Fate/Grand Zero   作:てんぞー

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二日目-2

「よっしゃ! 解った! お前がやる気満々なのは理解した! だったら俺にも考えがあるぞ衛宮切嗣!!」

 

「まぁ、その前にサルベージだがな」

 

 燃えていた。燃え散っていた。

 

 元エーデルフェルトの双子館、それは原型をとどめないレベルで燃え散っていた。辺りには燃え盛る炎と屑鉄が、元々は存在した館の破片で溢れかえっている。見るも無残な姿をさらしているとしか表現のできない、凄まじく酷い惨状が出来上がっている。まぁ、自分もアインツベルン城や遠坂邸に【天を翔けろ、太陽よ(サルンガ)】を叩き込めば同じような状況を生み出していたのだから、アリと言えばアリなのだろうが、一切感知が魔術的に行えない近代科学オンリーで攻めてくるとは、流石に予想外だった。

 

 確かに爆薬を積んでテロをすれば効率的だが……昼間の内にやるか普通? 一応こっちだってテロをするのには夜まで待ったのだぞ。それなのに昼間から―――と思ったが衛宮切嗣とは“そういう”男だったのを思い出す。まぁ、切嗣じゃしょうがないよなぁ、という謎の納得をさせた所で、改めても朝から炎の中心に立つ自分の姿と、周りの光景を見る。

 

「ひっでぇもんだわ……」

 

 幸い【天を翔けろ、太陽よ(サルンガ)】は持ち歩いていたから喪失する事も破損する事もなかった。人的被害に関しては直前に【原初のルーン】と【死翔の槍 (ゲイ・ボルク)】を抜いてくれたスカサハのおかげでどうにかなった。だがそれ以外は完全に全滅している、という感じだった。実際魔術師の工房に対する最も効率的な攻略方法は“爆撃”だ。空間を守護しているならその土地を粉砕してしまえばいいのだから、割かし理に叶ったやり方だ。

 

 ……ただセスナテロは予想外だったが。

 

 ため息を吐きながら自分にかかった埃を払う。やられた分をやり返してきただけならこれ以上の追撃はないだろう、ルールとしても非常に微妙なラインだし。ともあれ、軽く見た感じ、地上から上にある施設は全て粉砕されている様に見える。残ったのは地下室だが……地下室自体にはものをほとんどおいていない為、無事であっても意味はない。昨夜は完全勝利と言っても良い内容だったのに、

 

 損害と合わせるとトントン、と言った所になった。いや、拠点を失った今、魔力的に追い込まれるのは此方だ。継戦能力が落ちていると認識した方が良いだろう。

 

 とりあえず、直ぐ近くに転がっている冷蔵庫を蹴りころがし、その蓋を開ける。無事なビール缶が一つだけあったため、それを取り出しながらふたを閉め、冷蔵庫の上に座り、ビールを飲み始める。せっかく優雅な休日を過ごそうとしたのに、こんな風に始まってしまうと。衛宮切嗣、許すまじ。まぁ、ビールは飲めたから超即死から即死まで殺意を下げよう。

 

「とりあえず、どうすっかなぁ、これ」

 

「土地が死んだわけではないが、拠点としての運用はもう無理だろうな」

 

 建物の方は完全に粉砕されている為、それは当たり前だが……となると新たな拠点を得る必要が出てくる。が、そこで色々と考えが頭を駆け巡る。安定した拠点と、これからの戦いと、そして現在の状況を真剣に考える。そう、あくまでも真面目に考えるのだ。一度ゆっくりと、時間をかけて真剣に考えるからこそ好き勝手に暴れる事が出来るのだ。そういう状況を作りたいのなら冷静になって、真剣に考えなくてはならない。だから知恵を振り絞って、そして自分の経験上の事を織り交ぜながら判断する。

 

「……スカサハ、こういう状況、お前だったらどうする?」

 

「一番相手の嫌がる行動を取るな」

 

 完全ではない答えをスカサハは返してくる。それはある意味信頼の証とも言えるのかもしれない。それともこちらの思考を理解している、のかもしれない。そこらへん、自分はあまり自惚れたくはない。だから自分が正解を考えていると仮定し、自信を持って判断を下す。

 

「うし―――拠点の確保は諦めよう」

 

「良いのか? 安定した魔力の回復は得られないぞ。こういう拠点があるからこそ昨夜は後を考えずに宝具を引っ張り出したのだろう?」

 

