疫病神うずまきトグロ   作:GGアライグマ

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大波乱の火影選挙

 ダンゾウは事前に聞き取り調査を行った。その結果、波風ミナトが勝ちそうだと分かってしまった。圧倒的な女性人気のためである。

 木の葉は戦争で多くの忍びを失った。しかし実は、女はあまり死んでいなかった。同班の男が女を庇いやすかったことや、ヒルゼンが女を後方支援に集めたことや、トグロが女を贔屓して助けたことがその理由である。現在、木の葉全体の男女比は4対6。若い年代には3対7の代もあった。しかし、立候補者の中で女性人気が高いのはミナトのみ。彼が勝つのは当然と言えた。

 ダンゾウとしては、そんな理由で勝たれては困るのだ。彼はかつて二代目火影が目指したような、他国の脅しに屈しない、規律正しく内憂がない、強い木の葉を目指している。そのためには、自身が火影になるのが一番いいが、悲しいことに自分に人気がないことはよく分かっていた。

 しかし、唯一認められる候補がいた。大蛇丸だ。頭脳明晰で戦闘能力も申し分ない。何より思想がダンゾウの好みだった。必要なときはいつでも非情になることができる。俗っぽいものに惑わされたりもしない。大蛇丸が火影になれば、ヤクザ紛いの雲隠れ霧隠れにも、情報工作が得意な岩隠れにも、凄まじい勢いで巨大化する桃隠れにも、対抗できるだろう。そんな思惑があった。

 

 ダンゾウは、大蛇丸勝利のために裏で動くことにした。何よりもまず、ミナトを支持する女性層を崩さなければならない。この手の女が最も嫌うことは知っていた。ダンゾウは扇動工作を得意としている。

 ダンゾウは部下に命じた。

 

「波風ミナトが演説する場に行き、その演説を遮って叫べ。桃隠れにミナトのお気に入りの女がおり、毎晩のようにヤりまくっているとな」

 

 工作員には、くの一とイケメンの男を複数用意した。野次馬的な女は、不細工な男の言葉に耳を貸さないと知っているからだ。

 さて、部下は目的の演説広場へ走る。波風ミナトの周辺は、予想通り女に埋め尽くされていた。

 

「僕は波風ミナトと言います。今回、四代目火影に立候補することにしました」

「きゃーっ! ミナトさーん!」

「黄色い閃光ーっ!」

 

 次々と黄色い声が飛んだ。応援演説をする自来也が、嫉妬して拗ねてしまうくらいだった。

 

「言っとくがのぉ! こいつだって男じゃ! 鼻血出しながらエロ本読んだことだってあるんじゃぞ!」

「黙れエロ親父ィ!」

「てめえが見せたんだろうが変態! ミナトきゅんになんてことをしてくれたの!」

「ミナトさんから汚い顔を離せ! 病原菌が移ったらどうしてくれる!?」

 

 自来也がミナトの悪口を言っても、女達のミナトに対する熱気は変わらない。むしろ自来也を責めた。そしてこれは、ダンゾウの予想が正しければ、自来也がイケメンではないからである。イケメンが発言すれば、女達は信じるはずなのである。

 

「えーっ! それマジーっ!」

 

 突然、女の1人が叫んだ。ダンゾウが送った工作員だった。

 

「マジマジ! ミナトのやつ桃隠れに女がいるんだよ! しかも、木の葉を裏切った抜け忍の犯罪者! 戦争中だってヤりまくってたんだぜ! 時間があれば里を出て、夜明けまでガチセックス! 中田氏7連発のイカせまくりだって聞いたぜ!」

「ええーっ! 抜け忍と!? 私たち皆で頑張ってる時に、修行もせず!? うげえーっ」

「ガチ絶倫だぜぇーっ!」

「うげえーっ! 最悪じゃん! 純粋なフリしてるから余計に性質が悪い! 汚れまくりじゃん!」

 

 どよどよ。女達に噂が広がっていく。驚き、反論、悲鳴でごった返しになる。

 

