疫病神うずまきトグロ   作:GGアライグマ

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THE FIRST -NARUTO
ファーストキスは突然に


 日向ヒナタは、命の危機を味わったことがある。彼女が三歳のときだった。

 木の葉隠れと雲隠れは、国境沿いで長く紛争を続けていた。が、不意に雲が木の葉の和平に応じてきたことがあった。ところが、これには別の狙いがあった。雲隠れは和平交渉で木の葉に入れたのをいいことに、忍頭を日向家に忍び込ませ、ヒナタを攫った。日向家の秘宝、白眼を奪うためだった。

 幸い、近くにいた日向の奉公人がすぐさま異変に気付き、ヒアシに情報を伝えた。ヒアシは、長い白眼の射程に忍頭を捉え、全力で追いかけた。そして追いつき、一撃で忍頭を殺してしまった。

 

 雲隠れは木の葉隠れに難癖をつけてきた。

 

「こちらが和平交渉に応じようとしたのに、そちらは理由も聞かずこちらの忍頭を殺してしまった。彼は、ただ子どもに道を聞きたかっただけなのに。木の葉がなしたことは、平和を愛する雲に対するとんでもない裏切りである。一部の暴走と言うのであれば、謝罪と賠償、その上で日向の下手人を差し出すこと。でなければ、戦争である」

 

 この言葉に対し、大蛇丸は戦争を選んだ。桃隠れ、風隠れ、雨隠れなど同盟軍も参加して、岩隠れの侵攻を食い止めた。逆に同盟軍が雷の国へ侵攻していった。

 

 ヒナタはもともと気弱な娘だった。しかしこの事件があって、さらに引っ込み思案になってしまった。自分のせいで戦争が始まった。自分のせいで多くの人が死んでしまった。彼女はそう考えてしまう。実際、彼女を責める人間もいた。多くは子どもだったが、親世代や年寄りにもいた。

 

「お前のせいで父ちゃんが死んだ!」

「わしの息子を返せ!」

「血継限界は厄病神だ! 悪いことしか呼ばない!」

 

 などなどと罵倒を浴びせられた。ヒナタは言われるばかりで反撃しなかった。悪ガキはさらに調子に乗っていった。殴る蹴る、石をぶつける、枝で顔を切りつける、などとし始めた。

 彼女を守る者は用意されていたが、常に万全というわけにはいかなかった。日向一族は雲に怒り、大人のほとんどが戦場に出向いていたからだ。

 

 そんな時、1人の少年がヒナタを苛める少年達に立ちはだかった。

 

「なんだおめーは!」

「お前も苛められたいか! チビ!」

「オレは波風ナルト。未来の火影だってばよ」

 

 この言葉が、悪ガキ達の感情を逆撫でした。

 

「はあ!? 火影!?」

「おめーみてーなバカがなれるわけねえだろうがよぉ!?」

 

 悪ガキ達の悪意はナルトに向かった。

 ナルトは威勢の割りに弱く、一方的にやられてしまった。

 

「だ、大丈夫!?」

「へ、平気だってばよ。このくらい……。いつつっ」

 

 しかしヒナタの目には、やられても挫けない姿こそが魅力的に映った。

 

 

 そして月日は流れる。ナルトとヒナタは9歳になった。

 雪がヒラヒラと舞い落ちるある日のこと。木の葉忍者学校は、冬の長期休暇を明日に控えていた。

 子ども達は休暇中の楽しみに思いを寄せ、ひそひそと話し合う。

 

「なあなあ。休みどこ行く?」

「山の散策」

「桃の芸術祭。なぜなら」

「桃のグルメ食べ歩き」

「いいねー! それー!」

 

 いや、犬塚キバが、興奮して大きな声を出してしまった。教師の海野イルカから激が飛ぶ。

 

「コラァ! 授業中だぞソコ!」

「す、すみません」

 

 キバだけが立ち上がり、恥ずかしそうに謝る。キバと会話していた生徒、シカマルとチョウジは、知らんぷりをして難を逃れた。キバは、裏切り者!、と2人を睨んだのだった。なお、シノも会話に入っていたが、気付いてすらもらえなかった。

 

「明日世界が終わるとしたら誰と一緒にいたいか。紙に書くんだ」

 

 ふと、イルカが言った。生徒から愚痴がこぼれた。

 