 スカサハの言う通りだ。昨夜はかなり魔力とリソースを消耗した。おかげで今日は休まないといけないレベルに。逆に言えば一日休めば魔力が回復できるという環境でもあった。それを放棄するという事は今までよりも遥かに慎重に戦う必要が出てくる。【梵天よ、地を覆え(ブラフマーストラ)】も滅多な状況では打てなくなるし、令呪そのものを魔力コストとして消費する事も考えなくてはならない。だけどそれ以上に、今、この状況で一番嫌がられることを考えると、

 

 拠点を持たない方が圧倒的に便利で有利なのだ。

 

「マントラで生命力を活性させたらそれを燃焼させれば即座に魔力に変換する事は出来る。寿命縮めるやり方だから正直手を出したくないけど、どうしようもない状況じゃあこれでなんとかする。勝ったとして聖杯使えば寿命は元通りにできるし。それにスカサハ自体魔力の消耗を意識して抑えてくれているから無駄がないしな。だから魔力の事に関しては余裕のある時に生命力を魔力に変換し、有事の際は燃焼させて確保する。とりあえずはこれでいい」

 

 そして、

 

「間違いなく切嗣が此方を潰そうと動いてくる筈だ。アレは間違いなく潜んで必殺を狙ってくるタイプ―――一か所に留まってると何時の間にか殺されているタイプだ。だからターゲットを固定出来ない様になるべく人混みの中で拠点を持たずに彷徨ってるのが良い。索敵や探知の類であればランサーのクラスのスカサハの方が圧倒的にセイバーよりも勝ってる。だからこちらが紛れている間に逆に尻尾を掴んで殺す」

 

 潜むのではなく紛れる。ああいう裏社会系の人間は隠れている人間を見つけるのは上手だが、一般人にカモフラージュして生活しているのは少々手間取る。だからその時間を利用して一気に此方で見つけ、接近し、殺す。あのセイバーとはまともにやり合いたくないし、切嗣を殺すのが合理的だ。

 

「セイバーの陣営はそれで良かろうが……なら他の陣営はどうする」

 

 残ったのはライダー、アーチャー、アサシン、そしてバーサーカーだ。

 

「バーサーカーはとりあえず気にするだけ無駄だ。マスター個人がアーチャーのマスターに執着している様にアーチャーがぼやいていたけど、バーサーカー自身はセイバーに執着してた。あの暴れ具合は狂化でマスターをぶっちぎってる感じがあるし、間桐雁夜が未熟なマスターで魔術師だという事を考えるとたぶん放置してても勝手に脱落するだろ」

 

 場合によっては此方から襲撃情報をリークして鉄砲玉に利用するのも悪くはない。

 

「アーチャーに関してはアレは絶対に動こうとはしないわ。アレ、基本的に雑事は部下に任せるってタイプの人間でたぶん昨夜のは初日って事で暴れたかっただけ。或いは逆鱗に触れれば出てきてくれるだろうけど―――まぁ、無駄に刺激する必要はない。遠坂時臣もアインツベルンが優勝候補からドロップアウトしたかのように見える今、自分のポジションをキープしたいし積極的に動く事はないだろ」

 

「ではアサシンは」

 

 アサシン―――つまり言峰綺礼とハサンの陣営だ。

 

「正直ここが一番怖い。ただ昨日、あの場で奇襲を仕掛ける事はなかった。つまりはアサシン組は、或いはアサシンのマスターは“そういう事”なんだろうよ」

 

 ―――アサシンを使ってマスターを殺害する気がない。

 

 聖杯戦争だからサーヴァントのみを狙えば良い、というのは魔術師の発想だ。おそらくこの聖杯戦争で正しく戦闘を理解しているマスターは三人、自分と、切嗣と、そして綺礼だけになるだろう。そのうち俺は初日の夜にアドバンテージを得る為に動いた。そして切嗣はそのカウンターを迷いなく今、叩き込んできたばかりだ。そして綺礼、言峰綺礼は動いていない。あの乱戦でも、この状況でも動いていない。そろそろ殺しに来ないか? とは思ってずっと警戒したままだが奇襲が来ない。つまりマスターを殺害するつもりはなく、アサシンを戦闘運用する事さえ考えてないのかもしれない。これはおそらく綺礼の意志ではなく、

 

 遠坂時臣側の考えなのかもしれない。サーヴァントを使い魔として考え、聖杯戦争を比べ合いと考える、魔術師らしい勘違い。

 

 ―――トッキーさんマジ優雅。終盤までそのままずっとボケてて。やりやすいし邪魔なんで。

 

