなぁ。野宿したくて廃墟を借りようとしたらヤク打ってラリってる俺よりも若いガキが十何人っていたりしてな、マジかよって気分だったわ。日本を歩き回った時とは全く違う光景にカルチャーショック? 的なのを感じたね。まぁ、ここらでウルトラ求道僧と出会ってな、夕日をバックに凍った湖の上で殴り合った結果氷が割れて俺達そろって沈んじまって、そして結果として意気投合したんだ」

 

「戦士たる者、武を通しお互いを理解する事は良くある事だな」

 

 まぁ、あの馬鹿は戦士というよりは宗教家だったのだが。

 

「まぁ、そこで意気投合した俺達は特に外国語を流暢にしゃべられる訳でもないけど、夢と希望と馬鹿だけは大変良く出来ましたって先生に評価されそうなレベルで溢れてたからな、そのまま二人で旅を続行したんだ。俺はだんだんと武者修行がメインになってきた。体を動かしたりするのが楽しくなってきたし、自分がどこまで行けるかってのを試すのも楽しかった。アイツもそういう修行とかは好きだったけど、それよりもアイツは神話とか宗教とかそういうのを調べたり集めたりするのが好きな奴だったわ」

 

 まぁ、何というべきか。最終的には絶望してしまったのだが。

 

「ロシアからモンゴル、中国、そしてインドへと俺達は旅を続けた。あの馬鹿の方は俺よりも長く、そして逆方向に旅を続けていたらしくヨーロッパの方は腐るほど見てきたらしくてなぁ……んでインドでヒンドゥー教の調査とかで辺境の寺院に向かったんだけど……まぁ、結果だけの話をすると俺達、ここで別れる事にしたんだわ」

 

 ほう、と声を漏らしながら彼女がこちらへと視線を向けてくる。それはなぜか、と問う様に。

 

「一つ目はここで教えていたマントラとかが比較的俺と相性が良かったから俺はここで修行してくかぁ、って残る事にしたわけだわ。んで馬鹿の方だけど―――アイツ、なんか納得のできる答えにたどり着いちまったようでな。結局宗教ってもんじゃ本当に馬鹿の叶えたかった事が出来ないってたどり着いちまったらしいんだわ。そこらへん、俺には良く分かんねーけど。まぁ、ただ、その直後絶望したテンションのままヒマラヤを訓練もしてないのにチャレンジしてった」

 

「自殺志願者か」

 

「後日メールで登頂記念の写真が来たわ」

 

「現代では中々見る事の出来ないタイプの男のようだな」

 

 それは良く思う。しかし馬鹿は―――門司はあの時、本当に絶望したような表情を浮かべていた。すべての宗教、そして神々は身勝手であり食い違っている。人間の理想が神に反映されているのだから人間が救われるわけがない、と。そしてそのテンションのままヒマラヤへと走って行くのだからアイツ凄い。しかしどうなのだろう、”彼女”時代にはこういうタイプの人間、いたのだろうか。

 

「まぁ、そこで結構長居してたらフランス料理食った事ねぇなぁ……って唐突に思って、ニューデリーを通る時に会ったんだよ―――マリーと」

 

 運命的な出会いだったと思う。何せ、

 

「出会い頭に見下しながら”おい、案内しろ”とか言ってくるから無言で腹パンを叩き込んでから街灯に吊るしてやったわ」

 

「中々愉快な出会いをした様だな」

 

「無論、そこは俺だ。吊るした下で儀式の様に意味のない踊りを入れるのを忘れなかった」

 

「まさにキチガイの所業だな」

 

「気が付いたらアニムスフィア家の私兵に襲われてたわ」

 

「残念ながら当然の結果だな」

 

 完全に同意する。まぁ、盛大に馬鹿をやってはしゃいでたのは確かなのだが、ある意味これは解れてしまった門司と合えなくて、しばらく寺院の方で精神修行とかずっとやってた影響でハジケてしまったのではないかと思っている。まぁ、真偽はどうあれ、

 

「これが俺とマリー……つまりはアニムスフィア家との出会いだった訳だ。出会いは最悪だったわけだけど……まぁ、色々あって気に入られた? のか? まぁ、そんな感じで時計塔へと連れて来られた訳だ。魔術の勉強とかは時計塔へと連れて来られるまで一切しなかったから、実家での勉強もクソの様なもんだったし。学生に戻った様な気分で色々と新鮮な気持ちだったわ。もう二十も半ばなのになぁ」

 

 三十路が少しずつ見えてきたぜ、とサムズアップを彼女へと向ければ、苦笑を返された。流石というべきかなんというべきか、やっぱり”まだ生きている”せいか、彼女は現代に詳しいし、現代を理解している。だからこちらの言葉は通じるし、意味も分かる。喋っていて楽しいと思える。

 

「ま、そっから数年だ、数年。そんなんで今、こうやって一緒に歩いている訳だ―――ランサー」

 

「奇妙な奴だよ、お前は」

 

 苦笑しながらも返答をしてくれる彼女は人間ではない―――英霊だ。聖杯戦争という戦いは座より召喚させた英霊を七騎戦わせ、潰し合わせ、聖杯にくべる事によって完了させる儀式だ。彼女、ランサー・スカサハはそういう事を考えると一種のイレギュラーサーヴァントであると評価しても良い。なぜならスカサハ本人はまだ、死んでいない。故に聖杯戦争に召喚されることはない。それが本来のルールだが―――オルガマリーのいるアニムスフィア家はそこらへん、普通ではない。

