疫病神うずまきトグロ   作:GGアライグマ

9 / 49
決別としがらみ

 長門達を集落に連れていき、ご馳走を用意する。改めて互いに別れてからの話をする。

 木遁分身がほぼ話し終えていたので、主にメイドに対するツッコミになったが。弥彦は「不純だ!」「羨ましい!」「俺にも紹介してくれ!」などと言った。釜倉を紹介してあげた。雪一族は中性っぽい体格顔立ちなので、俺のように白眼を持ってない場合は女と見間違うことがままある。実際弥彦もそうだった。ポオッと顔を赤くして、小南に足を踏んづけられていた。そこで釜倉が「ぼく、男なんだけど」と恥ずかしそうに言うと、弥彦は「ウソだあああ!」と絶叫した。逆に小南がドキリとしていた。情けないやつらだ。人を見かけで判断するなんて。俺もだがな。

 

 食後、弥彦が真面目な顔で切り出した。

 

「実は、俺達の組織はな。ただ孤児の世話をしているわけじゃないんだ。本当の、一番の目的は、世界平和を成し遂げることなんだ」

「ほう」

 

 すごいな。あの弱肉強食の幼少期を生き抜いてその思想が持てるとは。いや、持つだけならできても、行動に移そうと思えるとはな。

 

「おかしいかな?」

「いや、すごいと思う。多くの人が願っていることだ。実現できたらすごい」

「ありがとう」

「逆に言えば、いろんな人が挑戦して失敗してきたことだ。その難題を、どうやったら解決できると思ってんだ?」

「……笑わないでくれよ」

 

 少し恥ずかしがる弥彦。

 

「ああ、笑わないさ」

「まあ、簡単に言うと、対話だ」

「そうか。……いっ? ええええーーーーっ!」

「なぜ驚く!」

「いやいやいや!」

 

 そりゃあ驚くでしょう。苦しんだからこそ見えてくる意外な方法とかさ。そういうのを期待していたのに、対話かよ。滅茶苦茶使い古されたネタじゃん! いかにもガキが考え付きそうな!

 しかも、長門と小南も俺が叫んだら不満そうな顔になったし! お前らまでかよ!

 

「あのさあ。お前は歴史を考察したりしないの?」

「歴史? 何のだ?」

「例えば、仲のいい兄弟が金や女を求めて殺し合うとか。飢饉で殺して奪うしかないとか。だいたい対話ってさ、皆思いつくことだろう? つまり、何千何万人もその方法は試してきたんだよ。その上で世界平和は失敗した。俺達は失敗の原因を探るべきなんじゃないか? 対話の可能性に夢を膨らませる前に」

「そんなことなら毎日やってるさ」

 

 長門が立ち上がり、怒ったように言う。チャクラも殺気だつ。

 俺が上から目線でうざかったのは分かる。が、本当に対話が大切だと思っているのなら、怒りを見せるなよな。それは脅しだぞ。

 

「そういうお前はどう考えているんだ? 戦いか!? だが、殺し殺され恨みの連鎖ではいつまで経っても進歩しない!」

 

 長門はさらにはっきり怒った。少しガッカリだ。まあ、年相応ではあるけど。

 

「俺は柔軟にやるのがいいと思うよ。対話が通じる相手には対話。ビビらせて通じるなら脅す。それも通じないなら拘束するか殺す。現状維持がいいって意味じゃないよ。対話が通じる相手を増やすことは重要だ。教育とかでね」

「教育? それは人格の否定にはならないか? お前が殺すと決めた相手は本当に殺すしかないのか!? 俺は人殺しが反省し更正する様を見たこともあるぞ! 殺すしかないなんて決めつけていいはずがない! どんなに辛くても対話を諦めちゃいけないんだ!」

「分かったよ。そういう思想も大事だよ。だけどな。歴史的にみれば、人間どころか動物でさえ殺しちゃいけないって思想はあったんだ。犬、猫、牛、豚なんてのはもちろん、ハエや蚊に至るまでな。俺はそういう崇高な思想を持つ人のことを尊いと思ってる。空海って名はその人から取ったしな。そういう思想が広く受け入れられている国では、人殺しも犯罪も激減するだろうし、実際俺もこの村で広めるつもりだ。肉は食うけどな。だけどな、そういう国があっても世界平和は作れなかったんだよ」

 

 主に強欲野蛮な移民と旅商人のせいでな。

 