「ええーっ? なんでそんなことをー?」

「めんどくせー」

「世界が終わるなら誰かと一緒にいるよりステーキをいっぱい食べたいかな」

「ゴラァ! 愚痴愚痴言わずに早く書けェ!」

 

 イルカが再び生徒に怒鳴る。生徒達はしかめっ面をして、気だるげに書き始めた。

 

「ほう。もう書き終わったか。ほら、お前達もナルトを見習え」

「珍しいこともあるもんだな」

 

 波風ナルトはふざけることが多い生徒だが、今回は早かった。周りの生徒達がナルトの書いた文字を覗き込む。

 父ちゃん、母ちゃん、とあった。

 

「ふーん。まあ妥当かな」

「おれもそれでいっか。めんどくせーし」

「コラァ! 適当に決めるな!」

 

 シカマルの言葉に釣られるように、多くの生徒は親や兄弟を書いていった。

 例外は、春野サクラと日向ヒナタ。サクラは、うちはサスケがナルトの紙を覗いたときに、ナルトの隣の自分の紙が見えないよう隠していた。そこにはうちはサスケと書かれていた。ヒナタは、なかなか紙に筆をつけず、モジモジとナルトを見つめていた。結局ヒナタは、授業の終わりまで粘り、ギリギリでささっと波風ナルトと書いたのだった。

 

「そこに書いてある名前が、お前達が本当に一緒にいたい者達だ。彼等を守りたい気持ちを忘れず、しっかり修行に励めよ」

 

 さて、授業は終わった。生徒達は大喜びで家に帰っていく。

 しかし、喜ばずに校舎に残っているのが8名。

 ナルト、サスケ、シカマル、イノ、チョウジ、ヒナタ、キバ、シノ。他、学年の違う生徒も何人か残っている。

 

「あれ? ナルト。というかイノ達も、帰らないの?」

 

 ナルトは、サクラの声にウジウジとした感じで下唇を噛んだ。そんなナルトを見かねて、イノが応じた。

 

「あたし達は桃隠れで合宿よ。冬休みの2日目からね。出発は今日の今すぐ。バカみたいでしょ?」

「へ、へー」

 

 イノの言葉に、シカマル達がさらに沈んだ。

 桃で遊ぶみたいに言ってたのは、こういうことだったのか。サクラは思った。

 サスケがいたので、イノのバカという言葉に同意しない。また、サスケと、ついでにシノは、むしろ合宿を望んでいるようにさえ見えた。時折、フッ、と笑いを漏らしているからである。

 

「でもま。桃隠れ自体はおもしろいところらしいからな。修行の合間に屋台でも回れりゃいいが」

 

 シカマルが気だるげに言った。それに少し希望を抱いたように、他の子ども達が続いた。

 

「僕は修行で腹ペコになったお腹で、桃の珍味を食べ尽くすんだ」

「私はアクセサリーでも買おうかな。こっちでは買えないようなのもあるだろうし」

「俺は芸術祭に行くつもりだ。なぜなら桃隠れは忍術と芸術の融合に力を入れているからだ」

「俺は赤丸と一緒に川でも泳ぐかなあ。川の国だしよお」

「川って……。今冬よ、あんた」

「おっと、そうだったか」

「はははは。バカだなー」

「きゃはははは」

 

 いつの間にか談笑に変わっていく。このメンバーはとても仲がいい。

 しかし、いつもの馬鹿笑いが1つ足りない気がする。サクラはなんとはなしに周囲を見回す。

 ナルトが、会話の輪から外れてポツンと立っていた。相変わらず寂しそうな雰囲気をかもし出している。

 

「ナルッ」

 

 サクラは話しかけようとして、やめた。ナルトの斜め後ろにヒナタが見えたからだ。ヒナタは、ナルトに声をかけようとしてできず、慌てふためいていた。

 苦労するなあ。あの子も。

 なんて思っていると、突然耳元がフッと生暖かいものに煽られた。

 

「ひゃっ」

「何見てんのかしらー?」

 

 イノがサクラの耳に息を吹きかけたのだった。イノはそのままサクラの肩に腕をかけ、もたれかかるようになる。

 

「ちょ、ちょっとイノ。いきなり何を」

「いやさ、合宿でしょ? 同じ屋根の下で、共同生活することになるわけ。男女の距離もグッと縮まるらしいのよ」

 

 イノはひそひそと甘ったるい口調で言った。

 