「ではライダーはどうする?」

 

「アレはなんか……こう、考えるだけ無駄な気がするからその場のノリで」

 

「まぁ、そういうタイプではあるな」

 

 ライダー、つまりはイスカンダルだがああいうむちゃくちゃなタイプは時々いるのだ。たとえば自分とか、臥藤門司とか、あとはアレだ、方向性は全く違うが“魔性菩薩”も非常に似たタイプかもしれない。ルールだとか知ったこっちゃない、俺は俺のルールで生きるぜ、それを尊重してくれとは言わないけど俺はそれで生きてるからじゃあな、っていう奴だ。一言で表現すると“キチガイ”系だ。一番馴染みが深いから逆に安心感を覚えるともう末期だ。

 

「まぁ、つまり衛宮切嗣に集中的に嫌がらせする事を考えるだけでいいって事だ。邪魔が入りそうな気配もあるけど―――タイマンだ、タイマン。男の子としちゃあその言葉に憧れるもんがある。さらに言えば相手があのアーサー王だって言うならもっと燃えるもんがある。生きている間に伝説の一つや二つに挑戦したいとは思っていたけど、いい機会だし一戦、邪魔を入れられずにやりたいなぁ……」

 

「……マスターとサーヴァントの立場を忘れるなよ」

 

「あぁ、解ってるよ」

 

 アーサー王、騎士王とも謳われた人物。その剣技は昨夜多少だが確認する事が出来た。まさしく天才と呼ばれる様な存在の剣技だ。きっと、戦う事は自分の人生経験を更に綺麗に彩ってくれるに違いない。まぁ、同じ得物で戦闘するならともかく、

 

 炎剣じゃ【対魔力】に消されるし、

 

 実体剣じゃたぶん斬り合っている間に【約束された勝利の剣(エクスカリバー)】に折られる。

 

 まともに斬りあう事が出来ないのだから非常に、非常に辛い。

 

 ―――こうなったらスカサハのゲイ・ボルクでも貸してもらおうか。一応槍も全く問題のないレベルまで鍛えてあるし。いや、本当は剣が良いんだけどないなら槍でも我慢しなくてはならない。うん、仕方がないよな。

 

 チラリ、と視線をスカサハへと向ければ、ゲイ・ボルクをくるくると回してから掴み、

 

「貸さんぞ」

 

「貸してよ」

 

「いいや、騎士王に挑戦するのは私が先だ。私を殺せるかどうかまずは試さなくてはな」

 

「スカサハ、お前なんだかんだで俺と同じ属性に染まり始めていないか」

 

 簡単に言うと混沌・中立な感じに。良く周りからアライメント”混沌・狂じゃねーの”と言われたりするが、失礼ながら理性は完全に残っているから問題はない。たぶん。

 

 そこまでふざけた所でふぅ、と息を吐いて空っぽになって飲み終わった空き缶を投げ捨てる。固定の拠点は持たないが、それでも寝床はどこか確保しなくてはならない―――ともあれ、とりあえずは冬木の街、切嗣が狙いにくい様に人混みの中に紛れるべきだろう。貧乏暇なしと昔誰かが言った。まさにその通りだと思う。まだ拠点があったころは余裕があって、暇な時間もあったのに、財産を失ってしまえばこうだ。

 

「はぁ、とりあえず頭を切り替えていくか。アサシンの襲撃もセイバーの追撃も来ないし、この中で適当に使えそうな物を拾ったらそのまま街へ行くぞー」

 

「拝承した。さっさと雑用を終わらせてしまおう。警邏の者が来ないとも限らないからな」

 

 そういえば警察も活動していたっけな、と思い出しつつ、どうやって切嗣へのカウンターを叩き込むのか。それを考えながら作業を開始する。

 

 非常に残念な事ながら、

 

 瀬野正広という男はすさまじく負けず嫌いであり、やられっぱなしは嫌なのである。




 という訳で相談、思考、そして方針決定。この作品の9割は130連で青ペンギン以外の☆4も☆5も出なかった事から現実逃避する為にてんぞーが必死に更新している話である。ノロイアレ! ノロイアレ!

 王は人の心が解らない(半ギレ

 なおアライメントの”狂”とは狂人や狂化で理性飛んでるバーサーカー専用のアライメントだそうで。

 しっかし未だかつてない評価を貰うペースが速い。やはり評価の最低文字数取っ払われたのが原因なのかねぇ。

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