 

 聖杯ではなく英霊召喚術式、そのものに非常に興味を持っている。故に、それに独自の干渉や解析を行っている。

 

 スカサハの召喚もその一環だ。無論これはスカサハの本体ではなく、他の英霊と同じようにスペックを落とされた分身の様な存在になっている。難しい話は分からない。ただ魔術や科学の知識に乏しい自分に理解できるのは”アニムスフィア家には出来る事だった”という事実だ。聖杯戦争に勝利する為なら確実なサポートを、バックを提供するといったオルガマリーはちゃんと言葉を守ったのだ。

 

「なぁ、マスターよ。お主の事は今の話でよく分かったが―――語る必要はあったのか?」

 

「ないよ? でも俺だけ一方的に良く知っている、ってのはフェアじゃないだろ?」

 

 個人的に英霊と取りたいスタンスは対等の立場だ。此方が使役するというのはマスターという特性上仕方のない事だ。

 

「だけど一方的に知られているだけってのも気持ちが悪いだろ? 古代ケルトがどーだったかは知らんけど。少なくとも背中を預けて一緒に戦う戦友なんだから、俺個人の事をある程度は知って貰いたいし、理解している方が無駄にぶつかったりしないだろ? 個人的に相性はそんなに悪くはないと思っているし」

 

「ふむ、成程な。いや、合理的というべきか」

 

 そう、合理的な話だ。サーヴァントとマスターは命を預け合う仲だ。マスターが死ねばサーヴァントは消える。サーヴァントが消えればマスターは戦えなくなる。それが聖杯戦争のルールなのだから。だからマスターとサーヴァントの関係はしっかりしておくべきものだと思う。特に自分の様に、戦場に出て直接戦うタイプは信頼と連携が重要になってくる。息が合うかどうかは別の問題として、背中から刺されるかもしれない程険悪な仲で戦う事なんて絶対にしたくはない。

 

「そうなるとコミュニケーションはとるべきもんさ。実際、こうやって話、共有できる時間を持った方がお互い、理解できるだろう? プライベートタイムはお互いちゃんと確保してさ」

 

「言いたい事は理解した。合理主義者だが人情家、と言った所だな、お前は。それに良き師にも会えたようで鍛えられているのも分かる。これが我が影の国であれば迷う事無く弟子として育てたものだが……ふむ、そこまで余裕がないのは少々困ったものだ」

 

「いやいや、あの影の国の女王に鍛えられるのは吝かではないというか是非此方からお願いしたいぐらいだよ。まだ冬木入りまでは時間があるし、どうだ、今夜からちょくちょく手合せしたり」

 

「うむ。悪くはないな」

 

 食べたり話すよりも、どうやら体を動かす事の方がスカサハとしては好ましいらしい。鍛錬をするというと少しだけ声が弾んでいるのを感じられる―――まぁ、ここら辺はさすがケルト文化の女王と言った所だろうか。戦って飲んで戦って戦って戦った文化だ、やはり三度の飯よりも闘争と鍛錬を好むものらしい。しかし鍛錬自体は自分も嫌いじゃない―――むしろ好きだ。ライフワークにしているぐらいには。この聖杯戦争だって英霊と戦えるという部分に興奮しているフシがある。一流の英雄を生み出してきたスカサハに鍛えて貰えるのだ、それはそれで非常に楽しみにもなる。

 

 そんな事を思っているとピピピ、と電子音が響く。直後直接耳の中へと響くように音が聞こえる。

 

『あー、あー、あー。テスト中なんだけど聞こえるかしら? 聞こえたら左手を持ち上げてくれる? 良し、届いているわね。それじゃあ自由時間を邪魔して悪いけど一度戻ってきてくれるかしら? 現在判明しているマスター達の情報を入手してきたから、冬木に入る前に情報共有と作戦会議に入りたのよ』

 

「拝承、拝承。……ってこれ、聞こえてるのか?」

 

『聞こえてるから安心してもいいわ。最終的には此方からオペレーターの映像を流したりすることも検討に入れているけど……今はまだ無理ね。それじゃあ戻ってらっしゃい』

 

 キュン、という音と共に音声が聞こえなくなる。その現象をスカサハは興味深そうに観察しており、

 

「魔術と科学の融合か……成程、私を召喚したのもこれが原因か」

 

「原理は俺、一切理解していないけどな。魔術と科学の相性の悪さをどうやって克服したのか気になる所だわ」

 

 ホットドッグを食べ終わると少々口元が寂しくなってくるため、煙草を取り出すが、横から延びるスカサハの手がそれを素早く奪い取り、握りつぶして消し去った。

 

「鍛えるならまずはここからだ」

 

「マジかよ……」

 

 スカサハがいるところではタバコ吸えないなぁ、と嘆きつつも、広大な学園都市である時計塔その敷地を歩いてアニムスフィア家へと向かう。

 

 徐々に、徐々に―――聖杯戦争は近づいていた。




 タグのインドは主人公の事だったんだよ!(迫真AA略

 ガトーのオッサンは出てくるだけで空気をぶっ壊してくれるからやっぱ好きだわあの性格。とりあえずこのお話、参戦している人がアレなので解りますけど、展開的には原作から大幅に外れる感じなのでそこらへんご注意で。

 そういう訳で現代風ファッションもお手の物、今日もどこかで生きるスカサハ師匠。

 それにしてもロックな経歴だこいつ。

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