「う、ウソでしょ……?」

「ウソつくなアホ! ミナト様がそんな破廉恥なことするわけないじゃん!」

「ケンカはやめてよお! せっかく戦争が終わったばかりなのにい!」

 

 ここからが重要だ。工作員の女の額に冷や汗が受かる。

 

「マジだってマジ! 桃隠れの女の子達の間じゃすっごい噂になってるの!」

「ここは木の葉でしょ!」

「なんであんたが知ってんのよ! あんたこそ戦争中に桃隠れで遊び呆けていた裏切り者なんじゃないの!」

「あっ! それ俺も聞いたぜ! クシナだろ!? 九尾の化け物のうずまきクシナ!」

 

 ここで、別のイケメン工作員も割り込んだ。

 

「えっ」

「クシナって、あの?」

「ちょっと前に逃げて話題になっていた、あのトマト? 暴力女?」

 

 クシナの名が出たことで、女達が一気に静まり返った。彼女は裏切り者として有名であり、今戦争で活躍した英雄としても有名だった。安易に発言することはできない。

 

「皆、そんなに気になるんだったら直接聞いてみれば? あそこに本人がいるんだからさ」

 

 イケメン工作員はミナトを指差した。

 ミナトはとても苦い顔になっていた。自来也とミナトの同期の支持者達もだ。それがいっそう女達の不安を煽った。

 

「ウ、ウソですよね? ミナト様」

「あんな裏切り者、違いますよね?」

 

 ミナトは苦い顔で笑った。何も応えることはできなかった。それがさらに女達を不安にしてしまった。

 イケメン工作員がさらに畳み掛ける。

 

「ひゅーっ! やっぱり童顔ミナトくんの正体は、桃の淫乱売女が大好きな変態さんでしたか! しかも戦争中に! 仲間が頑張っている間に! 回復のために割り当てられた時間を利用して、わざわざハーレムの国にまで行くとはね! 恐れ入ったよ!」

「ち、違う!」

「おいミナト」

 

 ミナトは暴言に耐え切れず、反論を始める。自来也の静止にも止まらない。

 

「僕をいくら悪く言ってもいい! だけど、クシナを辱めるような発言は許せない!」

「ほらな! やっぱり裏切り者に夢中だったんだ!」

「裏切り者じゃない! 彼女は!」

「ミ、ミナト様ァ! どうして!」

「ウソでしょう! あんな、抜け忍の大罪人に!」

「どうしてあの女なのですか! ミナト様も私達と同じ木の葉の忍びじゃないですか!」

「これは、問題かもねえ」

 

 ミナトがクシナを庇ったことで、野次馬の女達が爆発した。工作員もここぞとばかりに暴言を吐きまくった。大人しい一般のくの一も、徐々に釣られていった。

 

「ちょ、ちょっと待って欲しい! 僕はそんなつもりじゃ!」

「ウソをつくなァ! お前は先生失格だろうがァ!」

 

 全ての声を掻き消すように、1人の少年が怒鳴り声を上げた。あまりにも大きい声だったので、女達も驚いて少年の方を見た。

 

「お前は、こんな状態のリンを放って、桃隠れの女のところに遊びに行ってたんだろうが! 今苦しんでいる教え子よりも、ハーレム女の方が大事なのか!? お前にとって弟子は仲間でも何でもないのか!? なんとか言ってみろ先生よおおおおお!」

 

 少年はうちはオビトだった。リンの乗る車椅子を押しながら、群集の外からミナトに近づいていた。

 

「オ、オビト! 違う! 僕はリンのことも心配していた! だけどっ!」

「心配してるなら、なぜ見舞いにこない! なぜ、この子が! こんな状態になっても頑張っているのに、放置していられるんだ!」

「ちがっ、そんなつもりじゃ!」

 

 ミナトは必死に気持ちを伝えようとした。過失はあったかもしれないが、リンやオビトを苦しめたかったわけではない。その思いを伝えたかった。オビトが未だ、わざと悪いことをしたのでなければ許すような、やさしい少年だと信じながら。