「えっ。それって」

「いやさ。この機会にサスケくんのハートを射止めちゃうかもしれないからさ。恋のライバルとしては、黙って抜け駆けするのはよくないと思ってね」

「そ、そんなのダメよ! 卑怯よ!」

「そんなこと言われたって」

 

 サクラが大きい声を出したので、皆の注目が女子2人に集まってしまった。サスケの視線さえもだ。

 サクラは顔を真っ赤にして、ヒソヒソとイノにだけ聞こえるようにつぶやいた。

 

「わ、私も参加するわ」

「えっ。今からじゃ」

「急げばなんとかなる。はず……」

 

 結局、サクラが両親に伝えに行く時間など無かった。サクラは付近の教員に、合宿に行く旨を両親に伝えるよう頼み、勝手に居残ったのだった。

 

「よし。皆そろってるってばね」

 

 その時、ナルトの母親の波風クシナが現れた。

 

「えっ。か、母ちゃん」

 

 これにはナルトが目を大きく見開いて驚いたのだった。

 実はナルトは父にも母にも長らく会っていなかった。2人とも同盟軍の幹部であり、紛争の続く国境付近に長く居座っているからだ。今日、ナルトに元気がなかったのもそのためだった。他の生徒は親が見送りにくるが、自分だけには来ないと思っていた。

 

「か、母ちゃん。どうして」

「あんたが寂しがってると思ってね。無理言って抜けさせてもらったってばね」

「か、母ちゃん。ううっ」

「な、泣くな! これくらいで! 男の子ってばね! ううっ」

 

 感動の再開が繰り広げられた。母と子は互いに涙し、ひしと抱き合ったのだった。

 

 今回の合宿は、引率の上忍がかつてない程厳選されていた。桃隠れからは”五鬼”と恐れられる波風クシナと則巻アラレ。木の葉警備部隊隊長日向ヒザシ。木の葉隠れからも”瞬身のシスイ”の名で知られるうちはシスイ。大蛇丸の右腕と呼ばれるうちはオビトが参加する。

 

 というのも、生徒に有力者の子どもがとても多かったからだ。

 まず、ナルト達の2つ上に、火影の長男カムイ。ナルト達の1つ上に、木の葉警備部隊隊長の長男日向ネジ。ナルト達の世代も、同盟軍第一部隊隊長の長男ナルト。日向一族当主の長女ヒナタ。うちは一族当主の次男サスケ。サクラを除けば、他のメンバーも全員が有力部族当主の長女や長男だった。2つ下の世代にも、火影の長女ナデコ。

 

 誰か1人でも捕まったら大事になる。警備は万全にする必要があった。

 

「ゆーけゆけゆこおー! 皆でゆこお!」

 

 アラレは、いつも通り歌いながら満面の笑みで歩いたが。身長は160センチに届き、胸も弾けるほどになっていたが、未だ性格は変わらなかった。

 

 一日歩き、火の国の国境付近まで来た。宿で一泊する。木の葉側の護衛が何人か離れ、代わりに桃隠れの護衛が増えた。翌朝、出発する。

 同盟国の国境なので、敵国からは遠く離れている。特に襲われることなく国境を跨ぎ、さらに進んでいく。

 森が深くなり、山と谷の上下動がきつくなってきた。下忍にもなっていないナルト達にはきつくなってくる。いや、きつくなるようヒザシ等がスピードを調節していた。既に修行は始まっているのである。学年が下の子には、脱落者も出始める。遅れすぎたら一番後ろのクシナが影分身を出し、背負っていく。

 

「はあ、はあ」

「きついわね。かなり……」

 

 ナルトの世代では、チョウジとサクラが始めに遅れていく。チョウジは丸いため。サクラは、この中で唯一、両親から英才教育を受けてこなかったためだ。

 

「肩貸そうか?」

「い、いらないわ」

「サクラちゃん。やばくなったら俺が背負ってやるってばよ」

「絶対にお断りよ! あんただけは!」

 

 サクラはイノとナルトの申し出を気丈に断った。

 

「僕も背負ってくれよお」

「嫌!」

「それは無理!」

 

 チョウジは頼んだがふつうに断られた。

 そんな様子を、引率者達は微笑ましげに見ていた。頑張れ。木の葉の小さき火の意志達よ。

 

「きょほほほ! うんこ発見! うんこみたいにグルグル巻いてるヘビも発見!」

 

 アラレは相変わらずだったが。

 下忍達は気付かなかったが、この山道は付近に様々な罠が仕掛けられていた。一般人が通れば大蛇や猪も出てくる。それが出ないのは、引率の上忍が発する強者のオーラのためだった。