「いや、間違っている! 立派な話はいいが、お前は論点をすりかえた! 初めから対話の可能性を否定してかかっている!」

「否定していないさ。俺は確率論者なんだ。成功する確率がゼロとは思わないよ。限りなくゼロだけどね」

「確率……っ? 数字か? 数字で人間を表現することなどできない! それは人への冒涜だ!」

「俺が確率にしたのは人間の心ではなく人間の行動だ。だいたい確率って数字とかデジタルじゃなくてアナログを表す方が多いと思うけど」

「うん? 言ってることが無茶苦茶だ。纏めてから話してくれ」

 

 なんか、俺も苛立って来たぞ。なんだこいつ。喧嘩腰でペラペラと適当なこと言いやがって。

 

「ご、御主人様! こんな喜ばしい席でケンカなんてもっての他ですよ!」

「長門、あなたも押さえなさい。どうしたの? あなたらしくないわよ」

 

 初と小南がそれぞれの前に足って押さえつける。俺と長門は睨み合う。

 あん? なんだあいつの目? グルグル回ってんぞ。

 

「いい加減にしろ! 二人とも!」

 

 ゴン、と綱手の拳骨が脳天に来た。滅茶苦茶痛い。聞いてやがったか。まあもともとこっちにいたしな。今まで出てこなかったのが不思議だった。

 

「すまないな。お前たちもせっかくここまで来たのに」

「い、いえ。先に熱くなったのは長門ですから」

「まあ、ゆっくりしていけ。自分で言うのもなんだが、ここはいい村だぞ」

「いえ、そういうわけにもいかないんです」

 

 小南が申し訳なさそうに言う。

 

「どうしてだ?」

「今、私たちの組織では長門の影分身が防衛の要になっているんです。ここと違って、山椒魚の半蔵を筆頭に強敵がいつ襲ってくるか分からないので、あまり長居はできません」

「そうか。あの男か……」

 

 俺にとっても嫌な思い出の男だ。そう言えば綱手、自来也、大蛇丸に木の葉の三忍と名付けたのもこいつだったか。

 

「あっ、ですからっ! ここに来たもう1つの理由はっ!」

 

 小南が続きを言う前に、長門が彼女の口を塞いだ。俺は白眼で口の動きから言葉を読み取れたが。同盟を結ぶこと、とな。

 

「いい。話を聞いて分かっただろう? 痛みを知るこの男ならと思ったが、相容れない。残念ながらな」

「だ、だけど長門っ!」

「お前もそう思っただろう? 弥彦」

 

 長門が弥彦を見下ろして言う。こいつらの組織は弥彦がリーダーだと聞いたが、名前だけのリーダーだな。頭も戦力も完全に長門じゃねえか。

 弥彦はふてくされた感じで立ち上がる。こいつも俺の話には不満そうだったからな。問題なく長門に同意する流れだ。

 

「ああ、そうだな。非常に残念だ。孤児院を作ってると聞いた時は俺達と同じだと思ったが、ぬか喜びだった。女ばかり集めて下品だしな」

 

 最後のはただの嫉妬だな。

 

「小南、行こうぜ。もう用は済んだ」

 

 不安げな小南を他所に、二人は帰る雰囲気だ。小南も昔に戻ったように大人しくなって、視線を右往左往させることしかできない。

 

「小南。俺は同盟を結ぶべきだと思うぞ」

「えっ」

 

 だが、俺は空気を読まない男だぞ。

 

「何を」

 

 長門が慌てて振り替える。

 

「一時の感情で自分の仲間を危険に晒してはいけない。多少の食い違いは呑み込んで、実益を取るべきだ。お前たちの言う対話ってのは、その程度の折り合いもつけられないものなのか?」

 

 小南は衝撃を受けたような表情になった。長門はまだムスッとしている。弥彦はちんぷんかんぷんだ。やはりこいつがトップはダメだろう。お飾りならいいかもしれないが。

 

「仲のいい小南ですら自分の意見を言えないようだ。これがお前たちの考える対話なんだな」

「そんなはずがないだろう」

 

 弥彦がじっと小南を見る。

 小南は不安そうに俺と弥彦の間で視線を動かす。

 

「小南、そんなやつら見限ってこっちにこい。お前のところの孤児もこの村が世話してやる」

 

 と、この発言には怒りの表情になった。急ぎすぎたか。小南があまりにも美少女だったから。

 

「おいっ、バカなことを言うな! 小南は同士だ!」

「そ、そうよ! 私は弥彦と長門を信頼してる! もちろん足りないこともあるでしょうけど、それは私達が補えばいいだけのこと!」

「残念だ。まあ、足りなさすぎるな。お前たちにとって俺との同盟は有益だが、こっちにとっては損だな。地獄に突っ走るバカのためにこいつらを危険に晒すわけにはいかない」

「なんだと!?」

「いい加減にしろ!」

 