 実際、オビトは苦虫を噛んだような表情になっていた。ミナトにだって事情があったはずだ。それを察する心はあった。しかし、それでもこの現状を認めたくない。諦めたくない。そう思うから余計に苦しかった。

 オビトに押されるリンは、その”察すること”もできなくなっていた。ここ一年、彼女は怒り続け、若い眉間にしわが寄るほどになっていた。今回も、いつもの不満顔で叫ぶのだった。

 

「死ね! 死ねクソ先公! 変態ドスケベ! 自分だけ幸せになろうとしやがって! オラァ! 真面目ぶりやがってェ! 調子に乗ってんじゃねえぞオラァ!」

「リ、リン! そんなことを口にしちゃダメだ!」

「あっ、あたしに口答えしてんじゃねええええ! ドクズがあああああ!」

 

 病的な叫びだった。女達も障害を察するほどの。しかし、一部察せない女がいて、リンを悪く言うのだった。

 

「何あいつ。きもっ」

「頭わいてんじゃねえの? 調子にのんなよクソガキが」

「ぶっさいくな彼氏連れやがってさあ。何様のつもり?」

 

 実は、ここにも工作員が混じっていた。ダンゾウの工作員と、リンに障害を負わせた存在の、両方が。

 その声が聞こえ、リンは途端に怯えたようになる。女達の顔色を伺い、自分への敵意を認識してしまう。

 

「し、死ねよおおお! クソ女どもおおおお! あたしを悪く言ってんじゃねえよおおお!」

 

 これがさらに女達を煽ってしまった。オビトはしまったという顔になり、リンの車椅子を反転させて逃げようとする。

 

「おい逃げんじゃねえよ。マジでいっちょ懲らしめてやんないとな」

「何その車椅子? 同情誘ってんの? お前みたいな人の好意につけこむやつが何より最低最悪なんだよ!」

「いなくなった方が世の中のためだ! あたしが死なない程度にぶっ殺してやんよ!」

 

 一部の女達が、リンと彼女を押すオビトを追いかけ始める。オビトは手裏剣を手に持ち、女達を脅す。しかし女達は止まらない。

 まずいっ。

 オビト、ミナト、自来也等は皆焦った。しかし、ミナトには飛雷神の術があり、リンにはそのマーキングもしていた。ミナトはすぐさまこの術を使い、リンのすぐ横に現れた。

 

「み、みんな止めてくれ! その子は! 止めてくれ!」

 

 ミナトが女達の前に出て言う。両手にクナイを持ち、腕を左右いっぱいに広げる。さすがに女達は立ち止まった。今の今まで憧れていたイケメンと戦うことはできない。

 

「どうして! あんなやつ甘やかしたら!」

「ち、違うんだ! 彼女は脳のケガで!」

「殺してしまええええ! あんな女ァ!」

「止めろ!」

 

 しかし、工作員がまた女達を煽るのだった。

 ミナトの支持者達が総出となって、女達を止めに入った。自来也は一人だけリンの下へ向かい、彼女を抱えて走った。

 リンは逃げ切れたが、もう演説どころではなかった。ミナトは女達に謝って回り、なんとかケンカだけはせずに解散してもらった。

 

 この事件があって、ミナトの支持率は急落してしまった。野次馬的女達は、次の支持者に大蛇丸を選んだ。自来也、フガク、オビトに比べるとイケメンだからだ。オカマではあるが、だからこそミナトのように”裏切られる”ことはない。怪しい雰囲気も、色っぽいと表現して、キャーキャー言うのだった。当然、この流行の影には、ダンゾウによって派遣された工作員の活躍があった。

 

 そうして選挙が始まった。諸々の予想に反し、接戦となった。

 

30% 大蛇丸

25% 日向ヒザシ(ミナト事件を知って急遽立候補した)

15% うちはフガク

10% 波風ミナト

10% 自来也

 8% 千手綱手(無効票)

 2% うちはオビト

 