 

 昼前に、中継地となっているダムで一旦休憩する。長く桃隠れにいたクシナやアラレが、魚の取り方や山菜の見分け方を生徒に伝える。生徒はそれを真似て、食料を採っていく。

 取った食料は土遁の容器に集められ、クナイや火で調理された。それを皆で食べた。

 

「お、おいしいね。サスケくん」

 

 サクラが勇気を出してサスケに声をかける。

 

「ふんっ。塩が足んねえぜ」

 

 サスケはキザっぽく言いつつも、うれしそうだった。

 こういうの! こういうのがやりたかったのよ! 合宿サイコー!

 サクラは心の中で叫んだ。

 

「サスケくん。塩あるわよ。醤油も」

「おっ、サンキュー。イノ」

「いやいや、サスケくんのためならこのくらい」

 

 と言っても、好感度上昇では事前に準備していたイノに軍配が上がったが。

 

 食事後、一行は再び出発する。道中、「ファイヤー!」と叫びほぼ裸で冬の川に飛び込む母娘や、「女切り!」「不倫殺し!」と叫びながら骨を振るう母娘がいた。母は皆美人で、娘も皆かわいらしく、男性陣はほっこりした。サスケは、「チッ。あいつらやるじゃねえか」、と娘の能力に焦っただけだったが。

 

 さらに進む。最後の山を越えて、ようやく桃隠れの里が見えた。

 

「いよっしゃあああ! やっとだってばよお!」

「ふんっ。こんなもんか。はあ、はあ」

「ぜえ、ぜえ。な、なんとかもったわね」

「クソッ、もう修行なんてやりたくないぜ。はあ、はあ」

 

 ナルトは笑顔で叫び、サスケは膝に手をつく。シカマル、イノ、シノ、キバはぐったり寝転がる。ヒナタは木陰からナルトを見る。

 チョウジは完全に諦め、クシナに背負われていた。意志の弱さが羨ましいところである。

 サクラは、最後尾にいるクシナの隣にいた。そこまで遅れてしまったわけだが、ギブアップはしなかった。自分の足で歩き続け、山頂に到達した。

 

「ぜえ、ぜえ。ひいっ。ごほっ、ごほっ。ひい、ひい。はあ、はあ」

 

 サクラは顔を真っ赤にして倒れこんだ。額から大粒の汗があふれ出て、それが目にかかり前が見えないほどだった。

 クシナはそっとサクラの背中を撫で、チャクラを分け与えた。

 

 さて、眼前に見えるは桃色の理想郷と呼ばれる桃隠れ。ダムから流れる小川が夕日を浴びて、赤く輝く。

 最も大きな建物は、桃園アカデミーである。しかし、その付近の川影邸も大きい。どちらも木製の立派な建物である。

 建物の近くに、3体の石像があった。木の葉隠れの火影の顔岩のようなものだろう。クシナが説明していく。

 

「一番左が初代川影の綱手さん。真ん中がエロ僧侶トグロ。右が三代目川影の小南だってばね」

「な、なんというか……」

 

 火影の顔岩と違い、川影の石像は胴体がある。三人とも満面の笑みで、肩を抱き合っている。仲がいいのは分かる。分かるが、真ん中の男がハーレムを楽しんでいるようにしか見えない。

 

「不純だ」

「不純ね」

 

 サクラとイノが遠い目になってつぶやいた。

 ハーレム制などよくない噂は聞いていた。聞いてはいたが、当然のようにこれがシンボルになっているということは、とんでもなく不純に違いない。

 

 しばしの休憩を終え、今日の宿へ歩き出す。

 道中、彼等に気付いた住民が、とてもうれしそうに手を振った。

 

「クシナさーん! やっと帰ってきてくれた!」

「うちの芋栄養たっぷり、ぎょうさん取れたで! タダでやる! もってけもってけ!」

「ありがとう! おっちゃん!」

「アラレちゃーん! ママになってもかわいいー!」

「んちゃ!」

 

 一番人気はクシナ。二番人気はアラレだった。

 ナルトは、木の葉でやや邪険にされている母しか知らなかった。抜け忍だとか略奪婚だとかなんとか。自分も、そんな母の長男としてやや邪険にされてきた。

 しかしどうだ。この里でのこの人気っぷりは。まるで英雄ではないか。木の葉隠れの現火影や先代火影が街を歩いてもこうはならない。

 ナルトは母の新たな一面を知った。そして母に対する尊敬をさらに高めたのだった。

 