 と、また綱手に殴られてしまった。

 長門、弥彦は不満げに、小南は心配そうに帰っていった。

 

「言い過ぎじゃないかってば? もうちょっと相手の意見を聞いてあげても」

 

 と、去ったところでクシナが言う。意外だな。今まで黙って聞いていたのが。

 

「可能性を信じるくせに確率論を否定したんだ。議論の余地はないよ」

「でも、あたしはどちらかと言うと長門の言ってることが正しいと思ったってばね」

 

 そうだと思った。彼女も理想家だ。だから長門を援護すると思ったが。

 

「バカだなあ。こいつが歴史の話をしてただろ? あいつみたいなやつは五万といたが、皆あっさり死んでいったんだよ。なのにあいつは自分だけは大丈夫だって考えてる。不幸な戦争の被害者である自分なら、大国の驕りに立ち向かえるってな。それこそ慢心だぜ。うんそうだ」

 

 ボッチは俺の味方だった。岩隠れの教育は卑の国よりまともな感じがするな。

 クシナは集落に残り、俺や綱手と修行すると言った。今は九尾に認めてもらえるよう自分を磨いているらしい。心優しい娘だから俺の村のあり方にも共感し、仕事も積極的にしてくれるようだ。

 ボッチも一日クシナと同じ生活をして、「次こそはぶっ殺す! うんそうする!」と言って去っていった。

 

 長門との同盟を否定した俺。しかし次に直面するのは、防衛の問題。理想郷の王として最も大切と言えるかもしれない、大国との交渉。

 まず、砂の忍びがやってきた。強面だが、中忍程度の雑魚。木遁分身を子どもに化けさせ、脅されて従うフリをして集落に連れていった。綱手は「一人でやってみろ」と言って隠れた。

 

「誉めてやるぜ。田舎もんにしちゃ立派なもん作ってやがる。だがな、所詮ガキの集まりなんだよ。死にたくなかったら池と水路を寄越せ。砂の傘下に入るなら命の保証はしてやろう」

 

 少し、衝撃だった。慢性的に水不足に悩んでいるのは分かるが、いきなり脅しとは。ビビらせて従わせてしまおうと言うのだろう。忍びとはヤクザだったのか?

 

「この水路は俺達が作った。俺達のものだ」

 

 当然、俺は突っぱねる。

 砂の忍びはとても驚いたようだった。

 

「いいのか? 子ども達がどうなっても」

「水が欲しいならくれてやる。仕事もやろう。余った作物もやろう。だが権利はやらん! ここは俺の理想郷だ!」

 

 砂の忍びは、チッ、ただのバカか、のような反応をした。

 

「もっと深く考えてからものを言うんだな。我々はそう気の長い方ではないぞ」

「私も気は短いんだ。知らなかったのか?」

「なっ! 綱手! くっ」

 

 と、綱手が我慢し切れず出てきた。砂隠れの忍びは驚き慌て、去っていった。

 

 数日遅れて、木の葉の忍びもやってきた。こちらも中忍だった。砂隠れよりは物腰が低く、「水路の防衛をうちに任せる気はないか?」という感じだった。木の葉は水も畑もある豊かな土地だ。ここのことは、砂隠れに取られるくらいなら、程度の認識だろう。当然突っぱねた。

 

「譲歩はしない。この里はわしが育てた」

「バ、バカかあんた。戦争で何が起きたのか知らないのか? 小国が大国から目を背けて生きていくことはできないぞ」

 

 忍びは軽い脅し文句を言って出ていった。

 

 数日後、今度は砂隠れの上忍がやってきた。

 多少言葉は上品だが、やっていることは中忍と同じだった。

 

「忍びが本気になったらお前達ではどうしようもないぞ」

「我々は善良な一般市民であり、忍びに襲われる理由がありません」

「ふっ。善良な人間か。善良ならば富みの独占はしないだろう」

「ですから、余った水と食料はタダであげると言ってるじゃないですか」

「そうか。ならば我々がお前達を守ってやろう。だから、代償をきっちり払え」

「勝手に守ってくれる分はいいですが、命令は受け付けません」

「チッ。素人に何ができると思ってやがる。言っておくが、次が最後だぞ」

 

 そうして砂の忍びは去っていった。俺が無償で提供した水と食糧を持って。

 このまま突っぱね続けてもいいが、本当に攻め込まれたら大変である。

 俺は綱手と相談し、理想郷の王として砂、木の葉と条約を結ぶことにした。まあ実際に行って話すのは仮代表の豪だが。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。