 結果は大蛇丸が一位だった。

 しかし、ヒルゼンからは物言いが出た。1位の投票率が低すぎる。上位二名で再度選挙するべきではないかと。

 これに強く反対したのがダンゾウだった。

 

「そもそも里長を決める権限は大名にある! 今、我々の中で選挙の結果が出た! これをもう一度行うなら、大名に意見を聞いてからだ! 大名を軽視するのか!?」

 

 これは、大蛇丸を火影にしたいための詭弁だ。ホムラとコハルはダンゾウの真意を理解していた。しかし、この2人もまた、大蛇丸の支持者だった。

 ミナトが火影なら構わなかった。彼の思想は好かないが、彼とその支持者には里を動かす力が無い。結局は自分達が裏で木の葉を操ることになる。

 しかし、日向は強大だ。それも、桃隠れとつながりが強く、現政権からは遠い。ヒザシが当選すれば、現政権を一掃し、自分に近いものを重役に据えることになるだろう。それは認められなかった。

 

 ヒルゼンは、ふつうにダンゾウの言葉が正しいと思った。よって、大名に選挙結果をそのまま報告した。

 

「大蛇丸はダメじゃのう。黒い噂が多すぎるゆえ」

 

 ところが、上層部の予想に反して大名が大蛇丸を認めなかった。

 実はこれには、日向一族が関わっていた。日向ヒアシとヒザシは選挙の流れを見抜き、桃隠れに働きかけていた。

 

「大蛇丸が火影になれば木の葉は分裂する。再び悲惨な戦争が始まってしまう。そちらの大名から、こちらの大名に働きかけてくれないか?」

 

 トグロはヒアシの依頼を請け負った。大名の娘であるマリ、ナデシコを通じ、川の国の大名にことの顛末を説明した。

 

「なるほど。火の国の大名に大蛇丸を認めさせなければいいのだな?」

 

 川の大名もトグロの依頼を請け負った。そして、火の国の大名のもとへ行き、大蛇丸がいかに悪どいかを説明したのである。

 選挙は無効となった。しかし、単純に再選挙とはならなかった。

 何より、無効だと公表するのが難しかった。上層部の思惑もある。珍しくノリノリでやる気になっている大蛇丸に、真実を伝えるのもしんどい。伝える役はヒルゼンに任されたが、ヒルゼンはなかなか動けなかった。それほど大蛇丸が生き生きしていたからだ。生まれて初めて生きがいを見つけたような。結局、現状維持のままで数週間が過ぎた。

 大蛇丸は苛立っていた。毎日のように火影邸に通うようになった。

 

「ねえ、猿飛先生。いったいいつ引退してくださるのかしら?」

「しばし待て。他国との兼ね合いがあるのだ」

「そんなものないですよねえ。雲隠れも霧隠れも、一刻も早く先生が引退することを望んでいますよ。いい加減なウソをつかれても不快なだけなのですけれど」

「わしは忙しいのだ。後にしてくれ」

「先生、醜いですよ。今になって地位に固執するのは」

 

 この日も、いつものように煮え切らない会話が交わされた。大蛇丸は、長い舌でねっとりとクナイを舐めたり、間違ってクナイを落としたフリをしてヒルゼンに投げつけたりした。簡単な脅しのつもりだったが、当然ヒルゼンに効果は無かった。

 しかし、突然廊下が慌しくなった。ヒルゼンの護衛を任されている暗部が部屋に入ってきた。

 

「ほ、火影様! 大名様が何者かに暗殺されました!」

「何じゃと!?」

 

 事態は急転する。木の葉は全力で犯人を探した。しかし証拠となるものは何一つ見つからなかった。

 新しい火の国の大名が就任する。ダンゾウは就任式のドサクサに紛れて、選挙結果を大名に見せた。新大名は暗殺に怯えていた。ダンゾウの言葉に応じることしかできなかった。桃隠れもさすがにこのタイミングでは干渉できなった。

 結局、大蛇丸が四代目火影となった。


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