 と、不意に川影邸の方から騒ぎ声が聞こえた。

 

「コラァ! 待てぇ!」

「いししししっ。ここまでおいで」

「待てと言われて待つバカがいっかよお!」

 

 2人の子どもが大人たちに追いかけられていた。

 子どもは2人ともサングラスをかけていて、口も悪い。いかにも大人を困らせて遊ぶ不良と言った感じだ。しかし、歳はナルトと同じくらいに見える。

 1人は男。赤髪で、見えるほど濃密なチャクラを纏っており、とんでもなく素早い。もう1人は女。紫色の長髪で、チャクラ量は男に比べれば少ない。が、空中で氷の鏡を乗りこなし、捕まりそうになったら別の鏡へ瞬間移動する。いや、実際は高速による移動だが、ナルトの目には瞬間的に飛び移ったようにしか見えないのだった。

 

「そうだ。あんた達で止めてみるってばね。赤い方でも紫の方でも」

「えっ」

「あっ」

 

 クシナはナルトとサスケの背中を押した。

 

「か、母ちゃん」

「母さんにいいところ見せて欲しいってばね」

 

 クシナはナルトに親指を立ててみせる。

 ナルトは一瞬ポカンとして、次にはうれしそうに獲物を狙い見た。

 

「ふん。おもしろい」

 

 サスケも真面目な顔になる。

 狙いは2人とも赤髪の男だった。言葉は交わさず、同時に飛び出した。

 

「おっ? なんだあ?」

 

 赤髪の男も、おもしろそうにナルトとサスケを見る。

 二人の狙いが自分であることを察する。逆に、誘うようににやりと笑って見せる。

 

 サスケとナルトが左右から赤髪の男に突っ込む。アカデミー生だが、二人とも十分に忍びのスピードに達していた。2人の手が、同時に赤髪の男に迫る。

 しかし、触れようとしたまさにその時、赤髪の男がフッと消えた。

 いや、消えたのではない。チャクラを放出し、超スピードで移動したのだ。クシナにはギリギリ見えた。しかしイノ等には、赤髪の男が突然消え、気付いた時には、ナルトとサスケの頭上に左右の足をそれぞれ乗せて立っていたように見えた。

 

「なっ」

「うっ」

 

 ナルトとサスケの勢いは止まらない。あったはずの物体が消え、目の前に映るは互いの顔のみ。

 

 ぶちゅううううううう。

 

「う、うげえええ」

「ぺ、ぺえっ。げぼおっ」

 

 不可抗力である。しかし、少年2人は口から血が出るほど激しく口付けしてしまった。唾を吐き捨てても感触は忘れられない。

 

「いやああああ! サスケくうううん!」

「こ、この気持ちはなんだってばね! 息子の大事なものが奪われたのに興奮するってばね!」

 

 女達の色んな叫び声も響いた。

 

「へへっ。先に仕掛けてきたのはそっちだかんな」

 

 赤髪の男は、いつの間にかサクラ達の後ろにいた。手にはナルトとサスケの財布を持っている。あの一瞬の接触で、いつの間にか盗んでいたということ。

 

 こいつ、できる……。

 

 桃隠れの忍びは同年代でここまですごいのか。

 シカマル、イノ、チョウジ等は、急に真剣な顔になって赤髪の男を睨んだ。

 

「おっと、綺麗な子もいんじゃねえか。ちゅっ、ちゅっ」

 

 ところが、赤髪の男は睨むイノに対して投げキッスをした。めちゃくちゃ軽い感じだった。

 

「えっ? な、なに?」

「ふふっ。慌てた顔もかわいいね。今度一緒にお茶でもどう? 俺の家、あそこだから。いつでも遊びに来てね」

 

 赤髪の男は笑顔で川影邸を指差す。

 

「じゃあね」

 

 赤髪の男は手を振り、今度こそ去って行く。

 が、去ろうとして人にぶつかった。金髪長身の美女が立ちはだかっていた。

 

「おい、梅太郎。何をやっとるんじゃ?」

「かっ、母ちゃん!? あ、ああっ……」

 

 赤髪の男が突然震え出す。

 

「か、帰ってこられておりましたか。こ、これはこれは。まことに、今日も、美しゅうございますです。うっ、いててっ」

 

 金髪の美女は赤髪の男の耳を引っ張った。

 

「家でじっくりお話じゃな」

「か、勘弁してよお。お母ちゃあん」

 

 今までの飄々とした凄みが台無しだった。

 いや、それでもナルト達にとってはすごかった。母ちゃんと呼ばれる美女の殺気がすさまじく、ナルト達はその場で動けなくなっていたからだ。重い空気の中で軽口が利けるだけでも、自分達とのレベルの違いを感じた。

 

「ア、アバレェ! 助けてくれえ!」

「アホォ! 名前出すんじゃねえ!」

「あっ、アバレちーん!」

 

 女の方は、こっそり逃げようとしていた。しかし赤髪の男が大声を出したために、アラレに気付かれてしまった。さっきまではうんこを突いていたから、絶対に安心だったのに。

 赤髪の男の狙いは女の道連れだった。自分だけ怒られるのは嫌という、セコい男だったのだ。もっとも、アラレはあまり怒らないので、アバレが上手くやれば出し抜ける可能性が高いが。

 

「んちゃ! アバレちん!」

「な、なんだよ!」

 

 アバレは叫びながらアラレから逃げる。

 

「まてまてまてまてー!」

 

 しかし、アラレは満面の笑みでアバレを追いかけ始めた。

 

「来るんじゃねえ!」

 

 鏡のスピードも鏡間を飛び移るスピードも次元が違った。アラレは数秒でアバレに追いつき、抱きついた。

 

「んちゃ!」

「お、おう」

「何やってたの?」

「あ、あそこの石像がちょっと味気ないだろ? だから、飾り付けをな……」

「ほんと!? アバレちんいい子だね!」

「お、おい止めろよ! みっともねえだろうが!」

「いい子いい子」

 

 アバレはアラレに公衆の面前で頭を撫でられてしまう。アバレは顔を真っ赤にしてそれに耐えたのだった。

 

 嵐は去っていく。しかし、桃に実力の差を見せ付けられ、木の葉の子ども達は悔しがる。

 

「赤髪の子はナルトと同い年よ。紫の子は2つ下」

「2つも!? そんなに!?」

 

 サクラは思わず叫んでしまった。

 9歳の彼等に2年という数字はとても重い。だが、実力はあちらの方が上に見える。

 大天才であるはずのサスケ。自分が憧れる同年代最強の少年。彼でさえ、かすんでみえてしまう。

 

「どう? 怖くなった? 来たばかりだけどもう帰る? ここはこういう場所よ」

 

 クシナが子ども達を煽るようなことを言った。チョウジとイノは若干うつむいた。

 

「っ、ふざけんなってばよ!」

「帰れるわけねえだろうが! やられっぱなしで!」

 

 しかし、ナルトとサスケは力強く立ち上がった。表情は怒り。瞳には燃え上がる闘志。

 クシナはにっと笑う。

 

「この2週間で逆転してやるってばよ!」

「なら俺は1週間だ! 1週間であの野朗を地べたに口付けさせて、財布を取り返す!」

「その必要はねえぜ」

 

 不意にシカマルが割り込んだ。ナルトとサスケがサッと振り向く。

 シカマルはにやりと口端を上げ、懐から何かを取り出す。

 財布だった。それも3つある。ナルトとサスケと、赤髪の男のものだ。

 

「いつの間に……」

「さっすがシカマル!」

「やるじゃねえか!」

「へへっ。あいつが金髪の姉ちゃんにぶつかったときに、影真似でひょいと落としたのさ」

 

 イノに抱きつかれ、頬にキスされる。シカマルも満更pでもなさそうだ。

 

「で、でもさあ。あいつの財布取っちゃって大丈夫かなあ。襲われたら……」

 

 チョウジが不安げに言う。イノとキバはビクンと固まった。

 

「そのことだがな」

 

 シカマルはにやりと笑みながらナルトに近づいていく。目の前に来ると、スッと財布をナルトに渡した。ナルトの分と赤髪の分の2つだ。

 

「ナルト。これは、俺たちの中で一番馬力のあるお前にしか頼めねえことだ。こいつを任せるぞ」

「お、おう! 任された!」

 

 ナルトはうれしそうに2つ共受け取った。

 シカマルは、ヒューッ、と息を吐き、額の冷や汗を拭う。

 よかった。ナルトが上手く騙されてくれた。あんなのに狙われてはたまったものではない。


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